青い月の下で~歴史の証明者~
最近9月作品の第一回ミーティングがありました。ええっ! その作品ですかぁ! という作品を推すトトさん、私も一作オススメを発表しましたが、一体どうなる事でしょう^^
余談ではありますが、最近このミーティングが白熱しておりまして、7月作品ではついにバトルが勃発しましたよぅ^^
姜子牙が見渡す限り、それは人、人、人の大地が出来上がるかのように一面大群が整列している。殷の大帝国を討つ為に集まってきた周辺国家と姜子牙の仕える周の軍であった。
その姜子牙の隣に並ぶ王。
「発ちゃん」
「望、口を慎むん。私は武王なん。今より邪知暴虐なる殷の大帝国の時代を終わらせるん。奴隷兵は次々に武器を捨てて私の国に下ってるん。どんどん食べ物を食べさせて味方にしてるん」
この馬鹿王は戦争の事にだけは本当に頭が速いとつくづく姜子牙は思った。自分が必至こいて集めてきた未来の情報など実はあまり必要なかったんじゃないかとそう思わせるだけのカリスマがある。
「さすがは武王ですな」
「私の力だけじゃないん。これだけの兵力をかき集めてきたんは望のおかげ、戦車を生身の人間だけで奪う方法を編み出したんは望。私の父が、一体どこで望と出会い、望が何者なのかは私は知らないん。でも、感謝するん、私をここまで連れてきてくれてありがとう」
姜子牙は、殺しができず一族を追われ、適当なところで適当な飯屋を商っていたが、それも全く売れず露頭に迷っていたところ、武王の父、文王に出会う。そこで殷、当時はまだ商と名乗っていた国に仕えていた。色々あってこの馬鹿王の元にいるわけだ。
「武王、ここまで色々ありました」
今まで自分をいじり倒していた姜子牙が真面目に答えるので武王は少々調子が狂うなと口を尖らせて言う。
「望、あの旗に描いてる女は誰なん?」
姜子牙は自分の直属の隊が掲げる旗を見る。それは周の旗、そしてそこに一人ずつ違った女性が三名画かれている。
「私を今この地に立たせてくれている。戦神と軍神とWeb小説の神です」
「うぇぶ?」
「武王にも、この世界の神にも知らぬ言葉、武王は桃でも齧りながらどっしり構えてくれていればいいです」
久しぶりに冗談を言われた武王はニヤリと笑う。そして、こう言った。
「それでこそ、私が望んだ者なん。太公望。この戦、勝つぞ!」
「承知」
全軍の進撃を指示した姜子牙は武王の乗る戦車の横に騎馬をつけて並走する。すぐ後ろに随分男の顔となった自分の小間使いだった子供の姿があった。
「呂環、男の顔になったな。さては嫁がおるな?」
姜子牙の言葉に少し照れながら呂環は頷く。
「実は息子もおりまして、平和な世を妻と子には見せてやりたいですね」
そうだなと言おうとしたその時、同じ周軍の中に姜子牙を狙う者の姿、それに姜子牙は反応できずにいる。
「師尚父!」
呂環が自分を守り、背中から腹部へと矛の先が見える。呂環は剣で味方に偽装した敵兵を切り殺すと自分の怪我を見て助からない事を悟る。
「ここまでのようです」
「行くな、ダメだ呂環!」
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セシャトが金の鍵を使って何かを呟いた時、光に包まれた。それは眩しすぎる強い光、姜は目を開けるとセシャトの店ではない何処かの野外にいた。
「ふぉふぉと?」
「まさか、神の言葉を聞こえたんですね!」
セシャトは素直に驚いた。普通の人間には絶対に認識できない音を持った言葉。それを姜は少しだけではあるが、聞き取っていた。
「しかし、ここは何処でしょう? 何処かの野外のようなのですが……こう言うとあれなのですがなんとも違和感を感じる場所です」
セシャトは姜のこの反応にますます驚いた。何故なら懐かしい、や落ち着く。知っているような場所、等の言葉を期待していたのだが、彼は今いる場所に違和感を感じているのだ。いよいよこれはセシャトでは手に負えない読者なのかもしれないと彼女は感じ始めていた。
「姜さん、驚かれるかもしれませんがここは『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』の世界、物語の中です。私は姜さんに婦好さんとサクさんを見ていただこうとそう判断しました」
これは神様の指示に反した行動だった。叱られるか罰を与えられるかはセシャトにも分からなかったが、セシャトは読者としての姜を信じていた。彼はこの作品から戦争以外にもきっと良い事を得てくれるハズだと金の鍵の力を使ったのである。
「成程、通りで不思議な空気を感じる場所ですね」
「……姜さんは驚かれないのですか? ここが物語の中であると」
「遠い未来へと私はひと眠りで来てしまう人間ですよ? 今更、別の知らない世界に来ても何もおかしくありません。では行きましょうか、あの剛毅な女性達に会いに」
そう言って姜は先へ先へと進む。それにセシャトはWeb小説世界に介入する際のルールを彼に伝えるよりも早く姜は婦好軍が停泊、野営をしている場所にたどり着く。現実に存在している者はWeb小説の中の主要人物と深く関わってはいけないとうルールがある。それを破った場合どうなるのかセシャトも知る由はない。
「姜さん、遠くからそっと見るだけですよぅ!」
見張りの交代の時間だったのか、姜とセシャトは馬車が並ぶ中、ひとしきり大き目の建物のような場所を見つける。
「恐らくここに婦好殿がいる」
セシャトの制止を振り切って姜は寝所らしきそこの戸を開いた。セシャトは何故ここにも護衛がいないのかと思ったが、ここは婦好とサクが話をする瞬間なのだ。誰にも話しを聞かせないように婦好が護衛を外させたと確信した。
「婦好様、くせ者です!」
サクがおろおろと突然入ってきた姜とセシャトを見て叫ぶ。それに婦好は余裕の表情と態度で慌てるサクにこう言った。
「サク、落ち着け。異民族の男女か? 特にそちらの女」
「せ、セシャトです」
「ほう、その瞳も髪も中々に美しいな」
婦好に品定めをされるようにそう言われたセシャトは少し照れながら頭を掻いた。
「恐縮です……じゃないです! 姜さん、逃げますよ!」
姜の手を引くも姜は動かない。
「なんだ貴様は? 生憎私は男には興味がない」
「名を……姜子牙。人からは太公望と呼ばれています」
空気のように扱っていたハズの姜を婦好は初めてまっすぐに見た。それも「ほう」と興味を持ってじっと見つめる。姜は冷や汗をかきながら婦好の言葉を待つ。
婦好はサクを自分の近くに寄せると言う。
「大公が望む者とは、このサクのような者をいうのだ。貴様、遊ぶな。殺すぞ?」
「ひっ!」
セシャトは目を瞑って怖れる。美しい婦好だったが、彼女が発した殺気は突風のように二人を襲う。それは肉食獣に睨まれた草食獣の気分なのかもしれない。セシャトは倒れそうになりながらも、姜はそれを受け止めた。
「私は婦好殿、貴女よりも少し未来からやってきた者です」
サクが何かを言うのを婦好は手を出して止めると、悪戯っぽく笑う。それは面白そうに、子供みたいな顔で姜に問うた。
「ほう、未来から来たと……では未来から来たお前が私に何の用だ? まさか私の子供だとでもいうんじゃないだろうな?」
「いえ、私は殷の、いえ商の大帝国と戦をしている軍師です。私は近い未来、貴女の殷(夢)を討ちます」
それにはさすがに婦好も笑顔を崩す。先ほどと同じかそれ以上の殺気を放つと姜に聞いた。
「その未来とは私が逝った後か?」
「えぇ、貴女が亡くなられて随分経った後です」
とたんに婦好は幼い子供のように笑う。
「そんな先の話、私は知らん。但し、私の婦好軍を崩しにくるなら、それが化生の類であれ叩き潰してやろう。貴様、姜と言ったな? 気に入った。セシャト共々私とくるか?」
セシャトはこの申し出はヤバいんじゃないだろうかと思った。姜はこのカリスマを持つ婦好についていきかねない。
「結構……婦好殿、貴女に会えてよかった。それにサク殿」
突然名前を呼ばれたサクは目を丸くして答える。
「はっ、はい!」
「婦好殿を頼みましたよ?」
その言葉を聞いてサクは再び「はい」と返事をしてしまう。何故ならこの姜の言葉と視線にはそうさせるだけの力があった。しかしそれにサクはしまったという表情を見せ、視線の先の婦好はにらみ合いでは勝ったが、一本取られた事に大きく口を開けて笑った。
「サク、お前といるとやはり面白い」
ほんの少し視線を逸らした瞬間、セシャトと姜はそこにはいなくなる。それにやはり慌てるサクに婦好は笑った。
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目を開けた姜子牙はそこには婦好達もセシャトの姿もない、血と土の匂い。
「ここは?……そうか、私は戻ってきたのだな。呂環、お前の死は無駄にはせんぞ?хуxоториxтупу」
呂環は聞き取れない何かを姜子牙が言ったかと思うと、自分と妻、そして息子の面影を持った青年が猛々しく戦場を駆けている姿を見て涙した。
「師尚父……もったいのぉ……」
呂環の亡骸をそこに置くと、姜子牙は馬に乗りこのつまらない戦争を終わらせる為に武王の後を追った。
恐らくもう自分はナルコレプシーで未来に行く事はないだろうと何故か確信していた。そして誰に言うわけでもなく姜子牙は詩を読んだ。
『我停止看到梦想』 私はもうあの夢を見るのを辞めます。
『我决心打破旧巢』 やっと殷を倒す事を決めれたので
『我不会让你失望』 何故なら私は未来の人々をがっかりさせられない。
『对三个女表感谢』 あの三人の女性に感謝致します。
太公望と言われた姜子牙がこんな言葉を残した事はどの文献にも残されていはいない。これは作り話だからなのか?
では問おう?
太公望が少し不思議な体験をして三人の女性と関わり、牧野の戦いに赴いていないと誰が証明できるのか? そう、歴史とは当事者が紡ぎ、未来に生きる者が脚色して語り継がれていくのである。
それ故に私は思う。婦好の生きた世界に、サクはいたのだと。
二人の進むべき道の果てに一体何があったのか夢想しようじゃないか?
それが物語を楽しむ者の義務であり特権なのだから……御伽噺の続きを
これにて、5月紹介作品『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』のご紹介を一旦終了とさせていただきたいと思います^^ 本作は色んなところで大人気ですね! 読者さんのオススメという事で、とても素敵な一か月だったんじゃないかと思います^^ 実は私共、古書店『ふしぎのくに』は凄い人気作という物はあまり紹介しない傾向にあるんですよ! でも時々はやっぱり大人気作の紹介もいいですね! 是非是非、最後まで婦好さんとサクさんの歩む道をみんなで見守りましょうね!




