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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第五章『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 』著・佳穂一二三
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物語と事実の差異 神はいるのか?

ここ最近、私共。セシャトのWeb小説文庫のverが2.2に上がりました。それによって色々制限が解除されましたので、楽しみにしてくださいね^^ あと二回大きなアップデートを予定していますので!

本作を読まれる上で、まず『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』をお読みいただく事をオススメしますよぅ^^

「この菓子は初めて食べた……実に美味い」



 姜はぷるぷると震える赤黒い和菓子を見て感嘆の声をあげる。セシャトも向かい合って同じ物を食べては目を瞑りその美味しさを分からせてくれる。



「越後谷さんの水羊羹です! 姜さんには是非食べていただきたくてですねぇ! これは日本のお菓子なんですが……元々は姜さんの国、中国のゼラチンスープが元になってるんですよぅ! まぁでも随分後のお話ですけどね」



 二人してしばらく無言で楽しみ、話し出すタイミングを見つけて姜は呟いた。



「婦好殿、やはり殷の王妃ですね……」



 恐らく、巫女達を戦場で敵軍の武器を刃こぼれさせる為に使ったあの戦術について思い出しているのだろう。



「やはり……とは?」



 セシャトは度々色んな物語に登場する玉藻の御前という物語の人物は覚えていたが、姜が戦おうとしている殷にはそのモデルになった人物、中華最大級の悪女の存在について忘れていた。



「しかし、婦好殿とサク殿達は一体どこの国と戦をしているんだ? 一騎討ちなど聞いた事もない……」



 中華小説において見どころ大一番に一騎打ちがある。実際、三国志の時代より遥か未来になって初めて確立された戦い方で、それも儀礼としての形式的な物だった。本来古代中国の戦は古代ギリシャ同様にチャリオットによる殲滅戦が一般的である。『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』においてもその描写は顕著で、婦好は戦車に乗っている描写が多い。



「姜さん、そこは物語を楽しむ為のスパイス……薬味です。強者同士が一対一で戦うなんてロマンじゃないですか!」



 うっとりとしているセシャトとは姜は全く違う意味でこの一騎打ちという物を考えていた。殷の大帝国を討つ方法の一つとして……



「ふふっ、私より古い殷の物語から新しい闘いを知るとは思いませんでした」



 そして、姜は涙する。

 婦好の時代の殷は、人の命を亡骸を弔う事ができる殷だった。だがしかし、姜は婦好の言葉に対して苦言を漏らした。



「神等いるものか……」



 姜の目の前でWeb小説を読んでいる少女がその神より生まれし者である事を姜は知らない。さらにセシャトはその事より、Web小説でここまで怒り、涙する姜に顔を赤らめて感動する。



「姜さんは生まれる時代を間違えましたね! 今の時代であれば最高の読専になれたでしょう!」



 セシャトが紙芝居のようにモニターを見せながら読んでいると、姜はモニターとセシャトを交互に見てこう言った。



「シュウ殿とセシャト殿、何処となく似ていますな」

「あらあら、嬉しいですが、私はシュウさん程起用な真似はできないですねぇ」



 セシャトの中でこのシュウというキャラクター、自分よりも彼女に似ている知り合いがいた。名前もそっくりなシユウ、この者もそういえば中華と関わりがあった名前だなと一瞬思考がトリップする。

 その思考を引き戻すのは姜の質問。


「婦好殿、最初は憎しいと思っていたが、能力によって必要な地位を与えるとは、これは我が発ちゃ、いえ我が王の国でも是非取り入れたいものですな。そして、セキ殿。何処にでもこんな世話焼きの優しい方おられる……この物語を記した者は本当に未来の人なんですか?」



 姜がそう思う程に、懐かしさそしてリアルを感じる事ができたのだろう。しかし、残念というべきか、それとも現在を生きている事に感謝すべきか、作者の佳穂一二三氏は平成の世で生きる作家もとい芸術家である。



「ふふふのふ! 私のフォロワーさんですよぉ!」

「ふぉ、ふぉろ?」



 セシャトが紹介するWeb小説のその殆どはフォローしてくれている広大なWebの海を活動拠点とした創作家達で占めている。

 が、残念な事に姜には理解する知識がなかった。簡単にセシャトはツイッターについて説明すると物語の続きを読む。



「……遠くの者と連絡を取り繋がると……な」



 SNSにも少し興味をもっていた姜だが、セシャトの読む物語も当然の如く聞いている。彼が後の世に天才軍師と言われる事をセシャトは目の前でまじまじと理解した。単純な天才なのだ、物事の理解へのスピード、そしてそこから解意に至るまで……それを複数同時に行っている。一般人ならゲシュタルト崩壊を起こしてもおかしくないその情報量を姜の頭は捌いて見せた。

 そんな中、サクが嫌がらせを受ける場面を聞いて姜はセシャトに同意を求めるように言う。



「何処にでも仲間の足を引っ張る者はいるのだな」



 物語における意地悪をする者を多々見てきたセシャトだが、現実では幸運にもいい人としか出会ってこなかった。ややこしい友達は何人かいるがそれらも自分に敵意を向ける事もない。そんなセシャトの表情を読んだのか姜はクスりと笑う。



「よほど良い者達に出会ってきたのか、セシャト殿の徳が高いか、私が殷に仕えていた時。それは蹴落とし合いでしかなかった」



 さすがのセシャトも太公望の語りには耳を傾けるしかない。彼から聞ける本当の歴史、殷と周において邪悪なる紂王と正義たる太公望の人食い虎退治。それは嘘偽りがない事なのか……



「それに嫌気がさして殷から出たんですか?」



 婦好達が彩る物語の殷と姜が見てきた殷は相当違うようで、少しの静寂の後、姜は自分の罪を告白するように話し出した。



「あの、孤独な王を私は救ってやれなんだ。いつしか彼は私の言葉にも耳を傾けようとせず、蘇護の娘にすがるように……壊れていった」



 紂王と妲己、悪の代名詞の事だろうとセシャトはドキドキする。この二人も様々な物語に登場する主役級と言って過言でないだろう。



「あの馬鹿王が婦好殿程の器量と度量をもっておられたら、私は殷の将軍として周と戦をしたでしょう」



 歴史とは未来の人が勝手に解釈する物なのかもしれない。セシャトは具体的に聞く事はできなかったが、どうやら出来上がった勧善懲悪の物語ではないようだった。



「この物語『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』、恐ろしい話です」



 セシャトの出してくれたほうじ茶をゆっくりと飲みながら、姜はWeb小説を怖いとそう言ってのけた。

 その心は一体……セシャトにとって姜という読み手は今までに会った事のない読み手、物語としてではなく現実の事としてそれを読み共感し、理解し、畏怖していた。これはただの作り話だからという軽いノリが通じない相手……姜はこの物語から何かを得て、何かを決意するつもりでいるのだ。


 それは恐らく、現代を生きるセシャトにとってはとても悲しい事なのだろう。彼がここに迷い込んでいる原因、デットストック症候群(大いなる残り物)、とセシャトを作った神は言った。

 何かをなす為にデットストック症候群を発症していると……

 それは、中華の歴史で超有名な牧野の戦い。姜に続きをとせがまれるのでセシャトは物語を読み進める。そこで姜がつぶやく。



「宮刑か……」



 弓臤の既に男ではないという台詞に姜は呟く、これは作品に描写されたわけではないが姜はそれを確信したかのように聞き入っていた。宮刑、この去勢刑を受けて名を遺した偉人は多い。最初に語られるとすれば司馬遷ではないだろうか?

 その知識もセシャトにとってはWeb小説でしかない。意外とオブラートに包まれて書かれる事が多いこの刑に関してセシャトはのほほんとしていた。



「恐らくはそうですね」

「しかし、いくら訓練をしたとして、女性だけの軍が強いでしょうか?」



 姜は物語を物語として読み込まない。自分の時代に持って帰れるかどうかが大事なのだ。セシャトにとっては物語としての楽しさをもっと感じてもらいたい。奥の手は残しているが、あえてここではまだ使わない事にした。



「アマゾネスという女性だけで編成された戦闘部隊の物語があります。アマゾンという黄河よりも大きな川の名前をつけられたギリシャ神話の神様です」



 神という言葉を姜は嫌う。



「神等はいません。それは作り話です」



 セシャトは掛かったと、あの釣り名人太公望を自分の餌にかけた。セシャトは姜の湯飲みにお茶を淹れてからこう言う。



「さぁさ、八女の玉露です。どうぞ一献」

「っ! 苦い……しかしこの香り」

「女性だけの戦闘部隊、アマゾネスは元々存在が分からない、作り話でした。ですが、長い時間が経ち、彼女達が存在していたという形跡が見つかりました。よく考えてみてください! ギリシャ神話、神話と言う物語だって、誰かが書いた物語なんです。それは偶然の一致なのか、あった事を伝えようとしていたかのどちらかではないでしょうか? 私は剣を持った事はありませんが、女性が男性を制す場面というのは度々見かけます。姜さんはどうでしょうか?」



 悔しいかな、姜にもそれはいくらでも見る事ができた。夫婦となり、嫁の尻にしかれる夫、子供の頃、異様に腕っぷしが強くガキ大将になる少女、そして一番は、殷の愚王を完全に篭絡している悪女。



「成程……それに一つ勉強になった。他国と演習をやる際には実際の武器は使わぬ事にする」



 沚馘と婦好の両軍の演習では死者が出るという情報、少なくとも誰かが死ぬと怨恨が残る。ならば最初からそうならないようにすればいいではないかと姜は思った。

 何故なら……


(殷の大帝国を討つのに、いかに我が未来の知識があっても兵が足りない。ならば周辺国家全てをかき集める方法が今思い浮かんだよ)


 現代を生きる人間が過去に行き未来を変えるという事は不可能なのだろう。何故なら、過去の人間が未来に行き歴史を作っているのだ。

 もし、逆が可能であれば成大なタイムパラドクスが起きるのか……歴史というものはなるようにしかならないのか……

 セシャトは一つだけ面白そうな戦を想像してしまった。天才軍師サク率いる、婦好軍とチーター軍師の姜子牙率いる周軍。

 もしそうなったら、恐らく止めるべきは殷の総大将婦好を、サクと姜子牙がいかにして説得をするのかという事になるんだろう。



「これは! 二大ヒーローの競演みたいで恐ろしく熱いですねぇ! あら? またお帰りになられてしまいましたね」



 セシャトが一人妄想でテンションを上げている間に姜子牙は消えた。セシャトも姜についていってみたいが、小説の世界には入れても過去に行く力は自分にはない。

 それ故想像する。



「どんな所なんでしょうね。古代中国」

物語として楽しめるか、あるいはリアルを求めるかで物語の感じ方は随分変わってくるんですね^^ 本作は舞台は古代中国の殷の時代。そして実在したと言われている政と戦に関わった婦好さんの物語ですが、実際はファンタジーなんです^^ そんな事は分かってますよぅ! と思われるでしょうか? 野暮でしたね^^ では次回もまたお楽しみに!

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