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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第一章 『琥珀』著・FELLOW
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セシャトとお菓子と詩

本日は秋文さんが来ないので、買い物がてらショッピングモールでウィンドウショッピングをしました。『琥珀』の事を考えていると、恥ずかしいかな。あの有名な詩を人前で読んでしまいました。

是非、皆さんもFELLOWさん作、『琥珀』を読んでいただきあの詩はどんな意味があるんだろう?

って考えていみるのも楽しいんじゃないでしょうか?

 それから数日、秋文がお店に来る事はなかった。

 セシャトは恋愛のWeb小説を読みながら長い溜息をついては温めたレモネードに口をつけた。


「むふっ」


 今日のお茶請けは金柑の砂糖漬け。

 一つ摘まんでみる。

 綺麗な琥珀色の甘いお菓子をしばらくみつめてセシャトは口を開けてそれを迎える。


「お、おいひぃ!」


 ホットレモネードに金柑の砂糖漬け、柑橘類で今回のオヤツは揃えて、恋愛小説にはこんな甘酸っぱい食べ物と飲み物が一番だなと一人で頷いていた。


「……」


 チラチラと入口を見つめるが、誰も来る気配はない。


「……はぁ」


 かちゃかちゃとクリックをして、次の物語を読み始めるセシャトだったが、何文か読んだところで画面を閉じ、パソコンの画面も切った。


「秋文さん、来ませんねぇ。こんな気持ちで物語を読んでしまっては物語とそれを書いた作者さんに失礼です。掃除でもしましょう」


 はたきで埃を落としていく。

 洋書コーナーは実はこの店では一番人気があったりする。年配のお客さんや、英語の勉強がてら、簡単な内容の物をセシャトはたまに学生に聞かれていた。

 それゆえ、海外の児童書なんかを多めに仕入れるようにしていた。

 少し立ち止まりその翻訳版を読む。


「翻訳している人のセンスで随分変わってくるものですね。おっと、掃除の途中でした」


 あらかた埃を落とすと、セシャトは掃除機で店内をくまなく掃除する。この店にはせどりが欲しがるような高価な本はないが、セシャトはどれも大事に管理していた。

 いつなんどきに本と読者が出会っても恥ずかしい形で本を読者に届けないように、汚れや日焼けで手に取られなくなる事がないように。


「秋文さん、今頃、どのあたりを読んでいるんでしょうか? 霧島さんに小さな異変がはじまったあたりでしょうか?」


 秋文が恐れていた『琥珀』の中に出てくるサスペクトパシーという病気の片鱗が見え始めるあたり、とても切なく、セシャトは主人公空太の気持ちと何度となくシンクロしたものだった。

 なんの屈託もない進路の話、放課後の話と、青春小説の一ページを読んでいるのだが、その中に薄らと感じさせる違和感と歪み。

 物語のまさに序章が終わり本編へと移り始める部分なのだ。

 この導入の持って行き方は、プロ作家のそれと比べればまだまだテコ入れの余地があるのかもしれない。

 しかし、セシャトは情景を感じれるように自然に物語に入る事ができる。

 いつかの違和感や、いい意味でのアマチュア感というのは逆にリアルさを助長させているのだ。

 Web小説に特化した読書好きたるセシャトならではの見解。


「さて、夕飯のお買い物にでも行きましょうか」


 小さな店内にはセシャト一人しかいないが、誰かに話しかけるというよりはここにある書物達に出かける事を告げた。

 セシャトは食べる事が物語を読む事の次に好きだ。

 特に甘いお菓子とお茶には目がない。

 今日はスーパーではなく、少し遠回りして大きなショッピングモールに向かってみる。ここで有名なチェーン店の珈琲豆と紅茶葉が同時に購入できるからなのだ。

 日々のオヤツ代は決まっているが、たまには高価な洋生(ケーキ)を食べたいなと先に市場調査をしてみる。

 そんな中、セシャトの鼻をつんつんと突く香ばしい匂い。


「コロッケです!」


 そう、あのきつね色の衣を持つ主役にはならずとも日々の食卓を支えるマイナーリーグでエース級のおかず。

 クロケットが訛った物がコロッケらしい、サクサクした物みたいな意味があるが、セシャトはこのコロッケから『琥珀』の情景を思い出していた。


「お二つくださいな」


 二つで二百十円。


「はむっ、あちゅい!」


 ハフハフと冷ましながらコロッケを食べ歩き、本屋さんをのぞいてみた。

 最近の絵本はどんな物があるのか、コロッケを食べ終わると、もう一つを袋に戻してセシャトは絵本コーナーへと向かう。


「ねないこだれだ(著・せなけいこ)。随分昔の物もあるんですね」


 この絵本は自分の古書店でも扱っていたりする。

 ある意味絵本は流行りを気にせずに出せるのかもしれない。


「勉強になりますね」


 帰り際の本棚を見てセシャトは嬉しくなる。

『ネット小説書籍化コーナー』

 タイトルを見ても内容は思い出せない。

 しかし、これらすべてを自分は一度読んだ事があるハズなのだ。

 物悲しい気持ちの半面、こんなにも多くの作品が書籍化され、人目に触れているのだ。心が一杯になったセシャトは本屋を出て、最上階へとエスカレーターで上がる。

『琥珀』のヒロインである霧島さんは文学部に所属しており、詩を書くのが趣味だった。彼女はこう詩を読んだ。

 セシャトはショッピングモールの屋上イベントホールで物語の中にしか存在しない彼女をトレースした。胸に手を与え、空の彼方を見つめ詩を読む


「私は、琥珀になりたい。私の世界に、甘い樹液を流し込んで。美しいままで、時を止めて。愛しい、その手で。今すぐ、時を止めて。恨まないから。あなたが幸せな時間で止めて。そうしたら、私は琥珀になれるから……」


 今だ彼女が何を言わんとしているのか、セシャトもいくつかの持論と説を持ってはいるが、作者の言及があるわけでもなく、それは推測の域を出ない。

 そして、セシャトは周囲からの拍手で我に返る。


「お姉さん、綺麗な声で、綺麗な詩だね。詩人さんかい?」


 売れない芸人にでも見えたのか、十数人の人だかり、セシャトは恥ずかしくなると顔を隠してその場を離れた。


「やってしまいました。あんなところで恥ずかしい」


 逃げるようにルピシアでセシャトはオススメされたハーブティーといつも飲んでいるスタンダードなアッサムの茶葉を購入した。


「珈琲はまだありますし、緑茶がもうすぐ切れちゃいますね」


 ショッピングモールのいいところはあらゆる物が一つの場所で手に入れる事ができる事だ。セシャトは財布と相談して今日緑茶を買う事は諦めた。

 もう買う物もないかとショッピングモールを出ようとした時……


「あれは……琥珀ですか?」


 琥珀色の光沢を放つGODIVAのキャラメルチョコ。

 これを買うお金はもうセシャトの今月のオヤツ代にはない。

 しかし、今これを買わなければ次買えるとも思えない。

 迷った結果。


「うぅ、ごめんなさい。キャラメルチョコレート」


 欲望にセシャトは負けなかった。

 古書店『ふしぎのくに』へ戻るとセシャトは自分のカウンターの席に座って遠くを見つめるとこう呟いた。


「私は琥珀色のキャラメルチョコレートに……なりたい」

フォロワーさんが80名を越えました。そうなるとまだまだ私の知らないWeb小説とも出会える機会が増えそうです。今は異世界小説と恋愛小説、SFと面白い作品に囲まれています。沢山の物語を秋文さんに教えてあげれると嬉しいです。

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