1 茶会の度に起こること
「坊ちゃまーー!」
どたどたと慌ただしく廊下を駆け回る音がする。
その声の主はどうやら俺を探しているようだ。
それも当たり前か、何故なら俺はそいつから逃げ出したのだから。
誰があんなフリフリな服など着たいと思うのだ。
それを着せたがるあいつもだが周りもそうだ、フリフリな服を着た俺を見て感嘆の声を上げるなど我慢ならん。
「やはり男はビシッとした服が一番だろ」
「見つけましたよ!」
声を出した瞬間、遠ざかっていたはずの足音が一瞬で消えて、次の合間には隠れていた部屋の扉が開かれた。
そこにいたのは男らしいビシッとした服を着た青年、もとい専属執事のアレンがいた。
しかもその男らしい服がまた似合っているというのが憎らしい。
俺も歳を重ねたらこいつのように髭を生やそうかどうか悩むところだ。
「出迎えご苦労。しかし俺はあんな服など着んぞ。公爵家男子たるものナヨナヨした服など着んのだ!」
「なりません坊ちゃま!あれが最先端の流行を取り入れた最高級の礼服なのです!貴族の令嬢や城のメイド達の意見を集め、坊ちゃまを着飾らせるためにどれだけ多くの職人が協力を申し出たことか!」
何と!
あんな服を作るためにどれだけ多くの人間が関わっているというのだ!
しかも俺に着せるのを分かってて手伝っただと……もはや俺に味方はいないのか!
「貴様ら……!」
「おお、震えるほどに感動しているのですね!分かってくれましたか坊ちゃま!さあ、直ぐに着替えましょう!」
余りの怒りに俯いて歯を食いしばっていると変態がにじり寄ってきた。
もはや我慢ならん!
「それほどまでに俺に女物の……女児物のドレスを着せたいかーーーー!」
「がぶるっ」
俺は憤怒の表情と共に魔力を操作して身体能力を強化すると全力で変態の顎を蹴り上げた。
並の使い手ならば轟音を立てて頭は消し飛んでいるはずの蹴りだったはずだがアレンはのけ反って吹き飛ばされる程度のダメージしか受けていない。
派手に吹き飛んではいるがダメージを逃がすために自ら後ろに飛んだのだ。
この変態のことだ、打撲すらしていないだろう。
これだから武術家は面倒なのだ!
「ふ、ふふ。どうやらお仕置きが必要なようですねえリュヌ坊ちゃま?」
ゆらりと変態が立ち上がる。
その動きにぎこちなさは欠片も無いため本当にダメージを受けていないようだ。
顔に影を落とし、捕まえた後の俺のドレス姿を想像して息を荒げているアランは紛うことなき変態である。
「いくら私といえど坊ちゃまクラスの魔法使いの全力となると骨が堪えるのですよ?他の誰かに同じことをしないよう、ここで矯正することも止む得ませんねえ」
「黙れ変態。貴様にしか全力で攻撃したことないわ!」
剣さえ抜かずに俺と対峙できるアレンは化け物クラスである。
この変態も女装させ癖さえ無ければ優秀なものの……どうしてこうなのだ。
俺は魔力操作をしたままアレンへと身構えた。
「全ては坊ちゃまのために。アレン・アストレイ、参らせて頂きます」
「受けて立つぞ。公爵家11男、リュヌ・エーデル押し通る!」
俺にあてがわれた屋敷で貴族の集会である茶会の度に行われる激闘。
これがエーデル公爵家11男、リュヌ・エーデル十歳の日常である。