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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第六章『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語』著 言詠 紅華
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ストレスを楽しむスキル 和の正体

さて、ついに梅雨本番といった感じですねぇ^^ これが終わるととーっても熱くなるのでアイスボックスやガリガリくんを買い占めたいところです!! さて『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』の紹介小説も残すところあと二話です! 最後までお付き合い頂ければ嬉しいですよぅ^^

 公園のブランコに腰掛けながら、和は何気なくスマホで『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を開く。



「正論……正論ってなんだ……僕は偽りの存在なんだろうか?」



 第三章において、二つの思惑が動き出している事を知る。薙瑠を排除しようとする動き、呉の国においてはある種生きようする人間臭さがあった。和はそこに自分を重ねる。

 自分がもう既に死んでいる存在だとしても消えるのは嫌だ。

 ならどうすればいい?

 このまま逃げ続けるべきなのだろうか?

 幼いころの子元は何かトラウマを抱えている。とある少女を裏切る形になったと……裏切る。それには和も何か引っかかっていた。

 自分の記憶に蓋をするような、その蓋は大きな輪郭を持ち、中々開けさせてはくれそうにない、もうあそこに……友人が飛び込んだホームに舞い戻らなければいいんじゃないかとそう考えていた。



「子元の母……薙瑠と似ている……薙瑠は仲達の娘なのかな?」



 この物語は『偽り』という大きなキーワードを抱えている。それは何が偽りなのか、それを考えさせ思考のループに陥らせる事そのものを偽りとしているのか、物語を生きる彼らの思惑自体裏切るような偽りがあるのだろうかと和は考え込む。



「そんなに凝った物語だとは僕は思ってはいない……なのに、この物語にはきっと大きな嘘がある気がする」



 そんなあらゆることに疑り深くなっている和ですら、幼少の頃の子元が村で自由行動を許された描写に関しては表情が緩んだ。



「林間学校だったっけ?」



 街で育ち、それなりに裕福な家で過ごしてきた和にとって自然に触れたりアウトドアをする事は本当に全てが未知の体験だった。勉強勉強の毎日の中、それはとても楽しかったように思い出される。

 そこで和は素晴らしいものを見てきた……だが、子元はどうやら違うようだった。彼は心に何か大きなトラウマを抱える事になる。

 それは虐待を受けている少女。


 そしてそれだけはない、子元は小さな村で大きな世界を知る事になるのだ。子元は子供が持つ特有の正義感、それそのものは本当に美しく尊いものなのだろう。

 だが、現実を知りすぎている大人からすればそれは評価こそできても認めるにはあまりにも青く愚かな考え、それを幼い子元は知る。

 そんな事を考えていた和に覗き込むように声をかけられる。



「そこの仲達さん、とーってもカッコいいですよねぇ!」

「……セシャトさん」



 妙に気まずかった……彼女達は自分を認識する事が出来る存在……それに和は一つの疑問が浮かんだ。



「ねぇ、セシャトさん達は何者なの? 俺の事が見えるんでしょ?」

「私ですか? 私は古書店『ふしぎのくに』店主、そしてWeb小説を多くの人々に広める為に神様に生み出された存在です」



 和はわらけてきた、セシャトの馬鹿みたいな話は事実なのだろう。彼女もまた人ならざる何かなので自分と関わる事が出来るのだと……



「セシャトさんは僕をあるべき場所、いや逝くべき場所に還すおつもりですか?」

「そうですねぇ、それは和さんの自由意志だと思いますが、私はお戻りされた方がいいんじゃないかと思いますよぅ」



 セシャトはやはりセシャトでしかない。和は腹をくくり、セシャトに頭を下げて言った。最期にこの小説を共に楽しみたいと……



「ダメかな?」



 セシャトは目を瞑ると頬を赤らめる。そして凄い嬉しそうに和との距離をつめた。そしてセシャトは和のスマホに手を触れると一言。



「хуxотоxунихуxакутоxуноберу(Web小説物質化)」



 スマホの画面から一冊の本を取り出した。



「Web小説疑似文庫です。どうせですから、本で読書をしましょう! この本は和さんのように、そして三國の華に宿る桜の鬼のように、春の夢のような儚いものです。先ほどの続きですが、仲達さんの言葉って凄い響きますよね! ダメだと言っているわけじゃないんですよね。どうしてもやりたいなら責任を持ちなさいと、親の鑑だと私は思います。それに可愛いところがここで初めてわかるんですよね!」



 セシャトはクスクスとWeb小説を愉しむ。和の存在なんて気にしていないように……和は自分にとっては死刑宣告を待つ最期の時間だと思っていたが、セシャトからはそんな空気は感じない。

 本当にこの不思議な連中と関わると色んな事に迷っていた自分が馬鹿らしくなる。楽しむ時は楽しむ、何度そうしようとしてできなかった事か……この一回くらいは自分も楽しんでみようかと謎の決意を胸に秘める。



「和さん、これどうぞ!」



 セシャトが差し出すのはメロンパン、菓子パンの定番ではあるが、それを受け取った時、和は気づいた。



「こ、これは……水を一切使わずメロン汁だけで作られた幸鹿堂の究極のメロンパン……」

「ふふふのふ! そうなんですよぅ、私達の知り合いが近くまで旅行に行っていたので買ってきてくれたのです!」



 セシャトは自然に空いている方のブランコに腰掛ける。セシャトは耳に髪をかけるしぐさをすると少しブランコを漕ぐ。何とも絵になり、なんともあざとい行動なのだろう。それを自然にやってしまうセシャトに並々ならぬ感動を覚える。



「この、子元さんが薙瑠さんを自分の馬に乗るように促そうとするシーンはなんとも言えないもどかしさと、恥ずかしさで顔がにやけますねぇ」



 ここかと和は思い出す。実のところ全く和はときめくような事はなかった。これは和が男でセシャトが女だからなのかなと少し的外れな見解を持っていた。



「虐待を受けていていた子元のトラウマの少女と薙瑠は同一人物なんでしょうね。それを子元も薄々気づき始めている。そこが僕はたまらなく好きです」



 ほぉとセシャトはブランコを漕ぐのを止めた。そしてセシャトは和を見つめる。それはそれは珍しそうに……



「成程、これが本を読む方の楽しみ方なんでしょうか? このワンシーン、どちらかといえばストレスがたまるシーンなんです。ですが、和さんは一つの線が繋がる。ようは伏線回収を予見させるシーンを愉しんでいるのですね。なら、和さんはこうも考えているのではないでしょうか? 薙瑠さんの今の記憶が偽りであると……」



 ドキリとした。

 予想し、物語の何処かで答え合わせをしようとしていた。蒼燕と薙瑠が同一人物である証拠、そして蒼燕は子元を憎んでいる。

 子元の薙瑠への感情はまさに愛、そしてその裏返しは憎悪。記憶を失った薙瑠は反対の感情で子元に執着をしている。それが裏返った時一体何がおきるのかと和はわくわくしていた。

 それを目の前のお菓子好きのあざとい女は心を見透かしたかのように、それを全て言い当てた。



「ほんと、替え玉受験ができるなら読解問題はセシャトさんにお願いしたいものだな」

「ふふふのふ、和さん、少し歩きませんか?」



 きた……和は覚悟していた瞬間がやってきたとそう確信した。もう逃げるつもりはない。死んだ自分が行くべき場所にセシャトは送るつもりなのだろう。それを甘んじて受けようと和は立ち上がった。



「分け御霊、これはさきわい玉の事でしょうか?」

「多分、魂と体の事じゃないかな? この物語では一つの物が二つに分かれたって事だと思うけど、ついに二人は曰く付きの村にきちゃったね」



 和の言葉をセシャトは無視する……というよりは何か思いつめたような表情をしていた。それに和は声をかける。



「セシャトさん?」

「あっ、すみません。昔、私も誰かの手を引いて辺鄙な村から出ていこうとしたような気がするんですけど、私は2018年のうまれなのでそんなことありえないですよね」



 その言葉がありえないんだけどなと和は思いながら、気を取り直す。



「逍遙樹という桜の木、これはある種の特異点のような物なんでしょうね。ふふふのふ、和さんは特異点という言葉はご存知ではないですか?」

「ターニングポイントの事?」

「むむっ、少し惜しいですね。いわばターニングポイントを書き換えてしまうようなポイントと言ったところでしょうか?」

「イレギュラーなんだ」

「そうですね」



 セシャトと和は一緒に歩いて『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を読んでいた。そして今和にとっての特異点へと到着してしまう。

 あの踏切へと……



「やっぱりここか」

「ですねぇ!」

「僕はここから天国に行くのかな?」



 セシャトは目を丸くして驚く、それには和は何か変な事を言ってしまったのかと思ってセシャトの顔の前で手をひらひらと動かす。



「あー、成程そう勘違いをされていたのですね! 和さん、早く戻らないと和さんの本来の体がダメになります。和さんは和さんの友人が自殺しようとしたこの踏切で友人を助けて電車と接触したんですよ! そこで体から貴方の心の一部が剥がれてしまったんだと……私の生み出した神様が言ってました」



 何と和は驚く。自分は死んでいなかったが、今死にかけている事、そして自分の友人は死んではいなかった。和が救ったのである。



「マジで! 僕、助かるの?」

「はい! 但し、和さんは恐らく本当の和さんが作り出した人格の一つなんじゃないでしょうか? もし、本来の体に戻る事があれば、おそらく私達との出会いも『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を読まれていた事も夢幻の如く、本当の和さんの中には残らないかと……」



 和は思い出した。自分の存在を……嗚呼そうだったと、セシャトに笑顔を向けると和は笑った。



「ちょっと僕を起こしてくるから、今度会う時は両手に沢山甘いお菓子を持って行きますからね! あと、この本借りてていいかな?」



 そう言って今まで足がすくんでいたホームへ和は走り去っていく。

和さんの正体、意外でしたねぇ^^ 一体次回の最終話はどんな風になるのでしょうか? これは偽りの物語、それは幻想の物語です! 『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』是非是非お愉しみ頂ければ嬉しいです!! 次回6月紹介作品最終話『さらば、愛しき偽りの日々』お楽しみに!!

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