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三話 邪馬台国にて



 俺こと普通の人間"宮沢守樹"は今現在、超危機的状況に真っ只中にあった。


 いわゆる普通なMylifeを過ごしていた俺に、突如と無く飛び込んでて来た異変。それは平凡だった俺の日常とは果てしなくかけ離れた非凡。

 この世全てを手中に収めた様な能力を携えて、何と過去の日本へとタイムスリップしてしまったのである。


 そして俺が今いる場所は、日本史評価2の俺でも知ってる様なメジャー国"邪馬台国"、そこは女王卑弥呼が統治する国で、あろう事か俺はその女王卑弥呼の弟分である飛鳥を謎の怪物から救う事によって、今現在俺はかの卑弥呼様の前へとお呼ばれされてしまったのである。


「面を上げよ――守樹」

「は…ははぁ!」

 でいいのかな、時代劇とか見ないからこういう時の礼儀作法なんて知らないし。

「母? 我はそなたの母では無いぞ?」

 どうやら駄目だった様である、残念。


「オホン……してそなた、守樹よ。飛鳥を妖怪から救ってくれた事、改めて礼を言うぞ」

 ニコリと笑って卑弥呼が言った。

 俺は仰々しく頭を下げたまま(勿論敬う気持ちなんて微塵も無い、全てはノリである)、卑弥呼の様子を注意深く観察しながら答える。

 派手な装飾と、着飾りが特徴的な女性。それが卑弥呼に対する第一印象だった。そしてこれは俺の人生経験が不足な為なのか、この第一印象で俺はまず卑弥呼に対し余計な胡散臭さと威圧的な印象を受けた。

 ……が、しかしこれは大きく的外れ。人は見かけじゃ判断出来ないらしい(世の面接官も少しでいいので見習って欲しいものだ)。派手な見た目は彼女が王たる所以、国民に対し自身の力を象徴する一番手っ取り早い方法なのだ。

 まだ対面して間も無いが、弟分の恩人である俺に対し本気で感謝をしているらしい――という感情を彼女から汲み取る事が出来た。それが嘘なのか本気なのかは分からないが、俺は本気だと信じる事にした。



「いえいえ、かの有名な卑弥呼様の弟君、助けない者がこの地のどこにおりましょうか」

「おや、守樹殿先程は姉さまの事なぞ存じぬと……ッムグ!?」

 横で余計な事を口走りそうになる飛鳥の口を俺はすぐに塞ぐ。うっさい飛鳥空気読め!



「ふふっ、そなた等は歳も近い所為か仲が良いな。守樹」

「? はい?」

「そなたもし用が無ければしばらく我が国でその足休めていかぬか?」

「……へ? 足?」

「我が家に泊まっていかないか?って事ですよ守樹殿」

「おぉなるほど、かたじけない飛鳥殿」

 一瞬卑弥呼が何を言ってるか分からなかったが、飛鳥のフォローですぐに言葉の意味を理解する。

 ――ぶっちゃけここでも能力使えばすぐに理解出来るが、それだと正直つまらない。



「お言葉に甘えさせていただきます卑弥呼様」

 俺はすぐにそう言って、卑弥呼と勿論飛鳥も、俺を心良く迎え入れてくれた。




 そして、ここでようやく俺は自身の身辺整理をじっくりと行う環境を手に入れたのである。




 客人として邪馬台国に迎え入れられた俺は、卑弥呼や飛鳥が住まう宮殿(現代程では無いが、この時代の家屋としては十分過ぎる程の大きさを持つ屋敷)の一室を貸してもらう事となった。

 広さで言えば家族で住んでた俺んちのアパートの一室くらい、要するに俺には勿体無いくらいに広い部屋。

「……落ち着かねぇ」

 部屋について早速一言、貸してもらってる立場ではあるが、やはり多少な不快感は出てくる仕方が無い。

「――不快感を"消す"事は出来るけど……やめとくか」

 ここでもまた俺は能力を行使しない。



 "存在の有無を操作出来る程度の能力"、この世全てに存在するモノをどうこう出来る、簡単に言えばリアル『世界は、この手の中に!』的な能力だ。

 先程ネズミの怪物改、妖怪(飛鳥によると人でも無く、動物でも無い生物は大体が妖怪らしい、例外もあるらしいが今はそれだけ知ってればいいとの事)に使い、ナメクジの妖怪の撃退にも使った結果、分かった事がいくつかある。


 俺はこの能力をほぼ完璧にコントロール出来てる。まるで手足を動かす様に、呼吸をするよりも容易くそれらの行いは出来た。理由に関しては……定かでは無いがこの能力が俺に"ナニカ"がぶつかってきたあの時に発現したものだとするならば、この能力自体がその"ナニカ"である可能性が高い、俺と"ナニカ"が肉体的にも魂的にも融合している為、何の練習も無しにこの化物染みた能力を行使出来てるのだと。

「あぁそう言えば卑弥呼も何かしらの能力を持ってるって飛鳥が言ってたっけなぁ…」

 ちなみに俺が特殊な能力を持ってるという事は、飛鳥も卑弥呼も知っている事実だ、俺が来る時飛鳥に話したからであるが。

 というか飛鳥は飛鳥で、後々分かるからとやけに勿体付けてやがったし、卑弥呼の能力は変な探り入れずこの際お楽しみにしとくか。

 ……っとまぁ色々と考察してみた結果、俺はこの驚異的な能力を自由自在に扱える訳だが、それを踏まえてあるルールを俺は自身に課す事にした。



 それは『無闇に能力を多用しない』という事。



 理由としては、この能力、適応範囲が広く効果も絶大、つまりは危う過ぎるのだ。もし何かの拍子に、寝言を唱えるかの如くこの世界そのものを消してしまっては元も子も無い。

 だから普段から能力を極力使わない様、心がけていこうという、さしずめ小学生の学級目標の延長線上みたいな努力目標だ。


 そして次の事柄が一番の理由、これは俺がこれから先生きていく上で至極大事な事。それは何かというと―――"能力に頼り過ぎて人生に飽いてしまう恐れがある"からである。


 どんな事にも苦労せず、好きな物を好きなだけ我が物に出来、永遠の時間を行き、無ければ作り邪魔なら消す。それは楽園にみせかけた本当の地獄だ。

 世の偉人は皆、力を求め、権力を求め、永遠を求めた。だからこそその者達はその一生を飽きる事無く精一杯生きる事が出来たのだ。 ここで自堕落な生活に陥ってしまえばその後に待っているのは永遠の退屈、どんなものでもすぐに飽きて捨てる、生き地獄。

 ―――それならば、永遠の時間を精一杯楽しみながら、苦しみながら生きた方が得では無いだろうか。

「……別にいくら苦しんだって、楽する方法はいつも手中にある訳だから絶望する必要も無い訳だしな」

 我ながらずる汚い考え方だ。そしてだからこその人間だろう、少なくとも俺はそう思うんだ。








「守樹殿、夕食の用意が出来ました!」

 夕刻頃、戸を叩いた飛鳥が開口一番に俺に言った。

 夕食か、邪馬台国――昔の日本食ってのは一体どんな味のものか、

「……ちょっと待って飛鳥、もう少しで見えそうだから!」

 部屋の窓に張り付き舌なめずりしながら、俺は冷静にそう答えた。




 そして夕食に向かう廊下での一会話

「守樹殿、先程は一体何を覗いてたのですか?」

「うーーん? 人間観察…的な?」

 正直に言おう、覗きである。

 というのも俺の窓から見えて大分先、人の眼じゃ到底見えない様な所に湯煙がたっているのを見つけた俺は早速能力を行使し、"どんなに離れていても見える"千里眼の様な眼を作り脳内フォルダに保存していたのだ。

「何故だろう、守樹殿から怪しげな気が……」

「その勘、大切にするといいぜ飛鳥」

 彼は中々鋭い少年の様だ。



 ん? 思い切り能力無駄に使ってるじゃねぇかって?

 ああいう場合はいいんだよああいう場合は! こちとら健全な男子高校生なんだよ! こんなん男子高校生の日常なんだよ!









 そして夕食である。

 主に飯と野菜、そして魚類。現代よりも軒並みレベルが低くなった物、無論味も見た目もだ。それでも不味くは無い程度だったのは、やはり仮にもここが国のトップだからという事だろう。

「ハンバーガー食べたいな…」

 ボソリと誰にも聞こえない様に呟く。

 呟き、だが我慢する。あんなパンで肉を挟んだだけの産物、未来まで生きればいくらでも食えるのだから!








 夕食後、俺は卑弥呼に呼び出された。

 飛鳥と共に訪れた彼女の部屋は、言うなればオカルトチックな、水晶や札なんかのグッズ(?)が大量に置かれていた。

「気にするで無い、仕事で使う道具ばかりだ」

「いやそれめっちゃ大事なものじゃないですか」

 気にするなという方が無理である。


「それで姉さん、一体どうされたのですか?」

 珍しく空気を読み、飛鳥が口を開いた。確かに、俺も何故彼女が俺達を呼んだのかが気になる。

 ――っと言っても、俺は薄々卑弥呼の目的に察しがついているのだが。


「何他愛ない事だ。守樹、そなたの素性、差障りの無い程度でかまわぬ。聞かせては貰えぬか?」

「……むしろその程度で構わないのですね」

 驚いた。――いや、この質問にでは無い。

「俺からしてみれば何時その事を聞かれるのかとずっと思ってましたよ。いくら弟の命の恩人といっても見知らぬ男を易々と屋敷に入れ、更に手厚く持て成すなんて」

 一国の女王卑弥呼からしてみれば俺等そこらの馬の骨同様の存在、いくら飛鳥の命の恩人と言えどここまでする価値が果たしてあるのかというものだ。



 しかし返って来た答えは俺の予想に反するもので、

「飛鳥の命の恩人、それだけで一生礼をし尽くしてもまだ足りませんよ」

 易々とそう言ってのけたのだ。


「……い、いやいやアンタ」

「守樹殿!」

「いくら何でも人が良過ぎるぜ」

 飛鳥の叱咤の言葉を無視してなおも俺は続ける。

「俺が実はただの運の良い物乞いだったら? 俺がもし全部計算尽くでアンタの弟助けてたら? いやもしかしたら俺が、アンタの弟を妖怪に襲わせたのかもしれなかったんだぜ?」

 普通はそこまで警戒するものだ、するのが当然だ。勝手知ったる友人家族ならいざ知れず、見知らぬ他人等心から信用する価値も。

「……我は貴方が悪人では無いと確信しておりました」

「……何?」

「一目見た瞬間、貴方はそんな世界の人間とは遠くかけ離れたものだと感じました。貴方が良い人だと悟りました。それだけで十分です」

「いいや不十分だ! そんなの全部アンタの感情論だ。俺という存在の善悪を裏付ける証拠が無い!」

「証拠なら我の前に、今こうして怒鳴るそなたこそが証拠」

「そんなの結果論だろ。アンタそんなに自分の眼に自信を持ってるのかよ!」

「勿論です」

「……何?」

 そこにあったのは、揺るがない意思。そして確固たる証拠。



「"見通す程度の能力"」

 卑弥呼の代弁者といった感じに口を開いたのは飛鳥だった。

 肝心の卑弥呼はまるで見透かす様な瞳で俺を見つめている。

「過去、未来、そして現在。卑弥呼様に見通せないもの等この世に存在しないのです」

 全てを納得させる言葉だった。

 確かに、飛鳥の言葉が本当ならば卑弥呼が俺をすぐに信用出来たのには合点がいく。

 彼女が能力を使い、俺を見定め、そして信用した。 うん、確かに納得した。


「……まぁ見通すと言っても、我に出来るのは身近な過去と未来、そして相手の表面上の顔だけなのだがな」

 ハハハと自重気味に笑う卑弥呼。聞く所によるとあまり大した効果は期待出来ないらしい。

「なるほどね。その能力を使って、未来を占い。そして国を繁栄させて来たっと」

「えぇ、卑弥呼様無くしてこの国の繁栄は有り得ないのです!」

 我が事の様に自慢げに胸を張る飛鳥と、その様子をにこやかな笑顔で見守る卑弥呼。

 何ともまぁ和む光景なのだろうか。


「納得、うん納得。すみません卑弥呼様」

「ふふ、気にする事は無い守樹」

 少々人間不信だったかな。こいつらと違って生きてる時代が時代だったからなぁ。仕方無いとはいえ、これからは出来るだけ人を信用する様にするかな。


(――この人を見習って)


 目の前にいる歴史上の人物、卑弥呼を眺め、俺はそう思ったのだった。










 そして翌日、俺はこの国を強制退去させられ、二度と戻る事は無かった。



次話も勢いに乗って書いたので、近いうちにあげれます。

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