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1日3回、しわがきえる!?

ちょっと厨二病をこじらせてる高校2年生のおはなしです。


あたたかい目で見守ってあげてください笑


 俺の名前は紫波垣 エル(しわがき える)

 ごく普通の公立高校に通っている。


 俺は独りが好きだ。友達なんていらないと思っている。作れないんじゃないぜ? 作らないんだ。すでに俺は1年間孤独であり続けた。

 俺は孤独であることで、過酷な現代社会を生き抜く術を身につけるのだ。周りにはない、俺だけの力をな!


 そのために俺はあるルールを作った。

 それは、1日に1つ目標とする行動を決め、その日中に必ず成功させるということだ。ただし、その目標への挑戦回数は3回までだ。

 1日に3回だけ、俺に挑戦する権利がある。3回目までに目標達成出来なかったらゲームオーバーだ。

 世の中はより完璧にちかく、より効率的なものを常に求めている。俺はこの世の中で生きるため、たった3回でなんでも完璧にこなす、最強のエリート社会人になってみせる!


 さて、今日の俺の目標はカンニングだ。

 カンニングが社会で何の役にたつのか、なんてこと俺には関係ない。今日は1日に3回もテストがあるのだ。

 社会はやはり闇に満ちている。この学校という施設は子どもに嫌がらせをして、雑魚をここで振り落とそうとしているのだ。

 冗談じゃない。

 こんなところで振り落とされてたまるものか。俺はエリート社会人になる、この最終目標のためには手段は選ばねぇぜ。


 カンニングのルールは簡単だ。どんな手を使ってもいいから、自分でテスト勉強することなく、合格点を取ることだ。もちろん、先生にはばれないようにだ。

 俺は昨日、今日のカンニングのためにあえてテスト勉強をしなかった。放課後に教室で数人でお菓子を食べながら勉強をやっている奴らがいたが、あんなこと俺はしたくもない。楽しそうなふりしやがって、どうせお互い蹴落とし合うことしか考えていないのだろう。

 そんな友達ごっこをしている暇があったら独りで目標に向かっている方が断然将来のためになる。そう思って、俺はあえてゲームをしたのだ。別にたいして面白くもないが、勉強をしないための暇潰し程度にはなる。

 こうして俺は昨日から今日の目標のために努力をしていたのだ。

 テストは1限目に数学、5限目に英語の単語、6限目に地理がある。

 俺は今日、この社会の嫌がらせを華麗に切り抜けてみせる。


「キーンコーンカーンコーン」


 ちっ! くだらねぇことを考えていたら授業が始まっちまった。

 だが、心配はいらねぇ。俺には計画がある。

 1限は数学、しかも図形問題のテストだ。これが何を意味しているかわかるか? まぁ、一般人にはわからねぇだろうな。エリート候補の俺が説明してやろう。

 図形問題ということは、定規を使っていいってことだ。俺が使う定規は透明で表面がツルツルな新品だ。俺はこれを使ってテスト中に鏡を作る!

 しかも、それはとても簡単だ。テストが始まったら、まず問題用紙の裏を鉛筆で黒く塗る。そして、この黒く塗った部分に定規を重ねる、これで鏡の完成だ。黒くてつやつやしたものの反射する力を利用するのだ。

 名付けて「ブラックミラー計画」だ! これはネーミングも完璧だな。

 この計画は昨日の夜、俺が一通りゲームをし終えたときに思い付いた策だ。俺がゲームの電源を切ったとき、真っ暗になった画面には俺の顔が綺麗に映っていた。

 俺は映った自分の顔が不安そうな表情から一気に野望に満ちた、成功者の顔に変わっていくのを見てしまったのだ。

 俺はこの瞬間、明日の目標はこれで決まりだ! これで先生に怒られずにすむ! とほくそ笑んだ。

 この計画は完璧だ。隣の席は益出 キル(ますで きる)。こいつは数学が出来る。こいつの答えを見て、俺はこのマイミラーで良い未来を映してやるぜ!


「……注意は以上です。それではみなさん、テストを始めてください」


 さぁ、俺の1回目の挑戦だぜ。

 くくく、今回の目標は簡単すぎたか? これじゃあ1回目でクリアかもな。


 まずは問題用紙の裏を黒くしねぇとな。

 はっ! こんなの、赤ん坊だってできるぜ。

 ふっ、ヌルゲー、塗るゲーってな……


「ちょっと、紫波垣くん! 何をしているんですか!」


「!?」


 なに!? もう気づかれたのか!

 ……いや、俺はまだカンニングするには至ってねぇ。慌てるな。てか、みんなこっち見てんじゃねぇよ……。くそ、変に目立っちまう。

 落ち着いて考えたら、こいつは俺が黒く塗っていることに不信感を覚えただけじゃないのか? そうでなければこの発言は不自然すぎる。さすがにこれだけでカンニングだとわかる奴はいねぇだろう。

 ふっ、危うく「カンニングしてすみませんでした」なんて言いそうになったじゃねぇか。

 大丈夫だ、言い訳は考えてある。


「まったく、何を考えてるの?」

「おっとっとぉ、すみません先生。図形を描いてたんすけど、いやぁ、うまく線が引けなくってついイライラして黒く塗ってしまいました。」


 完璧すぎる! 我ながら天才的な言い訳だ。しかも自然な口調。これで騙されねぇ奴はいねぇな。


「はぁ? 何を言っているの? いいから早く定規をしまいなさい!」


「は……?」


 ……なんだ、どういうことだ!? まさかこの先公、俺がカンニングしようとしてることに本当に勘付きやがったのか……! 嘘だろ? なんて洞察力だ! これだけの情報でカンニングを予想し、さらにこの完璧な俺の芝居を見抜いたってのか! ちくしょう、俺はこの先公を甘く見すぎていたのかっ!

 まて、もう一度よく考えろ。冷静になれ。

 そうか! こいつははったりだ! このアマ、俺にかまかけようって気だな。その手には乗らねぇ。こっちも演技は完璧にこなす。高圧的な態度で、相手をひるませるんだ!


「えっと、すみません先生。どういうことかわからないんですがねぇ?」


「あなた、テスト前の注意を聞いていなかったの!? 図形は全てフリーハンドで描くように言ったでしょう!しかも、なんですかその人をなめくさったみたいな態度は!あなた、自分の立場をわかってるの!?」


 なん……だと……! 図形のテストで定規は使ってはいけないだと? そんなこと、あるわけないだろ!? ほら、周りの奴らだって……。


「!!」


 使ってねぇ!! くそっ、はめられた!

 はじめからこれが狙いだったのか! この先公、俺が定規を使ってカンニングすることを見越してそれを阻止しやがった! ……なんて奴だ。ここは素直に従うしかねぇってのかよ……。


「……ちょっと! 聞いてるの、紫波垣くん!」


「あ、はい……」


「あ、はいじゃないわよ。ほーら、さっさとしまって。はぁ、まぁ別にたいしたテストじゃないけど、ルールは守ってちょうだいね」


「す、すみませんでし……た……」





 なんてこった。最初の作戦がこうも簡単に破られるとは……。やはり、この社会はそんなに甘くないってことだな。


 ただ、あの先公、俺がカンニングしようとしたことには気がついてないのかも知れない。もしカンニングに気がついていたのたら、先生という立場上、その現場をとらえたがるはず。なんせ、社会とはそうやって人をおとしいれて成り立っているんだからな。しかし、奴はそうしなかった。それどころか、俺の間違いを注意するだけだった。


 くくくっ。間違いねぇ。俺のカンニングはばれていない! 1つ目の策は破られたが、このまま計画は続行できる! 次の手を考えて、さっさと今日のノルマを達成してやるぜ。




「はーい、終了でーす」


 ……ちくしょう、次の手を考える前にテストが終わっちまった。1限目は失敗だな……。


「では、隣の席の人と交換採点してください」


 あぁ、俺の隣は益出だったな。……っけ! あてつけみたいに完答しやがって! 気に食わねーなぁ。

「……あの、紫波垣くん。一応、名前くらいは書いといた方が良いんじゃないかなぁ……?」


 こいつ! まじで調子に乗ってやがるな! ふざけやがって、こんなやつの言うこと聞くもんかよ!!


「ぁ、うん……。そぅだね、ありがと……」


 ……今回は見逃してやる。次訳のわからねぇこと言ったらぶっとばしてやる。





 さて、俺は次の計画を考えねばならない。1回目の挑戦は失敗だ。

 まさか俺の完璧に思われたあの計画が破られるとは思っても見なかった。まさか定規が使えないとはな……。正直、絶対に成功すると思っていたのだ。


 ……だから、5限のテストについては考えていなかった。休み時間は今を省いてあと10分が2回と昼休みが40分か。授業はちゃんと受けないとだめだから、実質使えるのは昼休みだけだな。

 くそ、時間がねぇ。こうなったら正攻法でいくしかねぇか。

 よし、決めた。次の計画は地味だが成功率はまずまず、みんなやってるカンペ作戦だ。


 都合の良いことに、英単語は出題範囲が決まってる。こういうテストならカンペも作りやすい。まずは知っている単語は省いて、それ以外を全部紙に書き写すのがいいな。

 よし、いけるぞ。昼休みになったらすぐに取りかかれるように、運動部の奴らと同じことするのはとてもしゃくだが短い休み時間に早弁して時間を作ろう。

 やはり、俺は完璧かもしれないな。




「キーンコーンカーンコーン」


 よし、昼休みだ。早速計画実行だ。

 まずは単語帳の範囲を確認しよう。

 うぅ、10ページもあるのか。なかなか多いな……。まぁ、いいだろう。昼休みがあればなんとかな……る……。


「!!」


 ない。単語帳がない。そして、重大なことを思い出した。

 そうだ。俺は今朝、カンニングをするという目標のもと、単語帳なんていらないと思って机の上に置いて来たんだった……!

 なんてことだ! この俺がこんなへまをするなんて……。

 だめだ。もう絶望的だ。どうしようもない。

他に何か手はあるだろうか……?

 残り30分で、カンニングしてテストで合格点とるなんて無理だろ……。英単語は20問中16点以上で合格だ。しかも、普段勉強しない俺は多分出来ても2つか3つだろう。このままじゃ先生と親に怒られる。

 くそっ、バカなこと考えずに勉強すりゃよかった。今日の目標はテストで合格することにしておくべきだった。

 なんでゲームしたんだよ、昨日の俺……。


「どーしたの? 紫波垣くん?」


 顔を上げた目線の先にいたのは、瀬和屋 紀子(せわや きこ)だった。こいつはいつも俺の邪魔ばかりしてくる、おせっかいで世話焼きなクラスメイトだ。


「いや、別に……」


 こいつと絡むといつも俺の計画が潰れちまう。……別に悪い奴ではないし、他のクラスの連中よりは多少話しやすいし、ちょっとは頼りにもなるが、孤独に生きる俺には邪魔なだけだ。

 いったい、何の用なんだよ。


「ぇあ、な、何か用か……?」


「いや、さっきから見てたんだけど、もしかして単語帳忘れちゃったのかなと思ってさ。もしよかったら私の単語帳見る?」


 ……こいつは驚いた。単語帳を貸してくれるだと? そんな、テスト直前なのに、こいつは見なくていいのか? 普通、テスト前の休み時間は友達と勉強したいもんじゃないのか?

 いや、そういう問題じゃない。俺は孤独に生きるんだ。エリート社会人になるんじゃないか。こんなところで人の助けを借りてしまってはいけない。


「あ、勘違いだったらごめんね。でも、紫波垣くん、いつも単語テスト前は1人で単語帳見てるから……」


 わざわざ独りでとか言うな。俺は好きで1人なんだからな。やっぱりこいつはおせっかいなやつだ。

 だが、これは好都合なんじゃないか? 今借りておけばカンニングペーパー作りには間に合う。ここは素直に借りるべきか……?


「え、でも……。早乙女だって……」


「あ、私なら大丈夫だよ? もう、だいたいは覚えてるから」


 言い忘れていたが、こいつの本名は早乙女 柚だ。さすがに瀬和屋 紀子とか益出キルなんて名前の奴がいてたまるか。これは俺が作ったクラス全員の仮の名前の一部分だ。


「あ、あとね、これは内緒なんだけどさ。実は私、どの単語が出るか隣のクラスの子から聞いちゃったんだ。紫波垣くん、教えたげよっか?」


「……え?」


 まて、今こいつは何て言ったんだ? 他のクラスのやつから出題される問題を聞いてきただと!? こいつ、はにかみながら何言ってやがんだ。なかなか悪知恵が働くじゃねぇか。そんな発想俺でもなかったぞ。

 でも、これはものすごいチャンスじゃねぇか?だって、その20個を紙に書いとけばカンニング成功かつ完璧の結果になる!

 だが、こんなこと頼むのはなんというか、気が引けるというか、いや、孤独な俺にはあり得ないことだよな……。


「もぅ、そんなにびっくりするようなことじゃないじゃない。ふふっ、やっぱり紫波垣くん、真面目だよね。ほら、丸で囲ってあるやつが出るから……」


「あ、ありがとぅ……」


 ほんとにこんなことしていいのだろうか。俺は今までこんなことしたことがないんだが、みんなやっていたというのか!? 世の中は俺が思っている以上に闇が深いのかも知れねぇな……。でも、これで俺は先生に怒られない! いやいや、俺の計画が実行できる! やはり、神は俺に味方しているっ!


「……で、この20個だから。休み時間のうちに一緒に覚えちゃお?」


「ぅん、お、おう。わざわざすまねぇ……」


 ……まて、なんだと? 今「一緒に」って言いやがったのか? それは非常に困る。俺なんかと一緒にいてどうするんだよ。そんなことしたら俺がカンニングペーパー作れねぇじゃねぇか。おいおい、勘弁してくれよ。挑戦回数は3回しかないんだぜ?

 いや、満点取れたら嬉しいけど、そうじゃなくって、まて、ここは合格するべきか?

 うーん、どうすればいいんだよ……。


「……で、これは発音がちょっと変わってるから注意してね」


「あ、あぁ……」




「キーンコーンカーンコーン」




 ちくしょう! なんてこった! カンニングペーパー作れなかったじゃねぇか! なんで最後までいるんだよ! 結局、瀬和屋紀子の思い通りになっちまった。くそ、また俺の計画があいつに邪魔されちまった。しかも、20個分しっかり教えてもらっちまった。俺の孤独の時間まで奪われちまったのか。


「あ、鳴っちゃったね。じゃあ、紫波垣くん、頑張ろうね!」


「あ、お、おう。み、みせてくれてありがと……」


「いいよ、全然。また困ったら言ってね!」



 ……やっと行ったな。もう遅ぇよ! もう紙に書いてる時間なんてねぇ! もうテストがはじまっちまう。

 まてよ、もしかして合格点取れるんじゃないか? 俺、合格したことないからもし出来たら初めてだな。ふっ、俺は完璧を目指す男。ここは合格するしかないな。



「では、テストを始めてください」


 すごい、わかるぞ。いつもより確実にできるぜ。瀬和屋紀子のやつが教えてくれたところがあいつの口調と一緒に浮かんでくる。これはまじでいけるんじゃないのか?


「はーい終了でーす。じゃあ、自己採点してくださいね」



 やったぁ! 満点だ! これはすごいぞ!


 ……いやいやいやいや、まてまてまて! ダメじゃねぇか! 俺はカンニングしようとしてたんじゃねぇか! 何満点で喜んでるんだよ。くそ、これじゃあ自力で勉強した成果じゃないか! いや、あいつのおかげか……?

 いやいや、問題はそこじゃない! また計画失敗じゃないか! しかもあいつのせいで! 瀬和屋紀子め、どこまでも俺の計画を邪魔する気だな。

 あと1回しかチャンスは残されてねぇ……。

 それに、何の策も考えてねぇ!!

 これはまずい。非常にまずい。ついに俺は全部失敗してしまうのか……?


 ふと前方を見ると、少し前に座っている瀬和屋紀子がこっちを向いて、何か聞きたげに首を傾けながら、OKサインを見せている。


 テストの結果が知りたいのだろうか。

 こっちはお前のせいで計画が失敗したんだよ。

 でも、確かに満点は嬉しい。

 ……今だけあいつに合わせておいてやるか。


 俺は親指を立てて、小さく頷いておいた。





 さて、もうすぐ5限目が終わると問題の6限目がやってくる。さあ、どうすればいいだろう。ほぼ完璧だった1限と、テストは完璧だった5限。なんとしても6限で完璧なカンニングをしなければならない。


「キーンコーンカーンコーン」



 あぁ、5限が終わっちまった。さぁ、どうする、俺。あと10分で移動と計画を考えなきゃだめだ。とりあえず、まず移動教室だな……。


「あ、紫波垣くん!」


「あぁ、早乙女か」


 そうか、地理の時間は隣が早乙女だったな。

 そうだ、さっきの礼くらい言っておかないとな。邪魔されたとはいえ、満点は単純に嬉しい。


「テスト、良かったんだね。さっき頷いてくれたからわかったよ」


「あ、あぁ。おかげで初めて満点だった……ょ……。本当にありがと……」


「えー! すごいじゃん、満点! 私と一緒だねぇ。紫波垣くん、いつも合格してなかったもんねぇ」


 そういって、瀬和屋紀子はからかってくる。


「あ、はは。今日は出来てよかったよ」


 ……なんでこいつにこんなこと言われなきゃいけないんだよ。いや、でも今回はこいつのおかげで……いやいや! こいつのおかげでカンニングできてねぇんだよ! 一瞬こいつの策にはまるところだったぜ。そうはいかねぇ。俺はいつでも孤独、独りで生きていくんだ。


「あ、紫波垣くんさ、地理のテスト勉強した?」


「え、あ、あんまり……」


「あー、やっぱり! ちょっとでもやっときなよー。なんか、今回点数悪かったらペナルティあるらしいよ?」


「え? 本当かょ……」


 忘れてた! 俺はカンニングすることについて考えないといけないんだ!

 てか、なんだ、ペナルティって? まってくれ、そっちが心配で仕方ない。とりあえず、教科書を開こう。少しでも覚えないと……。違う違う、カンニングだ! 目先のことに気を取られるな! なんとかしなければ。俺の目標は完璧でなければならない! なんとかしないと!


「キーンコーンカーンコーン」


 始まってしまった。何も思い付いてねぇ。


「あーあ、時間切れだぁー」


 瀬和屋紀子が横でくすくす笑ってやがる。

 そうか! これがこいつの罠か! あぁっ! しっかりはめられちまった! 俺に喋りかけることで気をそらせてカンニングのことを考えさせないようにする気だったのか!

 俺としたことが、なんて失態だ。

 くそぅ、どうすればいい……。

 ……もう、こいつの答えをそのまま見てやるか。いや、それはあまりにもストレートすぎるか。頭を冷やせ。よく考えろ。なにかいい方法は……。


「えー、今回のテストですが、最近皆さん点数が良くないのでテストの点に応じてペナルティを設けたいと思います」


 はぁぁぁああ!? なんだと!? ペナルティだと? ふざけるなよ、なんで今なんだよ。


 ……というか、瀬和屋紀子の話は本当だったのか! くそっ、はったりと見せかけて真実か! やはりこいつなかなかの策士じゃねぇか。


「えー、ペナルティは、今回テストの点が悪かった者から順に前の席に座ってもらうことにしまーす」


「ええええぇぇ!!!」


(ええええええぇぇぇぇ!!!!!!)


 クラスがざわつく中、俺も心の中で大声で叫んだ。

 最悪だ。俺にとって前の席ほど嫌なものはない。だめだ、本当に泣きそうだ。俺は人の前にだけは行きたくない。

 嘘だろ……。俺、本当に勉強してねぇよ……。このままじゃ先頭で授業受けるはめになるのかよ。それだけは絶対に嫌だ。俺は今まで通り1番後ろで全体を見渡す位置にいるんだ。俺は孤独な存在。1番前の注目をあびる席になんて座れるわけない。

 あぁ、テストが始まる。だめだ、頭が真っ白になってきた……。


「はーい、では始めてください」



 もう、終わりだ。俺の学校生活は終わりなんだ。1番前の席に座るくらいなら学校なんてこねぇよ。これで俺のエリート社会人になる夢も終了だ。あーあ、人生終わっちまった。なんてこった。まさか地理のテストで人生終わるとはな。ははは、いい笑い者だぜ。

 きっと、瀬わ……早乙女も笑ってるんだろうな。

 もう、俺の生活は無くなったんだ。


「あと5分でーす。」


 あと5分で俺の人生も終わりか。

 あーあ、早乙女はもう全部出来てるんだろうな。俺なんて真っ白ですよ。


 コンコンッ


 ん? なんだよ?


 コンコンッ


 ……隣がうるさいな。最後の時くらい独りにさせてくれよ。

 って、早乙女かよ! くそ、笑ってやがる! やっぱり俺のことバカにしてるんだな。まぁいいか。確かにこいつは賢くてなんでもできて顔もいいしな。そりゃ俺みたいなやつはバカにしたくもなるな。


 コンコンコンッ


 はいはい、バカがここにいますよー。



 ……ん? なんだ? 早乙女のやつ、テスト用紙を指さしてるのか?


 口パクで何か言ってるのか?


(う つ し て い い よ )



 おいおい、本気かよ。さすがにそれはまずいんじゃないのか?

 だって、そりゃあ立派なカンニングだぜ?


「あと3分でーす」


(は や く !)


 とんとんと机を指さしながら、早乙女は口パクする。


 ……もう、どうにでもなれっ!


 俺は急いで早乙女の答えをそのまま書いていく。

 早乙女はこっちに少しだけ用紙を近づけている。ああ、もうすぐ全部書き終わる!


 よし、全部書いたぞ!


 俺は早乙女の顔を見た。

 早乙女はにっといたずらっぽい笑顔で、何か意味ありげにこちらを見ている。


 ……なんだろう?


 そう思ったとき、早乙女がテスト用紙を押さえていた手をさっとどけた。


「ハーゲンダッツ1週間」





「はーい、終わりー。後ろから回収してね」


 ……俺はまたもはめられた。屈辱的だ。他人の助けでテストを切り抜けるだなんて……。なんだよ、ハーゲンダッツ1週間って。1週間おごれってことか?

 でも、正直助かった。俺は先頭の席に行かずにすんだのだ。



「あ、あの、早乙女、すまなかった……」


「え? いいよ、別に。でも、今回だけだからね」


「お、おう。でも、なんで見せてくれたんだ?」


「だって、紫波垣くん、席替えの話が出たとたんにまるで人生終了みたいな顔になって動かなくなっちゃうんだもの。私もびっくりしちゃったよ」


「あ、あぁ、そうだったのか……」


「いつも何かおっきな目標を掲げてるような、野望に満ちたような、そんな目をしてるのに急にそんな風になったら誰でも驚くよ」



 目標か……。


 ん? まてよ。俺は完全に見失っていたぞ!


 そうか! 忘れていたが、俺の今日の目標はカンニングだ!!

 席替えのことで頭がいっぱいになっていたが、良く考えてみたら俺はカンニングしなければならなかったのだ。


 しかも!! それは今回達成しているのではないか!? 早乙女が見せてくれたとは言え、これは立派な犯罪、カンニングじゃあないか!


 ここまで完璧なカンニング、他にないんじゃないか? そう、ルールは簡単だった。別に先生にばれさえしなければいいんだ! 早乙女にばれたらだめだなんてルールは無かった!


 はっはっはっ!!!

 やはり、俺は完璧だ!

 やりとげたぞ! この恐ろしい計画!!


 おお。自分も恐ろしい。

 なんでも完璧にこなしてしまう、自分がな!!


 ふっ。瀬和屋紀子に少々邪魔されてしまったが、これも計画のうち! 神はやはり俺に味方していた!!


 神の声が聴こえる………3度目の正直、とな!!




「あ、紫波垣くん、なんか元気になった? いつもの感じだねぇ。やっぱりこうでないとね!」


「あ、あぁ、今回は色々とすまなかった。まぁ、これからは独りでなんとかするぜ……」


「ハーゲンダッツは一緒に食べてね」


「う、お、おう。もちろんだ。1週間おごるんだよな……」


「え、別におごらなくてもいいんだけど、おごってくれるなら、甘えちゃうよ? やったね」


「え? おごらなくていいのか……? じゃあいったいどういう意味……」


「いや、おごって」




 やはり、瀬和屋紀子は策士だ。もともとおごらせるつもりのくせに、こういうことを言ってくる。

 まぁ、いい。今回だけは許してやるとするか。


 だが、またこいつのせいで孤独の時間が奪われちまう。

 今度は好き勝手にはさせねぇ。




 今日のハーゲンダッツはいつもよりうまく感じる。


「やっぱり、一緒に食べたらおいしいよね!」


「ぇ、お、おう……」


 ただ、こいつはまた訳の解らないことを言っている。何人で食べようと食べ物の味が変わるなんてことはあるはずがない。

 瀬和屋紀子チョイスのショコラミントだが、今日はショコラの甘さが際立っているような気もする。


 ……まぁ、きっと今日改めて我が目標を再確認出来たおかげだろう。

 そうだ、俺は独りの力でエリート社会人になってやるんだ!


 俺はショコラミントのミントアイスの部分だけ多めにスプーンにすくい取り、クールな感覚を味わった。




読んで下さってありがとうございます。


こうやって自分に酔ってても、迷ったり考えたりして目標に向かえるのはとてもいいですね。

その目標が何なのかは紫波垣エルのように人によりけりだとは思いますが笑


今回の話はタイトルからできました。

なろうに出てくる広告を見てピンときて書いた感じです。

そのわりに楽しく書くことが出来たのでよかったです( ・∇・)


個人的に気に入ってるので、シリーズにするかも知れないです。


今後もどうぞよろしくお願いします( ・・)

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― 新着の感想 ―
[一言]  ここしばらく、くらげはめかぶがすきさんの投稿をお待ちしていました。そして今回も笑ってしまいました。厨二病におかされている主人公と策士のセワヤキコサンのかけあいが、テンポ良く面白かったです。…
[一言] とても面白かったです。楽しく読めました!
[良い点] なろうの広告、僕も何度か目にしましたが、それを小説にするというのは思いつかなかったので、すごいと思いました。 [気になる点] ところどころ、!?の後が空いていなかったり、…が一つのところが…
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