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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第四章『ソフトウェア魔法VS影の王 』著・くら智一
29/109

異世界に現実に言葉を持ち込むという事

4月ですねぇ! 3月の少しショッキングな物語に代わり今回は全然売れない即売会というロケーションから物語は始まります。今回の作品もとっても面白いSFですよぅ!

 セシャトは某県の某所でパイプ椅子に座っていた。

 何故か?

 今回ヘカが自費出版で作った同人誌を文学作品系の即売会、フリーマーケットに出店する予定だったのだが、彼女は季節外れのインフルエンザで床に伏している。

 彼女が生活費の殆どを絞りだして作ったそれを無駄にできないと、四十一度の高熱で土下座までするヘカのお願いを断れずセシャトは代わりに売り子としてここにやってきたのだ。


『古書店ふしぎのくに』は神様とトトに任せているので安心ではあるが、一般客の入場が始まって一時間、セシャトの、もといヘカのブースとそのお隣さんのブースには誰も近寄る気配はなかった。

 しかたがないのでセシャトはパソコンの電源を入れWeb小説でも読んで時間を潰そうと思っていた。何を読もうかと探している時に隣のブースの少女がセシャトに話しかけた。



「あのぉ……」



 なんだろうと思って振り向くとベレー帽をかぶった可愛らしい少女が少し緊張した表情でセシャトの方を向いていた。



「はい?」

「こんにちは、アハハ……全然お客さん来ないですね? 私こういうイベントに出店で参加するの初めてで……あっ、ご挨拶が遅れました。欄と言うペンネームで活動しています。今回のイベントは、そのSFで出店しています。よければどうぞ、フヒヒッ」



 欄はそう言ってセシャトに自分の同人誌を差し出すので、セシャトはヘカの本を一冊欄に手渡した。



「私はこの本を作った人の代理で来たセシャトです。普段は古書店の店長をしています。この作品はヘカさんという方が書かれたミステリー物のようですね」



 おそらくお隣さん同士の商品の交換が終わると特に話す事もなく、セシャトは隣の欄がSFを書いている事にちなんでSF作品を読む事にした。いくらか目を通したところで読む小説が決まる。



「今回は……」

「セシャトさん……」



 中々にセシャトの思い通りには今日はいかなかった。何やら星の並びが悪いのか、ラッキーアイテムを間違えたのか……苦笑しながら、即売会初心者の隣の少女の方へ再び振り返る。欄は目が泳ぎながら飲み物を両手に持っていた。彼女は不安なのだろうなと、セシャトはほほ笑み彼女の好意という名のきっかけを受け取った。



「ありがとうございます」

「ふひぃ、あのぉ、セシャトさんは何を見られて?」



 セシャトは欄が買ってきたオレンジジュースを一口いただくと、ノートパソコンの画面を彼女に見せた。それがなろうのページである事に彼女は少しだけ落ち着く。そして作品を見て瞳を輝かせた。



「SF作品ですか?」



 おや?

 セシャトの口角が段々と緩んでいく。文学作品の即売会、彼女もWeb小説サイトで小説のひとつでもアップはしているだろうと思っていたが、今セシャトが開いている小説に興味を持った事は自分の使命を果たす時かなとそう考えた。



「はい! 『ソフトウェア魔法VS影の王 著・くら智一』SFはSFでも異世界ファンタジーとのハイブリット作品ですね。異世界物に抵抗がなければ楽しめると思いますよぅ!」



 欄は素早くスマホで同じページを開くと少し考えてセシャトに挙動不審気味に笑った見せた。



「これ……ふひぃ……面白いですね」



 上目遣いにセシャトを見る彼女は本当に人付き合いが下手なんだろうなとセシャトは思う。されど、誰かと関わる事が決して嫌いなわけではないのだ。むしろ、誰かと同じ時間を共有する事に飢え、欲しているようだった。そうであればセシャトがやる事は一つ。彼女とこの物語を楽しむ事だ。



「えぇ、素敵な小説ですよ。欄さんは何処まで読まれましたか?」

「……ぜ、全部」



 今、十分程スマホを眺めていた欄。本物語は中短編程の長さの作品となるが、十分で読むなんて不可能だろうと思われる。

 されど、セシャトのフォロワーの中にはとんでもない量の小説をわずかの時間で読んでしまう物も存在している。彼女、欄もまたそんな類の特異な人種なのかもしれない。そんな欄にセシャトは聞いてみた。



「何か気になったところはありますか?」

「……魔法使いが学者みたい」



 この作品に出てくる魔法使いは魔力の修練をするというよりは、勉強に勉強を重ねてその功夫を高め、学ぶ描写が多い。科学と魔法はイコールにならない事が多いが、魔法の理論化に尽力しようとしている事が一番最初のベースとなっているのだ。

 そして、本作中における目的。ファンタジー世界の王道たる魔王に位置づけする存在、影の王は惑星なのか、天体と表現される。

 それらは自らの眷属たる影の子なるモンスターを生み出す。



「天体を魔王位置にする事、そして異邦人による時間隔離となんともそそる展開だとは思いませんか?」



 少し上気した顔でセシャトがそう語る中、欄の目は完全に泳いでいる。そこでセシャトが推理し導きだした答え。

(多分、全部読んでませんねぇ)

 たまに背伸びをしてしまう方というのもセシャトは大体わかってしまう。こう言った場合直接的に読んでいない事を指摘してはいけない事も熟知していた。



「ふむ、では繰り返し二章までをまとめてみましょうか?」



 ギクシャクしていた欄が顔を上げて何度も頷く。二章までであれば十分から十五分あれば読む事が出来る。

 ここで欄をもし否定してしまうと、欄はセシャトとの関係以上にこの『ソフトウェア魔法VS影の王 著・くら智一』という作品にまで悪い思い出を与えてしまう可能性がある。

 逆に言えばこういう状況はチャンスなのだ。



「これって……日本をベースにしているのでしょうか?」

「いいところに気が付きましたね。黄昏時、いわゆる逢魔が時によくないモノが現れるというこの設定でしょうか?」



 欄は成程という顔をしながらもそこではなかった。何かに使う為に持ってきたであろうメモ調に『人』という漢字を書いて見せた。

 そしてそこに時計の文字盤を書いていく。



「成程、異邦人の文字というくだりですね。そうここはミソですよぅ! 異世界にこれを持ち出す事の優位性お判りでしょうか?」



 オレンジジュースを飲んで落ち着こうとしているセシャトだが、その興奮や冷めやらぬ。欄も自分にこんなに真剣に話をしてくれているセシャトの考えを読んで答えを出して見せた。



「異世界に、現実世界の言葉を持ち込んではいけない?」



 欄ももちろん文学を手掛ける一作家である。あまり異世界ファンタジーを書く事はないが、各種小説の基本的に守った方がいいルール程度は勉強していた。

 欄の回答に対して、セシャトは身を乗り出して大げさなリアクションを取ると欄に微笑んで頷いた。



「せぇいっかいです! そう、さすがは欄さんは作家さんですね。絶対ダメというわけではないですが、異世界で何故か我々が知る故事成語や諺なんかが飛び交うと違和感を覚えるというやつですね!」



 よくよく考えたらおかしいなという表現。もちろん、なんでもかんでも突っ込んでしまうのは作品を純粋に楽しむという行為からかけ離れてしまうが、作品もできるかぎり読者の意識を世界感の中に長くとどまるようには努めるべきではある。



「はい、この作品の異邦人は……という事ですよね?」

「そうです!」



 それら全てを解決する鉄板の設定として、実はその異世界は現実世界と何処かでリンクしていたという王道展開。



「但しそれだけは息が続きませんよね? なので、異世界であろうと現実世界であろうと恐らくは同じ事を星の数だけ積み上げていきます。例えば、どうでもいい事ですが、馬に乗っているとお尻が痛くなるとかですね」



 ん? という表情を欄は見せる。



「セシャトさんは馬に乗った事ってあるんですか?」



 何をおっしゃる兎さんという表情を次はセシャトは欄に見せる。目を瞑りセシャトは記憶をたどる。そして目を開くと欄にこう言った。



「小さいころ、ロバとか乗りませんでした?」

「ふひっ! の、乗りませんよ! セシャトさんは、その海外の方だから……乗った事があるかもですけどぉ」



 セシャトは自分の記憶に少し、驚く。セシャトは生まれてまだ数か月しか経ってはいない。そんな自分が幼いころに、馬というよりは驢馬のような小さな馬に誰かに手を引かれてまたがっている。そんな情景が浮かんだ。

(なんでしょう……これは何かのWeb小説の情景でしたでしょうか?)

 少し放心しているセシャトを欄は恐る恐るゆする。それに気づいたセシャトは白昼夢を見てしまった事を欄に言うとお昼休憩にしないかと提案した。



「売店があるようですので、そこでサンドウィッチでも!」

「は、はひっ!」



 二人は気づいていないが、全く自費出版の本が売れていない中、テーブルに休憩中というプレートを出して席を立った。

『ソフトウェア魔法VS影の王 著・くら智一』

本作はとにかく人間関係の描写と魔法の説明に力を入れています。もうそれはそれはくどいくらいに読み込めてしまいますよ! そんな作品を私と欄さんが読み解いていきますので一か月お付き合いくださいね^^

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