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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
最終章 『セシャトのWeb小説文庫2018』著・ ????
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第六話 『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵

さて、紅白の準備も着実に進んでいます。ふふふのふ^^ 来年、週間紹介を行って頂ける文芸部の皆さんが主人公となる『文芸部と小熊のミーシャ』限定配信中です。豪華賞品もついた犯人を見つけるイベントも実行中ですよぅ^^ 是非是非楽しんでくださいね!


 孝臣は信じられないくらい豪華な屋敷に招かれていた。元財閥である重工棚田の保養施設。高級ホテルか何かなのかと孝臣は思っていたが、テーブルには古今東西のスイーツとコペルアクの珈琲が湯気を立てている。



「おかまいなく」



 洋風メイドが目を瞑り姿勢正しく立っている。身長があり綺麗な女性だと孝臣は思う。

 だが、孝臣がここにいる理由。日本を統べる企業の一つである重工棚田の現取締役社長。棚田クリス。十九歳にして総帥という青年の妹、まだ小学生の棚田アリアに話を聞きたかった。 

 倉田秋文の元同級生の彼女は古書店『ふしぎのくに』に誕生日会を祝ってもらったと秋文から聞いた。

 何故、どういう経緯で棚田アリアは古書店『ふしぎのくに』と関わったのか?


 ダメ元で電話をしたところ、孝臣にこの保養施設への招待券が届いた。孝臣の元刑事の勘、この企業は裏の仕事に手を染めている。現に目を瞑っているメイドから感じる殺気は恐らく堅気の気配ではない。かといって孝臣もまた数々の死線はくぐってきた。ここで焦っても意味はないと目の前にある洋菓子を一つ頂いた。



「おぉ、これは美味しい」



 孝臣の感動にメイドは目を開ける事もなく、口を開いた。



「東京會舘のマロンシャンテリーです。半世紀前に日本人向けに作られた歴史ある洋菓子です。小平様の年代ですとこう言った味のごまかしがきかない物が宜しいかと?」



 生クリームとマロンのみで作られた上品かつ繊細なスイーツ。東京では系列店がいくつかあるが他地方では中々お目にかかれない。

 孝臣はそのスイーツに舌鼓を打ちながらメイドの女性に棚田アリアは何時頃こちらに来れるのか聞いてみる。



「アリアお嬢様は多忙でございまして……この家事手伝いの沢城が小平様のお暇潰しのお相手をさせて頂ければと存じます」



 沢城は綺麗な女性だ。

 願ってもない事だが、今はそんな事より『ワリカタ』や古書店『ふしぎのくに』について知りたい。お断りしようとしたが沢城は勝手に話し出した。



「『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~著・雨宮 葵』を僭越ながら朗読させていただきます」



 聖書のような物を取りだすと、沢城は綺麗な声で物語を読み始めた。孝臣はコピルアクの珈琲を楽しみながら沢城の朗読を聞く。

 この物語はまとまりがないが、いくつかのキャラクターが同時進行しているんだなと孝臣は理解していた。



「風魔の小次郎みたいな作品ですな」



 車田正美氏の描く漫画作品。

 最近若手の俳優やアイドルを器用してドラマ化もされた。孝臣の世代ではこれや、幻魔大戦のような物が異能力系としては一番理解が強かった。

 この『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~著・雨宮 葵』という作品、文章もストーリーも纏まりがない。だがしかし、群像劇を好む人間にはあーそういう事かと理解できる描写も多々読み取れる。

 はっきりとこの作風は苦手意識が強い者もいるだろうし、上手く合致する者もいる。

 そんな中、孝臣はそのどちらでもなく。内容を淡々と理解していた。

 元警察という仕事の職業病がなせる業である。



「その暗闇という組織や黄昏という組織。昔、戦前……いや戦後すぐかな? にもありましたな? それらはだいたい財閥として名を馳せ、財閥解体でその姿を消していった」



 孝臣がそう言うと沢城は孝臣のカップに珈琲を注ぐ。頭を下げる孝臣に沢城は笑ってみせる。この女性は堅物かと思ったが、こんな表情をするのだなと……



「このお話楽しめていただけましたか?」

「えぇ、どれもいいところで場面がかわり、一体何が真実なんだろうなと思います。黄昏という言葉をいくつかの意味でかけているのかもしれませんな」



 孝臣の言葉に沢城は少し驚いたような表情を見せる。



「小平様、といいますと?」

「黄昏……作品を読んでいる。私の場合は沢城さんの話を聞いていると、内容を理解しようとして考え込んでしまう。あるいはその世界に入り込む。そうカッコよく言いますが、要はぼーっとしてしまう。この黄昏」



 よく言う、海を見て黄昏てしまった等の黄昏だろう。事実孝臣は物語を理解する為に物語に没頭していた。



「あー成程、そういう解釈ですね。では失礼ながら他もお教えいただけますでしょうか?」

「そうですね。続いては夕暮れとしての黄昏……昼なのか、夜なのか曖昧な時間ですよね? 出てくる登場人物達ははっきりとしているハズなのに、何処か実態のない人物ばかり、そう言った意味での黄昏。そして最後はこの物語は終わりへと着実に歩を進めているように思えます。衰える、終わる。終焉。そう言った意味の黄昏。そしてそれらの意味を持ってタイトルを読むと見えてくる姿がありますな。『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~著・雨宮 葵』」



 誰が為の黄昏。それは本当に誰の為の黄昏なのか? 読者か? 物語の人物か?

 それとも、物語そのものに対してなのか? これが孝臣の見解。

 沢城達や、セシャト達。古書店『ふしぎのくに』では考えない見解。



「ふむふむ、それは今までにない見識ですね」



 やや沢城がフランクに話しているがそんな事は孝臣は気づかない。この数週間で色んなWeb小説を読んできた孝臣は物語を読む事に関して、作者の理解を越えた部分にまで触れつつあった。作者はそう考えていないかもしれないが、作品から独自のつじつまのあった見解を見つけ出してしまう現象。

 これはWeb小説でよく起きる現象。プロ作家でも新人のライトノベル等で稀に見える事がある。作品名は出さないが、設定の矛盾をつかれたとあるライトノベルがあり、最終的にはその矛盾の回収という形で終えた作品が存在する程度に、作者の意識外の見識は強い。



「誰が為の黄昏……これは登場人物達の儚さか、不可視化なのか、あるいは終わりなのか……もしかすると読者へ向けての没頭か、理解が途切れる事への意味か、作品読了へのメッセージなのか、もう一つ私が思う事は作者自身へのメッセージなのかもしれませんな」



 沢城はふむふむと小さくメモを取る。この『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~著・雨宮 葵』を読んだ時は四か月前、気候は真逆で暑かった。作品を読む時の気持ちというものは季節によっても変わってくるのかもしれない。

 夏は人を少なからず開放的にし、冬は人は少なからず自粛させる。

 夏の暑さで仕えてる少女アリアと話した時は、のめり込み色んな部分を細かく分析してはなしていたように思える。

 が、今目の前にいる初老の男は文脈から物語を推理していく、元刑事だから彼のこの思考に至ったのかは分からないが非常に興味深かった。

 ルルルルル♪と沢城のスマートフォンの着信音が鳴る。それに沢城は失礼しますと言って電話に出た。



「はい……今来られているんですか? えぇ、はいかしこまりました」



 沢城は孝臣に一礼すると客間から出ていく。誰かを迎えに行った沢城。いよいよ、重工棚田の姫君。棚田アリアのご登場かと孝臣は待つ。相手は小学生の女児である。怖がらせないように強面の顔を緩める事に努力してみた。

 が……


(相手はIQ160以上の化物だからな。子供と言っても油断はできないか)


 ここに来る前に孝臣はあの欄に重工棚田についていくらか話を伺っていた。棚田アリアは何故普通の小学校に転校してきたのか?

 秋文と同じ小学校に来るまでの経歴が全く空白であるという事。そして、チェスの腕前はプロとそん色ないハズの欄を負かしてみせた。

 それを聞いた時に孝臣は戦慄した。

 あの欄ですら、異常なる天才として警察組織でも頭を抱えていたのにそれを越える子供が現実に存在しているという事。

 そして、彼女は孝臣の調べている古書店『ふしぎのくに』に関わっているという事。

 そこで導き出された一つの考え。


(古書店『ふしぎのくに』は重工棚田の関連組織か?)


 広い客間で一人でいる事で孝臣の頭はクリアになる。刑事時代も一人でタバコを吸っていた時、喫茶店でコーヒーを飲んでいた時、神が下りて来たように犯人の行動や動機が分かったものだった。

 何かに届きそうだと思った時、ガチャリと扉が開かれる。登場したのは棚田アリアではない。長い髪をした上品な青年。

 重工棚田の総帥・棚田クリスである。殆ど人前に姿を現さないという事で有名な彼が何故一介の探偵である孝臣の前に出て来たのか理解ができない。

 クリスは手を差し出した。



「はじめまして、小平さん。棚田クリスです。妹が具合を悪くしてしまって、代わりに僕がご対応をさせていただきます」



 利き手を差し出すクリスに恐る恐る孝臣も握手に応じた。なんと美しい男なのだと孝臣は思う。クリスが新興宗教でも作れば大変な事になるなと思った。



「お話を伺うと、古書店『ふしぎのくに』とあと『ワリカタ』なるものをお探しとか? 残念ながら僕には何のことか分かりかねますが……」



 いや、こいつは何かを知っていると孝臣は握手する手を離して考えた。後ろの沢城が嫌な目をしている。

 孝臣も得体のしれない相手のホームグラウンドで争うつもりはない。少しがっかりしたような表情を見せてこう言った。



「そうでしたか、それは残念です」



 孝臣は自分が警察を辞めた経緯から、全てを赤裸々に語ってみせた。持っている情報を惜しむ必要はない。こちらに敵意がないと分かれば最低でも五体満足で帰宅できるだろう。



「妹がそんな組織と関わっていたとは、兄としては見過ごせませんね」



 そしてこの態度は棚田クリスの評価を得る事となった。内心、孝臣はざまぁみろ若造と叫んでいたが、表情は驚いたものを作る。



「『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~著・雨宮 葵』この物語に出てくる組織が当社に似ているとは思いませんか? 各種表向きの事業を見せて、裏では何をしているか分からない! そんなところからこの作者は僕の会社のスパイじゃないかと思ってしまいましたよ」



 殺される。

 それを瞬時に覚悟した孝臣、後ろの沢城の嫌な目が可愛いと思えるくらいに、クリスは人の生死に一欠けらの興味も持ってはいない。ここから逃げ出す事はできるか考え、沢城がドレッドならなんとかなるかもしれないと逃走方法を考えた時、クリスはほほ笑む。



「わぁ! マロンシャンテリーじゃないですか! 僕も大好きですよ。沢城、用意してくれますか?」



 御意と沢城はあの上品な洋菓子をすぐにクリスの前に差し出す。そこには社長、あるいは重工棚田の総帥とは思えないように無邪気な顔でスイーツを食べる姿だった。だが、目は笑っていない。確実に孝臣を見据える鷹のような瞳。


(死ぬ前にたらふくビールを飲めばよかったな)


 死を覚悟した孝臣にクリスはこう言った。



「僕と契約して専属の探偵になりませんか? 何でも願いを一つ叶えてあげますよ?」



 某魔法少女アニメに出てくるキャラクターの真似をクリスはしてみせたが、そんなものを孝臣は知らない。



「契約?」

「えぇ、同じ黄昏に魅入られた方だ。いい商談ができると思うんです。僕は入りたい小説の世界がある。その為には金色の鍵が必要だ。あれはあんな人擬きが持っていてはいけない」



 一体何をこの男は言っているんだと孝臣は思う。だが、生殺与奪権は今クリスが持っている。



「どのみち、この件に人生をかけているんだ。重工棚田のバックアップが受けられるのは願ってもない。俺はどうしたらいい?」



 クリスは殺気の帯びた表情を解くと、再び手を差し出した。

 これは握手か、それとも悪手なのか、孝臣には分からない。されどクリスの言った言葉に瞳孔が開く。



「僕は、古書店『ふしぎのくに』店主、ダンタリアンさんの最後の客なんだ。そして、重工棚田がもみ消したもう一つの『ワリカタ』事件で僕の姉さんは行方不明になった。欲しいのはこの情報だよ」

アリアさんは何処に行かれたんでしょうね? それにしても、孝臣さんの深い読みは凄いですねぇ!

『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵 あれから新章もどんどん公開され、核心に迫っている感が凄いですねぇ^^ この黄昏に魅入られた重工棚田の社長さん、棚田クリスさん。

実は、小熊のミーシャ、第三章でゲスト出演します^^ 彼はどんな黄昏を持っているのでしょうね?

『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵 本作と追従しながら楽しんでみるのもいいかもしれません。

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