第八話 『探偵と助手の日常 著・藤島紫』
いよいよ、最終回まであと三話となりました。
本当に気が付けば1年、不思議なものですねぇ!
次の年はより、面白い催しをと考えていますよぅ^^
いつかの為に今があるなら、そのいつかを今前借していきましょう!
「川越市。ここが、小岩井かなめが最後に目撃された公園」
隆臣は刑事時代に追っていたもう一つ、迷宮入りした事件について思い出していた。
この行方不明事件、某国の拉致被害者ではないかと言われていたが、隆臣だけは違うとそう確信していた。
行方不明者の小岩井かなめ、本人その者が身元を偽っていた可能性が高い。何故なら、行方不明になった彼女の身元を調べたところ、戸籍上の小岩井かなめという人物は明治の生まれであるという事、百歳を越えているハズの女性が若々しい十代、二十代の見た目であるはずがない。
「と、昔は思って疑わなかったな」
公園のベンチに座りながら、隆臣はタバコを咥えると火をつけた。この女、小岩井かなめもまた『ワリカタ』の容疑者として隆臣は睨んでいる。何故なら、彼女が消える少し前に小岩井かなめは二人の人物と何度も会っていた事実が明らかになった。
異様に真っ白な女と、少し褐色がかった男。どちらも国籍不詳。そしてこの二人は古書店『ふしぎのくに』に関わりがある人物だという事。
彼女が消える前後に夜空に謎の飛行物体が出現し、一時期UFOブームが起きたなと当時を思い出す。ふらふらと隆臣はお菓子屋横丁へと足を運ぶ。
もう大分前の事になるが、ここで聞き込みを行った。
「おっ?」
何処か育ちのよさそうでかつ生意気そうな子供がりんご飴の屋台を前に指を咥えている。ここ最近じゃ中々見られない光景に隆臣は一本りんご飴を買う。
「一つもらおうか!」
そういって五百円玉を払うと、隆臣はその子供にそれを差し出した。
「ほらよ。坊主……かお嬢ちゃんか、お前さんはどっちだ?」
「私か? 神様だ」
私というので女の子かと隆臣は勝手に理解すると、神様と名乗る子供がベンチに腰掛ける。大きな口を開けてりんご飴に齧りながら、タブレット端末を取り出した。
「最近はお前さんみたいな子供もそんな高価な物を持ってるんだな」
神様は隆臣に言われると目線をずらす。
「貴様、何者だ? 誘拐犯か? 自慢ではないが私の全財産は39円だぞ」
それでりんご飴をじっと見ていたのかと思うと隆臣はわらけてきた。
「俺は探偵だ! いろいろあってここに来てみたが、ちょっとわからなくなってな……ってお前さんに言ってもわからないか」
そんな隆臣に神様は自分が見ているタブレットのページを見せる。
「同じ探偵でもお前と清明はえらい違いだの」
神様が見せたのはWeb小説『探偵と助手の日常 著・藤島紫』の画面。それに孝臣は嬉しそうな表情をする。
「ほぉ、推理小説か……昔はよく読んだもんだ。どれ、俺も読むか」
警察をやめて探偵をやっている孝臣だが、本作と現実の違いを突っ込むことなく読み進めている。
「ほぉ、中々面白いな。事件もありそうな物をチョイスしてるんだな」
孝臣の独り言に大口を開けた神様はリンゴ飴を全部食べ終わると箸をぺろぺろと舐めてから箸をポイとゴミ箱に放り投げる。
「貴様、面白い事を言うな。良い目を持っておる。私をして全く気付かんかった。貴様、小説を書くのか? それともレビュワーとか言う奴か?」
創作に関わる者なのか、という神様の質問。神様は全書全読に関わる存在、すなわち書に関わる者、作品を楽しむ者に関しての鼻が利くハズだがこの孝臣からはそれを感じない。
「いや俺は最近久しぶりに小説を読むようになったくらいだ。それもWebで公開されている作品だがな」
孝臣くらいの年齢でWeb小説を楽しむ者は比較的少ないだろう。それ故に神様はこの男に興味を持っていた。
「ほほう。面白いな!」
覗き込むように下から孝臣を見る。
「どうした? まだ何か喰いたいのか?」
神様はそう言われて頬を赤く染める。そして普通の人なら言わないが、神様は当然自分の欲望を優先する。
「食べたいぞっ!」
全く、しかたねーなと孝臣は同じ店でリンゴ飴を二本買ってきた。自分と神様の分。久々に食べるリンゴ飴の味に孝臣は懐かしむ。
「そうそう。この酸っぱいだけのリンゴなんだよな」
リンゴ飴の見た目の愛らしさ、そしてコーティングの甘さに対して中身のリンゴは甘い飴を食べた後だからか妙にすっぱい。孝臣は子供の頃に食べたこのリンゴ飴が美味しいと思った事も完食した記憶もなかった。
何十年ぶりに食べるこれの感想は懐かしく、そして思いのほか美味い。それはこの川越で出している屋台のリンゴ飴が単に美味いだけかもしれない。そしてロケーションがなんだか孝臣が子供の頃の風景にも感じられた。
「事件ってのは何で起きるんだろうな?」
三枝も清明も何かを抱えている。事件に自ら関わる者は少なからず何か事件と関係する。それは警察もそうかもしれない。警察の正義の姿勢に憧れて警察になる者。また許しえない事件に巻き込まれ警察になる者。ルートの違う者達もたどり着く答えは同じなのかもしれない。
自分は事件に関わる為に警察を辞めた。
「まぁあれだの。事件というかイベントがなければ物語はつまらんだろ? それとも貴様は昨日と同じと書き続けている本を何百ページも読めるのか? この『探偵と助手の日常 著・藤島紫』を読んで貴様は思ったであろ? この事件、現実的だなと、リアルも結局はスパイスがあってはじめて人間という者の時間なのではないか? それは悲しい事件もしかりとな」
そういう事なんだろう。楽しい。嬉しいと思える事はそういう事があるからで、悲しい。辛いと思える事もまたそんな事件があるから。
感情という物があるから事件は起きるのであり、それがなければ事件とすら思わないのかもしれない。
「成程な。それは俺がまだ人間だからそんな風に考えるという事か、しかしその年で難しい言葉をよく知ってるな。あと大人に貴様はよくないと思うぞ」
と言って孝臣はまさかという疑問を感じた。警察と探偵の違うところ、とくに小説等の物語では警察は頭でっかちで捜査をすすめるが、探偵は針の穴のような証拠、メッセージ、そしてトリックをあばき犯人を見つけ、追い詰める。
そう『探偵と助手の日常 著・藤島紫』本作の清明もまたスタイリッシュに犯人を導き出していく。そんな中で必要な事は思い込みをすてる事。
「お嬢ちゃんか坊主。お前さん、古書店『ふしぎのくに』か『ワリカタ』について何か知らないか?」
まさかこんな子供にこれを聞く事になろうとはと思って、そういえば最初に情報を得たのはこの子供と同じ年くらいの小学生男子だった。
そしてこの情報は殆ど誰も知りえない。あまり期待していなかった孝臣だったが、この子供からの返答は予想と違った。
「どっちも知ってるぞ」
「そうか……悪かったな……知ってるのか?」
「当然だ! 私を誰だと思っている! 私は全書……」
「教えてくれ! 何でもいい。どんな些細なことでもいい」
偉そうな子供に詰め寄るように孝臣はそれを聞きたがる。神様はりんご飴を食べる手を止めてから「離せっ!」と言って孝臣を落ち着かせる。
「あぁ、すまない。まさかここで知れるとは思わなかったから」
コホンと神様は咳払いすると再びリンゴ飴を齧る。
「まず『ワリカタ』だがのこやつは人に化ける。というよりその時々で変わる。ちなみに『探偵と助手の日常 著・藤島紫』の作者もまた一度『ワリカタ』を演じておる」
演じるという意味が分からない。
「どういう事だ?」
「『ワリカタ』は人に割り居る御方。略して『ワリカタ』と言ってな。昔の交霊術みたいなものだ。その方法がいつのまにやら人狼ゲームみたいな物に変わった。複数人で集まり一つの単語を元に小説を書く。但し『ワリカタ』はその単語の意味を知らない。不自然な作品を書いた者を見つけれるか、『ワリカタ』が人に紛れて見つからずに逃げ切れるか、そんな感じだの」
遊び。
ここまではほぼほぼ事件の内容と合致していた為、孝臣は驚きもしない。むしろこの神様はよく知っている。
「集まった人数より、一人多いってのはその『ワリカタ』が紛れ込んでいるからだとしたらおかしくないか? あらかじめ決めるんだろう?」
「そうだの。ただし参加者は誰が『ワリカタ』は知らない。ゲームマスターがおるんだ。そいつのみ誰が『ワリカタ』か知っておる。で『ワリカタ』を見つければ、何もなかったかのようにオフ会は終わるのだ」
神様の言うことが正しければそのゲームマスターこそが『ワリカタ』ではないのか? 捜査資料をもう一度洗えば何かが分かるかもしれない。
が、その前に聞いておきたい事。
「もし『ワリカタ』を見つけられなければ?」
「誰が呼び出したのかは分からず。皆一様にオフ会の記憶が曖昧になる。まぁ、狐につままれたようなもんだろう」
この『探偵と助手の日常 著・藤島紫』の作者が『ワリカタ』を演じた時もまた『探偵と助手の日常』の外伝のような作品が展開された。
芋けんぴが盗まれるという事件、結果『ワリカタ』は分からずじまいであった。
「古書店『ふしぎのくに』については?」
「あー、それは私の生み出したセシャトが今は店主をしておるから、りんご飴の礼だ! 茶でも飲みにいかんか? ……おっと、セシャトの奴そういえば入院しとったか、すまんがまたの機会という事でよいか?」
古書店『ふしぎのくに』店主が入院。それ故、数日足を運んでも開店していなかったという事、孝臣は段々チェックメイトに近づいている気がした。
「その、古書店『ふしぎのくに』店主が入院している病院を教えてくれないか?」
今回は『探偵と助手の日常 著・藤島紫』本作も実にスタイリッシュで面白いですよねぇ!
孝臣さんとは全く違った探偵さん。清明さん、意外とこのお二人は気が合いそうですね!
まだまだ冬本番ではないこの気温ですが、『探偵と助手の日常 著・藤島紫』と珈琲で静かに過ごすのもいいかもしれませんねぇ!