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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第五章『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 』著・佳穂一二三
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我々の知る太公望 子曰く……

さて、実は少し大変な事が起きています。ふふふのふ^^ まぁどうにかるなるでしょう!

 結局一人で丸々ワンホールのタルトを食べ終えた神様は昼寝をすると母屋の奥にある仮眠室へと消えていった。



「姜さんは読者ではない……」



 神様に本日のオヤツを全て食べられてしまったセシャトは冷蔵庫に隠しておいた。苺の王様『あまおう』を1パック取り出した。練乳をかけるか、牛乳と一緒に食べるか、それとも砂糖か、当然そのままというのも楽しみが広がる。



「神様にお出しすると一瞬で食べてしまいますからねぇ」



 セシャトが母屋に皿を取りに行って戻ってきた時、そこに姜の姿があった。彼が現れる瞬間という物はどうなんだろうかとセシャトは思う。


(監視カメラを仕掛けてみましょうか)


 ワームホールみたいな謎の空間から現れるのかそんな妄想をしてセシャトはドキドキしていた。



「また、来てしまいました」

「いらっしゃいませ!」



 否応なしに神様の言葉を思い出してしまう。彼はWeb小説を読みに来ているのではない。人の命を殺める術をここに学びに来ている。



「姜さん、では第一章ももうあと少しで終わりですので、苺でもつまみながら進めていきましょうか?」



 姜は見た事もない果実を見て一つまみマジマジと見つめる。そしてそれをパクりと食べる姜。しばらく咀嚼すると目を見開く。



「これは……甘酸っぱい、実に美味い」

「ふふふのふ! あまおう苺は、赤い! 丸い! 大きい! 上手い! 合わせてあまおう。私の中では甘い王様。あまおうです!」



 そう言ってセシャトは練乳をたっぷりとかけてそれをぱくりと食べる。セシャトは遠くを見つめて放心したような表情を見せる。



「むふっ……美味しすぎます」



 砂糖を手につけるとペロりと舐める。その甘さに驚きながらセシャトを見つめて申し訳なさそうに呟いた。



「そろそろ宜しければ『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』をお願いして宜しいか?」



 セシャトは砂糖を一つまみかけた苺を食べるとパソコンの画面を姜に見せる。セシャトが読み始めてすぐに姜は不快感を露わにする。婦好軍の第八隊の役目について考えているのかとセシャトは思っていた。



「私が行っている事はこういう事なんですね。婦好殿の戦い方と私の戦い方に違いなどありはしない。結局は人殺しの方法か……戦無き世界とサク殿は愚か極まりない。されど、なんと尊いのか」



 セシャトは戦争を知らない……いや、知っているのかもしれないが今まさに戦争中の姜と同じ気持ちや考えにはなれないが、一つ助言してやれる言葉があった。



「戦争というものは、できる事ならばしないに越したことはありません。ですが、いざ始まってしまえばできる限り早く終わらせる事が一番なんじゃないでしょうか?」



 姜は頷く。そしてセシャトが容易した牛乳を一口飲むと珍妙は表情を見せてから答えた。



「大人になる前の子供が戦で死ぬなど、私の世界では普通の事でした。そして、私はこのチートと呼ばれる未来の技術を持ち帰り戦に使う事で恐らく殷の大帝国に勝利するのでしょう。ですが、それでも尚犠牲は出る。一兵卒ならなんとも思わなかったかもしれませんが、今は戦の矢面に立ち指揮する事に怖れと疲れを感じているのも事実ですね。サク殿ははたして、死にゆく宿を持つ少女達を救えるのか……そして私はこうも思いました。婦好よ。軍神にでもなったつもりか? と」



 姜の死んだような瞳はここで『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』を聞く事で段々と生命を感じ、今や彼はまごう事なき兵の表情をしていた。婦好はカリスマ的将でありながら、天才的な軍才をも持っている。物資も兵力も最高率で運用させている中、それを超えるかその時代の常識を欺くかでもしなければサクの頭脳がそれを上回る事はありえない。



「それは、さながら婦好さんという闘神に人の身でありながら挑もうとする人間の関係のようですね。人は神には勝てませんが、また神にも負けません。私はこの構図に関して最大の評価をしたいと思います。このシーンで愛を語るところなんて、私眠れなくなりましたからねぇ!」



 姜は自分が憤りを感じ、殷の大帝国の攻略において考えを向けている中でセシャトはなんと物語を道楽として心の底から楽しんでいるのかとやや呆れた。

 一人のキャラクターの名前が読み上げられた時ぴくりと姜は反応する。



「呂鯤……」



 当然初めて聞いた名前だったが、恐らくこれは自分の血族ではないかと想像する。そしてどうやら中々よろしくない性質を持っているらしい。



「ふふっ、暗殺を生業にしていた時期もありましたからね。しかし第八隊の使い方、気に入りませんがこれ程に役に立つ囮もありますまい。まぁ今回はサク殿の思うように事が進んだようですが」



 あまおうの苺も半分程食された中、土方の戦大将である呂鯤の尋常ならざる戦闘力に姜は度肝を抜かれる。



「なんと……呂鯤とやら、人か? それとも化生の類か……成程獣か……手負いの獣程危険なものはない。それ故にここは甘いですな」



 呂鯤を殺すには至らなかった婦好軍に関して姜はそうつぶやくとセシャトに質問をする。それは本当に簡単な事だった。



「酒好きの呂鯤が傷口に酒を吹いているがこれは何のために?」



 映画や漫画等でもたびたび使われてきた消毒のワンシーン、実はあれは40度以上のアルコール度数がないと意味がない。この当時には焼いた酒は存在しないので、傷口の洗浄と酒による痛み止めという意味合いが強いのかもしれない。



「けがをした時は薬を塗るよりも傷口を洗う事が大事なんですよ。洗浄が早ければ早いほど化膿しにくく治りやすいです。あるいは痛みと熱を伴いますが、傷口を金属の刃物で焼いてしまうという粗い治療もたまに物語ではお見掛けしますね」



 戦において兵を治療できるかどうかは姜にとって最重要課題であった。殷の大帝国との殲滅戦を始める以上、殷には大打撃を、周には低損害を実現しなければならない。その為には兵は長く使い続ける治療は必要不可欠。

 そこまで考えて姜はおかしくなった。



「ふふっ、やはりこの考えも婦好軍第八隊と変わりはしないか……兵を備品の一つ程度として考えている私が何処かにいたか」



 姜が一人で苦笑している中、セシャトの読む声を聴きながら、何処か自分とダブらせてみてきたサクの万策が尽きた。それに少々のショックを受ける姜だったが、あの婦好は余裕を崩さない。それに心底姜はこう思った。



「千度戦をしても、婦好殿には勝てぬか……むしろ、私は相手が愚王で良かったというべきかな……いや、私はサク殿にも勝てぬか」



 戦いに勝つには天に好かれる事……こんなオカルトな事を本気で信じている連中に姜がかなうはずがない……



「だが、私はそんな者を越えてゆかねばならんのでしょうな」



 自信にあふれ、生命力にあふれ、そこにいたのは紛れもないセシャトが望む太公望の姿だった。そしてふとあの表情を見せた半目による表情筋の運動による笑顔。

 神のみぞ行う蓮華微笑。自らを神様と名乗るセシャト達の生みの親が稀に見せる表情と同じ物を姜は見せた。

 彼は世界にどれだけいるのか分からないファンと物語に記された太公望のそれと同格に今並び立った。戦に愛された婦好とその婦好を愛し、命を愛する少女サクの火にやられた姜。それが彼を我々の知る真なる太公望へと昇華させたのだろう。



「婦好軍も甘ければ、鬼公の大将もまた甘いですな。生かせば、矛を持ち命を取りに来るというのに……」



 婦好軍にも最強の武者が存在していた。一騎駆けで無双の強さを誇るらしいギョクアン、それにセシャトは姜に説明した。



「男性と変わらぬ体躯をした婦好軍最強の兵、女性でこんな強い方がとお思いかも知れませんが、日本にも昔存在したそうです。駒王を守った巴御前と呼ばれる伝説の女性武者です。その力は十にも百にも匹敵したとか」



 姜が考えている事をセシャトは先読みしてそう伝える。どれだけ新しい物を持ち込もうと、結果それを捻じ曲げるだけの力の介入があれば戦局は揺るがない。



「そうであれば、自らを殷の大帝国と名乗る商の国を討つに、十分な戦力と人員はそろったと言えますな。SNSとやらの真似事をし、遠くの者を皆近くに集まらせました、周辺国家に殷の大帝国からお互いを守る取り決め、どうでしょう? そうなると、殷の大帝国に匹敵する大国をも我らと共に並び立ってくれた」



 姜は殷の大帝国と同等の軍事力を他国との同盟軍という形で形成してみせた。もはやそこに力の差はない。むしろ奴隷兵を多く起用している殷の軍は士気低い。これが開戦を始めれば一たまりもないだろう。

 そしてセシャトは一言呟いた。



「一夜にして戦争が終わった牧野の戦いの全貌がちょっと見えてきましたねぇ……事実はあんがいそういう物なのかもしれませんね」



 ピクりと反応する姜、これはそんなどうでもいい事よりも物語の続きをという意味なのだろうと続ける。婦好が重症の兵を安楽死させる場面、声もあげず何も言わず姜は一筋の涙を流す。

 命を捨てる命令を出すのであれば、それを介錯する責任も当然に生まれる……と考えるのは現代に生きる者だけだろう。

 それ故姜には、近しい時代を生きてきたからこそわかる。将がわざわざ雑兵一人に一人にこのような関わる事があるわけがない。

 婦好は神の名のもと、人として人の責を果たしている事をやっと理解できた。



「セシャト殿、続きを」

「現在、本作はここまでしか公開されていません。私は姜さんにお伝えできるのはここまでです。私にも私を作った神様がいます」

「……何を?」

「その神様は姜さんに今回が最後の対応にするようにと申し付けられています」



 セシャトの言葉に姜は何となく理解した。ここは本を売る場所、物語を楽しむ場所なのである。自分のような存在が来るべき場所ではない。

「成程……今まで感謝しかない」



 セシャトは少し悲しそうな表情をしてこう続けた。



「貴方に私はこのまま帰って欲しくはありません。貴方だからこそ、私は彼女達に会わなければならないんじゃないかと思います。私すらも知らないWeb小説の楽しみ方ができる姜さんに」



 セシャトは胸元から金色の鍵を取り出す。そしてそれをノートパソコンの画面に近づけると人間の認識できない言葉を呟く。



「хуxоториxтупунобеннсённзу(Web小説世界疑似転生)」

次回 『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』最終回となります。

まだ、婦好戦記を読んでいない方はいないと思いますが、是非お読みいただき最終回もお付き合い頂ければと存じます!

『青い月の下で~歴史の証明者~』

太公望、姜さんと婦好さんが対面します。

お楽しみに!

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