御伽噺ベース 作品の名言
ここ最近古書店『ふしぎのくに』がすこしざわついています。色々各方面にご迷惑をかけたりしながらもいつも通り通常運転で行きますよぅ!
最近古書店『おべりすく』の皆さまと懇親会をしました^^ 西の方というのは本当に東の私達とは感覚が違い、作品の読み込み方もとても勉強になります^^ これからどんどんパワーアップしていきますからねぇ^^
「世界を元に戻す……か」
桜の力、という項目を読み和は足を止めた。伯約は桜の鬼に斬られる為に戦を起こした。それは自分の国を守る為……死ぬ?
少々意味が分からない。がしかし、伯約の気持ちを知った時、和は何故か彼を自分に重ねた。鬼は自然の摂理から外れた存在。程度はどうあれ、普通の人間と生きている世界が違う、それは残酷なレベルに時間という意味で……老い行き、土に帰る自国の民を、部下を友人を数えきれない程見てきたとしたら果たして鬼という異形の者であれ、心を持つ者ならどうだろう? 恐らくは心を病むのではないか?
「なら……死を選ぶのかな?」
この作品を和は読んでいて一番胸に突き刺さる一文があった。それは伯約に彼と共にある六花将の狼莎が自分の死地とした戦で自分は死ねず、無駄に兵を減らした事を嘆いた伯約にかけた言葉。
”無駄だと思ってしまったら、本当に無駄になってしまう。けれど、考え方を少し変えるだけで、それは決して無駄ではなくなる。大切な存在の死を、どう捉えるかはあなた次第、だよね”
「大切な人の死をどうとらえるか?」
和は電車に飛び込んだ友人の事を想い返す、友人は特に悩んだ様子はなく、イジメられていただなんて事も聞いた事がない。自分とほぼずっと一緒にいたわけで、一体何故自殺という手段に出たのかいまだに分からない。考え方を変えるととんでもない想像をしてしまう。
友人の死は無駄ですらない……
本当に意味なんてないのではないかと……
そんな思考のループに陥りそうになっている中、和はこの物語において一番答えに近づいている存在は伯約なのではないかと気づいた。
伯約は自分という鬼を斬る事以外の未来を探す事にする。彼は一歩未来に足を踏み出した。物語のキャラクターに和は嫉妬に近い感情を抱く。
自分は今だその一歩を踏み出せずにいるというのに……
今日は自分も一歩踏み出せるだろうかと思ったが、やはりどうやらそれはまだ難しいかと帰路につこうとする。
「あれって……」
遠くに見える赤い着物、それに少しばかり青みがかった髪の色……シアさんだと思った時、自分は『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を最初に読んだ時、薙瑠の青い頭髪にそんな人間はいないと鼻で笑った自分がいた。遠くを歩くシアの髪の毛は恐らく染色した類のものではないだろう。自然と青みがかっている。
自分の世界だけで物事を決めるという事はなんと浅はかな考えだったのかと恥ずかしくなった。声をかけずらい和はなんとなくシアの後を追う。
こんな時、紗鴉那達鴉は変化する事ができるらしい事が羨ましく思った。何故なら、か弱い女の子の後をつける自分という姿は中々に不審者レベルが高い。
しかし、何故自分はこんなにこっそりシアの後をつけているのか……見た目の愛らしさとは裏腹に彼女の性格はかなりキツめである。だけども、なんとも言えない刺激を彼女と話していたら感じていたのも事実だった。
「おや?」
横断歩道の前でシアは飛び跳ねるように手を誰かに振る。その表情は満面の笑み、少しばかり頬を紅潮させているのは……まさか彼氏か?
(いや、あれだけ可愛ければ十分にありうるか)
そして、横断歩道の端からやってくるシアの待ち人を見てほっと胸を撫でおろした。可愛い海外の男の子か、ボーイッシュな女の子、いずれにしてもシアより随分年下のように見える。シアはそんな相手に頭を下げて頭を撫でられる。明らかに雌の表情をしているように見えるのは和の気のせいだろうか? 小さい子が好きすぎて母性本能全開という事だと和は勝手に思い込む事にした。
二人が入ったのは一件のスターバックスコーヒー。珍しく自動扉のない昔のタイプの店舗である。シアがカウンター席を所望したが、相方の子はふかふかのソファーを希望しそちらに移動。チョコレートクランチフラペチーノを二つ頼んでいるので、和も同じ物を注文。
「すみませーん!」
されど込み合っているわけでもないのに、店員の反応は薄い。少し怒り気味に和が頼んだ時、影の薄そうな女性店員が注文を受けてくれた。
「なんでここに?」
普通はご注文はなんでしょうか? と聞くのが一般的だが、シアを尾行していた建前和は焦る。
「えっとテスト休みで勉強しよっかなーと、あのチョコレートクランチフラペチーノください」
「あっ、ごめんなさい。ここからここまでのメニューしか作れないんです。それは私がいなくなってからできたメニューだから」
「は? まぁいいや。キャラメルマキアートで」
不満げに定番メニューを受け取るとシアともう一人のすぐ近くに腰をかける。相方の子は両手でスコーンを掴むとジャムをつけて大口を開けて食べる。その様子を嬉しそうにするシア、どう考えてもこれは小さい子が好きな女の子である。
それも悪い意味で……
聞き耳を立てると相方の子が話す声が聞こえる。それはなんとも綺麗で物語でも読むように一定のリズムを刻んでいた。和だけでなく、店内の客も自然に相方の子の声を聴く、話を聞くではなく声をBGMにブレイクタイムを楽しんでいた。
「『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』のぉ、この作者休載報告しておらんかったか?」
相方の子に反応しシアはうんうんと頷く。
「第三章までは公開終わってるますから、そこまでで多分あの人も気ついてくれはるんちゃうやろか? そんな事より神様、ウチと二人っきりですえ? ウチに何か言う事あるんとちゃいますん?」
神様と呼ばれた子供はずずっとチョコレートクランチフラペチーノを持って飲むとペロリと舌を出して「これ重いの」と一言。
そしてシアを見つめると笑った。
「ふしぎのくにの留守番、助かったぞ!」
「そんなーん、別に構いません! それより、せっかくセシャトさんもあのクソ烏もおらへんねんから何か甘い物でも食べにいきません?」
今まさに頭が狂おしくなる程甘いドリンクを飲んでいる神様に対して尚スイーツを食べに行かないかというシア、それに神様は答える。
「いや、私はこれで構わんよ。で、どこまで読んだんだ?」
「ぶぅー、神様のいけず。せやね、呂蒙の名前が出てくるあたりでっしゃろか? 呂蒙、また曰く付きのお人でんな?」
「ほぉ、あれだろ? 勤勉な奴は三日後に会うと別人になっとるという。まぁ私からすればそうなるのは才能があってかつ努力が出来る奴だけだと思うけどの、才能があっても努力をせんやつ、努力をしても才能がない奴は三日ではどうしょうもない」
この神様という人物はなんてこと言うんだと思いながらも確かにそれが現実のリアルかと納得する和、この神様は決して無駄だという話をしているわけじゃない、三日は短すぎるという事を言っているのだろう。
「やーん、神様やっぱり賢い、可愛い! 神様やん。せやね、その呂蒙、あの三国志最強の曹操とやりあう準備して、関羽殺しをやってのけた恐ろしいお人やん」
三国志演義が人気がある理由として、分かり易い、それでいて出てくるキャラクター達が実にバリエーションに富んだ連中で構成されているという事、中には後に創作された部分もあるのだろうが、これほどまでに飽きにくい歴史というものも中々にないだろう。
日本にもこんな時代があった。それもつい最近である。
暴走族という言葉が死語になる前、彼らは雑誌が販売され、各チームの良さ、悪さ等赤裸々に語られ、群雄割拠の一時代を築いていた。当時の時代を懐かしむヤンキー漫画を手に取ればこの三国志の流れに似ているような空気を感じる事ができるのではないだろうか?
「劉備玄徳の弟だったか?」
「義兄弟のですけどね」
「この作品は、御伽噺ベース系なんだの」
神様の一言でシアは少し驚く、これは三国志、所謂歴史ベースの和風小説であると考え、おそらくはセシャトもそう感じていたハズだった。
「どういう事ですん?」
「Web小説に限らず、御伽噺をベースにした小説は多岐にわたるであろ? あれって、人間の深層心理に語り掛けるので知っているという事がアドバンテージになりやすいのだ。赤ずきんちゃん一つとっても、最近では武装していてもなんら不自然には感じないだろ? 大衆的によく知られている物で一種の基本を作ってしまったものを御伽噺ベースと私は読んでおる。三国志も過去の時間的に考えれば神話とまでは言わんが御伽噺みたいなものではないか、これほどまでにキャラクターが独り歩きしておる作品も中々あるまい」
神様の持論、キャラクターと世界ベースを間借りして書かれている物語である。そこに三国志の歴史よりもキャラクターと世界感を使って読者にシンクロさせようというのだろう。確かにそれならこれは歴史物ではない。
「はぁ、成程ですわ! 御伽噺ベース系ですん」
「私を呼び出したのは、そんな話を聞きに来たんではなかろう? シア貴様、それでも西の古書店の店主であろう? この御伽噺ベース系に迷い込んだ魂をどうにかしたいのではないか?」
神様は一体何を厨二病じみた事を言っているのかと和は噴出しそうになっていたが、シアの言葉を聞いて固まった。
「あらら、神様には何でもお見通しですねぇ。せやね、お店に迷い込んできた子。あの子、自分が人間じゃない事を忘れてしまってはる。それをストレートで伝えてしまってはあきまへんやろ? どうすればよいかって……」
「シア、この愚か者め! 貴様つけられておるわ」
「あら、ほんまや!」
二人が見る先には、半笑いでガタガタと震えている和の姿。二人を直視できないような和だったが、シアに聞いた。
「それって僕の事ですか?」
「せや」
「じょ、冗談じゃないですよね?」
「ウチは冗談は言いません」
和は走り出した。ただただここから逃げ出したかったから、誰も追いかけてはこない。和は意味が理解できない中、自分が何やら少し可笑しい事を気づいていた。明らかに認識されていないのである。
「僕は……死んだのか? いつ?」
和さんは、生きている人ではなかった……さてでも死んでる人なんでしょうか?
この物語は偽りの物語、三國の華を楽しんで頂く為のスパイスです^^
この物語にはまだ偽りが隠されているんですよぅ!! ふふふのふ^^
『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を是非是非お読みいただき楽しんで頂ければ幸いです!




