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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第六章『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語』著 言詠 紅華
48/109

文学作品としては駄作 物語としては秀作という意味

六月作品『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』ですが、現在大幅改稿をされると聞いています。私ども古書店『ふしぎのくに』においては6月6日時点で公開されている『三國の華』をベースに紹介作品を展開していますよぅ^^

あれあれ? なんだかお話が違うなとか思っていただけるとそれはWeb小説の醍醐味だなと思います!

「またやってしまった……」



 和はお茶とお菓子を頂いて、Web小説の話を聞いて今外を歩いている。これではただオヤツをたかりに行っただけのようである。当然セシャトはそんな事は考えていないのだろうが、和のプライドがチクチクと痛む。



「子元は開花した事で、父親に認められ可愛い薙瑠が側近について子元はまさに幸せの絶頂か、かくいう僕はあらゆる事が裏目に出てしまいなんともやるせない気分だ」



 皮肉を呟いてもそれに突っ込んでくれる人はいない、それが尚むなしく感じて和は図書館へ向かう事にした。古書店『ふしぎのくに』を出たのが十五時を少し過ぎた頃だったから、あと4時間程は勉強ができる。図書館に向かいながら、三國の華の一章第六話の皆幸せそうにしている中、あとがきに書かれている不穏な言葉。その言葉が何を意味しているのかを考えながら和は図書館にたどり着いた。



「あれ?」



 図書館の休館日は月曜日である。本日は水曜日、図書館が閉まっているハズはないのだが……扉は堅く閉ざされていた。



「嘘だろ、ついてないなぁ」



 帰ろうとしたその時、図書館の自動扉が開かれる。女子学生の二人が並んで出てくるので和は大げさに二人をよけると図書館へと入る。適当な勉強机に座ると鞄から参考書を取り出してルーズリーフにシャーペンの文字を滑らしていく。



「英語の長文読解って絶対英語圏の人答えかけないよね」



 そう、現国の問題をそのまま長文にしてしまったような物がある。今回和が説いていた物は月に映るシルエットは何に見えるか?

 答えは兎……というのは中国や日本の考え方であり、他の国々は蟹であったり様々なのだ。



「そういえば金鳥玉兎なんていう言葉があったな」



 『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』の物語において太陽を金鳥と書かれている。同義の意味を持つ物であり、作品世界に合わせた表現と言えるだろう。

 がしかし……和は違った。



「文章は上手いけど、この単語の使い方は僕はいまいちだと思うな。意味が理解しにくい……まぁセシャトさんに言わせるとカッコいいからという事なのかな」



 そう、見栄えのカッコよさと前述した作品世界に合った言葉選びをしていると言えるが、確かにやや読みにくいというディスアドバンテージを含んでいた。



「自分の意志とは関係なしに……体が動くか」



 子元は開花に失敗し狂い咲いた時の記憶がない。実の父親に殺されかけたという事実だけを記憶していた。華という本作でで呼ばれている異形の力、それそのものも意志を持つという。それを支配下におく事で華を制御する。



「多重人格者みたいだな……たしかこの治療は自分の中に分裂した人格を取り込んでいくという事から始めていくんだったか?」



 何処までが本当の事なのかは分からないが、各国でも我が国でも多重人格者の犯罪はその時の事を覚えていないという。中にはそう言う事で罪を軽くしようとする輩もいるのだろうが、自分の大本の意志とは関係のないところで行動決定がなされるというのは実に恐ろしい事である。



「案外、誰でも『華』を持ってるのかもな」



 ニュースを見ると凶悪事件が一つは大体やっているのが、この平和だと言われている日本でも日常。大体取材を受ける人はあんなに優しかった人が、こんな事件を起こす人だとは思わない。友達が多くて真面目な人だった。

 これら証言はサクラもあるのかもしれない。だがその全てが嘘ではないだろう。なら何故彼らは事件を起こしたのか、それは『華』を制御しきれなかったのだろう。鬼の側面に心をゆだねてしまった。



「しかし、子元と薙瑠さんはいちゃつくねぇ」



 二人の相性は良いらしい、鬼としての相性と薙瑠は言ったが、そもそも二人は出会った時から運命という物があったのだろう。



「感応、シナジーなんて言葉があるよな」



 受験勉強をしにきたハズがいつのまにかスマホ画面を凝視して作品を読んでいた。ここに来ても和は一つ想像をしてしまった。

 薙瑠は両方で瞳の色が違う。アニメや漫画、ゲーム等では使い古され、作品に一人くらいは必ず存在するオッドアイ、所謂虹彩異色症の事である。物語によっては特殊能力のギミックになっていたりと汎用性が非常に高い。



「両方で瞳の色が違うというのは、少し不気味だな。生まれつきなのか、それとも何か病気でそうなったのかな?」



 コミックやラノベという物をあまり触って来なかった和にとってはオッドアイは単純に異端な存在に思え、恐ろしいという気持ちが先走った。

 子元はその瞳を美しいという。それに和は自然に表情が緩む。愛のなせる技かと、そう思って誰に聞かせたわけでもないのに妙に恥ずかしく思えてきた。

 そもそも恋愛なんてものをした事もない。今という時を生きる事に精一杯だった。学生の身でありながら何かに生き急いでいた。大学に入れば講義に就活にとまた生き急ぎ、社会人になればまた次の事へと……



 それは実に命の……人生の無駄遣いだなと和は思った。そういう意味でこのセシャトにオススメされたWeb小説とやらは、中々どうして面白い。

 はっきり言って文学作品としてどうかと聞かれれば、駄作であると正直に声を大にして言える自信がある。まとまりがなく、それ故安定性もない、一体何を感じさせようとしているのか一向に想像がつかない。


 されど、物語という点においてはどうだろうか? 和は見た事も想像した事もない世界の話をさも実在しているかのように画かれ、それを表現するに申し分ない筆力を持っている。そして一番は自由に書かれている事である。

 和の生活にはない、喉から手が出る程欲する物がそこにはあった。だから、百の言葉、千の感想で述べるよりも一言。



「面白いな」



 恐らくこう思う事が一番物語を楽しむという事なのかもしれない。和は受験勉強の道具を鞄に直すと思う存分読書を楽しもうかとスマホ画面に集中する事にした。



「カラスの羽の生えた人……天狗か? 鬼と天狗の力比べはどちらか死ぬまで終わらないとか聞いた事があるけど……」



 そのカラスと呼ばれる者達は子元の暴走の時の事を語る。それを読み和はいつだったか読んだ物語を思い出した。

 それは羊を育てるという作品だった。その作品自体が複数のアンソロジーの一作だったような気がしたが、タイトルが思い出せない。

 案外実在する書籍への記憶も曖昧だったかと可笑しくなった。その物語では羊というのはそう呼ばれているだけの謎の化物で、飼い主のストレスに比例して大きく凶暴化していくという。最後は手に負えなくなり、飼い主とその母親をというシーンで終わったハズだった。『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』においての『華』というキーワード、それは精神やストレスとも取れる。


 この物語において、この『華』という物の解釈の仕方で見えてくる物語の顔が随分変わる。普通、このようなライト系の文芸を読む場合は書いてある文章通りに想像をしていけばいいのだが、和にはそんな本の読み方は既にできなくなっていた。一言一句意味を持たせなければ先に勧めない。

 なんとも面倒な読者となってしまっていた。


 そんな和だったが、子元を殺すという指示を受け仲達が剣を抜いたシーンには関心した。この仲達、なんとも人間臭いのである。自分の子である子元の暴走の折りには何もできずに茫然と立っていた。

 しかし、殺すという指示を受けた時、長としての親としての覚悟を見せるシーンは圧巻である。

 彼に関してはとてもいい意味で造られたキャラクターではないようなそんなリアリティを感じる事ができた。

 次のページをと押そうとした時、和の肩がポンポンと叩かれる。



「はい?」

「もう閉館ですので」



 まさかもうそんな時間だったのかと和は手早く片付けると図書館の出口へと向かう。図書館の司書の方らしき人が外に出るので和もついていく。外は真っ暗だった。



「時間は……マジか」



 閉館時間の二十時はとっくに過ぎており、今や二十二時をスマホの時計は刻んでいた。こんな時間になるまで自分は誰にも声をかけられなかったのかと思うとそれはそれで酷い話だなと和は思う。



「やはり、月は玉兎か」



 帰りにも危ないとはわかりつつスマホで『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を読みながら家路に向かう。

 そして、和は忘れていた。

 今、友人が電車に飛び込んだあの駅へと到着してしまった事を……

 汗がじんわりと出てくるのが分かった。ゴクリと唾をのむと和は切符を買いホームへと向かった。



「今日なら、電車に乗れるかもしれない」



 そうは言うものの、ホームへ来ると心臓の鼓動が早くなり、息も苦しくなってきた。やはりだめなのかと思った時、対面のホームに和の目の前で電車に飛び込みんだハズの友人の姿が見えた。



「生きて……いや、死んでてもいいや、話がしたいんだ。今からそっちに行くから! ちょっと待ってて」



 友人はとても悲しそうな表情を向ける。そして何を言うわけでもなく改札の方へと歩いていく。



「待って! いかないで! 頼むよ!」



 和はそう叫ぶが、足が一歩も動かない。それは死者という存在を見てしまったからなのか……それとも何か大きな力にて阻まれているように、友人は和に何か伝えたい事があるんじゃないかとただそう和は思った。



「やっぱり、僕はここで電車に乗らなければならない」



 今日は気分が悪すぎるので、いつも通り元来た改札から外に出る。それが和のできる唯一の方法だと頭に刻み込んだ。

『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を読んでいて古書店『ふしぎのくに』で男の子向きか女の子向きかで一度口論になった事があります。私は俄然男の子向きだと推しますが、西のセシャトさん事シアさんはこの物語の耽美さは女の子向きであると宣言していました^^

さぁ、貴方や貴女はどう思われますか?

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