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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
最終章 『セシャトのWeb小説文庫2018』著・ ????
100/109

第一話 『琥珀』著・FELLOW

さて、はじまりました^^ 最終章 セシャトのWeb小説文庫2018。

本作は、同時公開している『文芸部と小熊のミーシャ』とも通じる物語となりますよぅ^^

本年度、最期の作品、お楽しみください!

 小平孝臣(こだいらたかおみ)は五十になった時、警視庁を辞職した。理由は実に簡単だった。小平の追っている事件の捜査が事実上終了した為、小平はあの事件には実行犯が必ずいたととあらゆる証拠を提出したが、それは集団パニックとして片づけられた。


『不思議の国ショック』


 首謀者の名前は『ワリカタ』と名乗り性別も見た目も誰も覚えてはいなかった。七人の男女がインターネットを通じて知り合った作家の真似事をした十代から四十代までの彼らは所謂オフ会に選んだカラオケボックスで全員気絶して見つかった。


 その中の内、一人の少女は言われないの風評被害に苦しみ心を病んだ。この中の誰かがワリカタに違いないと小平は調べに調べたが、どう考えてもあと一人。

 この事件を引き起こした者が存在する。

 それはもう何年も前の話。この事件の事を知る者も少なくなってきた。

 2018年、再び『ワリカタ』が現れた。再捜査を申請したが、当然の如くそれは刎ねられる。


 小平は一つの事実を知った。十五年前にインターネットの中で存在した古書店『ふしぎのくに』それが東京某所に存在するという噂。

 そして小平は、ある小学校の正門前で一人の小学生を待っていた。今のご時世いきなり接触しては不審者と思われる為、ご両親にも元警察である事。

 どうしても調べたい事がある事。

 そんな話をして、小学生の男の子を待った。黒いランドセルを背負ったまだ少年とも少女と言えるような忠誠的な男の子、可愛いという言うべきか至って普通な印象を受ける彼、小平は自分にも子供がいればこのくらいなのかなとそんな事を考えていた。



「やぁ、秋文君。今日はすまないね!」

「小平のおじさん、こんにちわ!」



 太陽のような眩しい笑顔を見せる秋文。その後ろから秋文の担任の教師がやってくる。宮藤和也。

 秋文に引率としてついてきた。これは秋文の両親の条件であった。小平の車内で小平は和也に頭を下げた。



「先生、この度はお手数をおかけします」

「いえ、それではいきましょうか?」



 何処で話をしようかと見渡したところ、ジョナサン。所謂ファミレスが目に入ったので小平はそこにしようかと考えたが秋文に何か食べたい物はあるか? と聞いてみると、恥ずかしそうに一件のお店を言った。



「フレンチトーストが美味しかったってセシャトさんが言ってたので」



 外国の友人かなと小平はナビで言われた住所を入れるとマルイのすぐ近くである事を知り、コインパーキングを探した。

 お店は落ち着いた雰囲気、そして秋文が言うようにフレンチトーストを食べている女子高生やOLの姿。なんともこんなところに入り慣れていない小平だったが、席につくと珈琲、そしてフレンチトーストを三人分頼む。



「秋文君はその年で珈琲飲めるんだね? おじさんは高校生くらいになってからだったかな」

「えへへ、古書店の店主さんが美味しい珈琲を飲ませてくれるから大好きになっちゃいました」



 談笑もこのくらいにして、小平は秋文にいくつか質問を投げかけた。

 ここ最近、『ワリカタ』という名前を知っているか? ダンタリアンと名乗るブロンドで色白の女性を知らないか? そして小説や物語で不思議な体験をしなかったか?

 運ばれてきた珈琲を香りから楽しむ秋文は一口珈琲を味わうと、首を横に振った。



「ワリカタは分からないです。ダンタリアンさん? も知りません。でも僕は今年、素敵な物語に出会いました」

「へぇ、それはどんな?」



 小平は警察だった時のカンから、何かが釣れたとそう確信した。



「『琥珀』著・FELLOWという作品です。サスペクトパシーという感染性精神疾患にかかった女の子と、その女の子の学友の男の子のラブストーリーです」

「えらく難しい物語を読んでいるんだね?」



 琥珀においては明らかに秋文の年齢で読むには少々、難しい表現やショッキングな内容が多い。小平はあまりラブストーリーという物に興味を持つ男ではなかったが、その感染性精神疾患に関して異常に興味を持つ。



「その話はどうなるんだい?」

「一度読んでみる事をオススメします」



 セシャトのように人差し指を上に向けてそう言ってみた秋文だったが、小平は苦笑してからこう言った。



「オジサンはちょっと時間がなくて簡単にあらすじを教えてくれないかい?」

「文学が好きな霧島さんとそら太君の日常から始まるんだ。学生特有の焦りや、葛藤やそんな中である時、霧島さんは自殺未遂をします」



 それに反応したのは小平ではなく秋文の担任。和也だった。



「倉田君、そんな本を読んでいたのかい? 何故?」



 生徒を預かっている教育者の和也にはそれは見過ごせない発言だった。子供達は大人が思っている以上に子供ではない、そして驚く程には子供なのだ。彼らを制御する事は学校の教師にも両親にも不可能に近い。

 何か、倉田秋文が悩みを抱えているのではないか……

 問いただす和也に秋文はとても満ち足りたような表情をしてこう答えた。



「この作品は、とても悲しいです。僕ははじめて読んだ時、先を読めなくなるくらい泣きました。でもそれと同じくらい大切な何かを教えてくれたんです」



 小学生にここまで言わせる作品。

 和也は途中から秋文達の小学校に転任してきた。話には聞いていたが、秋文は子供が書いたとは思えない読書感想文を提出したという。

 だが、その本は書店にも図書館にも存在しえない作品だった。気にも止めていなかったその読書感想文を書いた作品。



「それは、倉田君が考えた物語なのかい?」



 小平の質問に対して、秋文は年相応の可愛い微笑みを返した。そして左右に顔を振る。なんと愛らしい否定なのかと小平は思う。



「オジサンはスマートフォン持ってますか?」



 小平は古い男。今尚使っているのはガラケーだった。それに困る小平に察した和也は自分のスマートフォンを取り出す。



「もしかして、倉田君。この作品も……」

「うん、Web小説だよ」

「うぇぶ小説?」



 またしても小平の分からない言葉、小平は心底後悔した。警察時代自分は新しい技術に対してアレルギーを起こしていた。もっと、苦手な事でも手を出しておけばよかった。

 そうすれば、あの少女の無念をもっと早くはらす事ができたのではないか?

 小平は恥など感じていなかった。立ち上がると秋文に頭を下げる。



「倉田君、それは一体なんなんだい? 私も見る事ができるのかな?」



 そもそも、こんな小学生に説明をさせようだなんて考えが甘えだったのだ。もし、この少年に『ワリカタ』の牙が襲い掛かったら自分は全てを後悔する。

 小平の行動は店内でちょっとした注目になった。和也はどうすればいいかと思ったが、秋文はニコニコと笑ってこう言った。



「大丈夫だよ! Web小説はいつでもインターネットを使えば見れるよ! ね? 先生」



 和也はこの秋文に教えられたWeb小説を読みふけった時期があった。その小説は更新こそ止まっていたが、自分にかけがえのない友人を思い出してくれた。



「ああ、そうだね」



 小平は和也のスマホを借りて、『琥珀』著・FELLOWを読み進めていた。それは何処かで読んだ事があったかもしれないような小説。

 正直活字なんてものは事件の新聞記事とかそんな物しか読まない……が遥か昔、学生時代に小平も小説は何冊か読んだ。それがミステリーだったのか、ホラーだったのか今となっては題名も思い出せないが……



「面白いな……作者は破滅願望でもあるか……」



 そこはかとなく感じる死臭、そして終わりへと始まる物語に感じて素直に小平は、もしかするとWeb小説をよく読む者より正直な感想を感じたのかもしれない。

 作品を楽しめる感性がある事に秋文は喜ぶ。



「でしょ! もし、もっと他のWeb小説を楽しみたかったら古書店『ふしぎのくに』のセシャトさんに教えてもらうといいですよ!」



 不覚にも小説に意識を持っていかれていた。なんとか霧島を壊れさせないようにと奔走するそら太には涙腺が緩んだ。

 そして少し反応が遅れて秋文に聞き返した。



「今、なんて言った? 古書店『ふしぎのくに』とそう言ったのかい?」

「うん! さっき言ったセシャトさんが凄くWeb小説に詳しいから」



 話し込んでしまっていて十八時を少し回ったところだった。それに気づいた和也が小平に申し訳なさそうに申告する。



「時間も時間ですし、倉田君をご自宅に帰らせたいのですが」



 小平はこの情報は絶対に持って帰らないといけない。そう思ってこう言った。



「今からそこに行けませんか?」

「多分、もうお店が閉まってると思いますよ」



 閉まっているのであればしかたがない、小平はメモとペンを取り出すと詳しい場所を秋文に教えてもらう。

 秋文を家の近くで降ろすと和也と共に手を振ってくれる。そんな二人に小平も手を振り返す。誰もいなくなった車内でタバコに火をつけると、セシャトという人物がダンタリアン。即ち、数年前にあの事件を起こした『ワリカタ』なのではないかとそう考えていた。



「魔女め。絶対に捕まえてやる」



 小平は事件に一歩近づいた安堵感からか、何処かで一杯飲んで帰ろうかと思った。そして、先ほど秋文に教わったあの作品の続きがどうしても読みたい衝動に駆らている自分に少しおかしくなる。



「ふふっ、俺も『ワリカタ』に目をつけられたか……いや、久しぶりに読書をしたから高揚しているだけだ。この世の中にオカルトな事は存在しない。事実は得てしていつも残酷で、そして純粋なものだからな」



 小平はメモを握り締めて、とりあえず明日ガラケーを卒業してスマートフォンに買い替えないといけないなと思った。

 まずは『琥珀』著・FELLOWの結末を読み終えて、鬼が出るか、蛇が出るのか……古書店『ふしぎのくに』へと足を運ぶ事になる。

 師走。それは年が変わる準備をする末月、今年最後の古書店『ふしぎのくに』への一人のお客さんが足を運ぶ。

『琥珀』著・FELLOW はじまりはここからでした。何とも物悲しいストーリー、まだ読まれていない方は是非、冬の長い休みを使って読んでみてくださいね^^


ダンタリアンさん、果たして私と同一人物なんでしょうか? そして再び『ワリカタ』さんのお名前が出てきましたねぇ^^ 

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