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七話 森の中、白い、モフり

 キャラ紹介だけだと何かあれなんで、頑張って書きました。



 青い空と少しの白い雲、そして燦々と輝く太陽。

 まさに快晴。髪を靡く風が心地よい絶好の旅日和の今日午後十二時ジャスト。

 そんな天気の下、俺達はというと――、



「うー、まぶしーよー」

「吸血鬼か何かですか君は…」



 ほろ暗い洞穴の奥で絶賛引きこもり中であった。

 それというのも俺の旅の連れの妖怪少女ルーミアが夜行性(※使い方は間違っていないはず)の為、こんな明るい真昼間は普段就寝している時間のはず――だった。


 ――だったのだが、昨夜は朝日が昇る前に床についてしまった為、俺達は今半覚醒の状態で起きてしまったのである。


「もう大体なんなんだよー、太陽ってば一人で永遠と輝き続けてさー、あんなの無ければこの世はずっと暗いまんまなのに」

(もしそんな状況になったらこの星は死の星一直線だがな…)

 寝起きで機嫌も悪いらしく、真昼間から地球へ恩恵をもたらしまくってる恒星への不満を垂れ流すルーミア。一方の俺もそんな彼女に付き合って小一時間経つが、そろそろ頭もすっきりしてきて大分退屈になってきたな…。


「――起きちまったもんはしょうがない。ルーミア、俺は食料獲って来るけど――」

「何があっても私はここから動かないよ!」

「――さいですか」

 テコでもという表現がぴったりなルーミアの格好。壁に背を向けてまるで炬燵の中の猫みたいに丸まっている。


「じゃあ行って来るな」

「……ってらっ……しゃい…むにゃ」

 そう言って、消え入りそうな声で見送りの言葉を残したルーミアの身体は見る見ると黒い霧状の物が覆いだした。

("闇を操る程度の能力"……ね)

 闇を操る程度の能力、それがルーミアの有する能力だ。一見いかにも厨二的で強そうな能力だが、実態はただの目隠し程度の能力でしか無い。

 彼女を中心として作り出される闇の空間は、一切の光を許さない暗闇の空間だ。俺も一度入った事があるが、確かにその闇の中にある色は黒一色だったな。

 ――後は光が一切無い所為なのかあの闇の球体の中はかなり冷える。クーラー代わりに夏は重宝する代物だったりする。


(そして最大の弱点、それが……)

 前に一度あの闇の中に入れてもらった時、そこは一切の光が無い黒の空間だった。

 それはつまり中にいる者は外が見えないという事で、とどのつまり中にいる者が中にいる者を見る事も出来ない訳で、そして人間とは闇を本能的に恐れる生き物な訳で――、

(急いで外に出ようとした瞬間、思わずルーミアを掴んじまったんだよなぁ……"何処を"……はあえて考えない様にしてるが)

 それは不可抗力である。

 ただし悪いのも一方的に俺な訳だから、その後ルーミアに涙目で文字通りボコボコにされたのも――それはそれで良い思い出(?)である。




 ――っと、そうこうしてるうちに洞窟を抜けた。ルーミアじゃ無いが久しぶりの直射日光が凄く眩しい。

「……二百か三百って所かな。俺がこの時代に来てから」

 広大な自然が広がる景色を眺めながら、ふと俺はそう呟いていた。

 時間というのは気づけば早いものである……というかいささか早すぎる気もしないでも無いが。

「――よし。気を取り直して……行きますか!」

 手に一本の不恰好なナイフ、狩用の得物を持って、俺は単身森へと入っていった。


 それは何時も通りの行動で、何時も通りの日常で。


 だがしかし、今日は何時もと違う出来事、出会いがあったのだった。









 ――さて森に入って何時間が経過したのだろうか。

(ざっと二時間ちょい……ってとこかな)

 まぁ感覚的に分かっちゃいるが。

 この時代、時計なんてものは当たり前の様に存在するはずも無い。だから時間の感覚はもっぱら自身の感覚、体内時計に一任しているのである。


(――それにしても森に入って二時間だぞ……どうして動物の一匹にも出くわさないんだ……?)

 獲物に逃げられてはお終い(※色んな意味で)な為、声は立てず気配も出来るだけ消して移動しているが、何故か全く動物に出くわさない。

(この辺に人里なんか見当たらなかったし、妖怪だってこんな真昼間じゃ満足に動けてないだろうし…)

 うちのルーミアが良い例である。 ――さて、では何故こんなにも、ウサギ一匹見当たらないのか…。



「ふむ。久しぶりに、使ってみますか」

 呟いて、俺は自身の中の"異物"へと集中した。

 そしてすかさず能力を発動、"存在の有無を操る程度の能力"。今回はこれで俺は自分の中にある能力を追加する。

(そだな――"植物を除いた命を感じる程度の能力"――辺りでいいか)

 適当に生み出した能力を使い、俺は辺り一面をくまなく調査する。

(にしても、我が能力ながら何とも理不尽な能力な事だ)

 やろうと思えば世界そのものだって消す事が出来る能力だ。まぁそんなつまらない事、やらないがな。



(―――っと、反応あり……何だ、これは沢山のウサギ? …に、この反応は、妖怪?)

 俺からかなり離れた所に感じたのは、大量のウサギの群れと、そのウサギを率いる一匹の妖怪の反応だった。そしてその群れは今も、大群でまるで俺から離れる様に動いている。

(推測するに、俺からウサギ達を遠ざけてる…のかな。 なんだ、ウサギ愛好家か何かか?)

 いやそんな物好きがこんな時代にいてたまるものか。っと俺は内心自分自身に軽くツッコミを入れて、

「反応がウサギに近いな。ウサギの妖怪?いやどっちかというと妖獣ってのが正しいか――他の動物達も散り散りに反応ありだな……」

 大方ウサギ達の行動を見て、本能的に危機を察知したのだろう。動物というのもどうにも第六感というものが強い傾向にあるようだし。



 さて、ここで俺が取るべき選択肢は――一つだ。

「あの妖怪ウサギに、ちょっくら挨拶行ってみますか!」

 と言っても別に獲って食おうって訳じゃ無い。傍から見るに無害そうだし、狩りという気分でも無くなった。久しぶりにルーミア以外の誰か話したいという気持ちもある。 ――そして!

(ウサギの大群、それはつまり……超!モフり!天国!!)

 生きる為に狩りはするし、ウサギも食べる事があるが、俺は基本的に動物は大好きなのだ。

 そんな俺が、あの天国に突撃しないなんて、ありえないのだ!

(そうと決まれば、前進あるのみ!)

 俺は再び能力を使用、今度は"高速移動が出来る程度の能力"――辺りでいいかな。

 普段能力の使用を極力控える俺だがこの場合は別だった。 理由は言わなくても分かるだろう。

 俺は基本、面白そうな物には目が無いのだ。子供の頃から。


 そして俺は走り出し、数秒後、



「っ――なっ!」

 垂れたウサギ耳を生やした顔面蒼白の少女の傍に、あっという間に辿り着いていた。

「――あ、ウサ――っい!!?」

 そしてウサ耳少女の顔を眺めながら、俺はそのままの勢いで一本の太い木へと激突したのだった。













 とある森の中のとある妖怪ウサギは多少の焦りと若干の苛立ちを覚えながら、後を着いてくる野ウサギ達を先導し歩いていた。

「全くさぁ、何なの人間って。そりゃあ確かに生きてく為に食わなきゃいけないってのは分かるよ? だけどウサギは無いでしょうウサギは!」

 それは誰かに言われたものでは無い、ただの独り言だ。

 だがそんな事等お構い無しに妖怪ウサギは続ける。

「こんな小さな、小動物を手にかけようって…血も涙も無いのかねぇホント」

 はぁ、と軽くため息をつく。

 それというのも、彼女はつい先程森に入って来た人間からウサギ達を逃がす為に、今現在こんな苦労をしているのである。 ため息が出るのも当然と言えば当然なのである。

(あんなナイフでウサギ達を引き裂こうなんて……人間のする事じゃないね!)

 っと、妖怪ウサギは切に思った。

 思って、チラリと後ろを振り返る。

(あの人間の気配は……まだ消えてないみたいだねぇ、というか止まってる? 異変に気づいた?)

 キッと気配のする方を一睨みして、

「ほらアンタ達、少し急ぐよ!どうやら気づかれた様だ!」

 後ろをついてくるウサギ達に呼びかけ速度を速める。

(私達の異変に気づいて他の動物達も隠れてる様だからね、そりゃあ気づかれるか…)

 気づかれたと言っても、彼女にはさほど危機感は無かった。

 ――当然である。相手は人間、これほどの距離があれば、まず追いつかれるはずは無い。




 そう、思っていたのだが、

「っ――なっ!」

 思いの寄らぬ出来事に声すら出なかった。

 遠くにいたと思っていた人間が、人とは思えない速さで急激に接近して来てあっという間に自分達に追いついてしまったのである。



(ヤバイ! 早くみんなを連れて逃げっ――)

 余裕が焦りに変わったその瞬間だった。



「――あ、ウサ――っい!!?」

(――逃げ……ってあれ?)

 その人間は、あろう事かそのままの勢いで太い木の幹に衝突したのである。




「…………」

 一瞬、辺りを静寂が包んだ。

 木にぶつかった人間、恐らく少年と呼ばれる位の人間だが木にぶつかり、べしゃりと音を立てて倒れこんでからピクリともしない。

(……し、死んだ?―――って人間なら当然っか……でもさっきの速さは……)

 相手の得体が知れない為、次にどう行動すればいいのかが分からない。動きたくても動けない、そんなジレンマにウサギ妖怪の少女は苦い顔をして少年を見つめる。

「……えーと、生きてますかー?」

 試しに聞いてみる事にした。

(――って何を聞いてるのあたし!? そんな質問して返事なんてある訳が――)

「……い、生きてま~~す……」

(返って来た!?)

 蚊が鳴く様なか細い声が少年から返って来た。それはそれで彼女にとっては予想外の事態である。

(……生きてた――でも死にそう……うーん……って今なら逃げるチャンス?)

 ピン!っと一瞬だけ彼女の垂れ耳が縦に伸びる。

 それから彼女はすぐに後ろのウサギ達に振り返り、

「ほ、ほら行くよみんな!」

 思い経ったが即行動とでも言わんばかりに、少年に気づかれない様に少女はウサギ達を急かしたてる。

(ま、まぁあの人間の事はあたしがあずかり知る所じゃ無いし、見ず知らずの他人だし、放っておいても問題は……)

 そこまで考えて、恐る恐る彼女は少年の方を振り向く。

 顔は見えない為どうなってるか分からないが、気づくと少年はピクピクと軽く痙攣を起こしていた。

 その姿を見て、少女は戸惑う様に胸元の人参のネックレスを握り締め、ギュッと眼を瞑った。




「―――あぁもう!」

 それから約二秒後、何か吹っ切った様に少女は少年に急ぎ足で近づき、

「いいかい!今からあたしが"人間を幸運にする程度の能力"でアンタに命一杯の幸運をプレゼントするから! だからもしアンタが助かったらあたしのお陰だから!だからこれからはウサギは食べないと約束してよね!」

 少年の背中に早口でそう言って、震える手で少年に近づいた。

(一瞬……そう一瞬だけ、それで終わり!)

 そう自分に言い聞かせて、少年の背中に手を翳し、能力を発動した。

 ――その時だった。




「――ふっかぁぁぁっつ!!」

 ガバッ!っと元気よく、それまで瀕死の重傷を負った。文字通り死にかけだった少年が飛び起きたのだった。













「いやぁ久しぶりに死んだ!数十年前に妖怪に食われた時以来だったな……ってうん?」

 死から蘇生し、怪我も回復した俺がぐちゃぐちゃな状態からすっかり元に戻った首をコキコキと鳴らしながら後ろを振り返ると、ウサ耳の少女が呆然と立ち尽くしていた。

「――あぁ、アンタ俺がぶつかる前に俺の事見てた奴か!」

「――っは!? あ、あたしは一体何を!?」

 我に帰ったウサ耳少女はどうやら記憶が混乱しているらしい。何が何だか分からないという風な顔をしている。

「おいそこのウサ耳少女!」

「っひゃい!? って……あれ?」

「どうだ、俺が誰か分かるか?」

「――え? それはさっき木にぶつかった……人…間……」

 ポカーンっと再び少女は呆けた顔になる。やけに表情の変化が忙しい少女だ。

 だが、次の瞬間!

「み、みんな逃げろー!!」

 脱兎の如くとはよく言ったものだ。少女と、ついでにウサギ達が無我夢中で俺から逃げ出したのだ。

「ってな!? 何で逃げるんだ!?」

 ……流石にその反応は少し傷つく。

 想像して欲しい、見知らぬ少女が俺の顔を見た瞬間、必死に逃げ惑う姿を!俺は何もしていないしする気も無いのに!……切なさしか残らないよ。




 だがここで諦めたら全てが無駄になる。

 俺が一度死んだ事が、貴重な時間を無駄にした事が、そしてここに来た目的が!




「た、頼む! どうか一瞬でいいからそのウサギ達でモフらせてくれぇぇぇ!」

「みんな逃げっ逃げっ――って、え?」

 男が泣きそうな顔で少女に対して、モフる為という何とも下らない理由でウサギ達を懇願する。

 それはそれは俺の人生上ベスト5に入るであろう情けない光景だった。



 一話で終えるつもりが、次に続いてしまうとは……。

 人参のネックレスを持った妖怪兎……一体何因幡なんだ……(隠す気ゼロ)

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