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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
最終章 『セシャトのWeb小説文庫2018』著・ ????
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第三話 『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』

少し前まで、初夏みたいな気温だったように思えたんですが、なんでしょうこの寒さは……

冬眠を本気で考えてしまいました。色んな試みを同時に行わせて頂いております。

私のオフは1月頃まではなさそうですが、頑張りますよぅ!!

 あれから、古書店『ふしぎのくに』に関わる情報が一切入ってこなくなった孝臣、いよいよ何か物の怪に惑わされているのかと柄にもない事を考えていた。

 そういうイラ立ちも手伝って少し深い酒をしてしまった。足取りもままならない状態で孝臣はなんとか家へと帰る道のりを進む。

 こういう時、独り身である事は救われる。

 小言を言われる相手もなくこの年まで好きに生きていられる。……と考えれば寂しさも紛らわせるかと



「お兄さん、占ってあげようか?」



 突然声をかけられた孝臣が見た先、それはなんともいかがわしい占い屋だった。占い屋の『望』と書かれたそこ。

 元々こういったオカルトな事には全く興味もなく関わる気もない孝臣だったが、この日なんとなく占い屋の前にいくとパイプ椅子に腰かけた。



「占ってくれよ」



 頭は重く、身体は妙に軽い。飲みすぎたなと心のどこかで反省する自分がいたが、高揚感の方が先に立ちそう占い師に言う。



「何を占ってほしんだい?」

「『ワリカタ』の存在と古書店『ふしぎのくに』って場所」



 占い師は二十代か三十代かの男、日本語は上手いが多分日本人じゃないなと孝臣は思う。ここまで酔っていても人をしっかりと観察している自分のしみついた職業病に笑えてくる。

(不法入国者かもな)



「『ワリカタ』という存在に関しては見えない」

「なんだよそれ!」

「『ワリカタ』は時代と場所で違うみたいだ。でも古書店『ふしぎのくに』についてははっきりと見えるよ」



 占い師が筮竹を振りながらそう言うので孝臣は身を乗り出した。こんな占いで分かれば楽な話だが……



「三人、女の人が見えるね。一人は身分の高そうな女性だ。軍を率いてるのかな? 女性が多いというより女性しかいない。時としてこの軍は残酷でそして尊い。もう一人は大人しそうな少女、彼女は牢屋にいるね。何かしてはいけない事をしてしまったようだ。あと一人……人間ではないかもしれない。人の姿をした何かだね」



 小さなしゃっくりを繰り返しながら孝臣は尋ねる。



「三姉妹か? だったら蛇だろ?」

「ヘカーテ、ゴーゴンの事かな? でも違うようだね。一人は人間じゃない、他二人はどうも時代が合わないように思える。いや、片方は存在していないのかな? よく分からないな。見えるのはここまで二千円だよ」



 高いなと想いながら孝臣は二千円を払う為にポケットに手を入れた時、スマートフォンを落としてしまった。保護シートやケースに入れていたのでガラス面が割れる事なく安堵する孝臣。占い師の男はそのスマートフォンに写し出されている画面が、Web小説の投稿サイトである事を見るとこう言った。



「最後はおまけだよ。そのスマートフォンで『殷王妃・婦好戦記〜巫女軍師は中国史最古の女将軍とともに中華に戦う〜・著 佳穂一二三』を検索してごらん。そこにお兄さんの知りたい何かがあるかもね」



 二千円を受け取ると占い師は素早く占い道具を片付ける。遠くを見ると見回りの警察が……


(そういう事か)


 孝臣は帰るとシャワーを浴びて、水分を乾かすとそのままベットへ倒れ込み意識を失った。


 翌日は『ワリカタ』事件の資料をもらう約束を知り合いのジャーナリストとしていた。ジャーナリストを待つ間に孝臣は記憶の中に残っている『殷王妃・婦好戦記〜巫女軍師は中国史最古の女将軍とともに中華に戦う〜・著 佳穂一二三』を読む。ファンタジー小説というものに随分耐性がついてきた孝臣だったが、この話はいくつか楽しめる部分があった。

 やはり古代中国はロケーションとしては興味を持つ。成程、これは女の子が書いた話だなという点もいくらか感じ取れたが、中々にハマる。コナコーヒーを一口飲むと、孝臣は加熱式タバコを取り出した。 本来彼が吸っているタバコはロングピース。煙も含めて好物だったが、今のご時世煙が出ないたばこであれば吸える店という物が多い。

 どうもあの何らかの穀物臭のする加熱式タバコには抵抗もあったが、やむなし咥える。そして婦好とサクが活躍する物語にへと視線を向けた。

 そしてふと孝臣は気づいた。



「ふふっ、やられた。あの占い師。この物語の話をしていただけか」



 よく出来た小説故、世界観にハマっていた為、気づかなかったが昨晩占い師が言っていた女性が登場している。 

 悔しいというより、酔った自分を狙い上手い事話しを繋げたんだなといい勉強代を支払ったと思い。ため息をついた。

 二杯目のコナコーヒーを頼んだ時、まだ使い慣れていないスマホが着信する。それに出ると本日会うハズだったジャーナリストに用事ができてしまったという事で後日に埋め合わせとなる。



「俺との用事は用事じゃないってか、しかしこのコナコーヒーっての。不味いな」



 孝臣は苦めのローストを好んで飲む。ウィンナーコーヒーやバター珈琲なんてものは軟弱者が飲むコーヒーだと信じて止まない。

 そんな中飲んだコナコーヒーは異次元の飲み物。

 それだった。

 平日の午後、主婦層がお喋りをしていて時折、サラリーマンが忙しく珈琲を飲んで出ていく店内。

 モデルのような男の二人組が入店した。大学生くらいか? 一人はラフな格好、もう一人は日本という国には似つかないモーニングを着こなしている。

 一人は銀髪、もう一人は黒髪。

 二人に共通している事は日本人ではない。最近は男なのに綺麗な顔をした子がいるものだなと思う。



「バストさん、何食べますか?」

「ぱんけーき」



 この二人はまさかデキているんじゃないか? というくらい銀髪の男の子が献身的にバストと呼ばれる男の子の世話をする。こんな二人を見ていても何も始まらないかと孝臣は店を出た。 

 その時、この二人の会話が偶然耳に入った。



「バストさんが5月に書かれた作品、あれ実に面白いですね! 作者のお嬢様からは火あぶりなんて言われちゃってますけど、ふふ」

「『婦好戦記』面白いよな……あれ、結構……というか滅茶苦茶贔屓して書いたんだけどな。失礼な事をした。すこし反省」



 『婦好戦記』、これはあの占い師が言った作品と同じ物だろう。それだけ人気のある作品なのか? 孝臣にとってはWeb小説自体最近知った。

 実際、本作は人気のある作品である。

 古書店『ふしぎのくに』が紹介するに至った理由も確実に人気が出る作品であると、このバストが別の候補作品を蹴ってまで推薦したのである。

 当然そんな内内の情報を知りえる者は誰もいない。



「『殷王妃・婦好戦記〜巫女軍師は中国史最古の女将軍とともに中華に戦う〜・著 佳穂一二三』を読んだせいか、昼は中華でも喰いに行くか」



 スマホを胸ポケットに入れると孝臣は適当に歩く。随分自分が刑事時代よりも街並みが変わったなとふと足を止めた。


『太公飯店』


 比較的新しい中華料理屋。中華料理と言っても日本独自の進化を遂げた台湾料理ベースの中華なのだが、あれでいて実に美味い。

 棒棒鶏のディスプレイにごくりと喉がなった孝臣は物怖じする事もなくはじめてのその店に入った。

 ガラガラと音のする扉、またなんとも懐かしさを感じるそれに変な感動を覚えながら店内を見渡す。綺麗に掃除が行き届いた店に少しがっかりした。

 孝臣が現役で若い頃は中華料理屋は大抵、清潔感に欠ける店が多かった。

 そういうお店程美味いという謎のジンクスが今尚孝臣の中で生きていたが故の期待外れであった。



「いらっしゃいませー」



 注文を取りに来た男。孝臣には見覚えがあった。



「占い師の!」



 男はやっちまったという顔をしてから、不自然なスマイルを見せて「メニューどうするアルか?」

 と別人を装う。それに孝臣はパンチの効いた返しをした。



「『婦好戦記』面白かったよ。あの時代、政と戦をこなした女性は婦好以外他にはいないんだってな?」

「いやいや、いるアルよ!」

「その話し方はもういい。占い代は別に返さんでも構わん。それより、他にいるってのは誰なんだ?」



 メニューと言われるので、孝臣は焼売定食を注文。それを受けて厨房に戻る前に男は聞いた事もない名前を述べた。



「ハトシェプストだよ。女性でありながらファラオ。婦好よりも和平交渉に長けていたのか、戦争はあまり行ってないんだけどね」



 中国じゃないのか、というのが孝臣の本音。歴史を見ても女性がたまに統治する世界は存在する。しかし、そういった女性はだいたい気性が激しい。



「こういう人は生まれる性別を間違えてきたのかね?」



 大きな中華鍋を振りながら「さぁ、どうだろうね」と男は返すので、焼売定食が運ばれてくる間。スマホを開き古代中国に意識を這わせた。



「お客さん、ちょっと眠たくなってきたので、焼売定食ここに置いとくから勝手に持って行ってよ」



 なんて非常識な店と店員だと孝臣は思ったが、空腹も抑えられないので、言われた通り焼売定食を取りに行く。奥で男が眠たそうに欠伸をしているのを見て、この店は大丈夫かと孝臣は呆れた。

 行儀が悪いのは分かっていたが、小説の内容が気になって片手で操作をした時、孝臣は全然違う画面を開いた。そこは『殷王妃・婦好戦記〜巫女軍師は中国史最古の女将軍とともに中華に戦う〜・著 佳穂一二三』のイラストがいくらか見える。



「ミュシャの絵みたいだな」



 そう言って一つ食べた焼売の美味さ。これはあたりだったというのが孝臣の正直な気持ち、ご飯をお替りしたいが、男の気配はしない。呼んでも全く反応しないので、孝臣はテーブルに食べた料金を支払って店を出る。

 今日の収穫は前日だまし取られたお金を払った奴が働いている中華料理屋で飯を食った。

 ただそれだけ、孝臣の『ワリカタ』探しもまた初めから、ただし孝臣は一つ忘れている事があった。占い時に一人、人間ではない何かがいると言った言葉を……。

孝臣さんは会った方は、あの方なんでしょうか? それとも違う方なのでしょうか?

今回は『婦好戦記 〜古代殷王朝の戦う王妃と乙女だけの巫女軍〜 著・佳穂一二三』さて、5月のメイキングについても少し語られていましたね^^

読者の方もまだ読まれていない方も最初から楽しんでみてはいかがでしょうか?

さて、果たして孝臣さんは真相にたどり着く事が出来るのでしょうか?

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