望デレる。誰も証明できない事
さて、GWももう後半ですね? 皆さんはGWはいかがお過ごしでしょうか? 何処かに旅行に行ったり、美味しい物を食べに行ったり、お家でゆっくりとされたりでしょうか?
私共、古書店「ふしぎのくに」では今まで紹介小説で紹介させて頂いた物以外でもフォロワー数や、ツイート数で紹介させて頂いた物をまとめさせて頂いてます^^ さすがにGW中には終わりませんねぇ!
姜子牙は崖の上から周軍の完成度について眺めていた。あまりにも時代を飛躍しない程度には武器も武具も武器術も数段この時代には存在しない程度の物を用意している。何が希代の大軍師かと姜子牙は笑う。
「ただのチートではないか」
姜子牙の言葉を聞いて、現状の周軍の統率に関して記録していた少年は手を止める。そして彼を見て姜子牙は声をかけた。
「その年でよく出来ているな。名は?」
最初姜子牙に声をかけられてビクっと反応した少年は少し警戒しながら筆を木の筆箱に仕舞うと一礼をして名を名乗った。
「呂合と申します。」
「ほう、良い名だ。これから呂環と名乗り、馬を使って記録をして構わん。乗れるだろう? ボウズの名前なら」
姜子牙の言葉に呂合、もとい呂環は目を丸くして頷いた。それに姜子牙は大口を開けて笑う。自分の目もそこまで狂ってはいないのだなと……
「師尚父、何故僕に?」
「ん? 私が何一つ自分の力で行っていないと思うと少し腹が立った。ただそれだけの事、気にしなくていい。お前はサクより早く文字を操っているんだ。誇っていいぞ」
呂環は何を言っているのかという不思議な表情を見せる。当然、この少年が知るわけがない。数千年の後にインターネットという電子の海に投稿されるWeb小説、一言一句説明したとしてもこの時代の人間に理解させる事などできない。
「昔の殷王朝にいた……とされる女の官吏だ」
『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』の主人公であるサクは実在した人物ではない。創作上の登場人物、キャラクターなのだ。だが、作者でも決定づけられない事があった。
「実在したかどうかは、分からんがな」
歴史を絡めたファンタジー系における面白い現象、というより偶然の一致という物がある。投稿及び出版時点では作者の創作した架空の人物や物であったハズの事が後々見つかってしまうという奇跡。有名な話だと、銀河鉄道999の土星の輪だろう。
あのサクと呼ばれた少女がいなかったと誰が証明できるのか? 最も近い時代を生きている姜子牙ですら証明する術がない。サクは乙女であるが故、武の心得はない、それは今姜子牙が討とうとしている殷もまた自分の仕える周の国の乙女も剣は持たない。
「婦好殿か……」
この人物は実在したとされる。世界でも珍しい剣を持って戦場を駆けた女武者、そう言った人物は世界でも名前をあげればいくらか上がるだろうが、彼女はその最古ともいわれている。
「私の仕えていた殷とは違う……果たしてそれは物語だからか、時代が違うからか、今の馬鹿王のせい故か? もし今の殷を彼女が見たらどう思うのか……」
嗚呼ダメだと姜子牙はそう思った。
何故なら……
「いらっしゃいませ!」
なんと平和ボケし、なんと曇りのない笑顔をこの異国の少女は見せるのだろうかと姜は思う。再び短い夢を自分は見ているのだ。
「あぁ、確かセシャト殿と……」
「セシャトで構いませんよ。太公望さん」
嗚呼、さすがは書物に関わる女だなと姜は思う。自分が誰かという事を理解したのだ。しかし、姜のこの経験も一度や二度ではない。
「その名は好まない。姜と呼んで欲しい」
「……はい! では姜さんと呼ばせて頂きますね。もし、姜さんがまた来られた時の為にいくらか遠い未来のSF物を用意してみたんですが……」
セシャトが気を遣って姜が好みそうな本を用意していてくれた。セシャトの奉仕精神には感服したが、姜はここに再び来たのであればどうしても読みたい作品があった。
「いや、あの続きを『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』だったか?」
姜は最初本作をセシャトが薦めた時は難色を示していたのに今はそれを何故か読みたいとそう言っているのだ。それにはセシャトも嬉しくなり、姜の手を引いた。
「セシャト殿、何を?」
「私がオヤツを取りに行ってる間にいなくなられては困りますので、こちらへどうぞ! 母屋のパソコンでゆっくりお茶をしながら読みましょう!」
「しかし、店はいいのか?」
それを言われてセシャトは閉口する。ほぼ常に閑古鳥が鳴いている古書店『ふしぎのくに』なわけで、数千年の時を得てあの太公望に心配されるという事実。
「え、えぇ。そんなに繁盛しているお店ではないので」
成程と姜も踏んではいけない罠を踏んでしまったかと明るく振る舞ってこう言ってみた。
「ははっ、まぁ未来の菓子を頂きながら読ませていただこうか」
セシャトがぱぁあっと花が咲いたように笑顔を見せ、セシャトは姜の前に黒い塊を置いて見せた。その黒い塊を見て姜はとんでもない単語を使う。
「ちよこれいとですか?」
数千年前の太公望はみんな大好き甘いお菓子の名を知っている。それにセシャトは驚くも指をチッチッチと振る。
「こちらは横濱煉瓦ですよぅ! そして、お茶は紅茶の元町ブレンドですぅ! 中華といえば元町、いつ姜さんが来られてもよいようにトトさんに依頼しておいたのですよ!」
姜は自分は何もしてやれないのに、このセシャトという少女は何故自分をこんなにももてなすのか、それを聞かざるおえなかった。
「時にセシャト殿、私が太公望だからこの身に余る扱いを?」
それにセシャトはぽかんとして首を横に振った。
「いえ、Web小説を最高の環境で最高のお菓子と共に楽しんで頂く、それが私の使命だからですよ! さぁさ、冷めない内にどうそ、そして物語をお読みしますよ」
実はお菓子でもてなす事は、彼女の使命ではない。ここに改めて記させて頂くと、彼女はWeb小説を広める事が指名であり、それ以上でもそれ以下でも本来はないのだ。そんな事はおかまいなしに、セシャトは初めてサクが婦好と共に敵陣に遊びに行った部分を読み聞かせ、姜は紅茶を上品に嗜んでこう言った。
「婦好殿は天乙様の血筋か何かか? この天真な行いと気性……」
「ふぅむ、実際のところ私にはそこまでの知識はありませんが、殷の歴史その物が同名の国名なのに文化も都も変わっていますので、十代前の血筋というのは考えにくいですね。本作ですら姜さんの仕えていた殷の七代前のお話ですから、但し歴史に絶対はありません! 姜さんがそうお読みになられるというのまた物語の楽しみ方でしょう! ちなみに姜さん的には何か思うところはありますか?」
何かと言われても姜は信じられないくらい甘い未来の菓子に舌鼓を打ちながら思い出したようにこう言った。
「そうですね。婦好殿はサク殿に盾をといいましたが、私達の時代の盾は……まぁ、何の意味もないので即死ですね」
ほぉとセシャトは伝説の人物がおちゃらけて言う姿に口を隠して笑った。一つ指摘をしたかと思うと次は作品に関心する。
「英雄色を好むのはいつの時代も変わらぬのか、よくこの物語を書いた物は描いている。女が女を好むも、男が男を好むも位が高い者程、持っているしな……」
姜は誰かを思い出して少し不快そうな表情を見せる。セシャトはあの太公望が物語を読み込んでいるという事実を忘れて、ただ二人で考察している事を楽しみだす。
「……セシャト殿、続きを読んでいただけるか?」
「ふふふのふ、サクさんが次は初陣しますよぉ!」
「サク……まさか、いや……」
姜の中で思い当たる名前があったのだが、さすがに関係がないかとセシャトの読む物語に意識を集中する。時折見せてもらう挿絵を楽しみながら姜は目を瞑った。セシャトの朗読が素晴らしいのは言うまでもないが、姜はもし自分が婦好に仕える事ができたらどうだっただろうかと考える。民を、自分の兵を大事にする将……そして、小石ともいえるサクの話をしっかりと聞き入れる。姜は心底羨ましいと感じた。今の殷の王、あの愚か者は自分にとって昔は……
「後悔先に立たずか……しかし、このサク殿。リツ殿が言うように読みが異常とも思える。鬼公に通じておらぬのであれば……」
物語に惹き込まれている姜にセシャトは『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』を読むのを一旦止める。
「ふふっ、姜さんのようですよね! もしかするとサクさんも何かを見てきた方だったりすると素敵ですねぇ!」
このセシャトは何かを知っているのかと姜は疑う。全く同じ事を自分も考えていたのだ。この物語、事実なのではないかと……このサクという少女の行動の数々、現在の殷で行われよう物ならどれほど惨い処刑をされるのやらと呆れる。そして、この少女がいるが故に物語として面白いのかと理解。太公望という自分の物語は果たしてどんな風に画かれているのか考えると姜は胃が痛くなった。
未来という物を無駄に知ってしまっている姜は占いという物を信じない。しかし、あれは意思決定ではなく、士気を上げる為にも一役買っているのかと物語を通じて知った。
「たまには柳宿の者達の言う事も聞いてやるか……ハハッ。乙女の軍か……あの馬鹿王には中々よい奇襲になるかもしれんな」
◇◆◇◆◇
セシャトの声が聞こえない。代わりに顔を合わせるとやかましい声でわめく姜子牙の仕える者の声。
「望、何を一人でわめいてるん? 最近たるんでるん!」
この耳障りなしゃべり方、倒すべき愚かな馬鹿王と対なる愛すべき馬鹿王。同じ馬鹿でも人がついてくるというこの者の方がいくらもマシだなと思って姜子牙は彼の名前を呼んだ。
「あぁ、発ちゃん。白昼夢を見ていたよ。昔の殷に乙女だけの軍があるっていう面白い夢」
「なんなんそれ? 紂王の禁城で飼ってる連中に武器でも持たせたん? あっ! 意外といいかもなん! ウチもやるん!」
嗚呼、やっぱりこの王は馬鹿だ。そう姜子牙は思った。だから、自分がいくらか未来に行って策をこしらえてやらないと、戦争に勝ったとしても国が傾くなと笑った。
「何笑ってるん! というか、ウチに向かって発ちゃんってなんなん!」
あれ程難色を示していた姜さんが自ら『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』を読んでほしいとおっしゃいましたねぇ^^ 興味がないと思っていた作品を楽しめてしまうという瞬間、これを経験できる方は少ないかもしれませんねぇ。何故なら、読むのをやめてしまいますから。もし、そういえば少し読んだなという作品があれば、もう一度続きを読んでみてはいかがでしょうか?
新たな発見とであるかもしれませんね!




