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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第八章 『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵
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沢城さんの場合、理屈っぽく読むとこうなる

ついにお盆休みに突入ですねぇ^^

皆さんは何処かに行かれるんでしょうか? 私はゆっくりとWeb小説を読ませて頂こうと思いますよぅ^^ いつもと同じ……でしょうか? 先祖の方がお帰りになるといいますが、私達の中で言えば先代古書店「ふしぎのくに」店主さんでしょうか? 

 アリアが古書店「ふしぎのくに」を後にして家に帰っている最中、お年を召した男性や女性、所謂お爺さんとお婆さんに囲まれている同い年の子供。美しい金色の髪に、健康的な小麦色の肌、そして挑発的な紫の瞳をしているが、どんな風な表情をしても美しさが失われる事がない。



「カミサマさん」



 そう、神様である。年配の男女にもみくちゃにされるくらい可愛がられている神様、みんな幸せそうな顔をしている。



「かみちゃん、また詩吟聞かせてちょうだいね!」

「うむ、また老人会の日に会おうぞ! その時までにまた菓子を用意しておくのだぞ!」



 そう言って手を振って彼らと別れる神様の手には大きな紙袋を持っていた。神様もまたなんとも嬉しそうにそれを見つめている。

 アリアはそんな神様の目の前までくるともう一度名前を呼んだ。



「カミサマさん!」

「おっ! 貴様はセシャトの客の変なガキか」

「もう、まだそんな事を言ってるの! ところでその手に持っている物は何かしら? 相当大事そうにしているけれど」



 そう言われて神様は紙袋を後ろに隠す。その行動はいささか演技っぽくも見えた。アリアが近づいて素早く後ろ手の紙袋を覗くと、古今東西、駄菓子から高級なお茶菓子まで沢山のお菓子が入っていた。



「なにこれお菓子?」

「セシャトの奴が私に小遣いを1000円しかくれんのでな、たまにこうやってバイトでもせんと喰う菓子が足らん。最初は該当でじじいとばばあが詩吟を読んでいたのを見てな。私も読んで見せたら、それがいやに好評で今や月一で公民館ライブをしておるわ! お布施替わりにこうして菓子を貰ってるわけだ……しかし、見つかるとは……くっ! 私のバイトがセシャトにバレると何を言われるかわからんからな。ほら!」



 神様は心底嫌そうな顔でアリアに一つのきんちゃく袋を紙袋から取り出して渡す。何のことか分からないアリアだったが、それを受け取る。



「これで貸し借り無しだからな! 口止め料だ」



 成程そういう事かと思ったアリアはそのきんちゃく袋を神様に返した。それに神様は不思議そうな顔をしているので言う。



「『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』に出てくる双子じゃないけど、カミサマさんには貸しを作っていた方があとあと楽しそうね。だから、そのお菓子は返しますわ」



 神様は紙袋の中から適当に取り出したどら焼きをパクりと食べるとじとっとした目でアリアを見つめる。



「最近の子供は可愛くないのぉ! お前が印象的に感じているあの双子だが、恐らくとある青年漫画からのほぼ引用だろうの。あのイカれた描写は一度見るとイメージとして深層心理に残りかねん」



 アリアは心底嫌そうな顔をしている神様を見て、相当えげつない作品なんだろうなと勝手に想像する。



「という事は盗作って事なの?」

「オマージュと言った方がよいだろうの。この双子だが、実際別の商業小説でもほぼ同一のキャラクターが出てくる作品があっての。まぁ一つのキャラクター属性を作ってしまったのやもしれんな」



 本作『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』において名言はされていないが、恐らくは機関銃と斧を持つあのヘンゼルとグレーテルがモデルである可能性が高い。アリアはその作品を知らないのと、さすがにこの作品を子供に紹介するのはまずかろうと神様は話題を変えた。



「まぁ、あれだの。知ってはいけない事。というより、知らない方がいい事っていう物も世の中には沢山あるからの」



 そう言いながら神様は四個目のどら焼きを口の中に放り込む。そしてそれをペットボトルのポンジュースで流し込む。逆に喉が渇かないものだろうかとアリアは見ていると、神様は五個目のどら焼きを袋から探すが出てこないので代わりに豆の入った大きな大福にかぶりつく。そしてその紙袋から一つのお菓子を取り出すとアリアに差し出した。



「ほれ、貴様。こういうお菓子は喰わんのだろ? 『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』にも登場する知育菓子だ」



 神様が差し出したのは、どうやらお祭りのリンゴ飴のようなお菓子を作るキット『ほらできた』。



「これは貸し借りの話ではない。貴様が読んでいる作品を少しでも理解するようにだ。作品内のお菓子はクラシエで、これはコリスのお菓子だが、気分的な物は変わらんだろう。ただし、お寿司屋さんのイクラ作りは気が狂いそうになるくらい楽しいからオススメだぞ!」



 それを渡されてアリアは少ししおらしい表情を見せる。小さな声で神様にお礼を言うとアリアは門限が切れている事に気づいてその場を後にする。



「さて、本当に変な子供だの」



 神様はそう言うと、古書店「ふしぎのくに」へと大福を食べながら帰る事にした。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ただいま帰りました」



 アリアの帰宅に合わせて、アリアのベビーシッターが登場する。普通の大学生くらいの女性、エプロンをつけて、それでいて死んだような目をしてアリアをちらりと見た後に、玄関にある大きな置時計をちらりと見る。それはアリアに対して無言の圧力である。



「お嬢様。30分程門限を過ぎています。とか言ってくれればいいじゃない」



 ベビーシッターの言わんとしている事をアリアは言うとベビーシッターは目を瞑る。



「お食事にされますか? それともお勉強? それとも私にしますか?」



 冗談に聞こえなくもないが、至極普通にベビーシッターはそう言う。それにアリアは手を振る。



「今はその気分じゃないから、お食事にして頂戴」



 いきなりアリアの目の前にベビーシッターは詰め寄るとさすがにぎょっとしたアリアは一歩離れる。



「お薬、ちゃんと飲まれてますか? あと、お嬢様から不思議な香りがします。これはよくない香りですね」



 ベビーシッターの言葉にアリアは鞄から大きな本を取り出した。



「これの事じゃない?」

「ご本ですか? 『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』タイトルも作者も聞いた事ないですね」



 ペラペラとベビーシッターはその本を読む。そして唐突にこう言った。



「シロナガスクジラでも眠る程の睡眠薬……それを投与しても人は死にませんね。特にお嬢様や私のような者は……」



 また始まったとアリアは少しうんざりした表情を見せる。



「睡眠薬で死ぬのはオーバドース、中毒よ。当然嘔吐するから死亡率は下がるわ。でも沢城さん。物語は物語よ。そのルールに従ってあげるのが読者じゃないかしら?」



「いえ、私が申したいのはお嬢様がこのような俗な物を読まれるのがいかがなものかと思いまして……お兄様たちに嗤われてしまいますよ? お父様とお母様の期待を背負われているのではないでしょうか?」



 ふぅとアリアはため息をつく、事ある事にお兄様、お父様、お母様。このベビーシッターは常に自分に悪手を打ってくる。そういう風な人材を求められ、そういう風に彼女も振る舞っているのだろう。

 がしかし、ベビーシッター沢城の表情は変わらず、されど確実にアリアには聞こえた「クスっ」と彼女が笑う声。



「何事?」



 アリアはベビーシッターの開いている項が閑話である。所謂どうでもいいお話。この類の緩急をつける際、大きくわけて二パターンある。本編より面白いか、寒いか。このベビーシッター沢城にとっては前者だったのだろう。



「か、返しなさいよ!」



 そう言ってアリアは沢城から『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』の疑似小説文庫を取り上げる。



「お嬢様、かんにしてつかあさい」



 もう少し読ませてくれという事なのだろうが、さすがにこのベビーシッターの相手をしていたら日が暮れるどころか朝になる。



「沢城さん、食事にして頂戴な」



 そう言われると沢城は、しゃっきーんといった形で姿勢よくお辞儀してみせる。



「では、テーブルでお待ちください」



 沢城が作る食事は、実に美味い。前菜から始まり、デザートに至るまで一切の手を抜かれてはいない。



「食後のお茶はどうなさいますか?」

「コピルアクを淹れて頂戴」



 かしこまりましたの代わりにかしづくと沢城はすぐにコーヒーを持ってきた。一杯で福沢諭吉と同格の価値があるこのコーヒー、砂糖のかわりになんと金平糖がついている。それは沢城なりの気の利かせ方なんだろう。



「金平糖って……あら、和三盆」

「お嬢様、正確には和三盆糖でできた金平糖ですので、それは結局ただの金平糖でございます」



 妙に揚げ足をとってくる沢城、彼女との会話がいつしかアリアの思考や言動を超小学生級にのし上げていた。



「まぁいいわ。そうそう! 沢城さんに作って頂いたガレット、とても好評でしたわ。ありがとうございます。まさかフレッシュバターをつけて食べるとあれほど美味しいとは思いませんでした」



 ガチャン。

 沢城はわざとらしく皿を地面に落として割る。そしてなんとも言えない顔をしてアリアを見つめるのだ。アリアはハァとため息をつき本を差し出す。



「それを貸してくれた古書店の店主さんが、お菓子の食べ方を極めていますの」

「あのガレットは何もつけずとも完成品。より、おいしかったと?」

「えぇ、沢城さんには悪いですけど、完璧なおいしさでしたわ」



 アリアの返しを聞いているのか沢城はペラペラと本をめくりそれを読む。そして当然そうであるかのように感想を述べる。



「お嬢様、なんだか突然呪文唱を始めましたが……」



 何故かドン引いている沢城にアリアは覗き込む。



「えぇ、その物語は何か小説という物の基礎とか順序という物を私達の知る常識外からせめてきますの、今回は結界なんですのね」



 結界というのは本作でも亜空間の事を指すが実際は秩序の事である。



「炎を使ったりするのは結界ではないのでしょうか?」

「沢城さん、私達の考える結界は茶室の事でしょう? 私達は私達の常識を捨てないと、この作品を読む資格はなくてよ?」



 エンタメ作品を普通に読んでいる人であれば、結界という閉鎖空間の中で能力者が能力を使っている描写であるとすぐに理解できるが、アリアと沢城は単語一つとっても全く違う物をイメージしている。それ故、物語の内容が日本語で書かれていながら、何処か知らない言語で書かれた何かのように思えてしまう。

 そして、アリア以上に混乱している沢城の為にアリアはセシャトのように、作品の解説を頑張る事にした。



「沢城さん、これは高度な小話をしているんですの。結界という局所空間の中で、特異な力を持った方々がその力比べをするという描写の中、小話を進めている……という事だと思いますわ」



 突然開始されゆるいバトルパートにアリアもやや混乱しかかっていた。今までハードボイルドな裏社会の物語が突然、異能力バトルが展開される。そして沢城は妙な事が気になってアリアに言う。



「雷と雷をぶつけると果たして消えるのでしょうか? お嬢様、自由研究の時間です」



 なんともデジャブするその発言に飽きれながら沢城を見つめる。

 パチン。

 沢城が指を鳴らすと両手が電気を帯びている。それにも飽きれて眺めているアリアの前で沢城はそれをぶつけた。沢城の手の中には光の球体。プラズマが発生。



「どうやらこうなるようです。夏休みの自由研究にお使いください。ベビーシッターの沢城さんと一緒に研究しましたと書いて頂いて結構です」

「遠慮しておくは、自由研究はもう終わってますの」



 沢城は天井とにらめっこをすると一筋の涙を流した後にこう言った。



「お嬢様、日本の国蝶は?」

「えっ? オオムラサキかしら?」



 再び天井を見つめる沢城に何といえばいいのか分からず。アリアはデザートとして用意されていた汁粉を食べる。



「8月だから、お汁粉かしら?」



 天井を見つめていた沢城が、嬉しそうにうんうんと頷く。終戦記念日には芋の汁粉を頂くのはアリア達の風習でもあった。

 こんなまずい物を食べていた人達がいた夏があったのだなとアリアは台風が来ようとしている外を眺めて意識を這わせた。

さて、特徴的な方が登場されましたねぇ^^

それにしても神様、こんな事してたなんて……お仕置きにしばらくオヤツ抜きにした方がいいでしょうか?

今回のお話は、Web小説という物もエンタメ小説も関わった事がない人に読ませた時の反応という物を三項にさせて頂きました。この場合もそうですが、サポーターが必要ですね! アリアさんはその任を全うしていただけたのではないでしょうか?

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