ヴィランの使い方と愛のある作品批判
ここ最近、私のイラストを頂く事が多々あり嬉しく思っております。そのイラストは『セシャトのファンアート宝物館』にて公開させていただいております! 是非お立ち寄りください^^
昔の雑誌等に読者投稿欄という物があり、ハガキ職人と呼ばれる方々いました。ネットが普及していなかった時、そのハガキ職人さんにもファンがつき、そこからプロになった方もいるそうです^^ 今の主流はネット投稿ですが、次の世代は一体何になるんでしょうね!
「いつ読んでもイっちゃってますね」
「あれアヘ顔じゃないのか?」
カノンという劇薬に酔い、イカれた指示を国民にした上で完全に脳内麻薬全開のアルテミシアを二人して眺めていた。
そこは幕間。
ここにはマグロは入れない。
男は少しばかり残念そうな顔をしていたが、次の章への扉を開けばまた彼らに会える。逆に戻ればまた同じ殺戮を繰り返し何度でも目の当たりにできるという。
それは男の頭を少しづつではあるが、浸食していた。それはカノンという大きな病魔がこの小説の世界感を蝕んでいくように……
そんな危惧をセシャトはわかっていながらもあえてそこにつっこまず物語を進んだ。
カノンから送られてきたまさに不幸の手紙みたいな脅迫文に発狂しかけている帝国の将軍ガングレルが乱心している様を次は眺める。
「この作品はとにかくみんな何かよくない薬でもしている様な人ばっかり出てきますよね! んん、こんな人達を創造する現役女子高生って本当にどうなんでしょうか? 作家としては類まれな才をお持ちかとは思いますが、さすがに私でも閉口してしまいますね。しかし、このガングレルさん、とっても私個人的には人間臭くて嫌いではないんですよね」
セシャトはもしゃもしゃとうまい棒を食べながらガングレルを恍惚の表情で眺めているので男はやや引きながら彼女に問う。
「もしかしてセシャトさんっておじ萌えの人なの?」
「……違いますけど?」
セシャトはガブリチュウを次はパクりと食べながら汚い物でも見るように男を見つめてそう言い放った。
「勘違いしているようですが、私はこの中世とかに確実にいたであろうなと思える狂った性癖のキャラクターに関して評価をしたまでです」
「あい、スクリーム?」
「それは氷菓です。あれは時代から考えるとアイスクリームではなく、アイスクリンの事だと思うんですけど……それに実写版は妹さんの方が年齢的に……と、まぁその話はいいです。少し残念な点はちょいちょい言葉遊びをしてほしいなというところがありますね」
男には映像として見えている物がセシャトには文字として見えているのだろうと、もうそこには気にならなかった。
「というと?」
「王の往く道と書いて『王道』。確かにそうなのですが、ルビに対局の意味を持つ『覇道』をつけておけばいいのになって思いましてね」
「成程、のん様の『王道』こそが『覇道』と? いいねそれ、うん実にいい。成程ねぇ、しかしここは良い世界だね。俺たちがいる世界みたいな得も知れぬストレスとは無縁だね。よし、そろそろこの部屋に……あれ? 開かない」
セシャトが本当に汚らわしい者を見る目で男を見つめる。それもそうだ。男が開こうとした扉はピンク色の何やらアウトな匂いがプンプンとする。
「基本的にそういうページへのアクセスはできないようになっています。この金の鍵を使えば入れますが、このページの奥は『小説家になろう』運営様から注意を受けた情景が広がっております。もちろん、小説という物語においてその描写が必要であれば私は否定しませんが、今ここに入る必要はありませんよね?」
いつになく冷たい表情を見せるセシャトに何故か嬉しそうにニヤける男。この男にはMの素質もあったのだろう。
だがしかし、男はとても優しい表情になると手を地面についた。
「何を?」
セシャトは目の前の男の行動に理解できなかった。最初、何故男が地面に手をついているのか、それは日本人であれば皆が知っている最大の謝罪とお願いをする時のポーズ。
『土下座』
セシャトはそれを文字では知っていたが、どのような物かという事に関しては想像とややずれていた。
「もしかしてそれはジャパニーズ土下座ですか?」
「……はい」
「そこまでして見たいという事でしょうか?」
さすがに『土下座』までさせた事でセシャトの心が開いたのかと男は恐る恐る顔を上げる。そこには笑顔の、女神のようなセシャトが男を出迎えた。
「せ、セシャトしゃん!」
「はいなんですか?」
「入っていいの?」
「いいわけないじゃないですか」
「やったあぁああああ! ん?」
セシャトは笑顔の表情を全く崩さない。そんなセシャトと見つめ合っていると男は段々と冷や汗があふれ出てくる。
何言ってやがるんですか? この超絶ビチクソ野郎さんとでも言いたげで、嗚呼。
カノンはいつもこんな風な視線を受けて言葉の兵器を向けられていたのかと男は背骨のあたりの神経をゾクゾクと快感の刺激が駆け巡る。
「そこで、トリップしていないで次のページに行きますよ? これでも食べて気付けしてください」
男の手の平に乗せられたのは紫色のガム。男はわけもわからずそれを口に入れ咀嚼すると目を見開く。
「すっぱぁ!」
「『酸っぱい葡萄にご用心』のすっぱいガムです。二つ食べたら二個とも甘かったので、どうしようかと困っていました。食べていただきありがとうございます。では行きますよ?」
二人が開いた場所では報告会が開かれている。香りのよいストレートティーが人数分用意され、これまた高価そうなお菓子が用意されており、それをガン見するセシャト。
それを見た男がセシャトの手を引き止める。
「俺が言うのもなんだけど、それ食べるのまずいでしょ?」
「すみません。私としたことが……珈琲党なんですが、紅茶も好きなんですよね。それにこんな英国式のティータイムを見せられると、私としては是非ともご参加……をと」
「それ参加したら、小説の内容に介入してうんたらかんたらになるんじゃないの?」
「……自重します」
男はセシャトへの親近感がよりました。
自分の欲望への忠実な感じが庶民臭い。小説のキャラクター達が罵り合っている姿をクスクスと楽しそうに見つめるセシャトが男にくるりと向かう。
「しかし、どの異世界ものを読んでも、どうして獣人という種族は迫害されている事が多いんでしょうね?」
そう言われるとそうだなと男も考える。おそらく何かしらの源流がこの流れはあり、それをどこかで皆一様に影響を受けているのだろう。
「獣という存在に対して、人間の方が立場が上である。所謂万物の霊長という考えが何処かそんな共通の造形をするのでしょうか?」
えらく深刻なお話をするものだなと大人な表情を見せたのもつかの間。ぺらりと開いた扉の先で見た光景に男は感激する。
「おぉおおおお! あれはエルザリリィたん!」
「そうですね。この方も個人的に私の気に入っている将の一人でもあります。完璧なパーツを使った不完全な不死者。この作品において現在公開されているヴィランの中でも一番読者受けしやすい、生粋の悪。まぁ敵と認識しやすいところがいいです。逆に言えば、ここでこのキャラクターが出てきてくれないと、ガングニルさんの小物感が際立ってしまいますね。そういう意味では素晴らしい選択といえましょう」
ガングニル、趣味が人殺し。異常者の中では彼もまた大概狂っており質が悪い。だがしかし、カノンの大暴れにより彼は癇癪を起し、虐待に走っている描写が続く。
こいつ、本当にアルマやオルトリンデと同格なのか……と。
「えっ? セシャトさんそんな事考えながら読んでるの? いや、別に読者の読み方は人それぞれだけど……なんだかな」
それは本当に楽しい読書の仕方なのかと男は考える。何処か編集者のような、ベクトルの矛先に違う目線。
それには男は少しばかりの怒りをセシャトに感じていた。神の目線というべきか、読専ならではの感性なのかは男には分からない。
だが、他人の作品をそんな目で評価したらそれはもう『戦争』しかありえないだろうと、男はセシャトに少し意見するつもりだった。
「セシャトさん、言いたかないけど……」
しかし、男の発言はセシャトの言葉に打ち消された。想像もしていない言葉がセシャトの口から発せられたのである。
「そう、この作品はいつか書籍化するかもしれません」
「えっ?」
「私がここまで物語に引き込まれ、荒を探し、熱く誰かに想いを語れた事は随分久しぶりかもしれません。私は、Web小説から作品が書籍化してしまうと、その作品の記憶が消えてしまうんです。もちろん、自分の応援している作品が書籍化する事は嬉しいです。でも……少しだけさみしいですね」
書籍化するかもしれない。それは作品に対してのある種最大の評価と言えよう。男はセシャトの、読者の目線という物を見誤っていた。
これは自分よりも、より作品を愛している読者なのではないのか……と。
「セシャトさん、記憶が消えるって……どういう事?」
「こんな場所に、普通の人間が連れてこれると思いますか? 私は人間ではありません。言わば、Web小説における読者の方々の想いを顕現した存在でしょうか? 私は神様に生み出された存在です」
切なそうな表情をするセシャトに男はうずくまるとそのまま大声で叫んだ。
「すげぇええええええ! マジで? 名前からして気になってたんだけどセシャトさんってもしかして神様なの?」
「驚くのそこですか……」
セシャトはほほ笑む。
やっぱり、この男はとんでもない変わり者だと。
作品の良し悪しを探す事は私は大事だと思います。但し、それを作者さんに伝えるかどうかという事は難しい問題です。作品を作った方は少なからずその作品は名作だと思っていますし、それは間違っていないです。自分の子供をダメ出しされて不愉快にならない親はいないという事ですね。人が作った物語である以上合う合わないがあるので、合わない場合はそっと心の奥にしまっておきましょう。ファンだけど、ここはちょっとと思う場合は作品の愛を語った上でこっそり作者さんに伝えてあげるのはどうでしょうか?
また、それを受ける作者さんもネット上に公開している以上謂れのない事が起きる事も少し覚悟が必要かもしれません。一人ひとりが気持ちよく作品を書き読めるようにしていきたいものですね^^