閑話 ある日の二人
短いです。
さてさて、俺がこの世界にタイムスリップして早十年が過ぎた。
十年、それは小学生が高校生、または成人していても可笑しくは無い年月、それだけの時間の流れの中で俺の見た目は何一つ変わっていない。
理由は一つ、能力だ。
能力とは人や妖怪等が持つ希少で特別な力、それはある者の特技だったり、突如発現した超能力の類の様な物だったりと到底分類等出来る物では無いが、俺のそれは他とは一風も十風も変わった物だった。
"存在の有無を操作出来る程度の能力"、人が持つには過ぎた力だと思うそれが、俺が持つ俺だけの能力。
ある日頭の上から降って来た"ナニカ"の影響で俺はこの能力を授かり、極力使用を避けながらその恩恵に預かっている。
"老化"と"死"、俺はまずデフォルトでこの二つの存在を俺の中から"消した"。極力使わないにしても、俺はまだまだ生きていたい、だから今の俺にとってこの二つは邪魔でしか無い存在なんだ。
勿論、食事や睡眠等人間として必要な行動は全て取れる様にしている、他にも移動する時は出来るだけ徒歩、妖怪と出くわしても出来るだけ戦わず極力逃げるに徹している。
さて、ここで"妖怪"という単語が出たが、何を隠そう俺が今生きるこの時代、現代では無い。
俺が生きた時代から遥か昔、現代風に言うと今は恐らく弥生時代を生きているのだ。
何故俺がこの時代にタイムスリップしたのか、それはまだ定かでは無いが辺りは付けている。 それは能力、俺の持つ能力が原因だろうと俺は考えているんだ。
この"存在の有無を操作出来る程度の能力"は出来る事に限度なんて無く、恐らくは何でも出来てしまう、現代から過去への移動も実に簡単に出来るだろう。
では何故そんな事が起きた(※と仮定して)のか、俺が一時意識が無く、眼が覚めたら山の中だったという事も含めて何かしらの"暴走"があったのだろうと考える。
今でこそ身体に馴染んでるこの能力だが、それが初めからそうだったという保証は何処にも無いのだ。
――話しが逸れてしまった。気を取り直して……。
先程出たこの単語"妖怪"、その存在は恐らく日本人の誰もが知っているだろう。有名所では九十九神に九尾の化狐、後は鬼や天狗、ぬらりひょん等様々なモノがいる。
この世界、というか時代ではそれらの存在が常識的に存在しているのだ。
俺がいた現代では伝承・空想上の物だけとなってしまった彼らは大方の人の予想通り、人を食らい、恐怖を糧に生きている。 ――っと言っても必ずしも人を食らわねばならない、という事は無く。以外と普通の食事でも(個体差はあるらしいが)大丈夫らしい。では何故そんな事が言えるのかと言うと、俺の連れに一人、その妖怪がいるのだ。
彼女の名はルーミア。どちらかと言うと西洋風な彼女は幼い外見ながら本物の妖怪、恐怖を振りまく存在だ。
時折人間を驚かしては喜んでる所を見るに、見た目ただの悪戯好きの子供だが、立派な妖怪だ。
勿論、というか何というか、彼女は人を食べた事等無い。 俺が禁じているからという事もあるが、彼女からするとよほどの緊急時でも無い限り、普通の食事で満足出来るらしい。
さてさて、ここまで脳内にて今の自分解説ショーを繰り広げて見た訳だが――、
「……ふん」
隣を歩く金髪妖怪少女は不機嫌そうにそっぽを向いた。
――どうやら時間を掛けても状況は好転しないらしい。
(おかずの最後の一個取っただけ怒り過ぎだろこの子……はぁ、どうやって許して貰おう……)
謝罪の言葉を考える少年と、幼い妖怪少女の旅は、まだまだ始まったばかりである。