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一章 母の発明(2)


 母は都内大学で物理学の教授をしており、日々学生に囲まれながら研究をしている。しかしながら肉親である僕でさえ、母は一体どこの大学の教授で、物理学の何を研究しているのかがまるでわからなかった。そして母も仕事のことを気安く家族に話すような人物ではないので、「大学教授」「物理学」以外の情報は皆無であった。


 しかし母に関しては、家族としての一面ならよく知っている。


 母は母親であると同時に科学者である。日々頭を使い、指を動かす母は、いざ息子を喜ばせようとするとその勝手がわからず試行錯誤してしまう。そして天才故に、日常生活においても、凡人が想像し得ない方向に暴走することがある。


 母は幼い僕を喜ばせようとして、単純な科学を応用した工作をおもちゃとして僕に与えた。そして当時の僕はそれを大いに喜んだ。その表情を見た母は更に喜ばせようとして、新しい作品を僕の前に出した。こうして思考を凝らした工作が次々と生まれていき、そして段々と、もっとすごい科学の応用をするようになった。


 時にはドライアイスで爆発物を作ったり、時には濃度の高い硫酸などの劇物を利用したり、時にはウォータージェットを自作して水が音速を超えたり、時には貴重なダイヤモンドを燃焼させて閃光を放ったりなどなど。今思い返してみると、とても情操教育によろしくないものが遊び道具として母が用意した。


 それに伴い、自宅の作業スペースも拡大していった。最初は部屋の一角が、一部屋まるまるに。その部屋もどんどん広い部屋へ移っていった。そしてしまいには、家を新築して地下室を設け、怪しげな機材を持ち込み始めた。


 僕はそこにきてようやく何かがおかしいことに気づき、母を止めようとしてみたはものの、全ては後の祭りであり、最早暴走した母を止めることは叶わなかった。


 こうして母は、いつの間にか当初の目的を忘れて個人発明家として目覚めていた。噂によれば、大学の関与なしに母一人で取得した特許が多数あるらしい。しかし母は僕にそういう話をしないので、その実態を把握することはなかった。


 そんな母の謎を解き明かすため、そして暴走した母を止めるため、僕は一度地下室に侵入を試みたことがある。すると警報装置が作動し、見事母に捕獲された。その際どうして入ったら駄目なのか聞いてみたところ、


「だって、驚かせたいんだもん」


 の一点張りだった。それ以来、僕は母の許可なしで地下室に近づくことはなくなった。しかし家の真下で不気味なことをされると、正直居心地が悪い。僕の中で母に対する不信感が際限なしに募っていった。


 そして辟易した結果、僕は母を遠ざけてブラックボックス化した。母に関わらないことで、僕は一般的な平穏を得る。しかし基本的に息子に対してかまってちゃんな母は、今日も愉快に地下の個人研究室に篭って何かしている。



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