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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第七章 『ヤドリギ』著・いといろ
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作品の言葉、自分ならどう考えるん?

ついに最近セミさんの声を聴くようになりましたね! あれを五月蠅い! と取るか、夏がやってきましたねーと取るかでまた暑い夏の楽しみ方が変わるかもしれませんね! この前古書店『ふしぎのくに』のみんなでプールに行きましたよぅ! プールで食べるかき氷はなんであんなに美味しいんでしょうね!

 ヘカは頭から黒い羽ペンを取り出すと、ミレーヌが見ているラップトップの画面にコツンと羽ペンを当てて呟く。



「фаотдуцтон(Web小説疑似書込み)」



 一体何が起きるのかとみていたミレーヌだったが、何も起きない。それにヘカは渋い顔をして呟く。



「またダメなん」



 そうして羽ペンを頭の中に戻すと山ブドウサイダーが空になった事、デザートもたらふく食べたので、席を立った。



「帰るん」



 カプチーノを入れて戻ってきた欄はヘカが帰り支度をしている姿を見てさすがにイラっとした。欄は恐らくヘカの知らない国の言葉を使い脳内で全力でヘカに暴言を吐いた。


(この怒りを神はなんと解くだろうか?)


 カプチーノをがぶ飲みすると、欄はキャッシャーで料金を支払う。



「二万六千……」

「カードでいいすか?」

「当店はカード支払いは行っていないんです」



 そうだったかと欄は思い出して、ピン札の福沢諭吉を三枚差し出した。そしておつりを受け取ると頭をペコリと下げた。



「御馳走様でした。美味しかったです」



 欄の後ろで待ってるミレーヌを見て「どしたんすか?」と欄が声をかけるとミレーヌは当然というようにこう言った。



「お金を払っているところ、はじめてみましたので」



 欄はこれは相当な状態だなと思う。ミレーヌは見たところ、小奇麗な格好をしているし、彼女の言う事が正しければ遠い未来からやってきた存在。なんと返した物かと欄は店の外を見る。つまようじを咥えているヘカを頼っても意味はなかろうと欄はとりあえずミレーヌに声をかけた。



「ミレーヌさん、私らの積み木に帰るっすよ!」



 積み木というのは、『ヤドリギ 著・いといろ』における主人公達ヤドリギの住むコンテナハウスのような建物の事。欄はせっせと『ヤドリギ 著・いといろ』をスマホで読んでヘカとミレーヌと話しができるように内容を詰め込んでいた。

 その甲斐あってか、物語の単語を聞いたミレーヌは嬉しそうに目を輝かせて頷く。



「うん!」



 そしてふと欄は気になった事があった。『ヤドリギ 著・いといろ』の世界でも通貨という物は存在し、荒廃した世界においても貨幣経済は崩壊していなかった。



「ミレーヌさんの世界ではお金はないんすか?」

「そういう物が存在しているという事と、知識としてはその使い方も知ってるけど、全て配給される物で事足りるからなぁ」



 そんな会話をしている二人に目を吊り上げてヘカがやってくる。ヘカは何処からだしたのかあたり目を咥えているのは愛嬌か?



「何してるん?」

「欄さんと、序章のまとめについて話してたんだ!」



 それにピクリと反応したヘカは、もぐもぐとあたり目を飲み込んで、タバコを吸うように再びあたり目を何処からともなく取り出して咥える。



「簡単なキャラクター紹介と、ストーリー展開が分かったところで、やっと本番なんよ! アールが出てくるん。はやく家に帰るん……コンビニによってから」



 栄養という物を一切考えずにあれこれとジャンクフードにエナジードリンクを買いあさり、最後に欄とヘカが冷蔵の前でミレーヌを呼ぶ。



「ミレーヌちゃん、アイス何食べるん?」



 ヘカはガリガリ君を大量に籠に入れ、欄は全ての種類のハーゲンダッツアイスクリームを入れていた。



「アイスクリーム?」

「そうなん! セシャトさんはチョコミントが好きなん、あれは歯磨き粉みたいな味がしてオススメしないん」



 そう言ってヘカが指差すスーパーカップのそれをミレーヌは手に取ると少し考えてそれを籠に入れた。



「歯磨き粉の味わかんないんで、これ食べてみるよ」

「あー、自分もチョコミント好きっすよ! ヘカ先生はお子様味覚なんであんまり気にしなくていいっすから」



 三人は両手に大きく膨らんだコンビニの袋を持ちながらゆっくりとヘカのマンションへ帰る。ヘカの作業をする狭い和室と十二畳のリビングが欄とミレーヌの寝床兼、生活空間。あとはバスルームと小さなキッチンがある。ヘカの収入源は不明だが、都内でこの広さのマンションはまぁそこそこの家賃がかかるだろうが、ヘカがお金を払っている様子を見た事は欄はない。

 リビングルームのちゃぶ台にヘカはガリガリ君を、欄はクッキー&クリーム、そしてミレーヌは未知との遭遇、チョコミントアイス。

 それらを持ち寄り、真ん中にマックのラップトップを置くとヘカはガリガリ君をがじってからこう言った。



「この作品はイラストに騙されやすいんけど、驚愕するレベルには堅い作品なん。笑かせにくる事もなく、物語としてのリアリティ性を主軸に、頭に残りやすく、それでいてヘカ達選ばれし者達が好きな単語で形成されているん。あっ、みんなアイス食べていいんよ?」



 ヘカが一本目のガリガリ君を食べて終わり、欄とミレーヌもアイスに舌鼓を打つ、一見女子会のように見えなくもないが、如何せん色気が少ない。欄は選ばれし者というのはカッコいい言葉が好きな所謂厨二病的な連中を指しているのだろうかと考える。

 ミレーヌのアイスを食べる手が止まった事でヘカがそれに気づいた。



「やっぱり不味かったん?」

「いえ、美味しいよ。先生たちに質問なんだけど、アガルタってどんな意味なんだ?」



 『ヤドリギ 著・いといろ』におけるアガルタとは主人公達が属する箱舟の本部おける組織であるが、その意味に関しては所説ある。



「……それはねん……欄ちゃん答えてあげるん」

「あー、はいはい。分かったっすよ。アガルタは理想郷とか、桃源郷とかの事っす。ジプシーで言うところのシャンバラっすね。多分アルケディアとかそっち系の語源からきてるんじゃないすかね? 他にはヘブンズドア、天国の扉の事を意味するなんて言う説もあるっすね。死に対する価値観とかこれは宗教観の違いだと思うんすけど、『ヤドリギ 著・いといろ』においては本部なんで最深部という意味でのアガルタなのかもしれないっすね! とまぁ、こんなところっすけど大丈夫すか?」



 うんうんとミレーヌが理解をしたようなので、欄はほっとして再びアイスに木のスプーンを近づけた。



「まぁまぁの見解だったんね。大体そんな感じなん」



 ヘカがいつもの調子でそう言うので、欄は空になったアイスの容器を流しに持って行き、代わりに抹茶味のアイスを持って戻ってくる。



「アムリタという言葉の語呂合わせはすげー良い感じっすね! ヘカ先生もこういう頭字語遊びみたいな事考えれないんすか?」



 ミレーヌは二人のやとりについていけない顔をしているので、二本目のガリガリ君を一口でヘカは飲み込むとミレーヌに言う。



「欄ちゃんはすぐに頭の固い事言うん。このアムリタっていうんは神話の世界の飲み物なん。これが物語によってはソーマだったり、ミードだったり、般若湯だったりするん。今ヘカ達が食べてるアイスみたいなもんと思えばいいん。でも欄ちゃん、いい所に気が付いたん。そのアムリタという頭文字を上手い事使ってるんね! 欄ちゃんがヘカを煽るんから、ヘカならこう書くん。アンチ・マグナント・ラディカル・テイカーでアムリタなん」



 ミレーヌは何を言っているのか分からない、欄は少し目を瞑ってからヘカにこう言った。



「まぁまぁやるじゃないすかヘカ先生、悪を討つ為に根源を受ける者みたいな感じっすね。でもやっぱり純正の異能を目覚めさせ、反逆者を生み出す物みたいな方のがいいっすね」



 これに関しては完全に欄の認識によるものだが、頭字語という物は読み取り方が翻訳者によってやや変わるものだろう。



「当然なん、純正に勝てる偽物はないん」



 そのヘカの言葉に反応したのはまさかのミレーヌだった。



「ヘカ先生、それってタタリギの偽物がヤドリギだよね? ヤドリギはタタリギには勝てないの?」



 欄とヘカは成程、その考えがあったかと逆に関心する。そして言い訳のようにヘカはミレーヌに諭す。



「そうでもないんよ。この島国は戦後は海外の劣化版みたいな模造品をよく作ってたん。でも気が付けば製造に関しては世界一の水準になってるん。人は絶対に脅威に負けない。だから、斑鳩班には新型が来るんよ!」



 それには虚ろな瞳のヘカが不気味に笑う。これもはじめてみたら引くのかもしれないが、慣れている欄と尊敬しているミレーヌからすれば愛嬌である。



「ヘカ先生ってこのアールさんが好きなの?」

「当然なん! 新型なんよ! そしてこのぶっきらぼうな感じがいいん。まぁ、ヘカやセシャトさんに通じるところからの身内贔屓であり、単純に誰もが愛せるキャラクターなん。でも一つ気に入らない言葉があるん」



 ヘカがやはり虚ろな瞳で少し不機嫌に言うそれにミレーヌ、そして珍しく欄も「およ?」と興味が出た。ヘカは好きな物に対してあまり不平を言わない性の持ち主である。なんせ、ガリガリ君五本目を食べても飽きもしないのだ。



「式神。獣を越えて神を名乗る。神様なんて微妙な存在なん! ここはヘカは烏を推しておきたいん! 式鴉なん」



 つまらない回答に欄は一人『ヤドリギ 著・いといろ』を読み進めて世界感、設定、背景、流通事情から目を細める。



「これって……やっぱりモデルはあれなんすかね?」

「欄ちゃん、それ以上は黙るん! つまらない事はいいん!」



 同じ書き手としてヘカの持つ不可侵ラインを欄はギリギリ攻めていた事になる。やや怒ったかと、欄は何度かこの状況になった事がある。ミレーヌは少し空気の悪くなった二人を見て困るので欄は折れる事にした。



「そうっすね。野暮っすね。ガリガリ君一個貰うっすよ!」



 そう言って欄が大きく齧りとると、ガリガリ君の棒になにやら印字が見える。



「当たったっすね!」



 それにニィと笑うヘカ、そして欄はそれをミレーヌに渡した。



「なんだよ? ゴミ?」

「それ、お店に持って行くとガリガリ君もらえるん! ミレーヌちゃんにあげるん。困った時はそれでガリガリ君が食えるんよ!」



 ミレーヌは身元も怪しい自分を当然のように受け入れてくれるヘカと欄に嗚咽が漏れそうになった。



「あり、ありがと。僕と一緒にいてくれて」

「ヘカ達は仲間なん。あと一人アールたんがいたら最高なんけどね」



 ヘカのアール愛は中々気持ち悪いレベルである。そんなヘカに欄は問う。



「魅力的なキャラクターだとは思うんすけど、何処がそんなに好きなんすか?」

「アールたんはヘカに似てるん」

「いや、似てないっすよ!」

「じゃなくて、ヘカも神様に生み出された時、右も左も分からず、セシャトさんに色々教わって今に至るん」



 もしこの話が事実だとすれば、色々あって異常者みたいな存在がどうやって生まれたのか、その過程を欄は気になって仕方がなかった。

 しかし、ガリガリ君の当たり棒を持ってうとうとしているミレーヌを見ると、早めに就寝しようかとヘカがアイコンタクトを送るのでそれに頷いた。



「まぁまぁ、自分とヘカ先生。いいコンビかもっすね」

挿絵(By みてみん)

さてさて、本作『ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動> 著・いといろ』はイラストの愛らしさに反して物語の固さはヘカさんのおっしゃる通りですねぇ^^ だからこそ、カッコいい語源とか真似しちゃいたくなりますね! 是非是非、そんなカッコいい作品を読んで頂けると嬉しいですよぅ!

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