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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第五章『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 』著・佳穂一二三
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どっちが主人公?問題 実在の人物を画く事 

少し暑くなってきたので、ところてんとか葛切りとかが美味しい時期になっていましたね! みなさんはところてんには三杯酢ですか? それとも黒蜜でしょうか? 私は……ふふふのふ! きな粉で頂きますようぅ! 今回は神様と私の日常会話です。あれでも神様は凄い方ですからねぇ^^

 珈琲を淹れて母屋のテーブルに自分の分と自分の生みの親である神様の手元にジンベイザメのイラストが描かれたマグカップを置く。



「今日はブルマンか」

「えぇ、お安く手に入りましたので」



 高級珈琲として一度は誰でも聞いた事があるだろう。ブルーマウンテン、名前からしてその気高さが伝わってくる珈琲豆の種類だが、実はこの珈琲を飲むのは殆ど日本人であるという事はあまり知られていない。



「珈琲の味を知らない奴が飲む珈琲と一時期は言われた事もあったの」



 神様はハーブスのマロンタルトを一つつまむと珈琲で流し込むように食べる。ハーブスのタルトはワンホール1万円くらいする物もあり、この食べ方はいささか非常識でもあった。それに閉口するセシャトに神様は言う。



「高級かどうか等とは人間の決めた事だ。セシャト、お前は上手くこの珈琲を淹れてみせた。それ故茶菓子が進む。それは創作物にも言える事だの」



 セシャトはここ最近姜がお店にやってこないなぁと少しばかり気になって仕事で小さなミスを繰り返すようになっていた。



「ありがとうございます。『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』、現在公開されているところまで聞いて頂ければ嬉しかったんですけどね。特に女の子の日について語られる部分は、Web小説らしからぬリアルさでオススメなんですけどねぇ」



 一つ、セシャトは四桁程Web小説を読んできて、なろうやカクヨム等で描かれる作品は死生観についてはわりと生々しく描かれる事があるが、性が絡む物に関しては恐ろしくオブラートに包まれている事が多い。それに関して何故なのかはセシャトにも分からないのだが、十代や二十代前半の作者にとっては死より性の方が禁忌とされる暗黙の了解があるのかもしれない。


 死と性はノットイコールで表せられるくらい、使い方によっては読者を引き込ませる大きなスパイスとなりえる。が、反面禁忌とされているだけあり、嫌悪感を抱かれやすくもある。本作は画かなければならない理由もあり、読者も理解できるだけの設定と準備期間があった。


 ふと母屋のテーブルを見るとワンホールで買っていたタルトが半分程神様に食べられている。セシャトは口にこそ出さなかったが、この金色の御髪を持つ子供は新手の外来生物なのではないかと、そんな事を考えていた。



「まぁ、いつの時代も穢れなき乙女は最大の供物であり、褒美であり、武器であったからの。特にこの時代において、乙女だけの軍があった等と物語で書くのであれば設定剥離の萌えラノベではなくリアルを追求している限りそれなりに手は尽くさないと読者(客)はつかんよ」



 神様の言葉にセシャトは成程、そういう考え方もあるのかと勉強になった。外来生物であってもさすがは自分達を作った神様だと感心する。



「神様は本作をファンタジー要素のある歴史ものとは考えないのですか?」



 いくらなんでも、これを歴史小説として読み取るのは姜でもないかぎり、無茶である。現代を生きる人々はあらゆる事を知りすぎてしまった。そんな目で見れば、あらゆる物語には穴があり、荒がある。

 それは文豪と呼ばれた名作家達の作品ですらも……



「別にぃ、私はあ奴。太公望ならどう思うかと思うて答えたまでよ。ウチの馬鹿も世話になったようだしの」



 少し前、姜の相手はヘカがしていた。母屋から聞こえてくるヘカの朗読がなんとも楽しそうで羨ましかった事がセシャトにも思い出してしまう。



「神様とヘカさんは朗読が上手ですよねぇ」

「ふふん、なんならWeb小説の読み聞かせサービスでもはじめるかのぉ! 私の声に中毒になった客で店が満員御免になる事間違いなしだの」



 神様は冗談のつもりでそう言って牙みたいな八重歯を見せるが、実際に神様の読み聞かせサービス等初めてしまったら、本当に大変な事になるだろうなとセシャトは思った。

 恐らく神様は物語に関わる事に関してはそれ全てが奇跡を起こす。この店に人がくるところか怪しげな宗教が出来上がってしまうかもしれない。



「神様、それだけはやめましょう」

「冗談よ。神とは気まぐれで、操れるものではないの……婦好はそれを思うがままにしておるようだがの、太公望の奴も見習えばよいものを、この婦好をの……」



 セシャトは神様が『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』における婦好の行動理念、事ある事に神という名前を出すところをついた。彼女に信仰心がないわけではないのだろうが、彼女はその先の物を見ている。ここにくる姜と比べるとはるかに器用なのだろう。竹を割ったような性格とまさに転生のカリスマ的気性。比べるまでもなく実在の太公望は彼女に劣る。

 そういう神様の目は笑ってはいない。それにセシャトが神様の心の内を聞く。



「神様は、婦好さんがあまり好きではないのですか?」



 彼女は神すらも従えそうな風格がある。また神の名を上手く使うところから神様はよく思っていないのかなとセシャトは思っていたが神様は顔を横に振る。



「本作は、あれだ。主人公サクともう一人のサブ主人公として婦好、と恐らく並べられておるが、読んだ者の多くが婦好の魅力にやられるだろう。この私ですら読んでいていつのまにか婦好が主人公なのではないかと思って読んでおった。もちろんサクというキャラクターがいるからこそ引き立てられてはおるんだ。まぁドラえもんみたいな奴だの」



 ここにきて、神様はずんぐりむっくりした国民的猫型ロボットの名前を出した。彼女の容姿とは似ても似つかないが、のび太君とドラえもんの関係は、婦好とサクの関係に通じるところはある。のび太君は少し馬鹿もしれないが決して愚かではない。そんな彼と彼をどんな時でも信じてくれるドラえもんというサポートにより彼は成長していく。



「確かに婦好さんがいればなんとかなるんじゃないかなって思っちゃいますねぇ。では神様は婦好さんの事が好きなんですか?」

「あぁ、好きだよ。嫁にしたいくらいだ」



 神様の成りでそれを言われるとギャグにしか思えない。セシャトは笑うのをこらえて涙がでそうになったが、何故あんなにも不愉快な表情をしたのか気になってしかたがなかった。それに気づいた神様がやれやれと言った顔でこう語った。



「あの太公望が、あの程度のしょぼい奴だったことが段々イラついてきての……あやつ、例外はあるかもしれんが、基本的にはパーフェクト超人として画かれるだろう? 私も期待したわ。どんな凄い奴なのかなっての? 実物はあれだ。未来に来てもあまり驚かず、その時代の知識と技術を盗もうだなんて、つまらん! むしろ、合理的主人公のつもりかしらんが、あまりにもつまらん!」



 確かにセシャトにもそれはほんのちょっぴり感じてはいた。後世の人々が画いた実在の人物像というものは理想と期待により大きく美化されていくものなんだろう。

 そしてやっとセシャトは神様の思考に追いついた。



「となると……もしや神様が思われている事は」

「あぁ、そういう事だ」



 姜、いや太公望という生きる証明のせいで、婦好という人物に関しても本当にこんな理想的な人物なのだろうか? という物語において絶対に感じてはいけない事を神様は考えてしまっていたのだ。それ故に楽しめるハズの物語がやや冷めているという悪しきループに陥っていた。



「神様、珈琲お注ぎしましょうか?」



 神様の気持ちを汲んだセシャトの申し出に神様はマグカップをセシャトの前に向ける。神様はタルトを8割程平らげる。一体この小さな体の何処に入るのだろうかとその様子を眺めていたセシャトに神様は言う。



「サクは同性に妬まれるが、お前とヘカはいがみあったりせんのか?」



 神様なりに、自分の生み出した存在に対して気にしているのかセシャトはヘカと自分の関係について考える。彼女の自由奔放な行動に閉口する事はあれど、それが煩わしいと思った事も憎いと思った事はない。彼女と自分は家族であり姉妹であり友人なのだからと。



「全然ないですねぇ。結局、私達は人間ではありませんから、だからこそこう言った、人を妬んだり羨んだりする描写というものは人間らしい。もう少し進めば人間臭いと言ってもいいのかもしれませんね」



 それを聞いて満足そうに神様は言う。



「セシャトよこちらに来い!」



 ふと考えたセシャトは神様が婦好とサクの寝所でのやりとりを再現しようとしているのかと頷いた。子供の行うごっこ遊びという物がある。あれは物語や作品を心底愛し、インスピレーションを受けた子供達の同化現象である。大人になるにつれて当然そんな事はしなくなる。だが、物語の中に意識を遊ばせるくらいなら大人でも行っているかもしれない。そして、セシャトや神様は物語の再現を恥ずかしいと思った事はない。それは最高の評価であり、より一層物語にトリップできる手段の一つだと考えていた。

 神様はじっとセシャトを見つめると花びらのような唇を動かし、精錬された楽器のような声で言う。



「セシャト、お前に今一度問う。お前の目的と使命はなんだ?」



 再現ではなかった。神様はWeb小説という作品の空気の中でセシャトに自分の仕事について質問をしてきた。その意図は分からないが、セシャトは胸を張って答える。



「私の使命は、Web小説の紹介、そしてそれを広め、一つでも多くのWeb小説を光るあるところに送り届けてあげる事です」

「サクが思う。婦好の目指す世のようにか? 私達は現代を生きている。だがら言おう。物語の『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』がどのような結末を迎えるかは私にもお前にも分からん。だが、サクの望む世は婦好の時代には来はしない。それは歴史が証明しておる」



 神様のそのキツい一言にセシャトはほほ笑んで真面目に答えた。



「分かりませんよ神様。私達の思う戦禍のない世界と、戦争ばかりを行っている古代中国に生きるサクさんの思い、願う戦禍のない世界とは同じではないんじゃないでしょうか? 私は現代を生きていますが、婦好さんの、そしてサクさんの物語を信じてます。そして愛してます。彼女達は確かに『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』という世界の中で強すぎて見えない光指す道を歩んでくれますよ」



 セシャトの考えを聞いて神様はへっと笑う。そして珈琲をずずっと飲むと笑顔を見せてくれた。



「それでこそ私のセシャトだ。そうだ。お前はこんな素晴らしい物語達を一人でも多くの読者、果ては作家達に広めていく必要があるのだっ!」



 神様に褒められてセシャトは嬉しくなった。頬を染めて幼い笑顔を見せると大きく「はい!」と答えたセシャトに神様はこう一言付け足した。



「だから、太公望が次ここに来た時は最後の対応にしろ。あいつは、読者でもなければ創作家でもない。Web小説を紹介して何になる? あいつはデットストック症候群(まねかざれる客)としてここにいる」

さて、本作において大変失礼な話ですが、姜子牙さんは少し頼りない方として画かれています。各種作品に登場する太公望さんが実は画かれている人物像と違ったら? という事で書かせて頂いていますが、一つ同じ事は正しい心を持っているという事なんですね! 彼もまた戦争を終わらせ一番良い方法を考えている。もし、姜子牙さんはそんな人物じゃない!というお声があればそうなんです。誰にも分からないんですよね^^

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