ボクっ娘幼馴染と放課後の日直
「さようなら」
「さようならー」
ホームルームが終わり、下校時間を迎えたのでうちの高校の学生たちはぞろぞろと一斉に帰宅、あるいは自分が所属する部活動に向かった。普段なら俺もその波に乗って帰宅するところであるが、今日は帰りたくても帰るわけにはいかない。皆が次々に教室を出て行くのを指を加えて見送る中、残ったのは俺と先生、さらに女生徒が一人だけだ。
「それじゃあ大木くん、片山さん、日直のお仕事お願いね」
「はい」
「はーい」
うちの担任である女教師が俺たち二人の苗字を呼ぶ。俺たちが返事すると同時にその先生も教室を出て行ってしまった。そのため当然この場は俺と女生徒の二人だけとなる。残った俺、大木裕太と、俺と一緒に名前を呼ばれた女子生徒、片山リョウは、今日この教室の日直の担当となったがために、こうして遅くまで残る羽目になってしまった。高校一年生の俺たちにとって今日は初めての日直だったが、現在のところそこまで問題はなく仕事をこなすことができている。日直に渡される学級日誌にも仕事内容が書いてあるし、これを読んでおけばまあ仕事で悩むことはない。そもそも高校生の日直と言ってもやることは中学時代とほぼ同じだ。
同様に日直の仕事の一つであるホームルームの進行もたった今終えたので、残すは放課後だけである。こうなると俺たちも解放間近だ。
「もうすぐで終わるね」
俺の隣で女生徒が話しかけてくる。俺と同じ日直である片山リョウだ。ここまでスムーズに仕事をこなせたのも、俺と同じ日に日直を任された相手が幼馴染であるリョウだったからだ。これが話したことのないような女子が相手ならもう少しギクシャクしていただろう。幼馴染はこういう顔見知りが少ない場所で役に立つ。
「ああ、一応仕事は残ってるがもう簡単なものしかないだろ」
俺が気楽に答えると、幼馴染は腕組みをして不敵な笑みを浮かべる。
「いや、ここからが本当の試練かもしれないよ?例えばこれから誰も生きて帰ってこれなかったダンジョンから最深部にある秘宝を持ってこいとか」
「だとしたらお前がやってくれ、俺は今日歯医者あるからパス」
俺が突き放すとリョウは「もっとノってきてよー」と文句を言ってきた。リョウのいうことが事実だとすれば、日直は全員その試練を受けることになるので、日に日に生徒の数は減るはずだ。ボケにしたって完成度が低いので、その分俺も適当な返事をしたまでである。
とまあこういう感じで俺の幼馴染のリョウは時折こういうボケというかネタを挟んでくる。仲のいい俺にだからこそ、そういうことやるというは分かるのだが、付き合わされる方は少し面倒だ。
よって俺はリョウに茶々を入れられる前に早速仕事に取り掛かった。まずは汚れた黒板を消そう。
「……む」
黒板消しで綺麗にしようとしたが、黒板を拭いた後に白い粉の跡が残ってしまった。黒板消しの裏を見ると白い粉がたくさんついていて汚い。こんなものではいくら拭いたって無駄だろう。
「リョウ、黒板消しが汚れてるからこれを掃除をするぞ」
黒板消しの裏側をリョウの前に突き出す。
「あ、黒板消し綺麗にするの?ボクそれ好きなんだー」
なぜか興味津々である。黒板消しの掃除が好きとはなかなか狭い趣味の持ち主だ。女子高生が言うことじゃない。まあ楽しくやってもらえるのなら都合がいいが。ついでに説明しておくとリョウは自分のことを『ボク』と言うが、これは当時の俺の一人称を真似たからだ。俺はそれが恥ずかしかったので間も無く一人称を俺に変えた。一方でリョウの方は『ボク』が気に入ったらしく、今でもそれを使い続けている。そんなことは今はどうでもいい話なのだが。
「じゃあ、黒板消しクリーナーはそこにあるからこいつの掃除はお前に任せていいか?」
「え?」
なぜかリョウは絶望に打ちひしがれたような顔をした。さっき好きだって言ったのに。
「このヴイィィィィンのやつ使うの……?」
どうやら黒板消しクリーナーがお気に召さないらしい。というかヴイィィィィンのやつとは黒板消しクリーナーを指しているのか。俺がさっき黒板消しクリーナーって言ったんだから擬音で表現しなくても名前わかるだろうに。無駄に音の再現度高くしやがって。
「そうだけど何か問題あるのか」
「ボクこれ使うんじゃなくて窓でパンパンってしたい」
リョウは俺に向けて手を叩く動作をして見せる。どうやら両手に黒板消しをはめ、その状態で手を叩くことで粉を飛ばす方法によって掃除がしたいようだ。昔通っていた小学校には黒板消しクリーナーがなかったので俺もその方法で黒板消しを綺麗にしていたが、今わざわざそれをする必要はない。
「なんでもいいだろ方法なんて、いいからこれ使って掃除してくれよ」
「やだ、ボクこいつ嫌い。うるさいし、それと黒板消しクリーナーっていう正式名称っぽくない名前が正式名称なのが嫌」
うるさいのはともかく名前については知らんがな。文句は名前つけた人に言ってくれ。
「そんなに嫌ならもうやりたいようにやってくれよ。ただしやるなら窓の方でな」
「やったー!窓パンできる窓パンー♪」
窓パンってなんだ。壁ドンだか腹パンだかの亜種かよ。まあ、本人が楽しそうならなんだって構わないが。
「ちゃんと綺麗にしろよー」
「はーい」
リョウは威勢良く答えると黒板消しを両手にはめて窓に駆け寄った。開いた窓から両手を出してリズムよくパンパンと音を立てて粉を飛ばす。本当に楽しそうだな。
「ケホッ、コホッ」
しばらくリョウが窓際でパンパンやっていると急に咳き込み始めた。おそらく向かい風のせいで黒板消しから飛んだ粉を吸い込んでしまったと思われる。一応心配なので声をかけておこう。
「大丈夫かリョウ」
「大丈夫大丈夫、これも醍醐味だから」
イマイチ意味がわからなったが、リョウがそういうのであれば問題ないはずだ。窓パンマニアは粉を吸って咳き込むところまで楽しめるらしい。自分で言っといてなんだがなんなんだ、窓パンマニアって。
リョウがパンパンして綺麗にした黒板消しを受け取ると、俺たちは二人で黒板を掃除した。今度は拭いた場所に跡が残らず、速やかに黒板の清掃が完了する。
しかし黒板を消していると他に気になる点が見つかった。粉受けを見ると、そこに置かれているチョークはどれも短い。ここにはもう新しいチョークがないので、同じチョークが何度も使われ続けられたのだろう。
「リョウ、チョークがもうないみたいだ」
「え、あ、ホントだ。どれも短いね」
「これなんて酷いな」
言いながら俺は白いチョークを一つ掴む。それは親指の第一関節の半分ほどの大きさしかなく、消しゴムの切れ端のようだった。よくここまで使い続けたものだ。こんなもんで書くような努力するぐらいならさっさと新しいの取りに行けばいいだろうに。
「見せて見せて」
リョウが使い込んで短くなったチョークに興味を示す。さっきからよくわからんもんに食いつくな、この子は。
「ほれ」
手に持っていたリョウに向けて小さくなったチョークを軽く放った。
「えっ、わっ」
空に舞ったチョークをリョウはキャッチしようとするが、捕り損ねて顔に当たってしまう。
「うう、いきなり放らないでよ」
「すまん、顔に当たるとは思わなかった」
俺は顔に当たって跳ね返った床に落ちたチョークを拾ってリョウに手渡した。
「わあ、ほんとだ、みじかーい。これじゃチョークじゃなくてタンクだね」
リョウが口に手を当てて「ぷぷぷ」と笑う。チョークのチョーを長いの長とかけ、そのチョークが使いすぎて短くなったので、長クでなく短クになってしまったということだな。つまらないしわかりづらい。そもそもチョークって新品でも長いと言えるほど長くもない。
「まあとにかくチョークがこんな小さいのばっかだから、大きいやつに補給した方がいいだろうという話だ」
「そうだね、じゃあボクが取ってくるよ。隣の教室のやつ全部持ってくるね」
「迷惑だからやめなさい。職員室に行けばもらえるだろ多分」
朝来たら教室中のチョークが消えるってちょっとした事件だろ。そんなものの実行犯にならないでくれ。首謀者は俺にされそうだから。
「職員室に行けばいいんだね、裕太今日急いでるんでしょ?30秒でもらってくるよ!」
「いやそんな急がんでいい」
別に一刻は争ってないから、と言おうとしたところで小走りで職員室に行ってしまった。廊下は走るなと注意しようと思ったが、あれくらいの速さなら別に大丈夫だよな。
リョウを待つ間、日誌をペラペラとめくり、他の仕事の内容をチェックしておく。なるほど、花瓶の水を替えたり戸締りも必要なんだな。さらに日誌には過去に日直を担当した人のその授業の内容や、日直の仕事についての報告が書かれているが、当然俺たちも書かなければいけないのだろう。結構面倒臭いな。
俺が日誌を読んでいると廊下からトトトトという足音がこちらに近づいてくる。リョウが戻ってきた。
「ただいまー、何秒だった?」
「本当に早いな、それと時間は計ってない」
リョウは「えー」と頰を膨らませる。ここにストップウォッチなんてないの見ればわかるでしょうに。そもそも計ったところでサンプルがないから今のタイムが早いか遅いか比べようがない。
「それよりちゃんとチョークはもらって来たんだろうな?」
「うん、残り少なかったから緑のやつ大量に入荷して来た」
「見づれえよ」
黒板と色がかぶるじゃねえか。それと残り少ないのは消費が激しいからじゃなくて使う機会が少ないからだよ。需要と供給についてもっと勉強しなさい。
「冗談冗談、ちゃんとバランスよくいろんなの持ってきたよ。光属性、炎属性、水属性、雷属性……」
「色で言え」
なぜ属性に分けて話す。さらに言えば光属性と雷属性が紛らわしい。多分白と黄色のこと言ってるんだろうが。しかし光属性は多いのに闇属性ないのはバランス悪いな。
そんなことを思いつつ、リョウが持ってきたチョークと、短くなって使いづらくなったものを取り替えた。黒板に関してはとりあえずこれぐらいでいいかな。
「次は花瓶の水を取り替えないとな」
チョークを取り替えた後、手が汚れてしまったので廊下の流し台で手を洗いながら次の仕事をリョウに告げる。
「……うちの教室にそんなのあったっけ」
そう言う気がしていた。花瓶は教室の後ろのロッカーの上の端っこにちょこんと置かれている。誰も見ていないし、落としたら危ないので正直必要ないと思うのだが枯らすのは忍びない。いまだ枯れてないのを見るあたりなんだかんだでみんな世話してるようなので俺たちも水ぐらい替えてやるだきだろう。みんなもそんな微妙な義務感を持って替えたのだろうか。
二人で教室に戻り教室の隅に目をやると、いつものように控えめに飾られている花が視界に入った。存在感がなさすぎてアクセントにもなってない気がする。リョウは花瓶の存在を確認すると「本当にあったんだ……」と驚いている。都市伝説みたいな扱いだな。
「じゃあさっさと入れ替えちゃうね」
そう言うが早いかリョウは花瓶に手を伸ばす。俺が割れ物だから気をつけろと言おうとした瞬間、リョウが花瓶に触れた手を滑らせた。
「うわっ!」
「あぶなっ!」
花瓶は景気よくバシャンと音を立てて中の水をぶち撒けながら倒れる。そのまま転がって床に落ちそうになるが、落下する寸前で俺がキャッチし、最悪は免れた。水はこぼれてしまったが、花瓶は割れずに済んだので不幸中の幸いだろう。花も水と一緒に飛び出してしまったが、大丈夫そうなのでそのまま掴んで花瓶に入れ直した。
「うわー、ごめんね裕太」
「びしょびしょだな、リョウ」
リョウが俺に謝るが俺の方は大して濡れていない。一方でリョウはもろに水を被ってしまった。そのせいで制服が透けてしまっている。これは目に毒だ。
「濡れただけで済んだならまあいいだろう。それよりその制服は脱いだらどうだ。着替えなら体育で使ったジャージがあるだろ」
「うん、そうするね。裕太は着替えないの?」
できるだけリョウの方を見ないようにするものの、当の本人は恥ずかしがる様子はない。もう少し慎みを持って欲しいところだがこの子に言っても無駄だ。
「俺はいい、大して濡れてない」
「そう?いつもみたいに脱いじゃえばいいのに」
「人を露出狂みたいに言うんじゃない。常に服は着とるわ。冗談はいいからさっさと着替えてきなさい」
教室の外を指差すとリョウは「はーい」とケラケラ笑いながら体操着入れを持って教室を出た。女子更衣室か女子トイレのどちらかに着替えに行ったと思われる。お騒がせなやつだ。
リョウを待っている間暇なので、雑巾で床へこぼれた水を拭き取り、ついでに花瓶の水も取り替えておいた。これで事後処理は完了だな。
「あれ、水変えてくれたの?」
水を替え終わった花瓶を元の場所に戻したところで着替え終わったリョウが教室に入ってきた。そのためリョウは当然ジャージ姿だ。色気こそないが女子の体育なんて見る機会はないのでなんだか新鮮な感じ。
「ごめんね、ボクが着替えてる間に仕事やってもらって」
「気にするな、待ってるだけよりは効率いいと思っただけだから」
謝るリョウに声をかける。花瓶を倒したのがわざとじゃないことくらいわかるし責めるようなことはない。事後処理にしたって雑巾で拭くだけで済んだしな。
「ありがとう、お礼したいけどこんな格好じゃ色っぽくないよね。ブルマだったら良かったんだけど」
「ブルマの時代はとっくの昔に終わりましたが……」
リョウが知ってるのかは知らないがブルマは10年以上も前に全国ですでに廃止されている。なぜ俺が妙にブルマに詳しいのかは置いといて、うちの体操着がブルマだったらどんなお礼をするつもりだったのか、怖くて聞けない。
「そうだね、男子もふんどしじゃなくなったし」
「元々そんな時代はない」
ブルマの女子高生は実在していたがそんなおぞましいものの存在は知らん。仮にそんな格好で体育やるのなら俺は全部欠席する。と言うかなんでそんな残念そうに言うんだ。
「で、他にもう仕事は残ってないの?」
何事もなかったかのようにリョウが話を振ってくる。やっぱりさっきのはただのボケだったのか。時々この子の言うことはボケだか素だかわからなくなるから怖いんだよ。
「あるけど大したことじゃないな。戸締りぐらいだ」
「りょうかーい、あ、ダジャレになっちゃった。リョウだけに了解って」
リョウの戯言を無視して教室の窓を閉め始めた。そのあとリョウも落胆しながら教室の廊下側に向かい、窓を閉め始める。ダジャレ程度じゃ高得点はやれん。よってわざわざ相手してやる必要もない。
二人もいるので、すぐに終わると思ったが、どの窓も妙に閉まりづらい。さらに一つだけどうしても閉まらない窓がある。どうなってるんだかこの校舎は。
「この窓ずいぶん閉まり悪いな。古くなってんのか?」
無理やり閉めようとしても少し隙間ができてしまい、完全には閉まらない。これでは鍵がかけられず、戸締りができない。この窓は俺に恨みでもあるのか。それとも今夜は君を返さない的な告白か。何を言ってるんだ俺は。
「レールに埃が溜まってるんじゃないかな」
リョウの冷静なアドバイスを聞いて、引き違い窓のレールを確認する。それはそれは酷いものだった。レールの上で溜まった埃が窓と窓枠に挟まってつっかえ棒のようになり、隙間を作ってしまっている。どうりで閉まらないはずだ。
「汚いなこれ、他も全部こんな感じか」
「他の窓も閉まりづらかったしね」
リョウもそう感じていたらしい。これはすぐに掃除が必要だな。普段の掃除では教室の床や廊下を重点的に掃除していたので、窓の掃除はおろそかになっていたということだろう。だからと言ってもこれは酷いが。
雑巾を持って二人で全ての窓のレールの掃除をした。するとさっきまで閉まらなかった窓は閉まるようになる。しかし動きが完全に滑らかにはならなかったので、レールに埃が溜まっているだけでなく、建て付けも若干悪くなっているようだ。どんだけボロいんだこの校舎。
やっとこさ窓が閉められたところで、ふと時計を見る。するとホームルームを終えてから結構な時間が経っていたのに今になって気づいた。窓なんて拭いてる場合じゃなかったわ。
「やばいな、歯医者までもう時間がない」
「でももう帰れるんじゃないの?」
「いや、日誌に今日の報告を書かないといけない」
学級日誌に今日の授業の様子や日直の仕事内容について書き、これを担任に提出することで日直の仕事は終わりとなる。しかしこれを書くスペースが結構長く、今の俺にとっては結構なタイムロスとなるのだ。仕方ないからここは適当に思いついたことを箇条書きにして行を埋めるしかない。そう言おうとした瞬間、俺より先にリョウが口を開いた。
「じゃあ、これはボクが書いておくよ。リョウは先に出ちゃっていいよ」
リョウが胸を張って言う。この申し出は今の状況では確かにありがたいのだが……正直不安だ。
「書き方わかるのかお前」
「大丈夫だよ、ありのままに起こったことを書けばいいんだよね」
リョウの笑顔でますます不安になる。言ってることは間違っていないのだが何か引っかかる。しかし今はどうしようもなく、背に腹は変えられない。
「じゃあ頼んだぞ。書き終わったら先生に提出までよろしくな」
「うん、オッケー」
このやり取りの後、教室を出て日直の仕事から解放された。結局日誌にどんなことが書かれたかは、今日の俺にはわからないことだが、明日読めばいいだけの話だ。
俺はそれから歯医者に行った後、そのまま帰宅した。その日、うちのクラスの学級日誌は一人の悪魔の手によって汚されたということも知らないで。
「おはようございまーす」
日直を担当した次の日、俺はいつもと同じ時間、始業のチャイムが鳴るのに余裕があるうちに学校に着いた。教室に入って挨拶すると、入学してからぼちぼち仲良くなった生徒から「おはよう」と挨拶が返ってくる。しかし今日はいつもは聞かない声を聞くことになった。
「ねえ大木くん、ちょっといい?」
「はい?」
声がした方を向くと、その声の主はうちの担任だった。先生は教壇の隣にある教員用の事務机に座っている。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
そう言って俺を机の方へ手招きする。先生に呼ばれるような心当たりがないと言いたいところだが、懸念が一つある。昨日の日直についてだ。その件についてだろうなと予想しながらも、具体的な話までは想像できていなかったので「何の話でしょうか」と先生の元に歩みながら質問する。もっともすでに嫌な予感はしているが。
机の側までやってくると、先生は一冊の本を取り出した。学級日誌だ。予感は確信に変わる。あいつは果たして何を書きやがったのか。
「ここに書いてあること、本当なのかしら……?」
と言って学級日誌の最新のページ、昨日リョウが書いたはずであるページを開き、俺に見せた。授業中の様子についての報告は普通に書かれてあったが、日直の仕事内容について記述する箇所にはこう書いてあった。
『今日の日直の仕事:今日は裕太と一緒に日直をしました。しかし放課後になるとボクに黒く汚れたものを綺麗にしろよと言いながら突きつけ、ボクはそれをむせながらも懸命に掃除しました。この時ヴイィィィィンと振動するものを見せてこれを使えとも言われましたが、それは必死に拒絶しました。どうにか掃除を終えると、今度は突然ボクに白いものを飛ばしました。急に飛んできたので手で受け止められず、それはボクの顔に当たってしまいました。さらに小さいから大きいのにしたいと裕太が言ったので、ボクが裕太が持っていた小さかったものを大きいものにしました。それを終えると裕太は花弁に触れて「びしょびしょだな」と言い、ボクに服を脱ぐよう促しました。ボクは裕太の言葉に従い、着ていた服を脱いだのですが、最後になって裕太は「しまりが悪いな」と言い、ボクを置いて帰りました。でもボクは裕太と一緒に日直の仕事ができて嬉しかったです。 片山 リョウ』
「リョウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
読み終えると同時に叫んだが、リョウはまだ学校に来ていなかったので、本人の耳には入らず、俺の叫びは虚しく響き渡った。それから10分後に教室に入って来たリョウに、俺と誤解の解けた先生からのダブル説教を食らわせたのだった。
オチが酷いし無理やりだなあと思いました。