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五話 二人の神様



 俺の身に突然起きた不可思議な出来事。

 過去にタイムスリップし、ルーミアという妖怪少女と行動を共にする様になって大体百年が過ぎた。

 この百年、俺達はゆっくりと、ゆっくりと時間を掛けて気が向くまま風の吹く方へ流れる様に放浪し、時には俺に襲ってきた妖怪から逃げ、時にはルーミアに襲いかかってくる人間から逃げ――っとそんな感じで争いとは全く無縁な生活を送ってきた訳だが、

「守樹、どうしようこれ完全に囲まれちゃってるよ?」

「そうだなぁ。どうしようかなぁ…」

 お互いがお互いに深く考える性格では無いからか、悪く言えば能天気だからなのか、無数の妖怪に囲まれたこんな非常事態でも俺達は全く焦る様子も無くそんな会話を繰り返していた。




 俺達が今いるのは何の変哲も無い草茂みの中、何時もの如く(?)、たまたま妖怪に見つかった俺は当然の流れとしてその妖怪に襲われた。 ――いつもならルーミアと二人、走って逃げるのだが今回はそうもいかなかったのである。

「おい、まだあの人間は見つけられないのかぁ!?」

「ッチ、一体何処に隠れやがった!」

「こっちにはいない様だぜ、次はあっちを見て周ろう」

 その数二十に及ぶ妖怪の群れが血眼になって俺達(正確には俺一人)を探している。


(はぁ。何時もならこんなに大量にいないからすぐに逃げ切れるんだけど……問題は数だよなぁ……)

 必死に俺を探す妖怪達を眺め軽くため息をつく、そんなに食事に困っているのだろうかあの妖怪達(ひとたち)は…。

「守樹守樹、もうさぁあいつ等全部殺しちゃわない? 守樹なら楽に狩れるだろうし、私もこの百年でかなり強くなったと思うし」

 ヒソヒソと小さな声でそう提案してくるルーミア。

 俺はそんなルーミアの頭に、無言で軽くチョップを入れた。

「アタッ!?」

「あんまり軽く"殺す"、なんて強い言葉を言わないの。弱く見えるぞ」

 子供に言い聞かせる様に昔(あるいは未来)見た漫画の台詞を少々弄って使い、ルーミアに軽く説教。 まぁ彼女も妖怪だからこんな思考回路になっているのだろうが、出来れば出来るだけ彼女には温厚な性格でいて貰いたいのだ、俺が彼女といる為にも…な。

「むぅ、だったら守樹はどうするつもりなのさ。確かに守樹ってば殺しても死なないし、人間の癖に年取らない人外だけどさぁ。痛いものは痛いんじゃないの?」

「お前は俺の事人外なんて思っていたのか、むしろそこに吃驚だよルーミア」

 いや実際人外染みてるが……これでも一応は立派な人間である。

「痛みも無くそうと思えば無くせるけど、俺は出来るだけ普通の人間に近い形の人間でいたいんだよね」

 その言葉はルーミアに向けて言ったものなのか、それとも独り言なのか、それは俺でも分からない。

「――そうだな。ルーミア」

「何?」

「走る準備は……出来てるか?」

「……へ?」

 ニヤリと笑って、数秒後、俺達は勢いよく茂みの中から飛び出した。




「いたぞあの人間だ! あの物好きな妖怪もいるから間違いねぇ!」

「よっしゃあ殺せぇぇ!」

「おいあの妖怪は!?」

「殺せぇぇぇぇ!」

「っしゃあああああああああああ!!」


 狂喜乱舞しながら、やはり妖怪達が逃げる俺達を追いかけて来る。

「ほらなルーミア! あいつ等弱く見えるだろぉ!?」

「わはは! ホントだねー守樹!」

 命からがら逃げる俺達はその状況すらも楽み逃げる。

 追う妖怪達はにやけ叫び、狂喜しながら。一方の俺達もそんなそいつらを笑い飛ばしながら走る。傍から見れば、見間違えれば鬼ごっこの類と思わそうな光景だ。




 しばらく走って、俺達は一つの鳥居を潜った。

「はぁはぁ……ここまで来ればモーマンタイだね」

「ねぇ守樹、モーマンタイって?」

「問題無いって意味だよ。にしてもルーミア全く息切れてないね」

「まぁこう見えて妖怪ですし」

 涼しい顔して答えるルーミアと頬を伝う汗を拭う俺。 こんな少女よりも体力が無い男子高校生って…何というか情けない気分になる。



「ひゃっはーとうとう追い詰めたぜぇい!!」

 そうこうしてるうちに妖怪達も追いついたらしい、唾液をぽたぽたと垂らしながら此方へとにじり寄って来る。

「全くどこの世紀末だよお前等は、というか普通に入って来たねこの神社に」

「ひゃははは! 今更命乞いしても骨までしゃぶり尽くして――神社?」

「気持ち悪い表現すんな! ――あぁそうだよ、駄目元で神社(ここ)に駆け込んでみたけど、神様とやらは助けてくれるのかな」

 他人事の様な自分の危機的状況を冷静に受け止めて言った。 正確には危機的状況になんてこれっぽっちもなってない訳だが。


「ほら俺がここに逃げ込んだ時点でお前等の負けだよ。お前達はまた次の獲物を探せばいいじゃないか」

 老婆心からか、妖怪達に警告を放ち立ち去る様に言う俺。

 ……だが、


「うっせぇぇぇえ! 神が怖くて妖怪なんてやってられるかぁぁぁ!」

「祈る神なぞありゃしねぇんだよ俺達はぁぁぁ!」

「しゃあああああああ!」

 どうやら聞き入れて貰えなかったらしい。

「……所で守樹」

「うん? 何ルーミア?」

「守樹ってここの神様と会った事あるの?」

「そんなの無いに決まってるじゃん。ルーミアが一番よく知ってるだろ」

「じゃあさ、神様に会った事は?」

「以下略」

「じゃあ神様って本当にいると思う?」

「……あー、そういう事か」

 ルーミアの言葉でようやく俺は理解した。

 ここの妖怪達も、俺もルーミアもここの神様なんて見た事無いし、そもそも神様自体見た事無い。


 つまりは本当にこの神社に神がいるのか、まずはそこからだったのだ。


「……あー、どうしようかな仕方無いかなもういいかな」

「流石にここまで来るとやるしか無いんじゃない? いいよ私は。戦闘なんて数える程度にしかやった事ないけど」

 それは俺が出来るだけ戦闘行為から離れた結果なんだろうけどなルーミア。


 そして雄叫びを上げて飛び掛ってくる妖怪達、そして構え迎え撃とうと俺とルーミアが戦闘態勢に入ろうとした。

 ――まさにその時だった。



 俺と妖怪達の間に、一本の巨大な棒状の物体が降って来たのだ。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あ、兄じゃぁぁぁ!」

「何だ何が起こったんだぁ!?」

 突然の落下物に途端に取り乱す妖怪達、まぁ当然である。

「……おいルーミア何か降って来たぞ?」

「そうだねー、あれ何だろう……柱?」

 対極の俺達はどこまでもマイペース。自覚はあるんだけどさ。




「――神社の境内で、また随分と物騒な連中じゃ無いか」




 突然と謎の柱が降ってきた直ぐ後、俺達とも妖怪達とも違う声が辺りに響いた。

 俺達と妖怪達は同時に声のする方へと眼を向ける。



「そこの連中、一度しか言わないよ。今すぐこの神社の境内から出て行きな!」

 そこにいたのは一人の少女だった。 ルーミアの様な金髪に小さな背丈、そして謎の目玉付き帽子……何あれ?



 はてさて突如出てきた謎の少女に対する妖怪達の反応は、

「――っぷ……ぶはははははは! ガキが何偉そうな事言ってやがる!」

「お子様は帰ってミルクでも飲んでさっさと寝てな!!」

「いけない子だなぁ、こんな時間にこんな怖い妖怪(オレ)達に啖呵切るだなんて!」

 全員が全員、その姿を一目見た瞬間に笑い、馬鹿にし出した。


「……ルーミア?」

「うん。気づいてるよ守樹」

 これまた対照的な俺とルーミアの反応。どうやらルーミアも彼女の違和感に気づいているらしい。




 何を隠そう、今は月明かりだけが頼りの夜の闇の世界だ。それと言うのも連れのルーミアは日光が苦手な為、行動は基本的に夜になる。もしも昼間に行動する事があるならば、何かしらの用で俺が人里に少し寄る程度なのだ。

 そして目の前の少女は恐らく妖怪では無い、幾多の妖怪達から逃げてきた俺も違いを雰囲気で分けれる程度にはなっていた。

 また目の前の少女は人間でも無い。 ――これはただの勘だが、ルーミアも同意見である事からしてまずこの勘は当たってる。



 では目の前の少女は何か?



「悪い子はぁぁ、食べちゃうぞぉぉぉぉぉ!」

 下卑た笑みを浮かべながら少女に一匹の妖怪が襲いかかった。



「……全く、馬鹿な連中だな」

 ふと隣でルーミアでは無い者の声が聞こえた。そう思った瞬間、

 パァン!と少女が両手を合わせた。

「――天誅!」

 少女のその言葉を皮切りに、少女から発せられたであろう禍々しい力の波に少女を襲おうとしていた妖怪と、その後ろに控えていた"馬鹿な連中"は丸ごと飲み込まれ、消えた。




 一人の少女が二十余りの妖怪を瞬殺する。そんな理不尽な光景を目の当たりにして俺は一つの疑問を確信へと変える。

「賭けは成功だったらしいぞルーミア」

「そうだね、守樹」

 ルーミアももう状況を把握したらしい。

 そして俺は、今度はルーミアとは逆方向にいる人物へと問いかける。

「……で、あの彼女がここの神様だとして、貴女は?」

「私もここの神さ。人間」

「……貴女も?」

 予想外の答えに思わず聞き返してしまった。

 目の前で起こった惨状からあの目付き帽子の少女がこの神社の神様だと言う事は悟った、だがまさか二人目がいるとは流石の俺でも予想外だった。

「あの最初に墜ちた柱があるだろ、あれオンバシラって言うのだが、あれやったの私なんだよ」

 得意気に言う彼女はそう言って、妖怪を一掃した少女が彼女に近づき、二人共俺達と向き直る様な位置へとつく。



「歓迎するぞ人間、私はこの神社の八坂神奈子。神だ」

「同じく神の洩矢諏訪子だ。よろしくね人間」

「……あ、はいどうも。守樹です。ヨロシクお願いしま、す?」

 何やらどもってしまった。というか神ってあの神だよな、やけにあっさりした登場に実感沸かないのだけど。

「そうか……ところで守樹、ずっと気になってたんだけど…その妖怪は?」

「ん?、私はルーミアだよ。よろしくね神様達」

 お互いに挨拶を交わした後、洩矢と名乗った神様がルーミアを指差して言った。そして俺が答えるよりも早く自己紹介を済ませるルーミア。

「そいつは奴らの仲間じゃないのか?」

 今度は八坂神の方、二人共多少の戸惑いの色が見て取れる。

 というか俺達と挨拶を交わす者は人でも妖怪でもこんな態度を取っていたが、神様も例外では無いんだな。

「えぇ、こいつは俺の旅の連れですよ。最初は成行きだったんですけど、気が合うのか気づけばずっと一緒にいます」

 俺の言葉に改めて神様ズの顔に驚きの色が見て取れた。

 これもまた、過去何度か見てきた顔だ。



「それはまた珍しい話だな……どうだ、急ぎじゃなければうちに寄っていかないか? 珍しい組み合わせのお前達の話が是非とも聞いてみたい!」

 そう提案してくる八坂神、一方の洩矢神も同意見の様に首を縦に振る。

 対する俺とルーミアは、お互いに顔を合わせて、

「――今日は野宿かと思ってたけど、これは思わぬ展開だな」

「うん。私も賛成!」

 ニヤリと笑い合い、俺達は神様達の提案に乗ることにしたのだった。



 ルーミアと守樹君のペアが書くの楽しすぎる。

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