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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第六章『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語』著 言詠 紅華
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読者の為に媚びる勇気

中々夏風邪が治らないですねぇ^^ 困ったものです! 最近は珈琲ではなく紅茶を頂くようにしているんですが実のところ珈琲は喉や咳の薬として使われていた時代があるようですね! 

 和はスマートフォンで『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』を読みながら帰路についていた。鬼という異形の存在を華として表現しているという事はなんとなく理解できた。この作品に関して和は言葉回しが文学的すぎる事が少々惜しいと感じていた。ここまで凝るのであれば、キャラクター造形も含めてもっと固く硬派に書き上げてしまえばそれこそ一つの文学作品として完成するのではないかと思っていた。



「はっきり言って面白いんだけど、変なところがガキっぽいんだよな」



 これはWeb小説の宿命と言っても過言ではないかもしれない。数多くのWeb小説が存在するが、それらの中所謂テンプレ小説という物がある。一般的に読者に受け入れやすい設定とストーリ展開の物を指す事が多い。お手本でありweb小説の基本と言った方がいいのかもしれない。例をあげると異世界転生系に多く見られる特殊スキルを持ち、異性からちやほやされると疲れている時にあまり考えずに読める作品等である。

 それらと一線を画すWeb小説も沢山存在するのだが、どれも何処か読者に合わせた設定を色付けされている場合が大概である。

 何故なら、Web小説という作品も紛れもなく文章作品である以上、読者がいなければそれはただの一方通行になってしまう。その為の措置ではないかと思われるが、Web小説を読まない和からすれば、どうも非常に上手い文章構成と作り込みに対して、設定面とキャラクター面がどうもしっくりこないでいた。



「狂い咲……ねぇ。薙瑠のセリフは本当にいいな」



『ここに在あるあなたの〈華〉は──まだ、生きています』


 ここは少しご都合主義的だと和は思った。力を失った子元、いや華が枯れてしまったそれを薙瑠は元に戻す事が出来るという。

 それに子元はまだ自分は生きていていいのかと彼女、薙瑠に問い肯定される。それに和の手が止まった。

 それは踏切前、カンカンと音が鳴り電車が通るのだろう。嫌な汗が和を襲う。果たして自分は生きる資格があるのだろうかと……


 和の友人は電車に飛び込んで死んだ。何故死んだのか和にも分からなかった。一番の友人という事で警察や学校関係者、果ては友人の家族まで和に友人に何かおかしな事がなかったか? イジメ等がなかった?

 散々聞かれたあげく、和が答えた事は「分かりません」この一言だけだった。友人が電車に飛び込んだ前日、和は友人と一緒に受験勉強をしていた。志望校は違ったが大学生になったら一人暮らしをするんだとそんな事を話していた矢先に命を絶った。一番混乱しているのは和である。子元と薙瑠の歯車がかみ合い回り始めるのと逆に、和はここで突如歯車が狂い始めた。それは時間と世界が回る速度がズレていくような何とも言えない気分になる。汗をびっしょりかきながら和は踏切を渡った。



「ふぅ……」



 渡り切るとすぐさまスマートフォンに視線を移す。思考を変える、あるいは止めるのには物語を読むという事はそれなりの効果があった。『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』は文学作品として十分完成度が高く和はそういう意味でも心底ありがたかった。



「桜が咲くころ、物語は終わる……か。僕達を指してるみたいだな」



 鬼と人、これは種族の違いというより、異端とそうでない者の違いにも思える。自分とこの世界からいなくなってしまった友人。もし、また友人に会う事が出来るなら、それが鬼でも構わないと和は思う。『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』において鬼の象徴として刀があるらしい。



「打刀でなく太刀である理由はなんだろう」



 本作において、舞台を中華においているが設定面においておおよそ日本風の物語となる。そこまで読み込み和は少し考える。



「鬼……という存在は確か異民族や、異国からの侵略者の事を表すという説があったけど、鬼が太刀を持つのは騎馬民族という事だからか?」



 華服から和服に変わる薙瑠からしてそれはどうも違うようだった。彼女は桜の鬼と呼ばれている。なんとも美しいその姿。そして彼女は空間変える。物の怪、化生、変化と人ならざる者はその二つ名を持つ。化生は化粧、物の怪は物の気、化け物は化け者。彼女、薙瑠は桜の鬼、華の開花を巻き戻す者。



「子元も鬼になると日本風になるのか、どういう事なんだ?」



 和に幻想文学を理解する頭はない。なぜなら、それに意味を求めようとするのだ。例えば二度にわたり蒙古を退け、結果衰退させた鬼神の国がある。それ故に、日本を鬼としているのか……と? 残念ながら、『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』は中国の話でも日本の話でもない。それっぽい世界感のファンタジー小説なのである。それを和一人では恐らく生涯理解できないだろう。


 和は、近所でオススメのケーキ屋に向かうとロールケーキと焼き菓子を適当に見繕って購入する……つもりだったが、お店の自動扉は開かない。本日は定休日なのかとがっかりするとその足で和は古書店『ふしぎのくに』へと向かった。手土産無しで行くのは少々気が引けたが、しかたがない。勉強道具も鞄には入れていたし、なによりあの何処の国の女性かは分からないが、あの人懐っこくちょっと可愛いセシャトに和は会う楽しみにしていた。



「こんにちは」



 扉を開けると古書店『ふしぎのくに』には数人の客が来ているようだった。一人は女子中学生くらいだろうか? 本棚の前で本を開いて試し読みをしている。もう一人は老紳士、タイトルを読んでいるのか、本棚を眺めている。この古書店『ふしぎのくに』は和をざっと見て回ったが、置いてある本はいたってどこにでもありそうな物ばかり、はなしてここが儲かっているのかというとそうではないだろうなと和でも容易に理解できた。

 和は狭い店内をキョロキョロと見渡してセシャトの姿を探す。奥の母屋にでもいるのか彼女の姿は見えない。



「何処か出かけているのかな?」



 せっかく子元が鬼の姿に開花できたところまで読んだ事を共有しようかと思っていたが、歯車がズレたかと出直そうとした時、和は声をかけられる。



「和さん、いらっしゃいませ!」



 はっと和は振り返る。そこには少し頬を赤らめたセシャトの姿、そして先ほどまでいたであろうと客はいつのまにか帰ったようだった……



「いや、おかしい……ここには入り口と出口はこの一つだけじゃないか……セシャトさん、先ほどまでお店にいたお客さんは何処に?」

「はて……本日ご来店は和さんが最初なのですけれども……」

「そんな馬鹿な……だってさっき!」



 セシャトはクスクスと笑うと「おかしな和さんですねぇ」と呟いて淀み一つない笑顔を和に見せるとこう言った。



「とりあえずお茶にしませんか? 勉強のしすぎで白昼夢でも見られたのかもしれませんよ?」



 なんとも腑に落ちない和だったが、セシャトの誘いに頷いて母屋へと向かう。セシャトは母屋と言う。確かに店内と離れたところにあるここは母屋で間違いないのだが、お洒落なワンルームを母屋の一言で片付けるのは少々勿体ない気もしていた。



「ここっていい部屋ですね! コーデはセシャトさんですか?」

「ふっふっふ! よくぞ聞いていただきましたっ! 実はこのお店には先代の店主がいたんですよ。その方が店内も母屋も全力でDIYをされて今の古書店『ふしぎのくに』があるそうですよぅ!」



 セシャトのセンスなのかと思ったがどうやら違った。しかし、先代とセシャトが言う人物も恐らくは日本人ではないなとこの店内と母屋の作りを見て和は思う。そんな事を考えているとセシャトは和に声をかける。



「和さん、シュークリームでいいですかぁ?」

「お構いなく!」



 セシャトは珈琲メイカーを取り出すと手早く珈琲を作る。フラスコ型のサイフォン式以外も自動珈琲メイカー、よくは見えないが水出し珈琲器もガラス張りの戸棚には見える。そしてその奥に並ぶわらけてくる量の茶葉と珈琲豆。



「あっ、何かお好きな物を飲まれますか?」



 それは客としての和へのもてなしのつもりなのだろうが、和はセシャトに一つ指摘をしてみせた。



「コーヒー豆も紅茶葉も一度開けると酸化が始まります。一つを飲み終えて次という方が、珈琲豆にも茶葉にも優しいですよ」



 セシャトは一本取られてしまったといった普段はお目にかかれないような幼い表情を見せると頭をかいた。



「それもそうですねぇ、では珈琲をお出ししますね?」



 コトンと出された珈琲、これは先日飲んだ物と違う。香りは日本茶のような軽い渋み、口に運ぶと普段頭が珈琲として認識している味より酸味が強い。てっきりダークローストを飲んでいたので、このタイプの珈琲は好まないのではないかと和は思っていた。



「ふふふ、驚かれましたか? 実は前回お出しした物と同じ珈琲豆を使っているんですよ! 恐らく和さんの読むペースであればもう子元さんが開花したところまではお読みになられたでしょう。同じ珈琲でも淹れ方でぐっと味が変わってしまいます……と開花した気分を味わっていただければなと」

「……成程、ここは古書店にしておくより喫茶店にした方がいいのでは? ちなみに、子元の父親、仲達が開花したばかりの子元に襲い掛かったところまで読み終えてます」



 ここは寡黙で堅物な子元の父、仲達がデレる中々セシャトにとってオススメの場面。それにセシャトはたははと笑う。



「息子である子元さんへの愛情をこんな直進的な方法でしか表現できないというところがなんとも仲達さんらしくていいですよねぇ!」



 恐らく、読者であれば殆どがそう思うのが普通だが、和はそうでもなかった。少し苦笑するとセシャトに言うわけでもなく呟く。



「腫物を触る様に関わってこない父親よりは、仲達は幾分も人間らしくて、僕は好きですけどね」



 珈琲をそうして啜る和。彼の表情からは何かを物語っているようだったが、セシャトはあえて聞かなかった。受験を控えている和の精神状況もまた、狂い咲いた鬼のように乱れているのかもしれない。



「シュークリームもどうぞ」

「……あっ、いただきます」

『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語・著 言詠 紅華』皆さまは読まれていますか? 本作の楽しみ方なんですが三国志演義と同時に楽しんでみるのをオススメしますよぅ! 知っている人にはそういう動き方なのかと、あまり三国志を知らない方にもふわっと理解ができます^^ さてさて、今回の和さん、かなりのひねくれものですねぇ!

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