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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第四章後半『惑星の詩・作者不明』
35/109

機械的な作品

『惑星の詩 作者不明』本作ですが、実在する作品になります。というより、実在した作品と言った方がいいかもしれません。私達、古書店『ふしぎのくに』も写本を持っていますが、手を加えられた物であり、当時の物とは恐らく似てもにつかない物ではないかと思います。

とにかく、画期的な方法を取られていたとの事ですよぅ!

 それは一度お手洗いに行くと言ってコーラとドーナッツを買って戻って来た時の欄の行動、売れない本を前にセシャトと談笑をしていたコミュニケーションが下手な少女欄というのは、セシャトに近づく為の一つの顔、彼女はセシャトとの会話を続ける為にスマホで適当なWeb小説を読みながら、器用にガラケーで何処かに連絡を取る。


今までの少し頼りない表情ではなく、少しばかり安堵したような顔で電話の相手にこう言った。



「もしもし、ボス? ターゲットに接触したっすよ。まぁ普通にいい人っすね。人懐っこくて誰でも信じちゃうような方っす。えっ? 金の鍵? そんなの持ってなかったっすよ? それより、あの不健康そうな女の子の容態どうです? そうそう、インフルエンザ感染させた子」



 欄は数々の顔を持つ諜報活動をフリーで行っているエージェントだった。同人誌を作っているのもそういうところに潜入する為、専門学校に通っているのも実際には在籍しているが、全て嘘の経歴。されど、彼女はセシャトとWeb小説に関して語ることは本心から楽しんでいた。


職業柄さまざまな専門書は読むが、物語を読むというのは子供の頃以来だったのだ。意外にもしっかりとした内容で読ませてくるそれに欄は仕事の期間だけという制約の中でだが、ファンになる事に決めた。

 一方的に仕事の話をされて電話を切られたので、ため息をついて作品を表示しているスマホの画面を見つめた。

 ボスと呼ぶ依頼主からのメールに少し驚く。



「『惑星の詩 作者不明』についても何か引き出せれば随時情報を流せって……ボスWeb小説ファンなんすかね?」



 そう呟き、欄は再びクライアントからの依頼が来るまでの間にセシャトと語っている部分を少しまとめ、より多く読み込み話についていけるようにと努めていた。



『惑星の詩 作者不明』、この作品、セシャトさんに見せてもらっただけで、分かるんすけど元の作者じゃない人が書いている部分は物語臭いっすね。本来の作者が書いている文章はなんていうか、説明書みたいっす」



 欄は物語をさほど多く読んできたわけでない、だが、あらゆる知識と情報を操り、あらゆる人間になりすます彼女は作品に魅了される。一部の人間にして到達できる境地、所謂同化現象に近い感覚を自然に持っていた。『惑星の詩 作者不明』は一体何が起きるか予想ができない。欄がこの物語と相性がいい理由として、常に失敗を許されない緊張感と共にあるからなのかもしれない。



「まぁ、自分の場合は扱われたとしても死なないように上手くやれるっすけどね」



 あの黒髪の少女、ヘカをウィルス感染させた時も完璧だった。今更になってあのインフルエンザに感染したヘカは大丈夫だろうか? 今度会う事があればこっそりポカリでも差し入れしようと思った。



「まぁ、インフルエンザで死ぬって事は今の時代中々ねーと思うんすけど、あのヘカって子不健康そうだし、トドメの一撃になってたらまぁ恨まねーでくださいっすよ。まぁウチも仕事なんで本当はそんな事したくなかったんすよ。てか、セシャトさんって何者なんすかね? それを狙うウチのボスもかなり謎っすけど、支払いがいいんで文句無しで働かねーと、明日のおまんまの食い下げっすよ。必要な物は金色の鍵の奪取と、今まさにセシャトさんに教わってる物語の情報収集っす。それが終われば南の国でバカンスもいいっすね」



 全開の欄の仕事は、某国でAIとロボット工学の権威に近づきその情報を別の国に流すなんともつまらない仕事であった。科学者に取り入り、盗聴器むしを置いて、信用されるまで働き、根こそぎ情報を持って行く。


 気が付いた時には別の国でほとぼりが冷めるまでバカンスというのが欄の人生みたいなものだった。今回は仕事以外にも良い物を知った。Web小説、身を隠している間は時間を潰すのによいツールだと欄は頷く。


「時間があったら、サーバー洗ってこの『惑星の詩 作者不明』の情報を調べてみても悪くねーすね。この国はスパイとかに対して情弱すぎるすからね。そういえば、一部の原始人はAIの進歩で仕事が奪われるとか言ってるすよね。仕事を奪われるんじゃなくてAI程度にしかできない仕事しかできない自分達に危機感を感じないとダメなんすよ」


 AIという物は所詮は道具でしかない。紙と鉛筆で今までオフィスで仕事をしていたそれらがただAIに代わるだけで人間はそれらを使う側という構図は変わらない。但し、それを使えない人間は淘汰されるかもしれない。



「ははーん、ちょっと見えてきたっすよ! 『惑星の詩 作者不明』の姿が、読者参加型で突然何の前触れもなく物語に参加する読者の切り捨て、そしてその選択……もしかするとっすけど、この作者は……」



 欄は何かに気づいたが、確信を持てる程ではなかった為、セシャトに見せてもらっていた『惑星の詩 作者不明』の画面を全て写真という画像にてコピーしていた。それをボスに提出すべきだったが、何故か欄はそうしない。腰に手をやると小型のネットブックを取り出すとスマホを使いテザリングを行う。何処かにこの『惑星の詩 作者不明』の情報が落ちているハズだと調べ上げる。そこで不思議なキーワードを見つける事になる。



「なんすかこれ? 何処にもそんなWeb小説なんて存在しねーじゃねーすか……セシャトさん嘘ついてるんすか?」



 そこで、欄はピンときた。自分の依頼主だ。実際に会った事はないし、メールと電話のやりとりでしかない。あの依頼主なら何か情報を持っているかもしれない。仕事の為であると言えば少なからず情報を流してくるんじゃないかとそう思って欄は自らがボスと呼ぶ相手に電話をかけた。さて、どんな情報を持っているのかと期待して電話の主が出るのを待った。



「あっ、もしもしボスっすか? ボスの探している『惑星の詩 作者不明』ってどんなWeb小説なんすか? 全然情報見つからねーっすよ」



 欄の言葉を聞いた依頼主は何も言わずにガチャンと電話を切った。それは何も情報を持っていないからか、教えたくないから……



「セシャトさんの話によると、この『惑星の詩 作者不明』」


 

 作品として始まりも完結も存在しないような作りであるそれ、完全な物はもう存在していないので途中から人の手が加わっているという事で、ふと気が付いた。



「逆に、この誰かの手で書かれてる部分以外って機械的っすね」



 セシャトが持っている写本は作品の内容を覚えている作家が書き綴った物、それは物語として書いてしまっているのである。この写本を書いた自分も、扱いきれる作品ではないと分かっていながら書いているに過ぎない。


 この『惑星の詩 作者不明』この物語に潜むとある噂をネットの奥深い呟きを欄は見つけた。


『ゾルタクスゼイアン』


 欄はルート化している自分のアイフォンを見てまたこの言葉かと少しため息が出そうになる。



「毎回毎回、なんなんすかこの言葉は? 何か調べようとすると必ず出てきて邪魔してくれるっすね……とまぁ熱くなる必要もないっね」



 そろそろセシャトの元へと戻らないといけないと思いながらも、少しばかりこの言葉の意味に近づけるかもしれないと、欄は足を止めた。



 都市伝説として、最近ではよく取り上げられるようになっているこの言葉、実質普通に生きていればその言葉にどんな意味があるのかとワクワクもできるのかもしれないが、欄にとってはこれほどまでにストレスを抱える言葉はない。重要機密に触れようとした時、あるいは何かこの時代にあってはいけない情報を開こうとした時、それは必ず欄の前に立ちふさがる。



「……あれ? なんすかこれ?」



 欄は撮影していた『惑星の詩 作者不明』の画像がスマホの中から削除されている事に今気づいた。自分専用にカスタマイズしたハズのアイフォンが欄に反抗をするようにデータを削除したのか……欄はこの異常な事態に対して背筋が冷たくなった。まだ自分にこんな感情が残っていたのかと客観的に感じる。



「ふひひっ、マジっすか……じゃあ殆ど予想通りって事なんすかね? もしそうならどうなるんすか?」


 

 もう一度、画面を見るとそこはレトロな掲示板サイトの画面が映りだされていた。何ものかにハッキングでもされているのか、アイフォンは欄の言う事を聞かずに物語を記載していく。せめてスクリーンショットは取れないかと試してみるが残念ながらそれもできない。



 欄の心音がどんどんと早くなる。恐らく、この『惑星の詩 作者不明』の確信に近づいた欄は何か大きな力で排除されるのかもしれない。



「ダメっす……これじゃダメなんす」

 


欄は今、自分の命が危ういという状況の中で、この『惑星の詩 作者不明』という物語に夢中になっていた。それは、単純にこの都市伝説的Web小説の正体に迫るだけでなく、自分がその登場人物として画かれている事、それを彼女に伝えたくて仕方がなかった。

 元々、セシャトと話す為の知識に読み始めた作品でしかなかったハズだ。



 簡単な仕事、セシャトという女性に接近し情報を得るという一日を潰せば大きな金額を得れる。セシャトはただの仕事をする為に必要な人材だった。



「あの人に教えてもらわないと……この気持ちと、この物語を読み終える事が……分からないっす。セシャトさん、貴女何者なんすか? 何で狙われてるんすか?」



 一気に読み終えてしまおうと思っていたが、この物語の読了は一人では行えない。あの不思議な外国の少女、彼女との考察の末、読み終えなければ意味がなかった。今や、欄の中で仕事の優先度というものが初めて二番手に回った瞬間だった。



「ふひひっ、我ながら馬鹿っすね……何やってるんすか……セシャトさん、甘い物好きでしたよね? なんか食べれる物は……と」



 あたりを見渡すと、これまたあまりおいしそうとは思えないドーナッツが屋台で売られている。



「なんすか、スペインのチュロスもどきみたいな……日本は本当にわけわかんないすね」



 仕事柄様々な国を行き来したが、生まれた国でありながら、この日本という国には不思議な物が多い。外国の料理を自国の食文化に取り入れ全く違う何かに変えてしまうのだ。有名なところでは『肉じゃが』等が有名ではないだろうか?



「マジっすか、瓶コーク売ってるす!」



 海外ではよく見かけるが、日本ではもう古びたボウリング場等でもないと中々お目にかかれないそれに欄はテンションを上げて二本購入した。ドーナッツとコーラというアメリカンな感じのオヤツの組み合わせに欄はおかしいとは思わない。海外に行き過ぎた事からかもしれないが、彼女の感覚も少しばかりおかしい事を欄は気づかなった。


 ドーナッツとコーラを持って全く売れない同人誌を置いている自分のブースへと向かう。そこでは楽しそうに何かのWeb説を読むセシャトの姿、それを見て欄の表情も緩む、遠くにいる欄を見つけたセシャトが手を振るので、無意識に欄も小さく手を振った。


(何やってんすか自分……あの人は自分にとっては)


 欄の中で二つの考えが喧嘩していた。仕事は失敗したとクライアントに報告してしまおうか、もしそれを報告しようものなら自分はこの業界はおろか、もしかすると命を殺められるかもしれない。



「まぁ……それもいいかもっすね。潮時って事で」



 とりあえず、セシャトと共にもうしばらく楽しい時間を凄そうと読んでいたページを大幅に戻し、自分のブースに着席した。

次回第四章 後半部『惑星の詩 作者不明』最終回となります^^

とある事の核心に気づいてしまった欄さん……ちなみに『惑星の詩 作者不明』と某都市伝説との関係性はありませんよぅ^^ 紹介作品での物語です!


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