第四話 『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語 著・言詠 紅華』
古書店『ふしぎのくに』で、ついにインフルエンザ感染者が出てしまいました><
このスペイン風邪と言われた高熱が出るインフルエンザですが、皆さん予防接種は済ませましたか?
二回打つといいらしいですよぅ! 少し痛いですけど、楽しく年末年始を過ごす為に我慢ですよぅ!
神様は泣いてしまいましたねぇ^^
孝臣はある男性を待っていた。
その間に孝臣は今まで知ったWeb小説を読む。数が多くなってきたので、大変だなと苦笑するが、今や孝臣の日課と言っても過言ではなかった。
スマートフォンでゲームをするという考えは孝臣にはないが、電車のホームやこういった待ち時間にスマホ画面でWeb小説を開き、読み見つめる時間が多くなる。
(少し前は、スマホ画面をずっと見ている連中は何かの病気かと思ってたんだがな)
「小平さん!」
手を振ってやってくるのは、古書店『ふしぎのくに』について教えて貰った小学生の男の子。倉田秋文の担任教師である宮藤和也。
「宮藤先生、お休みのところすみません」
「いえ、こちらこそウチの倉田の情報が間違っていたかもしれないという事でお騒がせしました」
頭を下げる和也に孝臣は手を振る。
「いえいえ、恐らく秋文君の言っているお店は教えてもらった場所で間違いないんだと思います。ただし営業している雰囲気を全く感じません。もし、そこに秋文君が通っているとすると、あまり良い感じではないかもしれませんね」
元刑事の勘。秋文の話によると若い外国の女性が営んでいると言う。そこから導き出される孝臣の予想。
「海外の誘拐組織の可能性が考えられます。その、秋文君は少しアンセックスなところがあるでしょう?」
高学年の男子生徒だが、確かに可愛い顔をしている。それに和也は頷くと孝臣に言う。
「そうですね。倉田にはそこに近づかないように言い聞かせます」
「ちょっと待ってください! 露骨に秋文君が行かなくなると、向こうも怪しんでこの街から消えるかもしれません。この街と秋文君にはそれでいいかもしれませんが、他の街で同じ事が行われるとなると目覚めは悪くありませんか? 少し泳がせましょう」
「倉田を囮にすると?」
怒りの表情を見せる和也を落ち着かせると孝臣は提案する。
「秋文君が古書店『ふしぎのくに』へ行く時は連絡をください。私が彼をつけます。私は警察の上層部にも顔が利く。もし、そう言った組織でなければしっかり注意して大事にならないようにしましょう。まさか、何年も前の事件を追っていたら別の事件に出くわすかも、とは思いもしませんでしたがね」
孝臣の話を聞きながら和也は段々と打ち解けていった。そして二回り以上年上の孝臣が秋文のようにWeb小説にハマっている事を聞くと和也は言わずにはいられない事を告白した。
「小平さん、実は私……その古書店『ふしぎのくに』に行った事がないハズなんですが、倉田の言う『セシャトさん』という女性と『ふしぎのくに』で会った事がある記憶があるんです」
この先生は何を言っているんだと思ったが、すぐにその思考を消した。『ワリカタ』事件に巻き込まれた人々も記憶が曖昧な者が多かった。
「詳しく聞かせていただけますか?」
小平が真剣にそう言うので、少し驚きながらも和也はスマートフォンの画面を見せる。それはWeb小説。
「『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語 著 言詠 紅華』という物語について僕は知らないハズなのに、とても懐かしい気持ちになるんです」
休載中というその作品、孝臣は後で読もうかと思ったがとりあえず概要を知りたいと和也に尋ねる。
「どんな話なんですか?」
「三国志の世界感をベースにしたファンタジー作品なんです」
「それは面白そうですな」
孝臣も子供の頃に三国志にはハマって漫画本を集めていた事を思い出した。それ故惹かれる題材である。
「えぇ、三国志をある程度知っていたら非常に楽しめる作品ですね。三国志に出てくる歴史上の人物と同じ名前の人が別の役割と使命を持っているんです……伝わりにくいですかね?」
「いえ、続けてください」
さすがに孝臣もまたWeb小説を何作か読んできた。あれらは作者のオリジナリティが良くも悪くも伝わってくる。孝臣自身小説なんて書けないので凄い物だと心底思っている。
「三国志をベースにしているんですが、和風の物語で、鬼を題材にしているです。でも鬼という存在があの角を持った化物というだけじゃないんですよ。ここは読んで頂きたいんですけどね!」
うんうんと孝臣は話を聞いていて、しまったと思う。何故ならこの作品の事ではなく、和也の記憶について……
「宮藤先生、その話はまた後で」
「そうでした! ははっ、不思議ですね。Web小説という物は何故かハマってしまうとこう前が見えなくなります。だから倉田の奴も必死に読んでいるんでしょうか?」
孝臣はこれに関しては、一つ答えを持っていた。孝臣が刑事時代に幾度となく経験してきた事。刑事も犯罪者も似通った者がいるという事。
犯罪者と同じ思考回路にたどり着く時がある。
自分ならこうするだろう。
Web小説は編集や校閲は入らない。作者のストレートな表現や文章で書かれている為、より読者は受け止める。
中毒的に合う。
あるいは、全然良さが分からないと言った具合であろう。
そして和也はこの『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語 著 言詠 紅華』を中毒的に好んでいるという事。
今思えば孝臣は古書店『ふしぎのくに』を調べるようになってこの中毒的に作品を愛する人々に出会ってきた。
「宮藤先生は『ワリカタ』事件ご存知でしょうか?」
「はい、私も随分小さい頃でしたけど集団催眠事件という程度ですが……」
「宮藤先生、私はそうは思わないんですよ! この事件は『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語 著 言詠 紅華』の世界で鬼が使う異能力のような物ではなく。人間の悪意が働いたんではないかとそう睨んでおります。ですので、何か覚えている事を何でも教えてください」
孝臣の真摯な態度に宮藤は協力してやりたいと思ったが、宮藤にはやはり古書店『ふしぎのくに』に関わった記憶はない。
「少し、オカルトな話になってしまいますが、私が再開を楽しみにしているこの小説『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語 著 言詠 紅華』は偽りノ陽ノ物語。という題名です。これは偽りの日と解くのか? それとも偽りの陽。即ち陰の物語。陰とは鬼を意味します」
さすがは学校の教師だなと孝臣は思った。この宮藤の見解。それは自分には関係のない事かもしれないが、続きが気になってしかたがない。
「偽りの鬼。これはどういう意味なのか、あるいは偽りの日と偽りの鬼はかけられているのかもしれません。偽りの日の鬼(陰)の物語。もしそうであれば私には思い出があるんです。私ではない私の陰の物語が」
そこから孝臣が聞いた話は、まさにファンタジーとしか言いようがなかった。友達のいない和也は自分の頭の中で作った友達。『和』。自殺未遂で意識不明だった和也の代わりに古書店『ふしぎのくに』へ通っていたと……
「そんな馬鹿な事が……いや、そんな事でも可能性として考えなくては『ワリカタ』は追い詰められない。もし、それが事実なら宮藤先生は臨死体験をしていたという事ですか?」
三途の川のようなところが古書店『ふしぎのくに』なのか? なら秋文は死にかけているのか? あるいは子供はそう言った者や場所が見えると聞いた事がある。
馬鹿な! 馬鹿な!
『ワリカタ』が超常現象の類なら捕まえる事なんてできやしない。
混乱している孝臣を見て宮藤は水を差しだす。
「大丈夫ですか? やっぱり、おかしいですよね! 大の大人がこんな事言って、でも小平さんが追ってるような悪い物という感覚が私にはないんですよ。とても懐かしくて優しくて、時々厳しくて、変にこの作品を否定する『和』を叱ってくれたり。懐かしいんですよ」
宮藤の目は潤んでいた。
それが嬉しい涙である事を孝臣は今までの経験で感じ取る。そしてそうなのであれば、孝臣の中で一つの過程が導き出される。
「となると、古書店『ふしぎのくに』と『ワリカタ』は全く関係がないのかもしれませんな」
あっけない幕切れ、それはもう孝臣に『ワリカタ』を調べなくてもいいと、非業の死を遂げた少女からのメッセージのようにも思えた。
孝臣は、和也にお礼を言うと別れた。
本当にここが引き際なのか、それをじっくりと考えたかった。
『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語 著 言詠 紅華』この作品を読みながら、この作品情報を集めていく。
そこで、孝臣はある事に気づいた。この作者……『ワリカタ』についての小説を書いている。これは何かの偶然か……
「この作者、『ワリカタ』を知っているのか? 違う。15年前の『ワリカタ』事件を模倣した遊び? なんと不謹慎な……しかし、なんとも不思議な作品を書くんだ」
言詠紅華氏の作る世界感はまさに御伽噺である。それもしっかりとしすぎた分かる人にしか分からない深い知識を要している。
それ故、意味が分からないと思う読者もいるだろうが、孝臣は理解できる側の人間だった。
最新機器の理解は低いが、仕事柄いろんな言葉や知識を勉強する必要があり、逆に深読みをさせられ混乱する。
「ははっ、なんだこの物語。毎回なぞなぞみたいだな」
笑いながら作品を楽しんでいると、孝臣は自分なりに『ワリカタ』について考えていた。
とあるオフ会で現れた集団失神を起こした存在。
その参加を促した者はゲストではなくキャストだったんじゃないか? オフ会参加者達の資料をもう一度目を通したい。
孝臣の知る情報その全てが、『偽りノ日』の話なのではないか?
信じたくはないし考えたくもないが、今孝臣は何等かの深淵に足を踏み込んでいる。オカルトでなければ大きな組織がバックに存在しているだろう。
「もしかして、警視庁は『ワリカタ』の存在を知ってるんじゃないか……ってのは考えすぎかな?」
何もかもが信用できなくなってきた自分を律する。疑う事は簡単で楽だ。だが、確実でない事を疑うのは投げやりな人間がする事。
確実に証拠を押さえて、そして疑う。
「そうやって、みんな捕まえて来たじゃないか……子元のように大人として責任を誰かが持たないとな! こいつカッコいいな! 俺もお前さんみたいになりてぇよ!」
孝臣は行きつけの立ち飲み屋に向かうと熱燗を二杯頼んだ。そして手に持ったグラスをテーブルに置いているグラスにコツンとつける。
それは自分と子元への一杯。
「俺の奢りだ。やってくれ」
外から見ると大分痛い姿だが、孝臣は世界感に浸り、そして再び『ワリカタ』を追い詰める事を決意する。
『三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語』著 言詠 紅華 今回の紹介小説ではまだ休載中となっていますが実は再開が始まりました^^ 満を持して再開された物語、チャンスですよぅ!
孝臣さんも仰っているように、少し難しい言葉や表現が多いです。当方もよく知っていましたねぇ!
というような事も沢山でてきますので、是非是非 三國ノ華を一度読んでみてくださいね^^