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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第一章 『琥珀』著・FELLOW
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永遠の形

本日は久しぶりに秋文さんが来店されました。さてさて、とっても美味しいオヤツをと思っていましたが、今日の秋文さんは高級お菓子をもって遊びにきてくれました。焼き芋はまた今度ですね!

 一週間ぶりだろうか?


「セシャトお姉ちゃん!」


 セシャトはその声が聞こえると、全力で反応し、入り口に向かう。

 もちろんそこには秋文の姿が、風邪なのかマスクをしてやってきた。セシャトはここ最近彼の事を見ていなかった為、懐かしさと嬉しさで少しばかりてんぱっていた。


「いら、いらっしゃい秋文さん、マスクとは風邪ですか?」


 秋文はマスクを外すと首を横に振った。


「ううん、光化学スモッグ警報が出てるからマスクをしなさいって言われてるんだ」


 最近の大気汚染はPM2.5が有名だが、この光化学スモッグも昭和時代よりずっと猛威を振るっていた。

 春先や秋頃にこの光化学スモッグが発生しやすい。これはマスクである程度予防する事ができるのも特徴である。


「それは大変でしたね。手洗いうがいをしてオヤツにしましょう」


 久しぶりの秋文の為にセシャトは今日はとっておきのオヤツを考えていた。それは、琥珀にちなんでシルクスイートの焼き芋である。


「セシャトお姉ちゃん、いつもオヤツを貰って悪いからって、これお母さんが」

「あら、そんな……あんり、シャルパンティエ! これって銀座にあるあのお店のお菓子ですよね?」

「うん、お母さんがこのお菓子好きだから」


 関西は芦屋という閑静な高級住宅街にある高級焼き菓子の店舗。

 東の田園調布、西の芦屋六麓荘と言われ、様々な物語にも登場する地域でもある。セシャトはオヤツカーストでシルクスイートがこのアンリシェルパンティエの伝家の宝刀であるフィナンシェに勝てるハズもなく笑顔でそれを受け取る事にした。


「では、美味しい紅茶が入りましたので、淹れてきますね。ははっ……」


 セシャトは給湯室でお湯を沸かしながら手鏡を見る。


「私、変にニヤけてませんよね? お菓子の件で凹んでもいませんよね? よし、いつもの普通の私です」


 アッサムティーに少しローズジャムを入れると、ロシアテイストの紅茶をセシャトは用意して母屋で『琥珀』を開いている秋文の元へ。

 ちゃぶ台に缶入りのお菓子とロシアンティーを置いた。


「では、一週間ぶりですね。何処まで読まれましたか?」

「猫はもう、歌わないまで」


 ペースとしては少し遅めだなとセシャトは思う。

 しかし、秋文は少しずつ対象年齢がやや合わないこの物語を理解していこうとしているのだろうと思った。


「それではオヤツでも食べながら感想を教えていただけますか?」


 秋文は紅茶を一口飲むとバラの香りがする紅茶に少し驚いた。


「この紅茶、バラのにおいがするね?」

「お口にあいますか? ロシア風の紅茶の飲み方です。この琥珀といえばロシアが有名な原産地の一つですからね。雰囲気を少し出してみる事にしました。物語を読むのに雰囲気を変えてみるというのは案外楽しいものですよ!」


 セシャトはそう言って秋文が持ってきてくれた焼き菓子を一つ食べる。それはそれは普段食べている安価な焼き菓子と違い口に入れるとショートニングではなく、ちゃんとしたバターの味が口に広がる。

(はぁああ、美味しい)


「セシャトお姉ちゃん、もしかして空太君が物語のクライマックスを読む時に本を一度閉じてから読み直すっていうのも雰囲気を変えているの?」


 それは『琥珀』の『冷えていく体温』で空太が述べている心境の話だろう。

 彼は物語のクライマックスや、物語に転機が訪れる時一度本と閉じるという。しかし、これはセシャトの言う雰囲気を変えるという意味とは少し違う。

 彼は覚悟を持つ時間を自分に与えているのだ。

 物語に対して責任と覚悟を持ち進む、これは物語のキャラクターではあるが、セシャトはこの考えを持つ空太に尊敬の念すら感じてた。

 同じ物語を愛し、伝えていく者として一番大事な事ではないだろうかと。


「少し違いますね。私は物語の世界感をより楽しむ雰囲気作りを心がけていますが、空太君は物語を真剣に読むために一度本を閉じているんです。そして、この事を記載されているのは本の読み方ではなく、霧島さんがやはりどこかおかしいなと感じはじめた事、そしてそれが確信めいた物を感じてしまったからではないでしょうか?」


 この読み方はさすがに小学生の秋文には少し難しいだろうかと思ったが、セシャトも本気で彼に対して伝えてあげる必要があると思っていた。


「そっかぁ、そうだよね。空太君が少し霧島さんを怖いって思ってきてるんだよね? 僕はこれ嫌だなって思うんだ」


 セシャトは、少し嬉しかった。

 おっと、それは物語に引き込まれている証拠だぞ秋文君と言ってあげたかったが、これは自分でその事を知る方が何倍も楽しくなるのだ。

 喉のそこまで出そうになった言葉を止めてセシャトは紅茶を淹れなおす。そろそろ秋文が半分程読み終えている事実。


「読書感想文という物は進んでいますか?」


 セシャトの質問に秋文が笑って返す。


「セシャトお姉ちゃん、全部読まないと読書感想文はかけないよ」


 成る程、それもそうかとセシャトは頷く。


「ねぇ、セシャトお姉ちゃん、高校生って好きな所でお弁当を食べれるの? 僕給食だからなんかいいなって思うんだ」


 またまた学生ネタがセシャトを襲うが、さすがにこれは一般的な知識と数々読んで来た物語の知識で会話ができそうだった。


「そうですね。でも秋文さん、逆に考えてみてはどうですか?」

「逆?」

「はい! 教室のお友達と揃って給食が食べられるのは小学校の六年間、長くてもあと中学の三年間だけですよ?」

「全部で九年もあるじゃん! 高校の三年間より長いよ」

「ふふっ、でも九年なんて秋文さんの人生の中ではあっという間じゃないですか? そんな沢山のお友達とご飯を食べれる今が大事な物だなって思って食べてみると給食もまた違った味がするかもしれませんよ?」


 その給食を食べた事がないセシャトだったが、これは少し調子にのりすぎたかなと思った。しかし、秋文はうんうんと頷く。


「そうだね。ありがとセシャトお姉ちゃん。あと霧島さんは空太くんより背が高いんだよね? 僕もクラスでは背が低い方だから、僕より背が高い女の子も沢山いるんだ。もし、高校生になっても背が低かったらこのままなのかな?」


 これは中々デリケートなお話だなとセシャトは思う。身長が高く、綺麗な霧島さんと霧島さんより背が低い空太くん、このシチュエーションは恋愛小説では随分前から使われてきた。

 最終的にヒロインより背が高くなり終わったり、それが結局どうなったのか書かれずに終わったり、ヒロインよりも小さな男の子の主人公というものは健気であり、可愛く、そして応援したくもなる。

 しかし、それは物語での話。

 さてこの秋文にどう話をしてやればいいものか……


「女の子の方が男の子より、成長が少し早いんです」


 セシャトの小説知識をフル稼働して思い出す。その記載されている事実が事実なのかは分からないが、事実ではなく秋文を安心させてやる事が今一番大事なのだ。


「それはどうして?」

「女の子は男の子と違って、赤ちゃんを産めるでしょう? その準備を身体が早くから始めるんですって。でも私はある作者さんの本に書いてあった言葉が凄い好きです。それは女の子は早く自分より大きくなって守ってね。って意味があるんだよって言うお話です。秋文さんはクラスの女の子で気になる子はいるんですか?」


 セシャトがいたずらっぽくそう聞いてみると秋文は慌てて否定する。


「いないよ! 全然そんなの僕はいないよ!」

「そうなんですね。少し意地悪してごめんなさい」


 下唇を噛んで秋文は少し怒っているようだった。セシャトはあらどうしたものかと思っていたら据わった目で秋文はセシャトに聞いた。


「セシャトお姉ちゃんは好きな人っていないの?」

「えっ? へ? 私ですか?」


 セシャトは恋愛なんて考えた事もなかった。もちろん恋愛小説はBLだろうが百合だろうが好んで読み、ドキドキしてきたものだが、自分が誰かをなんて事はありえない。


「そうですね。残念ながら」


 ふぅと安堵する秋文、すると怒っていたハズの秋文の怒りが収まっていく様子が見て取れた。そして秋文は思い出したようにセシャトに聞いた。


「そういえば、空太くんは琥珀を綺麗じゃないって言ってたんだけど、虫がおぼれているってどういう事?」


 ふむとセシャトは考え、これはインターネットの画像を見せた方がいいかと自分のノートパソコンを見せる。


「琥珀は宝石なんですが、なんと樹液が石化した物なんです。ですので、正確にはダイヤモンドなんかの鉱物ではないんですよね。樹液故に昔昔の爬虫類や虫がそのまま一緒に石化してしまっている物があるんです」


 それを見て秋文は少し悲しそうな顔をした。


「なんだか、可哀そうだね?」

「そうですね。確かに、土に還る事なくこのままの姿ですからね。でも、この中の生き物は変わりに永遠を手に入れたのかもしれませんよ?」


 そう、ある意味では『琥珀』の霧島は永遠が欲しかったのである。一瞬の中にある永遠、それを読み取るにはまだ秋文は若すぎる。

 今はもっと自分なりに物語を楽しんでほしいなと思い。話をセシャトは変えた。


「明日のオヤツは琥珀みたいな色をしたシルクスイートをお出ししますよ! お楽しみにしてくださいね」

フォロワー様が200名様まで増えてくださいました。本当にありがとうございます。2000名様まで増えると新キャラ「神様」に出演していただこうかなって思ってます。私の姿を描いてくださる方もいらっしゃって、とても嬉しく思っております。次回もご来店お待ちしております。

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