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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第四章『ソフトウェア魔法VS影の王 』著・くら智一
30/109

作者に必要なスキル 物語の登場人物は作者の知識を越えられない

さて、ファンタジー物ではなくSF物として本作を紹介させて頂いている点ですが、ここはリアルな情報説明に着目させて頂いております。ある意味では斬新なSF……少し昔のテレビゲームなんかではこういった物語はあったかもしれませんね^^ しかし、Web小説界隈では中々見れないのではないでしょうか!

 即売会の会場内にある食事ができるところはお世辞にも見てくれのよい料理は出てこない事が多い。すぐに食べて、すぐに現場に戻るからなのか、そもそも利用者が少ないからなのか、あまり期待をせずに一店のカフェのようなお店にセシャトと欄は入店した。



「ふふふのふ、こういうところでも甘味くらいは食べれるのですよね!」



 欄は挙動不審にまわりをきょろきょろと見渡し、アルバイトらしき店員さんがスマホを凝視している様子に少々困惑する。



「なんというか……ふひっ……別世界みたいですよね?」



 欄の言わんとしている事はセシャトにも理解できた。今や接客重視社会、このような環境は中々お目にかかれない。



「そうですね。でも、こういうのってなんだかわくわくしますよね?」

「……はい」



 店員さんは二人に遅れて気づくと、それなりに失礼のない程度に席に案内してメニューを置いていく。さすがに来客があったからかスマホをしまって、食器の準備を始めていた。セシャトはパンケーキとオーガニック紅茶を、欄はオムライスとアイスコーヒーを、無難と思われそうなメニューの注文をすると、店員さんはてきぱきとそれらの支度を進めていた。待っている間にセシャトはスマホを取り出すと欄に『ソフトウェア魔法VS影の王 著・くら智一』の話をふった。



「では、本作ですが『約束の日』という重要なワードがあります。簡単に説明すると影の王との最終決戦ですね」



 欄は内容を読みつつ独り言のようにセシャトに還した。



「コンピュータがこの世界にあるという事で、アキムさんが着目したのはその演算性能ではなく、魔法の理論に対してソフトウェアのアルゴリズムという事ですよね? いくつかの自動化や、簡易化を行い、仕事量を大幅に変化させたという事です」



 セシャトは欄が言っている事の半分程が理解できなかったので、素直に彼女の説明を受ける事にした。

 欄は普段専門学生で、アルバイトで「パイソン」等の言語を使って専門ソフトの機能改修等をしているらしい。当然、セシャトにそんな知識はないので、相槌を打つにとどまっているが、欄は妙にお喋りになっていた。彼女のようなタイプは自分の専門分野を話す時、饒舌になりやすい。セシャトは聞き上手を貫いてあげる事でコミュニケーションが成り立つのだ。



「c言語と++をメインに進めているようですが、古い言語ですね。但し、基本です。私も小学校の頃には授業でコンパイラを使って簡単なクイズゲームを作りました……ふひっ! 調子に乗ってしまい……」

「いえいえ、全然構わないのですよ。物語にハマると私もそうなってしまいますし」



 欄は自分のスマホで文章に視線を馳せ、それからお冷をくぴりと飲んでからセシャトに上目遣い見つめると、こう呟いた。



「あのぉ……研究や討論をしている描写が……そのリアルで……少し心が折れそうになりますね。ふひひ」



 彼女なりの冗談なのか、確かにこれらの描写はサラリーマン特有の書き方だなとセシャトも感じていた。目に浮かぶような面倒そうな上層部との会話と、さも会社に出社しているようなアキムの描写。



「確かにそうですね。これは作者さんの実経験によるものでしょうね。学生さんの書かれる作品においてこう言った描写はだいたいふわりとしていますよね? ここは社会に出ている方の方がリアルな物が書けるんでしょう。ただし、リアルすぎる描写は時としてストレスを感じやすくもなりますよね」



 はははと笑うセシャトに対して、やや暗そうな顔を見せる欄。おや? これはどうしたものかと思ったセシャトだったが、それは今どきの子というやつであった。



「いやぁー、ふひひ、そのぉ……会社員として働きたくないなぁって心底……その、思いましてぇ……」



 欄は専門学生、年齢的には今年就職なのかもしれない。確かに社会に本格的に出るのは心細いものだろう。



「むぅ、そこは難しいところですよね。物語の中よりも実際は現実世界で戦い生き抜く事の方がドラマがありますからねぇ。欄さん、こういうお話を知っていますか? 物語の世界にいるキャラクターは作者の知識を上回る事はないんです」



 それには欄の頭に疑問符が並んだ。あたりまえすぎる事に対して、何をこのセシャトさんは言っているのだという表情を見せる。



「よく考えてください。キャラクター一人を生み出すのに、バトル物であればその戦闘経験や知識をキャラクターに教えてあげるには、作者にその知識がなければなりません。もちろん、チート物等のご都合主義系に属する物語で説明を大幅カットする事も可能性ですが、硬派な物を書く際に、作者の知識量が足りなければ、キャラクターも一つ見栄えが足りなくなってしまうのです。そういう意味では勉強し、経験し続ける事というのが作者には必要なスキルなんじゃないでしょうか? そういう意味では仕事をするという事は中々経験できない取材と言えるんじゃないでしょうか? そして、もしかするとその仕事が天職だった時、欄さんは匠になるのでしょうね」



 全ては物語の為に……

 文献や資料を使う事が一番大事であるとは一概には言えないが、文章を書くという作家において意外と必要なスキルは多い。

 言葉の勉強、流行りの勉強、読者層のマーケティング、もしクライアントがいるのであれば、クライアントの希望する物、期日。会社努めをするように一筋縄ではいかないのである。どうせしなければならないのであれば、勉強だと思い楽しむ方がいくらかマシではないかというのがセシャトの自論であった。



「……ふひひ、ですよねー」



 二人の前に各々が頼んだ料理が運ばれてくる。それは見てくれは中々様になっていた。セシャトの目の前にはさながらスフレパンケーキのようなそれ、そして欄の前にはトロトロの卵が湯気を上げているライドタイプのオムレツを切って作ったであろうオムライス。一見するとこの微妙なフードコートで食べれるとは思えない代物。



「では、冷めない内に頂きましょうか?」

「は、はひっ!」



 二人は自分の目の前のごちそうに口をつける。



「あら……」

「!」



 セシャトと欄が同時に感じた事、まずくはない。もちろん決して不味いわけではないという事。ただし、見た目の期待値からするとそれは少しばかり残念な感想であったであった。



「見た目はスフレパンケーキですが、どちらかといえばカステラみたいですねぇ……このバターとハチミツも悪くはないんですが……ね」



 せめてこちらでかける事ができれば随分感じ方も変わったろうとセシャトは思う。オムライスを食べている欄もまた何か感じた事があったようだった。



 二人は見つめ合ってクスクスと笑う。



「セシャトさんが、言いたかったのはこういう事……ですよね?」

「あらあら、そうですねぇ」



 食べてみて、経験して初めてそれがどんな物かと思い出と知識に残るのだ。セシャトと欄は二人してこのフードコートの食事を楽しんだ。アイスコーヒーをストローで上品に吸う欄がふと思い出したように言う。



「あのぉ、セグさんが珈琲を真似て作っているとありましたけど、珈琲の類似品って……どんな物でしょう?」



 そこは珈琲党のセシャトとしてはふむと少し考える。珈琲という飲み物はそもそも珈琲豆を焙煎して煮出す物だが、この製法意外と最近の飲み方なのだ。詳しくいつからという情報がないだけに核心はないが、咳止めの薬やシャーマンの神託を得る為に使われていた物がルーツであろう。現在のローストされた香り高い珈琲。

 これに似た飲み物をセシャトは二つ知っている。



「タンポポの根っこを乾燥させて作るお茶と食パンで作るお茶が珈琲に似ていると言われていますねぇ」



 欄もタンポポ珈琲については中学生の頃に理科の授業で聞いた事があったが、後者の食パンで珈琲を作るという物は初耳だった。



「昔、船旅でどうしても珈琲を飲みたくなった人が考案したそうですよ。パンを焦がして、それをこして煮出した物を珈琲の代用品として飲んでいたそうです」



 欄はセシャトに言われた物を想像し、確かに似たような飲み物は作れそうだなと考える。しかし、珈琲はインスタントであろうと珈琲豆から作った物に限るなと欄は自分のアイスコーヒーを味わった。



 そしてふと欄は小説の内容を思い出す。魔法弾についての考察、これをセシャトはどう考えるのか聞いてみたくなった。



「セシャトさん、魔法弾に別の属性を持つように改良する事はできないのであれば、そういうデバイスを考えればいいんじゃないでしょうか?」



 本作の世界では魔法理論を異邦人の技術で変えた物をソフトウェア魔法と表現しているだけで、実際人が無から属性の魔法を放っているのである。要するにデバイスに相当するのは人そのものなのだ。



「欄さん、それはどういう事でしょう?」

「同時に別々の属性を放つ……いわば、窄弾方式を取ればクリアできるような気が……しなくもないような」



 これは作品の穴という部分である。意外と緻密な物語はアナログな事で回答が出てしまう事がある。そこを欄はついたのだが、セシャトは人差し指をチッチッチと振って見せた。それをじっと凝視する欄は微妙な味のするオムライスの最後の一口を口の中に入れた。



「影の王は発掘されたんですよ? 現状の章では影の子を滅する事はできても影の王に対して効果的な魔法はありません。結果として窄弾で全属性の魔法弾を使ったとして影の王を殲滅する事は不可能なんじゃないですか? 作中でも書かれているじゃないですか? 影の王に効果のある新しい属性の開発と」



 異邦人の世界を聞き、暮らしを、国を豊かにしようとした結果、人類の脅威たる影の王を起こしてしまった。



「ふひっ……セシャトさんそろそろ自分のブースに……」

「そうですね! ではまいりましょうか」



 昼休憩から戻った後も大盛況であった。セシャトと欄のブース以外は……



「さて、私たちも備えましょうか、これからの長い闘いに」



 休憩のプレートを外ずし、誰も来ないであろうブースでの忍耐力を競う戦いの第二幕が始まった。

不味くはないんですよ! ただし、あの即売会会場にある売店の食べ物は何処か時代に取り残されたというか……昔のサービスエリアにあったというか……なんというかそんな感じですよねぇ^^

ふふのふ^^ 私はあのヘビージャンクな味も嫌いではないですよ!

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