物語に嫉妬をする資格 王侯将相寧ンゾ種アランヤ
ふふふ、そろそろふわっふわなかき氷のシーズンに入りますねぇ^^
随分昔から食べられていたそうなかき氷、私は一つ疑問に思う味があるのです!
ブルーハワイ、あれは一体何味なんでしょうね? 苺、メロン、みぞれ、宇治抹茶。皆さんはどれが好きですか?
すっぱいガムが自分に当たった事でヘカは姜を太公望と認め、素焼きのアーモンドをポリポリ食べながらヘカはセシャトが聞かないでいた事を平然と聞いた。
「姜は何しに過去からやってきてるん?」
それが分かれば姜も苦労しないのだが、確かにそれを真剣に考えるという事をしなかったのも事実だった。お徳用の大きなパックでアーモンドを食べているヘカはそれを大皿にザラザラと入れて姜にもそれを振る舞う。
「セシャトさんとずっと一緒にいると、甘い物ばっかりで塩気が欲しくなるん。ナッツ系は珈琲にもあうん」
セシャトが作ってくれた珈琲を手にヘカの持ってきたアーモンドを食べる。これも悲しいかな恐ろしく合う事に姜は頷いた。
「セシャト殿は仕事でお店に出ているようなので、ヘカ殿、よろしければ『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』を読んではいただけませんか? お恥ずかしい事にこの国の言葉は読めなくて」
断るか意地悪でもされるかと持った姜だったが、意外にもヘカはそれに頷いてノートパソコンを操作する。
「ヘカ達が使うこの国の言葉も元々の源流は姜の国からきてるん。でも、女性用の言葉が生まれたり、坊主達が独自の文字を作ったり、果ては日本専用の漢字まで作ってしまってるん。今の中国人も日本語は読めないし、日本人も中国語は読めないん。別に恥ずかしがる事じゃないん」
涼しい顔でそういうヘカに姜はこの者の態度の大きさと、そして彼女が放つ言葉の強さに胸が討たれる。
「ヘカ殿は、我が王の生まれ変わりかもしれませんな」
「それはないんな。無駄話してないで読むんよ?」
ヘカの朗読はセシャトとは違う。セシャトの透き通った声でなく、やや低めのそれでいて甘ったるい声、なのに姜は心地よさそうに目を閉じてそれを聞いた。
(セシャト殿は私の為に読んでくれたが、ヘカ殿は自分の為に読んでいるのか、なんと楽しそうに読むのか)
ヘカはセシャト同様にWeb小説が好きである。セシャト程でないにしろ、セシャトにオススメをする程度には量を読んできた。
「フラッグ戦を古代中国でしてると思うと笑えるん」
「ふらっぐ?」
「ヘカ達の世界の戦争ごっこの遊び方の一つなん。自分達の領土に旗を立てて、それを取られたら負けというゲームなんよ」
「件の鯖威張るなにがしという?」
「そうなん! ヘカも夏とかになると、電動ガンを持って参加するん。婦好は祝詞を語ってから戦うん。これは、日本人が書いた作品だからかもなん」
祝詞という言葉に関して姜はヘカに尋ねる。
「術師が、神の言葉を語るあれの事ですかな?」
「う~ん。難しいところなん。それは託宣ともいわれるん。昔、日本の戦は総大将が名前を名乗って先祖の力を借りて戦ったりしたん。姜達の戦は神の名前を借りて戦うん?」
言われてみれば、そんな事をした覚えはない姜。何度も過去の話を聞かされている錯覚に陥るが、これは物語。作り話なのである。そして一つ姜は成程なと勉強になった。
「神の名を借りて戦を……か」
「……それわりとまずいやつなん。まぁ三千年も前なら問題にはならないと思うけど……声を大にしては言わない方がいいん」
無礼なヘカとは言え、神を語り宗教を盾に起こす戦というのは日本も世界もとてもややこしい事になる事を世界は何度となく経験してきている。しかしながら、統率させるのに人ならざる者を使うのはそれだけ影響力がある証拠なのだろう。ヘカの朗読を聞きながら、姜はふと彼女にセシャトと同じ質問をしたらどうなるか気になった。今回は婦好の元ではなく、演習相手沚馘軍にいたとしたら……
「ヘカ殿、もし沚馘軍にヘカ殿がいて婦好軍と戦をするとなると勝てますかな?」
「余裕なん」
やはり、彼女は大物か大馬鹿者かのどちらかだ。戦という物を知らないハズなのにこの自信。一体どこからくるものなのか姜は気になる。
「ほう、ではどのように?」
「ヘカは戦わないん。なら負けないん」
これは一本取られたと思った姜だったが、自分は勝てるかと聞いた。それを彼女は戦わない。戦わずして勝つという事かとふと不思議に思う。
「ははっ、成程それでは負けませんが、勝てませんよ?」
「戦の勝ち方はただ兵を疲弊させるだけじゃないん。地の利を奪うか、停戦を結ぶか、そうねん。ヘカなら戦意を喪失させるん」
姜はそう語る少女ヘカの表情から自分の君主とダブらせた。戦わずして勝つ。自分の抱えている戦において兵同士の殲滅戦、それは避けては通れない事だが姜は頭に何かがよぎった。もしかして、ヘカは何かを自分に伝えようとしているのかと……
「ヘカ殿」
「続きを読むん! 婦好軍が一回勝ってるから、沚馘軍は死に物狂いで来るん。こういう連中が一番戦では怖いん。命を捨てる勢いで来る連中は手負いの獣どころじゃないんね」
ヘカは現代を生きる存在。されど、何か目を伏せたくなるような戦争でも見てきたような表情を見せて続きを読み始めた。
サクは、婦好軍は二戦目において敗れた。それは当然だったのが姜は悔しくてしかたがなかった。体格さだけで勝てぬものかと……大国殷と自分達の周は男と女程の力の差があるのかもしれない。そう姜は指の爪を噛んだ。
「戦は個の力では勝てないん。特にこの時代のチャリオットに対して個は絶対的に無力なん。チャリオット崩しの最強の布陣知ってるん?」
チャリオットという物が戦場馬車である事をなんとなく理解した姜は首を横に振る。あれには同じ物をぶつけて総力戦以外には考えられない。
「頑丈な盾を用意するん。数回は矛で貫けないような大きな盾なん。それを持たせた兵を円状に盾を外向きに並ばせるん。その中に矛を持たせた兵を配置して耐え、馬を殺すん。馬車が倒れたら諸共なん。チャリオットが壊れなかったら奪ってそれで戦場をかけるん。味方に分かるように旗でも立てれば同士討ちは防げるん」
戦車崩しは現在から二千年程前、姜達の時代から千年も未来の戦術である。姜はヘカのその戦術を聞き確信する。彼女は自分に戦の仕方を教えていると……
「ヘカ殿……」
「婦好は言ったん。か弱い乙女達は戦術が必要なんて、それに戦略が加わったら鬼に金棒なん。セシャトさんにショートケーキなん」
ショートケーキが何かいまいちわからないが、大体なんとなく予想がつく姜は笑う。婦好軍は戦術だけでは勝てない。サクの戦略が交わって初めて今後の戦における屈強な男たちと対等に並び立つ事ができるのかもしれない。珈琲を飲むと、アーモンドをひょいと空中に投げて口でキャッチするヘカ。
姜に言うわけでもなく再び読み始める。彼女は自分のペースで読み、そして時折笑顔に、時折難しい表情を見せる百面相。『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』を心から楽しんでいるようで、姜も本日は自分も物語として少し楽しもうかと頭を切り替えた。
サクは婦好の衣を使った奇策を持って強靭無比な弓臤を攻略してみせた。それに姜はただ「やった!」と感嘆の声を上げる。
死傷者の出ない児戯みたいなものなのかもしれないが、ただの娘であったサクは度重なる戦の兵どもと同じ位置に聳え立ったのである。
「サク殿、誠に恐ろしい娘よ」
姜は自分と比べて恥ずかしくなる。自分は教わってばかり、自ら考えた事がないのではないかとそう思える。年端もいかない娘であるサクは自ら考え、そしてそれを実行した。この未来と思える夢の中にいると悔しい事だらけだった。
「なんなん、珍妙な顔してるん。ホームシックなん? まぁ三千年も昔なら戻りたくもなるかもしれないん」
「いやはや、自分が少し矮小に見えまして」
ヘカは相手の気持ちを考えるという事をあまりしない。姜が何やらブルーになっているので普通にこう言ってみせた。
「Web小説を読んでそうなるのは、読み手じゃなくて書き手の方が多いん。歴史小説を書く上で『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』は影響されたらダメなんで読むん。みたいなん。この作品ヘカからすれば言葉の選び方がまだまだなんけど、ヘカと同じかそれ以上の作品なんで嫉妬するん。てな感じだけど、姜は作家じゃないん。物語は楽しむもんよ?」
ヘカは何気に自分が『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』の作者と同じくらいは書けると言ってのけるが、それを三千年前の姜に言ったところで何にもならないのだが……一つ彼女はいい事を言った。
物語を読んで気が滅入るのは中々に失礼であるという事。もちろん、そう読ませる作品であれば作者も思わずニヤリなのだが、ここは素直にサクの大勝利を喜んだ気持ちのままでいるべきだろうとヘカは遠回しに言う。当然彼女は同じ作家として嫉妬の炎を胸に宿らしてはいるのだが……そして、ヘカは飽きずにアーモンドを指で飛ばしてはそれを口キャッチした。何個か食べているとヘカは思い出したように小さなケースを取り出すとそれにアーモンドをひとつかみいれる。
「持って行くといいん。抗酸化作用があって古代の偏った食事の足りない栄養補給にするん」
ぽいとそのケースを投げるので、姜はそれを受け取る。そして初めて自分が夢から覚めていく感覚を感じた。
「ではヘカ殿」
ヘカは大きな隈がある瞳を見開いて言う。
「望、戦はどんな手を使っても勝った方が正義なん」
確かにそう言ったヘカに姜は目を丸くする。まさか、ヘカは……彼女はと姜は叫ぼうとした時自分を覗く者。
「……ヘカ殿?」
「誰が馬鹿なん! 発なん!」
王だったかと……であれば先ほどのは自分の勘違い。自分の仕える王は男だし、ヘカは女。同一人物のわけがない。
「発ちゃん、戦はどんな手を使っても勝った方が正義なのかい?」
「えっ? 何言ってるん? 当然なん」
嗚呼、やはり勘違いかと姜子牙はほっとする。
今回は物語を読んで嫉妬するのは書き手ですよぅ! というお話です。それにしてもヘカさんは誰に対しても態度が大きすぎますねぇ。それでいて大体私より仲良しになるのは少々嫉妬してしまいます!
そんな書き手さんが嫉妬してしまいそうな5月紹介作品『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』をお楽しみ頂ければと思いますっ!




