両雄遭遇? 所謂サバゲー?
さて、本作を紹介するにあたって、実は中華系の歴史以外にもいくつか参考にしている資料があります。織田信長さん、アマゾネスさん、とあるほのぼのと世界が終わりゆく買い出し物語なんかですね^^
歴史という物は解釈されて作られていく物です。ファンタジーとリアルを混ぜてある婦好戦記に倣い、紹介小説も進んでいきますよぅ!
「姜、私の酌が飲めんか? この豪王たる、私が注ぐ酒ぞ?」
「帝……私は酒は弱いのです、ご勘弁を……代わりに不思議な夢の話であればおいくらでも」
姜子牙はナルコレプシーによる一時的ではないただの深い夢をみているんだなとふと理解した。何故なら、自分の元仕えていた王と酒の席を共にしている。
(ありえない)
もう彼とは決別し、彼を……善無き紂を討たんと今自分は別の王に仕えている。だが、この夢は悪くなかった。
悪の代名詞、紂王は自尊心こそ高かったが、人間としての性能はあらゆる面において優れていた。政治の手腕も、戦の腕も、そしてその容姿も美しかった。そして、姜子牙の事を親友のように毎晩宴に呼び、姜子牙の夢の話を酒の肴としていた。
「私なら、姜よ貴様の夢の世界をも支配したいわ」
「はは、帝ならできるやもしれませんな」
楽しい夢、それは言葉の通りもう寝てみるだけの夢なのだ。姜子牙は目を覚ますと使いの子供と共に自分の君主の元へと向かう。
ゆっくりと朝飯を食べている自分の使える王、それは姜子牙の姿を見ると自分の隣をパンパンと叩いて見せた。
「望、寝坊助なん。ここに座るん」
「発ちゃん、おはよう」
この王は楽でいいなと姜子牙は思う。他の兵と同じ物を出されても文句言わず食べるのだ。自分も同じ物を用意されるのでそれを口に運ぶ。そこで姜子牙は王に食事を彩るかと『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』の話をして見せた。
「あー、婦好ね。知ってるん」
まさかの馬鹿王が知っていた。腐っても良家の出であるこの王は何故か戦事においては妙に知識があった。
(歴史まで齧ってるとは思わなんだ。馬鹿のフリをしてるだけ……なわけはないか)
この王が知っているのであれば話が早い、セシャトに聞いた話をして、何か役に立ちそうな事がないか考えをまとめようかと潰した芋を一口食べる。素朴な塩味が優しく感じる。
「その話、面白いん。戦や、訓練で負傷した兵が、数日後に高熱を出して死ぬのをよく見たん。死ななくても体が腐ってその部分を焼かないとダメなん」
姜子牙は王が思い出しているところ、まさかと驚く。あの物語は古代の殷を舞台にはしているが、書いているのは正真正銘の未来人。
「破傷風か……」
「はしょ? 何言ってるん?」
「王でも神でも知らぬ病です。そんな言葉は忘れて果物でも召し上がってください。成程、そうか……これは使える」
姜子牙は出来る限り多くの武器を用意させた。それを未使用、使用中、廃棄前の刃こぼれをしている物と並べる。
「今から言う物は残して、他は廃棄、使用中の物は泥水にぬらして錆させておくように」
姜子牙が道具を腐食させる事に関して、意義を唱える物もいたが、それを後の武王。発が一括する。
「望の言葉は私の言葉なん! 黙ってやるん! 望、でも一つだけ言うん。みんな不安なん? これは何の意味があるん?」
姜子牙は大きく口を開け、普段は絶対に使わない言葉を使った。
「発ちゃん、これは呪いの準備だよ。奴ら殷の阿呆共をじわじわ殺す、毒蛇の呪い」
異民族の多かった周の人々を従わせるには呪いというキーワードの破壊力は十分たるものだった。それが姜子牙のみ、毒素を持つ菌によるものだという事を知っていた。何度かあった簡単な小競り合いの中、ついに殷の兵に破傷風を患った物が現れだした。
(すまんな。正義と歴史の為だ)
この時代に破傷風を発症したらまず助からない。それに胸が痛まないわけではなかったが、絶対的な数の差を減らせるならなんだって姜子牙は取り入れた。
ある時、鯉を釣ろうかと腰掛けたところで姜子牙の意識はゆっくりと薄れていく。嗚呼、久々にきたなと彼はそれを受け入れた。
「おはようございます!」
「あぁ、おはよう」
古書店『ふしぎのくに』の店主であるセシャトはあたりまえのようにそう姜に声をかけた。三度目の夢になるかと姜は少し笑けてきた。自分を過去からきた有名人と知りながら彼女はただ客として自分をもてなしてくれる。
「ふふふのふ、今日のオヤツは季節のお菓子ですよぅ! こちらは柏餅と言いまして、皮をむいて食べるという冗談みたいなお話があります」
姜はセシャトに差し出されたお菓子を一つ受け取る。心なしかここに来るようになってお腹が出てきたような気がしなくもないが、セシャトが出すお菓子は確かにどれも美味しい。
「この葉っぱを剥いて食べる事が冗談と?」
クスクスとセシャトは笑って姜に言う。
「それが普通の食べ方なんです。ですが、そう教えてあげると、川の方を向いて皮ごと食べちゃったっていうですねぇ! ふふふ」
彼女が楽しんでいる意味がいまいちわからないが、意味を取り違える趣のあるお菓子という事なのだろうと一口。
心底姜は悔しくなる。
「美味いなぁ……時にセシャト殿、もしセシャト殿が婦好軍にいたとすればどのように武勲を立てますかな?」
むむっと珍しく難しい顔をするとセシャトはそのあとに暗い顔をしながら柏餅をぱぁくっと食べる。そして一瞬顔をほころばせた後にこう言った。
「恐らく、私はすぐに死んでしまいますね!」
「でしょうな。はっはっは!」
セシャトの生きる時代において刃という物は限りなく不要なのだろう。姜はそれを知っただけでも十分だった。
「神に愛された者か……ならば私は何に愛されたんでしょうね。偶然の神か、それともお菓子と物語の好きな仙女か……」
ヘカヘカと笑いながらセシャトがノートパソコンを持ってくる。それは前に見た物よりコンパクトで小さく綺麗だった。
「ふっふっふ! 古書店『ふしぎのくに』出資者の方から新しいパソコンを頂いたんです! 実は私もこれで小説を読むのは初めてなんですよぅ! 是非、姜さんと読もうと思っておりまして」
カチカチと操作をしてセシャトは朗読を始める。サクの申し出でにより実践形式の訓練を限りなく安全な布を巻いた武具で行うという物に姜は感心していた。是非自分の国でも取り入れようと確信する。
「これは、私達の現代ではサバイバルゲームなんていいますね! 戦争ごっこです」
「ほう、鯖いばる。何がしと……面白いですな。しかし、サク殿も中々に負けず嫌いな娘ですな。婦好殿の風に当てられたか」
さも二人の事を知っているように納得する姜にセシャトはうんうんと頷く。実際この時代の女性の立場がどうであったかは、もっとも近い時代を生きる姜子牙ですら知らない。ただし、悪女妲己から見るに、女性はそこまで位が低かったとも思い難い。
さすれば、サクもまた心の内には熱い物を持っていても何らおかしくはないのである。ここから第一章で一番盛り上がるところに突入する。
「ここからの物語の展開は見過ごせませんよぉ!」
「ふぅ、時にセシャト殿。一つ伺ってもよろしいか?」
真剣に姜に見つめられるので少し恥ずかしくなってセシャトは目をそらすと「質問をどうぞ」と彼の言葉を待つ。ゆっくりと持ち上がる姜の手、それに少しばかりの恐怖感を感じながらその手がセシャトに触れられると思った時、その手は空を指す。
「誰か来られたようですが?」
ドンドンと叩かれる扉。セシャトは手を口のところにもってくると慌てて鍵を開ける。開店作業中にやってきた姜の相手をしていて扉を開けるのをすっかり忘れていたのだ。
「すみません。いらっしゃいませ」
「なんで開いてないん? ラインも無視だし、嫌がらせなん!」
来店者はセシャトの友人、もとい神様に作られた存在。自称人気Web小説家のヘカ、それなりに失礼な態度をとるが、そこが彼女のアイデンティティと何故か嫌われない少女。一層濃くなっている隈が昨晩も徹夜だった事が頷ける。
「あらヘカさん、いらっしゃい。どうしたんですか?」
「なろうコン、一時で落ちたん! なろう運営は見る目がないん!」
とんでもなく失礼な事を言いながら朝から喚き散らすヘカをどうやってなだめようかとセシャトは思っていたら、姜がヘカの前にゆっくりと歩んでくる。
「発ちゃん?」
姜は自分の君主とうり二つの顔をしているヘカにそう言うとヘカはあからさまに不審者を見るような目で姜に言う。
「なんなん? ヘカは発ちゃんじゃないん。新手のナンパなん?」
ヘカの態度の大きさは相手を知らない場合は高層ビルよりも大きい。姜と見つめ合う、もといにらみ合いながら姜は上から下までヘカを見てこう呟いた。
「まさか、女子?」
「なんなん、ナンパならまだしもでっかく失礼なん!」
姜も他人に対して無礼である事は重々承知なのだが、どうもこの姿の相手には馬鹿にしたくなる。
「私の仕える王にそっくりなので」
王という響きを聞いてヘカはない胸を張る。
「王! それいいん! 私の事を特別にヘカ王と呼んでいいん!」
「馬鹿王」
「馬鹿じゃないん! ヘカなん!」
セシャトはそろそろ癇癪を起しそうなヘカに柏餅を与える。ヘカは思考をストップさせて柏餅にかぶりつく。
「慰謝料、柏餅なん?」
「こちらの方、かの有名な太公望さんですよ」
ヘカはじとっと姜を見つめてからヘッと笑った。
「こいつが太公望なわけないん。だったら、コレで決めるん!」
すっぱい葡萄にご用心と書かれた駄菓子のガム。三つの中で一つだけすっぱいガムがあるとう子供達の中では定番のオヤツ。
「ヘカの中の裁判はこのガムで決めるん!」
ヘカはさきほどチラりとセシャトと姜が読んでいた小説を見ていたので、羊裁判とかけてきたのかもしれないが、あまりにも稚拙すぎてセシャトも姜も突っ込まない事にした。彼女に言われるがままにガムを選び口の中に放り込む。
数秒後にヘカの叫びが店内に響き渡った。
『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』において武器を使わない演習をするシーンがありますがこれは実に素晴らしいシーンでしたね^^ サクさんは婦好さんの道標なのか、彼女は何者なんでしょうね! 是非是非まずは一章まで読み込んで頂ければ幸いですよぅ。




