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一文字タイトル・1,000文字小説シリーズ

作者: 日下部良介

 突然、彼から別れ話を切り出された。

 私は納得がいかず、理由を聞き出すために彼の部屋を訪ねた。


 インターホンを鳴らすと彼がドアを開けて顔を出した。私はそのまま彼の部屋に押し入った。

「他に好きな人でもできた?」

「僕が好きなのは君だけだよ」

「だったら、どうして?」

 私が問い詰めると彼は急に窓のカーテンを開けた。

「窓から外を見てごらん」

 言われた通りに窓の外を見た。仲の良さそうな母子が見えた。けれど、次の瞬間、二人にトラックが突っ込んだ。母子は宙に舞った。

「きゃあー」

 私は思わず叫んだ。すると、彼は窓を開けて見せた。

「えっ?」

トラックに跳ねららたと思った母子は何事も無かったかのように歩いていた。

「どういうこと?」

 彼は窓を閉めるとカーテンを引いた。

「映るんだよ。その窓。未来が」

「まさか…」

 私にはとても信じられなかった。すると、彼が話し始めた。

「あの窓には人の最後が映し出されるんだ。それが明日なのか、一週間後なのか、一年後なのかは判らない」

 悪い冗談だと思った。きっと、何か仕掛けがあるのに違いない。それに、もし、本当だとして、それと別れ話とどんな関係が…。そんな私の疑念を晴らそうとする様に彼は話を続けた。

「見えたんだ。偶然だった。鏡越しに窓に映った僕の最後が。僕は近いうちに死ぬ。だから、君は早く僕のことを忘れて違う誰かと幸せになって欲しい」

 彼が死ぬ? そんなバカな事があるはずない。そんな、ふざけた嘘を吐くほど私のことが嫌いになったのね。

「解ったわ。でも、私は諦めないから」

 それだけ言うと、彼の部屋を後にした。


 翌日、テレビのニュースで母子が交通事故に遭ったことが報じられた。画面には彼の部屋の窓から見た母子の写真が映し出されていた。

「ウソ…」

 私は彼の部屋へ急いだ。


 彼は笑顔で私を迎えてくれた。

「ニュース、見たんだね」

そう言うと、窓のカーテンを開けて鏡の前に立った。

「来て」

 私は言われた通り、彼の隣に立った。そこには病院のベッドで息を引き取る彼の姿が映し出されていた。そして、その隣の私は…。


 一年後、彼に悪性の腫瘍が見つかった。その半年後、彼は静かに逝ってしまった。私は彼の言うことを聞かず、最後まで彼のそばに居た。



 子供達や孫達が私の周りを取り囲んでいる。この日が来ることはずっと前から知っていた。既に百歳を超えた私は幸せな人生を送ることが出来た。そして、最後は愛する家族に見守られて彼の元へ行くことが出来る。



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― 新着の感想 ―
[一言] ホラーというよりは、なんだか色々と考えさせられる内容でした。 大好きな彼と一緒に過ごすことはできなけれど、大好きな彼の残してくれた家族と幸せに暮らす時間を取るか、それとも・・・・・・。 とい…
[一言] 人の運命って本当にわからないですよね~。 幸せってなんだろうと少し考えてしまいました。 きっと作中の二人は幸せだったろうと思いました。
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