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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第四章後半『惑星の詩・作者不明』
33/109

もう二度と読めない作品

欄さんですが、実は文学系の即売会に以前視察に行きまして、その時にいらっしゃった恐らく大手の同人作家さんをモデルにさせて頂きました。人気があるのにも関わらず、腰が低く、ちょっと面白い笑い方をされる可愛い方でしたね^^ お名前もサークル名も分かりませんが、強烈なイメージがありましたのでまた何処かでお目にかかれるかもしれませんね^^

※当時公開されていた物と内容を変更しております。



「一番面白いWeb小説ですか?」



 セシャトにそれを問う欄、それに対してセシャトははてどう答えようかと考える。一番面白いという実は答えがありそうでないような質問に等しい、例えばバトルをメインとしたアクションものを愛する読者に純愛物作品を与えたとして一体いかほどばかりの感動を与える事ができるのかは難しいだろう。

 セシャトは古書店『ふしぎのくに』の業務においてよくこの質問を受ける事になるが、それに対してちゃんとした答えは持ち合わせてはいない。読者に対して趣味趣向にあった作品を提案する事はできるかもしれないが……

 そんなセシャトだが、一作だけもしかするとそれこそが一番面白いWeb小説なんじゃないか……と思える作品を聞き知っていた。



「昔、2003年か2004年頃にとある掲示板で公開されてた作品があるんです。それは『惑星の詩 著・作者不明』という物語なんですが」


「ふひひっ……SF……なんですかね? あるいは……ふふっ、タイトルと公開時期から思うに世界系という通り名からこういった……ひひっ……小説にしたんでしょうか? ふふっ……どんな物語なので?」



 この『惑星の詩 著・作者不明』という作品を語る上で、今までのWeb小説の常識を完全に捨ててもらう事になる。セシャトはそれを欄にどうやって説明したらよいかと考えていた。何故なら、この作品はもう読む事ができないのである。人づてにまことしやかに語られる幻の名作である。



「ふふっ、実はですね! 私もちゃんとは読んだ事がないんです。昔は小説家になろう等の小説投稿サイトは存在しませんでした。その為、個人サイトや大手の掲示板サイトによるSSの投稿、、そしてこの作品に関しては個人サイトの掲示板に匿名で公開された作品となります」



先ほどキッザニアの話をしながら二人で読み進めていた『ソフトウェア魔法VS影の王 著・くら智一』本作は小説という体にふさわしい形を持っているが、この今からセシャトが欄に説明しようとする作品は特殊そのものなのだ。



「この作品、登場人物を募集するんです」



 セシャトはこの作品に関して一部コピーを取ってある物にその作品を読んだ事がある作家が自分の記憶を頼りにその作家の文体で書き直しをしたいわば写本のような物しか読んだ事がない。それ故、本作を紹介するという事はセシャトにはかなりグレーなラインのお話である。されど、Web小説に興味を持ってくれている欄にとても嬉しくて、自分ができる最大の施しとしてこの作品を選んだ。



「それって自己満足でちょっと痛くて……ふふっ、恥ずかしいんじゃないかなーって……はは」



 セシャトも噂にしか聞いた事がないが、自分を主人公にしてしまう小説という物を書く人が世の中にはいるらしい。恐らく、欄はその事を想像してそう意見を述べてみたんじゃないかとセシャトは思った。確かに、欄が言うとおり少し痛い行動かもしれない。されど、小説の自由さという物を誰かが妨害する権利もないし、その痛い作品こそがその時代のトレンドに合ってきたのが実際の世界ではないだろうかとセシャトは自論を持っている。と……そんな事を欄に言って物語の評論をするよりも、あれほど引っ込み思案だった欄が自分の意見を述べてくれた事を喜ぶ事にした。



「ほぉ、欄さんはそうお読みになられましたか……」



 セシャトは最初、欄を物語にのめり込むタイプの文学少女かと思っていた。失礼な話だが、あまり親しい友達も多いようには見えない。彼女は物語と共にあり、物語と生活をしているようだと勝手な先入観。

 されど、それは違っていた。彼女は見た目よりもずっとドライで、リアルな目を持って物語を楽しんでいる。作品の穴を見つけてしまう。少しばかり偏った視線で物語を読み込む、されど作品そのものをしっかりと楽しむ事ができる謙虚な姿勢もまた彼女の魅力なのかもしれない。自分はこう考える、但し、作者さんと作者さんの描く物語は違うんだな程度で捉えているようだった。



「中々、欄さんは貴重な読者さんかもしれませんねぇ」



 それは欄が自身も小説を書くからなのだろう。もし、自分が同じ小説を書くならこう考えて書くなという事を無意識に行っている。それがセシャトには少し羨ましく思えた。自分は何処までいっても読宣でしかない。物語を書くのはヘカと、あともう一人……、彼らならもっとうまく欄と話す事ができたのかもしれない。

 こればかりは自分の役目に閉口するしかなかった。



「まいりましたねぇ……」



 セシャトの大きな独り言に欄は驚き、無言でセシャトを見つめているので、セシャトは我に返ると笑顔を欄に見せる。そして再び会話のキャッチボールを再開することにした。



「では、欄さんの中ではこの作品の作り方に関してどうお考えでしょうか?……」



 彼女は何処までいってもリアリストなのか、さてさてなんと帰ってくるかと思ったが、これまた欄は神の視点を持ってセシャトに答えてくれた。



「……子供の頃、自分専用の友達を作る子供がいるらしいです。それはその子にとって最初の物語の創作、ふひっ数々の思い通りになる世界感……へへっ、それを想像するだけで……その……考えて作ってしまう、それは凄い事なんだなーって」



 物語を物語として楽しむ心をやはり忘れてはいない。本作の主人公、それは募集をかけた読者達、それはわりと筆力を使う。

 セシャトのローカルに保存してある『惑星の詩 著・作者不明』を欄は読みながら、時折目を細め、時折笑い、時折真剣な表情を向ける。惑星の詩で役割を与えられた参加型のキャラクターはその世界で生を受け働く描写がある。これもまたリアルな描写なのだ。ティーン世代が描く主人公が特殊な技術と知識を持っていれば基本ちやほやされるのだが、

 実際には、有能な者程、煙たがられ村八分を受ける事の方が確率的には高いだろう。そんな描写を欄は楽しんでいる。

 それは彼女が専門学生という身分でありながら、社会人同様にアルバイトとはいえ、特殊な業務に関わっているからなのか、セシャトは自分の古書店以外には業務に従事した事がないので分からない。



「この作品は……ふふっ、物語以上に世界感の組み立て部分が……とても面白くて……ひひっ、上手いと思います。こんなの見た事です」



 セシャトには持っていないスキルと知識の塊である欄とは考え方が平行線の一途をたどるかと思いきや……その平行線は内側に少し曲がっていてそれは今繋がった。



「ちなみに、強くお感じになられたのは?」

「ファン=読者であり、登場人物を……平然と殺してしまうところですね」



 セシャトは軽い頭痛を感じた。自分と欄がシンクロした瞬間。『惑星の詩・著作者不明』という物語を書いた作者の後ろ姿が見えた気がした。この人物今となってはもうプロなのか、アマなのかセシャトにも誰にも分からない。そもそも作者も不明であり、自ら名乗り出てくれない限りはなんでこんな意味不明な作品を書きあげたのか知る由もない。この作品に関してセシャトはWeb小説の究極の形の一つだと思っていた。

 ジャンルとしてはなんだろう? 威能力者なんだと思う。これを読んだ事がある読者がどれだけいるのか分からない。現在、この作品を所有しているのはコピーを第三者の読んだ事がある作家に書き足してもらった古書店『ふしぎのくに』だけではないだろうかとセシャトは思っていた。本物ですらないこの作品に欄はセシャト同様まんまとハマってしまったわけである。


 



「ですよね! ですよね! 本来ファンサービスをしてもいいと思うんですけど、この作者さん躊躇なく必要であればキャラクターの出番を終了させちゃうんですよねぇ!」



 興奮したセシャトにもう欄は慣れたのか、うんうんと聞き手に回ってくれている。セシャトは自分がWeb小説を広め、紹介する役目がある事を度々忘れ、楽しんで共有を行う。これが逆にセシャトと関わった者は紹介された作品を色濃く思い出として印象的に残るという事実をセシャトは残念ながら知らない。

 彼女は自分の知らないところで、自分の仕事を十分に全うしているのである。欄はセシャトの話が終わるのを待ってお手洗いに行く事を告げ席を立った。



「あらあら、少し我慢させてしまいましたでしょうか? ふふっ、本が売れないのはなんとも度し難いですが、その代わり欄さんと『惑星の詩著・作者不明』の考察と意見交換ができて私は楽しいですけどね」



 ヘカが全力で書いたであろうミステリー小説の山を見て苦笑しながら、半分程物語を読了してきたなとセシャトは思った。自分はなんどか最後まで読み切ったが、欄は今日初めて読み終える事になる。そこに立ち会えるというのもまた胸躍る展開だった。



「しかし、この『惑星の詩著・作者不明』当時書かれている方の年齢は一体何歳なんでしょうか? キャラクターの名前からして相当低年齢の人たちがいたと思えるこの作品ですが、これを書かれている方は多分大人のようにも思えますし……分かりませんね」



 この『惑星の詩 著作者不明』において内容をあまり告知できない理由がある。古書店『ふしぎのくに』はこの作者を探しているのである。

 写本を差し上げ、その作者に最初から最後まで作品を書きなおしてもらいそれを読みたいとそう思っていた。これは時代受けすかとか、小説の体を成しているとかそういった次元の物語ではないのだ。掲示板における数多くのファンを魅了し、掲示板にかならず存在する荒らしと呼ばれる連中からも支持されていたとセシャトは聞いていた。



「今のWeb小説において、これは正直ありあえない作品ですね。世に出してはいけない作品と言ってもいいかもしれません。なんせ、普通は嫌いな人の作品に陶酔できないと思います」



 パソコンの画面を見ながらひとりで悦に入っているとお手洗いから欄が戻ってきた。その手にはビニール袋を持っている。



「欄さん、お帰りなさい」

「はひっ……ただいまなのです……あのぉ、これ」



 欄がセシャトに差し出したのはコンビニ等で売っている菓子パンコーナーにあるドーナッツと、なんと最近では珍しい瓶のコカ・コーラだった。中々珍しいチョイスだったが欄がわざわざ買ってきてくれたのでセシャトは喜んでそれを受け取った。セシャトはコカ・コーラの瓶をにらめっこしていると欄が焦ったようにセシャトに聞いた。



「……もしかして炭酸苦手ですか?」

「いえ、そんな頻繁に飲む事はないですけど、全然好きですよぅ! 王冠をどうやって開けようかなと」



 それを聞いて初めて欄は瓶の王冠を外す方法を考えていなかった。もちろん購入した売店には置いてあるのだろう。



「はひっ! 私、とってきます!」



 そういう欄にセシャトは不敵な笑みを浮かべてみせた。セシャトは服の中からネックレスのようにぶら下げている金の鍵を取り出す。



「この金の鍵ですが、栓抜きにも使えるのですよ!」



 そう言って器用にコーラの王冠を外して見せる。そしてセシャトはそれを見つめていた欄のコーラの王冠も簡単に開けてそれを渡した。



「それでは、心身ともにダメージを受けてしまったけれども即売会後半に本が一冊でも売れると信じてに乾杯!」



 セシャトはそう言って冷えたコカ・コーラの瓶を少し欄より下げてコツンとあてて見せた。そしてそれを一口。欄も同じように口につける。



「……くぅー、これは堪えられませんねぇ!」

「美味しいです」



 欄がパシャパシャとセシャトのパソコンの画面をスマホで撮影している事をセシャトはおかしいとは思わなかった。もう絶対に読む事ができない超レアなWeb小説の一部分を写真に残しておきたいと思えるのは読者として当然の反応だからである。

 だが、この作品自体セシャトも承諾を得ているわけではない。作者さんが生きているのか、死んでいるのかも分からないので欄に一言指摘した。

「ご自身で楽しむにとどまってくださいねぇ!」



 

『惑星の詩 著・作者不明』本作の名前をここで出すとは思いませんでした。私達、古書店『ふしぎのくに』はこの作品を書かれた方を探しています^^ この作品ですがふわっとしか紹介できませんが、本当に小説というものを明らかに逸脱した作りとなっております。もし書かれた方がいらっしゃったり、覚えている方がおられれば教えてくださいね^^

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