漫画飯と脇役の使い方より読み取る作品練度なん!
むむむっ! 最近ヘカさん推しの方が増えてきましたねぇ。そんなヘカさんファンにオススメのドリンクがあります。モンスターエナジーと激強打破をカクテルして飲む。ハイパーモンスター・エンジンというヘカさん御用達の飲み物があります。是非真似しないでくださいね!
※古書店『ふしぎのくに』ライターさん達がそれに挑戦して皆さん無言になられていました。
ミレーヌは遠くから大きなイビキを聞いて目を覚ます。このイビキはまさか欄かと自分の横で寝ている欄を見ると、彼女は寝袋の中で上品にすーすーと可愛い寝息を立てていた。となると、このイビキの主はと……ふすまを少し開けると、ヘカが仰向けで大口を開けて寝ていた。
虚ろな瞳、もはやそこに魂はないのではないかと思われるヘカの表情で大口を開けているとまぁ、それはホラーだったが、ミレーヌからすると一仕事終えた作家先生の名誉の打ち倒れに見えていた。
二人を起こさないようにミレーヌはマックのラップトップを開く。序章を読み終えた事で次のページにミレーヌは心が震えた。
「わぁ……!」
ここは千差万別受け取り方はあろうが、中々このレベルのキャラクター紹介は見られないだろう。それが作者のみで行われているという事実の凄まじさを未来人であるミレーヌには知るよしもなかった。
そして、キャラクター紹介のタイミングに関してヘカが起きているか、セシャトがこの場にいれば完璧なタイミングであったというかもしれない。
だが、ミレーヌが気になった事は意外な場所だった。
「万能ナッツのパスタ食べてみたいな」
不味いと作品内で言及されている食べ物、一体どんな味なのか……所謂漫画飯に興味をミレーヌは持つ。この漫画飯に興味を持たれるというのは一種のステータスと言ってもいいかもしれない。そして第一章でアールが自ら仲間と共にあろうとする意思表示にミレーヌの読む手が止まった。
「僕と一緒だ」
この過去の世界において、ミレーヌは頼るべき存在はヘカと欄のみ、できれば彼女達と共にありたいとミレーヌは願う。それは生まれてはじめてできた仲間という物に対して感じる事なのかもしれないし、ただの甘えなのかもしれない。
そんな中、作中に記載のあるアールの所有物に大量の謎多き飲料水、恐らくはあまりいい意味のある物ではなさそうなそれをミレーヌもなんとなく感じ取っていた。
パキン。
景気のよさそうな音と、そのあとに続く甘い香り、振り返ると欄が寝袋から出て黒い板チョコを齧っていた。
「ミレーヌさんもどうすか?」
そう言って欄が半分折ってチョコレートをミレーヌは受け取る。それをチョコレートと知ってミレーヌは齧った。
「これ、僕の知ってるチョコレートよりずっと甘い」
今起きたばかりだというのに、欄は既にしっかりした身だしなみをして後ろからミレーヌの読んでいる『ヤドリギ 著・いといろ』を見つめる。
「やっぱ上手いっすね。主人公サイドだけが特別活躍してるわけじゃないってのが、クリフさん? の説明で伝わってくるっすね……しかしヘカ先生やミレーヌさんは斑鳩班かもしれねーすけど、どちらかといえば私はこのクリフさんみたいな感じかもっすね」
チョコレートを食べ終わった欄に振り返りミレーヌはそれはどう言う? といった顔を見せるので欄は一瞬真顔になってすぐにいつも通りの笑顔で答える。
「私は主役級じゃないって事っすよ。根っからの子分気質っすからね。私はそこまでWeb小説を読んでるわけじゃねーすけど、この作品、死生観が妙にリアルっすね。作品に何かを塗り込んでるみてーっす……とか私の勝手な感想っすけどね」
まさか、欄がこのような感想を述べるとはミレーヌは思いもしなかった。なんとなく近い感覚をミレーヌは感じていた。この作品に感じる表情と言うべきか、感情というべきか……残念ながらそれすらもミレーヌには初めてのWeb小説の前に実態が見えない。
それ故に実経験でその差を埋める他無かった。
「欄さんは誰かが死んだところを見た事ある?」
「あるっすよ。それも一度や二度じゃねーっすね。あれも見慣れてくるもんすよ。そういうミレーヌさんはあるんすか?」
「数少ない友達が、部屋で……ね」
それを聞いても欄は表情一つ変えずに、『ヤドリギ 著・いといろ』を読んでいる。欄にとっては死という物は身近な日常であるかのように……
「未来って、やべーところみたいっすね。ミレーヌさんは、知らない世界で自分の物語に迷子にならねーことっすよ? そういえば『Re:Birth Arkadia』って作品手がかり見つかったっすか?」
それにミレーヌは首を横に振る。欄は少し目を細める。分からない事を考えても無駄なので、二人してしばらく作品を読む事を楽しみ、欄は口を開いた。
「これ、ホントにコミック(漫画)で読みたいっすね。斑鳩さん、惚れちゃいそうっす。自分も仕事と感情を天秤にかけたら、仕事優先っすからね……まぁ、少し前までの話っすけどね」
ヤドリギという存在は、有限の超兵である。されど、そのヤドリギの中でも能力が高い者もいれば、低い者もいる。されど、彼らには全く同じ重さの使命が課される。主人公である斑鳩達とは比べ物にならないくらいひ弱なY035部隊、そのクリフが取った手段は自爆特攻。
盛り上げる描写の一つでしかないのかもしれないが、そこに欄は深い感動を覚えた。
「自分の身の丈にあった仕事をこなすってのは、簡単なようで案外難しいんすよね」
「……だよね。僕、ちょっと感動しちゃったよ。絶対、乙型一種をやっつけて欲しい!」
ぐっと拳を握るミレーヌに欄は少し吹き出しそうになる。これは小さい子がテレビアニメを見て世界感に浸るように、彼女はこの物語へのめり込んでいた。
(なんだったっすかね? 確か同化現象だったっすか?)
そんな事を考えながらも、アールが斑鳩班に入ってはじめての戦闘。いい意味で読者置いてきぼりの空気感をうまく表現している。
「ねぇ、戦車って何?」
乙型一種は戦車に寄生するタタリギ、戦車という物は日本では一部を除きあまり花形の戦力にはなりえない事が物語の中では多い。
がしかし、何を隠そうこの日本は戦車というものの認識を根底から覆した国でもある。
そして、戦が日常の国において戦車程局所的な殺戮兵器もないだろう。
ドイツが生み出したパンツァー。
今や世界の標準兵装として第一線を彩る。
「なんて、説明をミレーヌさんにしても分からないっすから、金属の鎧を着た車に大砲がついてるんすよ。ぶつかってくるだけで、普通の人なら即死っすね」
ガラガラっと戸が開かれる。寝ぐせの跳ね方が芸術的で、伝説の生き物のような登場を果たすヘカ。彼女は雪印のコーヒーを飲みながら腰に手を当てて言った。
「欄ちゃん、それだったら装甲車に重機関銃乗せてるのも戦車になるん」
この話を詳しく語ると賛否両論あるのだが、戦車という物の定義は敵戦車を破壊できる火力、戦車砲撃を受けれる防御力、そしていかなる道をも走破できる性能の三拍子がそろった物を言う。
ヘカにとって車に装甲があり大砲がついている物という曖昧な説明を許せるわけもなく、寝起きにもかかわらず話に介入してきた。
「乙型一種は多分重戦車なん、作中では予測しやすいから崩しやすいと表現されるんな。日本の物語は何故か戦車を低くみる傾向が強いんけど、そもそも戦車程各種物語の異能やモンスターを屠れる兵器はないん。よってこれを四名の小隊で叩く斑鳩班は化物なん。でも、この場面はその斑鳩班をして、驚愕の存在がデビューするん」
ヘカの虚ろな瞳から漆黒の輝きを放つ。それはヘカが本作において愛してやまないキャラクター、アールの初陣の事であった。
斑鳩班はヤドリギの中でも上位の性能を誇るいわばトップガン達だろう。彼らをして桁違いの性能を魅せるアール。
「ここで注目したいんは、アールたんが完全にオーバースペックである事じゃないん。それより、その他のメンバーなんね。アールたんが新型なら他はみんな旧型ヤドリギなん。なら新型だけいいんとなるん? 物語はそんなに馬鹿じゃないん」
ヘカが珍しく饒舌に語る。雪印のコーヒーとヘカはよく合うなと欄は思いながら、朝食の準備でもしようかと冷蔵庫へと向かった。
「ヘカ先生、じゃあ他のみんなも新型になるってこと?」
「低いけどその可能性もありえるんな、特に斑鳩に関してはありえるん」
「それはなんで?」
「物書きとしてのヘカのカンなん。所謂主人公補正なんね。例えば、タタリギとしての深度が深くなったけど、裏返るとかパワーアップのさせ方はいくらでもあるん。でも、そんな事じゃないんよ?」
ヘカがミレーヌに何を伝えたいのかミレーヌにはさっぱり分からない。ここは聞き手に回る方が無難かと黙って聞く事にした。
「新型のアールたんがいれば、戦局は大きく変わるんな。それは物語にとって広がりを見せるん。例えば、斑鳩班の中の誰かが戦死等で交代も考えられるん。さっきミレーヌちゃんが言ったパワーアップも考えられるん。だけど、旧型が新型に勝つところがないん? と言ったらそれも間違いなんよ? 使い慣れた道具と新しい道具、どっちが功夫が上かというお話なんね? 一部機能おいては決して新しい物には負けないん。それをどう描いていくのか、ヘカは興を感じるん。あとアールたんをみんなが育てていくん? というところねん」
虚ろな目を閉じて何かを夢想するヘカにミレーヌはなんとなく分からないような表情をしてから次の質問。
「ディケィダーって鉄砲の弾なんだよね? どういう意味なの?」
それにはヘカの代わりにインスタント食品を盆にのせた欄が戻ってきながら答えてくれた。
「ディケィダーって言葉は鉄砲の弾じゃないんすよ? 正確な発音はダ・ケイドで十年とかそういう意味っすね。多分、『ヤドリギ 著・いといろ』では十倍とかそういう事で使われてるんじゃないすか? タタリギに対する最大の矛って事なんでしょうね。それとかタタリギに十字架を建てる一撃とかっすかね。ミレーヌさんは銃って撃った事あるっす?」
欄の質問に首を横に振るミレーヌに欄は指を鉄砲みたいな形にしてミレーヌに向ける。
「私のこの手くらいのサイズの銃でも凄い反動があるんすよ? よくトゥハンドで銃を撃つキャラクターが出てきたりするんすけど、まぁ不可能っすね。今回詩絵莉さんが撃つディケィダーはそうっすねぇ、アンチマテリアルライフルあたりが一番しっくりきそうっすね!」
そう言って欄は対物ライフルの画像とそれを構える狙撃手を見せる。「おぉ!」とミレーヌはこの詩絵莉のシーンをよりよく想像し、欄はヘカとミレーヌにインスタントの味噌汁を配る。
「朝はやっぱ和食っすね」
ミレーヌはカップの味噌汁をずずっとすすりながら、ディケイダーを撃ち込まれ急激に生命が終えていくタタリギの様子が書かれる様を穴があくくらい文字を読み込む。
ぽかんとして食べる手が止まるミレーヌの口元にヘカが魚肉ソーセージを持って行く、無意識にそれにかぶりつくミレーヌ、そしてミレーヌはもくもくと口を動かして、こくんとそれを飲み込む。小説の世界に意識を馳していたミレーヌのご帰還、そしてミレーヌは開口一番二人に質問した。
「誇りと意地で人は命を捨てれるものなんだろうか? 僕は諦めと救いで命を捨てる人しか見てこなかったんだ」
ヘカはサトウのご飯をお茶碗に入れるとイカの塩辛をこれでもかというくらい乗せてお茶をかけると一気に平らげる。
「捨てるんじゃないんよ。人は究極の状況で意地と涙をそこに残そうとするんよ?」
「……どういう事だろう?」
「まだまだ、ミレーヌちゃんは勉強が必要なん! そうなんね。ミレーヌちゃんはアールたんみたいなんな? ヘカ達の世界の事を全然知らないん。異世界からこっちにやってきてるん」
楽しい朝食のひと時、それを一瞬で終わらせる来訪者がやってくる。ヘカのマンションのインターホンが鳴り、それに反応した欄が掌に隠れるサイズのデリンジャーを持って玄関の扉を開いた。
「ちょーイケメンっす!」
タキシードを着た長身の男性、年のころは二十代は後半くらいか? その瞳には生命を感じられず、欄に握手のように手を差し出す。
「うわー、これ罠っぽいっすねぇ」
差し出されたであろう手を欄は握る。するとイケメンの瞳が極彩色に光るとこう呟いた。
「不整合人間確率40パーセント」
「は? なんすか?」
欄とイケメンのやり取りにヘカとミレーヌが玄関にやってくる。それにヘカは「おぉ、イケメンなん!」と当然の反応。
しかし、ミレーヌは違った。
「……ルーラー」
今回は物語方面に寄せてきましたねぇ。さて、イケメン成人『ルーラー』さんは何者なんでしょうね?
『ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動> 著・いといろ』随分、読了頂いたメッセージや書込みを拝見しております^^ 大変嬉しく思いますよぅ! あまり作品の良し悪しを語るのは私にはタブーなところがあるんですが、本作のポテンシャルの高さは作者さんが物語を完全に支配しているところではないでしょうか? 実はこれは本当に中々できません。実際に書籍化されている本でも「ん?」という部分が実はあるんですよね^^ それを極力感じさせない作り込みにはやはり技術と努力、誇りと意地を感じませんか?




