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四話 人と妖怪



「飛鳥」

「なんだ守樹殿?」

「今から俺達は何をやる事になるんだ?」

「決まっておろう――戦だ」


 飛鳥の言葉の直後、邪馬台国の兵士数百人と、数千の妖怪達との戦が今始まった。













 時間は約半日前まで遡る。

 卑弥呼の部屋で話し、そしてそれも束の間、もうそろそろ皆床に就かねばと、卑弥呼の声でその場がお開きになった直後だった。

「―――待て」

 それ程までとは違う、凛とした声の卑弥呼に俺と飛鳥は呼び止められた。

 そしてすぐさま卑弥呼は近くにある、一つの水晶へと吸い寄せられる様に近づき、

「…………飛鳥! 今すぐ中の者全員集めろ!」

「ひ、卑弥呼様。一体どうなされたのですか!?」

「―――が来る」

 突如豹変した卑弥呼と、その言葉に焦りを露にする飛鳥。

「妖怪の大群が……明日、攻めて来るぞ」

 眼を見開いた彼女の眼は、一体その時何を映していたのか。半日後、俺はそれを知る事になった。













「迎え撃てぇぇ!」

 飛鳥の怒号が戦場に響く、隊列を崩さず、訓練された動きは将棋に例えるならば、正に一人一人が金将の様な者達だ。

 兵力差は絶大、にも関わらず戦況が五分五分なのはひとえに兵一人分の力量差と、頭となる軍師の有無なのだろう。

「――っと、危ない」

 飛鳥目掛けて攻撃を放ったのは、空を飛ぶ一匹の妖怪(見た目は羽の生えた人間蝙蝠)から飛んで来たエネルギー弾の様な物を、俺は野球のバッターよろしく、手に持つ木製のこん棒で打ち返してみせる。

 打ち返されたエネルギー弾はそのまま人間蝙蝠妖怪へと打ち返され、そして見事にクリーンヒット。

「ホームラン…ってな」

「すまない守樹殿」

「いいって、それよりお前は命令に集中しな飛鳥殿」

 お互いに言葉と、そして眼で合図を交わし戦場を駆け抜ける。

 俺は常に飛鳥の傍に、飛鳥は一本の刀を手に、時には指示を飛ばし、時には自ら妖怪を斬る。 流石は軍のトップを任せられるだけの事はある、判断力と戦闘力、どちらをとっても申し分無い。


「……というか、だったら何でお前は昨日あんな雑魚(ナメクジ妖怪)に襲われてたんだよ」

「あー……あれは何というか……昼寝してたらいつの間にか回避不可能な状況に……」

 なるほど……要するにこいつは、どうしようも無い天然。という名の馬鹿、だと言う事か。



「って言ってる間に飛鳥!」

「守樹殿!」

 余計な言葉はいらない、俺と飛鳥はお互いの背を狙う妖怪をそれぞれの武器で叩きのめしそして、

「かたじけない守樹殿」

「お互い様、だろ?」

 俺達は互いに背を任せる。







 それからすぐに戦は終わった。

 結果は俺達の大勝利、大半の妖怪は殲滅し、生き残った奴らも散り散りに逃げ帰ってる。

「追わなくていいのか?」

「いい、追って余計な怪我をする位ならまた迎え撃った方が効率が良い」

「それもそうか」

 負傷者数十名(中、重傷者ゼロ)、死傷者ゼロ。







 そして、さて卑弥呼の下へ戻ろうという時だった。

「……飛鳥、先に隊の皆と帰っていてくれ」

「守樹殿? 何か用が?」

「まぁな、すぐに帰るからすぐに追いつくさ」

「? 分かった」

 それだけの会話を交わし、離れ行く隊列を眺めてから俺は後ろの茂みを振り返った。

 50メートル程進み、草を掻き分けそこにいた者をすぐに探し当てる。



「っよ、お前戦いが始まる前からずっとここにいたよな?」

「っひ!?」

 どうやら怖がらせてしまったらしい。――っというかさっきの俺見て怖がってるのか?

 見た目はさっきまでいた化物妖怪共と違って人間そのものだが、全体的に服装が黒いワンピースだが下には白いシャツが見えている、極め付けにこの子髪の毛が金髪だ金髪。

(……妖怪、か?)

 飛鳥によると妖怪にも人の形をしたものが普通にいるらしい、だから人のなりをしてても注意せよ……という事だが、

「……ねぇ君」

「ッ!」

 少し声を掛けただけでビクリと肩を震わす少女。

(何というか……罪悪感がヤバイ)

 見た目的には時代錯誤もいいとこな年端もいかない少女、弥生時代にその服装は無いわ~その服装は、的な格好である。 これを妖怪だと思わずして何を妖怪だと思うのか。


「えーと、何もしないから怖がらないで」

 とりあえず無害アピールに両手をあげて語りかけてみる。

「………」

 ジーっとこちらを見つめてくる少女、俺は次のステップに進む事にする。

「とりあえず自己紹介、俺は守樹。人間だ。君の名前は?」

「……わ、私はルーミア。妖怪……」

 やったよ日本語が通じたよ!コミュニケーションもとれたよワーイ。

 ――さてここで問題が浮上した訳だ。



 妖怪、人の恐怖が根源とされる生き物。彼らは時に人を恐怖に陥れ、そして人を喰らう。

 力には個々で差があるが、大体はただの人間では太刀打ち出来ず、今回の様な総力戦でかつ武器、それも今回の様に卑弥呼が特別に霊力(人が扱う能力とは別の力、これも個人差があり俗に言う陰陽師などがこの力を扱う…っぽい)を込めたものを使った戦いで無い限り、とりあえずは一対一で人が敵う存在では無い。

 ――まぁ全部飛鳥の受け売りだが。



 さてそんな存在の目の前の少女だが、実際俺なら今すぐにでも軽く消せる。比喩表現無しに。そしてそれを目の前の少女は眼前で俺が行った行為で理解しているだろう、だからこそこんなにも怯えているのだろうが、

「じゃあ質問、君生まれて何年?」

「……? 一週間くらい?」

 その返答に頭を抱える。流石にそれは可哀想だ、こんないたいけな少女を蝉と同じ寿命で終わらせるなんて俺は――!

「じゃ、じゃあ次の質問……主食は?」

「人間!」

 ――出来そうかな。目玉キラキラ光らせてるこの子に僅かながらの狂気を感じ――!

「……だと思う」

 ――感じ……感じ?

「思う…ってのは?」

「まだ分かんない。だって生まれてまだ何も食べた事無いし」

「食べた事無いって……獣とか、植物とかは……」

「最近は妖怪が凄く増えてたから、私の分なんて余ってないよ……」

 ――前言撤回。俺、この子見逃すわ!




「おめでとう!」

「ふぇ!?」

 まぁ唐突に肩に手を置かれて「おめでとう」なんて言われたら、どんな少女でも「ふぇ!?」って言いたくなるよね。

「まだ人を手に掛けてないっぽいし、俺も別に君に恨みなんて無いし……つまりは殺す理由なんて無いから……」

 言いながら俺は彼女の金色の頭にポンと手を置き、

「まぁあれだ、達者に暮らせ。な」

 特に良い言葉も思いつかなかったので、俺は適当にそう言って彼女をその場に残し駆け出した。

 途中何度か後ろをチラッと振り向いて見ると、そこにはその場に立ち尽くす彼女の姿があった。





「おーい、帰ったぞー!」

 どこのお父さんだよ!っというツッコミは……期待出来ないよなぁ邪馬台国。

『ッ、守樹殿! ようやく帰って来たなぁぁぁぁ!!』

 ツッコミは無かった。代わりに数百の男共の歓迎があった。

 それは先の戦で戦った者達、つまりは俺と一緒に戦った戦友にもあたる者達な訳で。

「ぐわぁぁぁ! おいテメェらあつ…暑苦しいわぁ!」

 その者達からの熱烈な歓迎があった訳だ。

「守樹殿! あのこん棒さばき、見事でした!」

「凄かったなあのこん棒!」

「流石は卑弥呼様のこん棒」

「……卑弥呼様のこん棒……」

 おい何人か絶対イケナイ事想像しただろそうだろう!?


「「守樹殿」」

「……っと今度は卑弥呼様に、飛鳥。ま、お疲れちゃん」

 完全に学生のノリである。

「ハッハッハ、良い、良いぞ守樹殿。今日は無礼講だぁ!!」

「くさッ! 酒臭ッ! 飛鳥…貴様もしや呑んでるな!?」

「まぁまぁ、守樹殿も一杯どうだ?」

「未成年者の飲酒・喫煙ダメ!絶対!」

 顔を赤くして騒ぎ出す兵士共、釣られて騒ぐ飛鳥、その輪に俺を混ぜようとしてくる卑弥呼、そして両手で×印を作る俺。

 黒の学生服の少年にはあまりにも不釣合いな空間がそこにはあって、そんな空間の中に確かに馴染んでる俺がいて。

 こんな場所なら、もう少し長居してもいいかな。なんて考える俺もいる訳で。




「……卑弥呼様、もし良ければもう少しお傍に――」

 言いかけた時だった。

「ッきゃぁ!!」

 少女の悲鳴に辺りの喧騒はかき消された。



「……あれは」

 悲鳴の方へ顔を向けると、一人の少女が一人の男に腕を掴まれていた。

 その少女の名はルーミア、俺が先程出会った妖怪。

(……何でこんな所に)

 不安そうな顔をする彼女を見ながら、ただそんな疑問だけが俺の中を駆け巡る。



「妖怪? 一匹か?」

「はい、それも日の光に弱いらしく随分と弱ってるようで……一体どうしてこんな場所にいたのか……」

 よく見ると確かに、息がかなり弱々しい。

 卑弥呼はルーミアを一頻り見つめた後、

「……殺せ」

 一言そう呟き、背を向けた。



「――っと待てい!」

 勿論、それを見逃す俺では無い。 せっかく助けた命を、見す見す見逃してたまるものか。

「守樹殿?」

「その子は俺が預かる!」

「っな!?」

 何を言ってるんだと言いたげな顔の飛鳥を尻目に、俺は男からルーミアを強引に奪い取る。

「あ……守樹……」

「ったく、どうしてこんなトコまで来たんだよ……」

「だって……だって……」

 俺の登場でルーミアに安堵の表情が戻る。

「だって、まだお礼……言ってなかったもん」

「……は?」

 お礼? 俺は別にルーミアに何かをしてあげた訳も、プレゼントした事も無いぞ。

「だって戦ってる時ずっと私に気づいてて、だけど私の事見逃してくれて……」

「お前……そんな事でわざわざ、こんな危ない場所に、こんなになってまで……」

「だって、だって!私が"能力"使っちゃうと前見えなくなるし、それだと守樹の事追えなくなるし!」

 まさかの能力持ち判明多いな能力持ち! なんて軽口こんな状況で叩けるはずも無く、

「……そうか」

 俺はそう一言呟いてフラフラの彼女を抱きとめた。

 するとルーミアも安心したのだろう、

「……わ、わははは」

 か細い声で、初めて笑顔を見せた。




「守樹殿」

 言葉から読み取らなくても分かる。

 その場の雰囲気と、そして彼らの剣幕で。

「言いたい事は分かるよ飛鳥」

「ッ……何故妖怪等、奴等は!そいつは我々人間を!」

「食べる、だけど俺達だって獣を食う、魚を食う、植物を喰らう。なら妖怪が人間を食うのだって当たり前の事じゃないか」

「当たり前なんかじゃない! そいつらは我々にとっての脅威だ!」

「そんな事無いさ。妖怪と人間が共存出来ないなんて誰も決めてない、ただしようとしないだけでな」

「守樹殿!」





「もういい!!」





 数秒、世界は時間を止めた。気がした。

 声を発した人物、卑弥呼は睨む様な目つきで俺とルーミアを見つめ、

「国から出て行け今すぐに! そして二度とこの地を踏むな!」

 ガヤガヤと動揺が辺りに広がった。

 飛鳥を始めとした兵士達だ、短い間だったが共に戦い背中を預けた仲間、それは、少ない時間だがその者が家族や友人の誰よりも俺を信頼していた時間、戦友。

 そんな俺を一方的に追放する、という決定に、皆が動揺しているのだ。


「飛鳥!」

「ッ!?」

「俺はルーミアを殺す気は無いし、殺させる気も無い。だけど妖怪がこの国に留まる、いや妖怪の味方をした者が留まる事がどれだけの脅威になるか、お前なら分かるだろ?」

「……それは……」

「すいません卑弥呼様、迷惑をかけます」

「さっさと行け、馬鹿者……!」


 過ごした時間は少なかった。

 だけど俺はこの場所で色んな事を学ぶ事が出来た。

 この世界の常識、人、妖怪。

 それだけの収穫があれば十分だ、俺は別に気にしちゃいない。今日の出来事を含めて、人生を楽しんでいるのだから。


「行くぞルーミア」

 オロオロとするルーミアという妖怪少女の手を引っ張って、俺は歩く。

 これ以上この場に迷惑をかけるのは、俺も心苦しいものがある。










「か、守樹殿!」

 国を出る直前辺りで、飛鳥の声が聞こえた。

 俺がこのタイムスリップした過去世界で、初めて会った人間。

 ……初めての友人。


「――っじゃあな飛鳥! 縁がありゃあまた何処かで会うだろうよ!」

 だからこそ、笑顔で別れる。湿っぽいのは苦手なのだ。


「守樹殿こそ、せいぜいそいつに寝首を掻かれない様、気をつけるのだぞぉ!!」

 俺に意図を汲み取ってか知らずか、彼もまた、笑顔で手を振っていた。




 人と妖怪は共存出来ない。

 少なくとも邪馬台国はそうだった。

 果たして、人と妖怪が共に生きれる場所は、時代は来るのだろうか。





 等と少々哲学的な事を多少考え、そして直ぐに頭を切り替える。

 あまり大それた事を考えても時間の無駄だ。ならば今は何も考えずに今を面白可笑しく生きてやろうじゃないか――っと、妖怪のいない世界を生きた俺は第二の人生を踏み出した。

 不明な点だらけのこの世界だが、だからこそこの世界は面白い。

「ルーミア、最後に一つ質問だが。俺はこれから旅をする、来るか?」

 不意に出たその言葉の真意は俺にも分からない。

 ただ何となく、どうせならこの子と一緒に生きるのも悪くない、そう思ったんだ。

「……うん。守樹がそれでいいのなら」

 俺の質問に少し不思議そうな顔をしてルーミアが答えた。

 確かに、人と妖怪が一緒に旅をしてるだなんて、何とも滑稽な光景な気がする。ルーミアの疑問も尤もだと思う。

「いいのか。俺について来るって事は人間を食べれないって事だぞ」

「いいよ別に。そもそも私人の味なんてまだ知らないんだし」

 なるほどな。確かにどれだけ美味い物でも食べてみないと分からない、故に心残り等無いという事か。人が本当に美味いかは別だが。


「――決まりだな」




「さて、じゃあ一先ず北へ向かってみようかルーミア」




 こうして俺こと守樹という人間と、妖怪少女ルーミアとの旅が始まったのである。



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