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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第一章 『琥珀』著・FELLOW
3/109

対象年齢

水曜日と土曜日に物語の更新をしようかと考えています。

今回は適正年齢のお話です。『琥珀』はやはり小学生には少し早いのではないかと私は思います。

中学生、高校生の教科書なんかに載っていると授業が楽しくなりそうですね。

 セシャトは異世界もののWeb小説を読みながら、どんな人にどの作品をオススメするべきか悩んでいた。

 するとセシャトの働く古書店『ふしぎのくに』にどたどたと可愛い足音が響く、セシャトは異世界もののWeb小説を読む事に集中しすぎて全然気づかない。


「おねーちゃーん!」


 突然の大きな声にセシャトは目をぱちくりさせながら驚く。


「わわっ! 秋文さん」


 秋文は笑顔でセシャトの目の前にやってくる。手には疑似文庫本の『琥珀』を大事そうに抱えていた。


「感想を言いに来たよ」

「何処まで読まれたんですか?」

「いへん!」

「異変、ですか、あんな難しい字が読めるなんて秋文さんはすごいです」


 へへっと笑う秋文の頭を撫でてセシャトはオヤツを用意する。

 ローゲンマイヤーのドーナッツを二つお皿に載せると、自分にはブラック、秋文にはカフェオレを素早く淹れる。


「お外は寒かったでしょう? さぁ、これを飲んで」


 実はセシャトは『琥珀』の感想を聞くのが楽しみで楽しみで仕方がなかった。だが、それを察せられると恥ずかしいなと自ら一息つく事にした。

 しかし、秋文は用意されたオヤツに見向きもせずにセシャトを真っすぐに見て言った。


「まだ最初だけど、面白かった」

「そうですか! ではどんなところが?」

「分からない言葉も一杯あるんだけど、僕も高校生になったらこんな感じになりたいなとか、霧島さんは可愛いなとかかな」


 うんうんとセシャトは頷く。


「それは秋文さんが物語の世界の中に入りこめている証拠ですよ。作者様であるFELLOWさんの作風は何処となくノスタルジックさを感じさせるのがとても上手なんです。プロの作家ではないからこそ感じれる息のある文章なんです。霧島さんは悪戯っぽい女の子、きっと読者には可愛く綺麗な女の子、素敵な女の子と思わせたい造形で、主人公である空太君は何処か、頼りなく、でも現実を見つめやすい少年という構図が次を読みたくさせてしまいますよねぇ」


 ほぅと悦に入ってしまっているセシャトに秋文は質問する。


「最初の方で春はいつ来るのかってあるんだけど、お姉ちゃんはいつだと思う?」

「難しい質問ですね。言葉では1月ですよね? 立春なんて言いますし、でも雪が溶ければ春が来るんじゃないでしょうか? 秋文さんはどう思いますか?」


 ぎゅっと本を抱いて秋文は少し恥ずかしそうに言った。


「桜が咲いたら!」

「そうですね。それも素敵ですね!」


 少し緊張が解けたのか秋文はカフェオレを一口飲み、ドーナッツを齧った。それはそれは子供らしい笑顔でそれが美味しい事をセシャトに伝える。


「最高の本には最高のお茶とお菓子です!」


 秋文が少し不安そうな顔をして上目遣いにセシャトに聞いた。


「でもお姉ちゃん、サスペクトパシーって病気本当にあるのかな?」


 『琥珀』の作中に出てくる感染性精神疾患。サスペクトパシー、もちろんフィクションである。


「怖い病気ですよね? でもこれは『琥珀』の世界の中だけの病気ですよ?」

「本当に? 僕もときどき、友達や先生が言っている事が本当かなって疑っちゃう時があって、それを思い出すと僕……怖くなって」


 人を疑り深くなるという症状からはじまり、どんどんおかしくなっていく病気がサスペクトパシー、ある意味リアルな症状なのだ。

 人間は疑り深い。

 それは時として病的なまでに……


「大丈夫です」


 セシャトは秋文を後ろから抱きしめる。秋文は震えていた。面白いと言うこの物語からそれと同じだけの恐怖を感じてもいる。


「怖い物語から怖いと思える事はとても楽しい事なんですが、今秋文さんが感じている恐怖は物語から感じてはいけない怖さなんです。できればもう読むのを止めた方がいいと思うのです」


 やはり少し秋文には早すぎた物語だったなとセシャトは心の中で反省する。

 年相応の夢があり、わくわくして胸が希望で一杯になるような作品を何かオススメしてあげようと考えていると、秋文はじっとセシャトを見つめる。


「僕、最後まで……読みたい。霧島さんとそらた君がどうなるのか、僕知りたい!」


 もしかすると秋文は生まれて初めて感じた事のない気持ちになるかもしれない。

 だが、彼がそれを読みたいと言うのであれば、セシャトはそれに頷く。


「この前の約束ですよ? ちゃんと私に感想を教えてくださいね?」

「うん! お姉ちゃんは高校生の時はどんな感じだったの?」


 高校生、突然にそう聞かれるがセシャトには学生時代の思い出なんてものは当然存在しない。それ故学園生活も学校も全て物語の中から知った夢物語みたいな物。


「私は……」


 セシャトの目の前には教室風景が広がっていた。友人と喋る男女、菓子パンを齧っている生徒、そしてホームルーム前に文庫本を広げて読んでいる少女。

 嗚呼、これはあのWeb小説のヒロインだったかとセシャトは彼女と意識をシンクロさせる。そして秋文に微笑んでみた。


「秋文さん、高校生になったらのお楽しみです」

「えぇ、なんかずるいなぁ!」


 そう言いながら秋文は原稿用紙にHBの鉛筆で感想の下書きを始める。古本屋の母屋に来るのはこれで二回目だが、秋文はもう友達の家に来る以上にくつろいでいる。

 感想文の下書きを上から眺めようとしたセシャトだったが、秋文が隠すのでセシャトは笑ってみるのをやめた。

 代わりに秋文の課題である読書感想文の課題図書について思いだした。


(確か、伊沢由美子さんの『走りぬけて風』でしたね)


 はて、どんな話だったかとセシャトは考える。Web小説から実際に書籍化してしまった物の記憶は消えていくが、そもそも存在している本で読んだ物の事は思い出す事ができる。


(そういえば、景品のマウンテンバイクを当てる物語、そんな中アルコール中毒の友人のお母さんの話が物語のスパイスになっている児童文学としては少し大人な物語)


 そうかと、セシャトは理解した。

 この本を読んだクラスメイト達は少し大人の階段を物語りを通じて登ったのである。そんなクラスメイトの書く読書感想文と並ぶべく秋文は同じ本、あるいはそれに匹敵する書物を探してここへ来たのだ。


(それで『琥珀』というのも少し背伸びしすぎでしょうか?)


 真剣に読書感想文の下書きを書く秋文を見ながらほほえましくコーヒーを啜っていると秋文は下書きを書くのを止めてセシャトを見つめる。


「どうかしましたか?」

「えっと……あのね?」

「はい」


 秋文は少し赤くなる。


「お姉ちゃんの事、セシャトお姉ちゃんって呼んでいい?」


 名前で呼ぶという事はそれなりに距離が縮まったという事。

 セシャトは殆ど客のこないこの古書店に小さな常連さんが出来た事に嬉しく思い満面の笑顔で返した。


「はい!」

「セシャト……お姉ちゃん」

「何ですか? 秋文さん」

「呼んでみただけ」

「うふふ、変な秋文さんですね」



 空になった秋文のカップにカフェオレを注ぐと、オヤツのお代わりを聞く。もうお腹いっぱいだった秋文は首を横に振り、そろそろ家に帰る事をセシャトに告げる。


「次来る時はもっと沢山読んでから来るからね!」

「楽しみにしています」

私と、秋文君、そして神様。この三人が今のところレギュラーとして存在しているキャラクターになります。ゆくゆくは神様のお姿も、またイラストレーターの方に描いて頂こうと思っています。

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