『Re:Birth Arkadia』
今年の7月はなんでこんなに暑いんでしょうか? もしかすると紹介している作品が熱いからでしょうか?
必ず来るのがこの月間紹介小説最終回。ずっとずーっと紹介していたいなと思うんですが、物語は終わるから次の出会いがあるんでしょうね^^
「お話はゆっくり聞きましょう」
母屋でヘカはセシャトと神様の二人に挟まれていた。
「違うん! 未来から来たミレーヌちゃんの為に秋葉原に行ったりサイゼリアに行ったりしたん! 遊んでて店番サボったんじゃないん! 未来のWeb小説を救ったんよ!」
「そのお話だけ聞いていると完全に遊んでいたように思えますねぇ」
セシャトは笑顔を崩さない、じっとヘカを見つめ、ヘカは思い出したように黒い羽ペンを取り出す。
「この力で、『ヤドリギ 著・いといろ』のアールたんとアーリーンたんを呼び出したん! もう一度呼び出して説明してもらうん!」
それに神様が目を吊り上げて言う。
「馬鹿め! 貴様にそんな力、私が与えているわけなかろう! 誰ぞかを使って私のクレープを奪いよってからに! セシャト、もうこうなったら私の小遣いを三千円にするしかあるまいぞ!」
「はい、神様。そのお話はまた後でしましょう。それよりヘカさん、『ヤドリギ 著・いといろ』の名前を出してサボっていた事の言い訳とはちょっと感心できませんねぇ。ヘカさんのフェイバリットじゃないんですか?」
セシャトの声のトーンが一つ低くなる。もうこの状態で何を言っても意味がなさそうだと確信したヘカは最後に一つだけこう言った。
「セシャトさん、教えて欲しいん『Re:Birth Arkadia』っていうWeb小説の事を知らないん? それをヘカは知る必要があるん」
このヘカの出したカードにセシャトは驚愕を隠せない表情を見せた。まさかセシャトでも知らないんじゃないだろうかとヘカは嫌な予感がする。
「ヘカさん、よくご存じですねぇ。さすがはヤドリギフリークと言ったところでしょうか? 某国でいくつか面白いWeb小説を紹介する際にジャパニーズコミックが好きな方に紹介した作品が『ヤドリギ 著・いといろ』だったんですよね。ヤドリギという言葉のニュアンスがどうやら色々な理由でアウトだったそうで、私がいといろさんにお伺いしていたんですよ! もし海外で別名をつけるとしたらどんなお名前が良いでしょうかと、その際に頂いたタイトルになります! その為、某国では『ヤドリギ 著・いといろ』よりも『Re:Birth Arkadia』での知名度の方が高いんですよね」
ヘカは色々とややこしくしてくれたのはこの女かと少しばかり怒りを覚える。タイトル変更なんてなければミレーヌが未来からやってきた瞬間、教える事ができた……と同時に何故ミレーヌは『ヤドリギ 著・いといろ』を読んで気づかなかった?
「せ、セシャトさん。もう一つ教えて欲しいん。『Re:Birth Arkadia』はキャラクター名が違っていたりするん?」
それにセシャトは怪訝な表情を見せる。
「いえ、そんな事はないと思いますよ」
であれば、未来を変えた事で何かが変わってしまったのか……ヘカは下唇を噛んでいるとセシャトがポンと手を叩いた。
「関係ないかもしれませんが、その某国のファンの方から『Re:Birth Arkadia』の同人誌なんかを個人で書かれた物をいくつかいただいておりましてその感想なんかを聞かれていますねぇ。見ますか?」
セシャトは海外の文字で書かれたそれをヘカに渡す。それをスマホで映しながら欄に読み取ってもらいキャラクターや内容を聞く。中には『ヤドリギ 著・いといろ』のキャラクターのファンアート等も描かれた物見られた。
「な……なんなんこれ! これなん! 多分ミレーヌちゃんが見たんはこれなんよ! これ書いた奴何処におるん! 脳天ぶち抜いてやるん」
ヘカのその態度にセシャトは随分明るくなっていたのに再び暗い顔を見せる。ヘカはサボっていた事を棚に上げてこの態度。
「ヘカさん、『ヤドリギ 著・いといろ』の作品の中でも神を作るのは人なんです。結局は人と人が争う構図になっていくのでしょう。私達神様に生み出された存在も、神様自体も人々の物語を読む想いから生まれたんです。その為にこのお店は絶対に開けておかなければなりません。それを数日間も閉めていたという事は、私と戦争をしたいんでしょうか?」
ヘカはそう言うセシャトに「ヘッ」と鼻で笑うと頭に手をやる。受けて立つというそんな態度の中、虚ろな瞳を黒黒と輝かせる。
そして、ヘカは両手を上にあげてからそれを地面につき頭を下げる。それはそれは見事な土下座であった。
「ゆ、許して欲しいん。ごめんなさいなん」
「えぇ、許しませんよ」
「さすがセシャトさんなん! ……あっ」
そう言って顔をあげたヘカはさすがに今回ばかりは自分も死んだかもしれないなと思いながら、セシャトの雷を受ける事を覚悟し、遠い未来でミレーヌが『ヤドリギ 著・いといろ』を楽しんでくれているかなとそんな現実逃避をする。
いまだに準備中と書かれた古書店『ふしぎのくに』から何等かの動物の鳴き声が一日中響き渡っていたという事だけが後に噂される事になる。
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「アインハルトさん! 起きて」
目を覚ましたミレーヌはヘッドギアをつけてカプセルの中に入っていた。ヘッドギアを外すとそこから出てあたりを見渡す。あらぬ方向からかけられる声。
「お疲れ様でした! いかがでしたか? VR脱出ゲーム『管理世界からの脱出』」
そうだ。
自分は友人達とテーマパークのアトラクションを楽しんでいたのだ。意識をフルダイブさせるタイプの体感ゲーム。
「もしかして、ヘカ先生と欄さんってNPCだったの?」
友人の少女にそれを聞くと少し考えてミレーヌにこう返した。
「そんな登場人物いたでしょうか? ルーラーから逃げてイラーシャをやっつける手前で私はゲームオーバーになってしまったので……」
攻略サイトに目を通して軽い頭痛を感じた。この管理世界からの脱出は内容の中で過去に行くなんていうルートは存在しないらしい。単純に、ルーラーの目をかいくぐり、管理世界を統治するイラーシャを破壊するプログラムをイラーシャに打ち込めれば脱出成功という物だったらしい。
だったら……
「だったら、僕の記憶に鮮明に残っているあの人たちは誰なの?」
ミレーヌは何かを手に持っている。恐る恐る手を開くと、そこにはガリガリ君の当たり棒。これは何だ? 冷静に考える。自分は果たしてゲームをしにここに来たか? イラーシャはどうなった?
「僕はあの小説を探しに過去にダイブしたんだ……」
ミレーヌの知る世界はこんな友人と遊ぶ世界じゃない。自分に先ほど声をかけた友人は部屋で一人寂しく……
その結果ミレーヌの頭が導き出した答えは一つ。
「未来が変わったんだ!」
ミレーヌは友人に気分が悪いと伝えて家に帰る。この世界にはルーラーは何処にもいない。あの同じ事しか言わず、人を不整合か整合かでしか判断できない。とにもかくにも厄介な管理者。
されど、彼は自分を守り、Web小説を認めた。あれは欄が内部をいじったからなのかもしれない。元々あった物がなくなる喪失感。
今になってじんわりとミレーヌに湧き上がってくる。ミレーヌは泣きながら、大きな声をあげながら帰路を歩く。それは周囲の人間には滑稽に見えた事だろう。ポケットにある小型端末を取り出し、ミレーヌは恐る恐るあるワードを打ち込む。
「……あった『ヤドリギ 著・いといろ』だ」
もう投稿サイトその物は存在していないが、Web小説だった物がアーカイブの中に生き残っていた。なんという膨大な数のWeb小説が途中続きを書かれなくなった物も含めて全て残されていた。
あの後の続きを読みミレーヌは絶望した。純種はヤドリギ、いや人類最後の希望ともいえるディケイダーをもってして屠れなかった。重症の斑鳩、未来の変更はもしかすると作品に変更をもたらしたのかもしれない。これ以上読む必要があるのだろうか? そうミレーヌは思いながらも、今となっては夢だったかもしれない彼女達を想い一字一字先を読み進めた。
『信じてくれる?』
そう聞こえたような気がした。誰を? 誰が? ミレーヌは涙を拭き頷いた。
「ヤドリギは人間なんだ。ヘカ先生、分かったよ斑鳩はただの人なんだよ! そういう事だよね? だから弱くて優しいんだ。僕は信じるよ。物語の持つ力を、僕をここに連れてきてくれたみんなを」
純種・白虎との闘い。ミレーヌの感想は命を賭した力を発動したアール、そして人間としての意志を見せた斑鳩、仲間を守ろうとしたギルバート、ただ一つの事だけを伝える事に専念したローレッタ、最後まであきらめなかった詩絵莉。彼らの行動は全て他者の為に……
この力、誰が為に……
第三章を読み終え、涙どころか清々しい顔でミレーヌは顔を見上げたその時、街に大きなホログラムが映し出された。あの秋葉原では大きなモニターだったが、自分の時代は凄い物だなとぼんやり見ていた。
「????」
そこには、あのイラーシャと戦ってくれたアールの姿。それだけじゃない、斑鳩、詩絵莉、ローレッタにギルバート。彼らが実際に動いて、アールのような何者か達と戦っている。
「なんだこれは……なんなんだ!」
それが公開予定の海外映画の宣伝だったらしい。
そして最後にタイトルが表示された。
『Re:Birth Arkadia』
それを同じく眺めている長身の男性、ミレーヌは彼を見つめ、彼もまたミレーヌを見つめると優しく微笑んだ。それにミレーヌの頬を涙が伝う。
「あっ……あぁ」
ミレーヌは未来を変えた。
その走り出した世界はすぐに背中が見えなくなる。
ミレーヌは心よりも先に体が動いた。ただ走るだけでは追いつけない。心に漆黒の翼広げ追いかける。
ヤドリギの世界の彼らも、皆その記憶を空に還すまで戦い続けるだろう。
未来には不摂生の化身も、困った時にアドバイスをしてくれる優しいお姉さんもいない。
だが、彼らと残した、彼が残してくれたものがある。
だから……走れ! このRe:Birth Arkadia(生まれ変わった未来) を
こちらのイラストは閲覧される方に見て頂きたと思います。
いといろ様より全員集合となります。
作者のいといろ様、並びに閲覧された全ての方へお礼を申し上げます^^
これにて『ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動> 著・いといろ』の月間紹介を一旦終了とさせていただきます。本作は一か月かけて面白い作品は感性で読んで頂きたいという思いを込めさせていただきました^^ まだまだ続く『ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動> 著・いといろ』です。貴方は、それに貴女はどんな楽しみ方をしますか?




