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十五話 探し物と襲撃者

 守樹君の能力はチートとかそういうレベルのものじゃないですハイ。



「――ふぅ、反応はやはりこっちの方か」


 両手に持ったロッドを頼りに、私はまだまだ止みそうに無い雨の中一人歩いていた。

 小脇に挟んだ傘を少し斜めにずらして、私は空を見上げてみる――そこにあるのは一向に変わる様子の無い一面の灰色――全く、憂鬱になる光景だ。



 そんな自分そっくりの空の下、降りしきる雨の中私は再びロッドに集中する。

 それというのも我がご主人が無くした大切な品の為、それの重要性は私も深く理解してる為全く手を抜くつもりは無い。




「……はぁ、おかしいな」


 ――抜くつもりは無い――が、どういう訳か一向に目的の品を見つけられない。自然とため息が出る程に、だ。

 何時もならそろそろ見つけてもいい具合の頃合、ご主人が失せ物を無くした場所は寺の何処か……なのだから捜索範囲も限られている、が見つからない…。




「おかしい、これはおかしい、こうまでも宝塔が見つからないなんて事――っは! まさかご主人、宝塔を無くしたつもりになっているだけで、実はご主人本人が持っていたりは――!?」

 ――ってそれは無いな。聖と出かける前、ご主人は確かに宝塔を持っていなかった…。

「じゃあどうして宝塔は見つからないんだ……」

 呟いてみる。が何も変わらない、当然か。




「灯台下暗し……意外と身近な所にあったりするんじゃ無いか?」

「いやそれは無いな、それならとうに私が見つけているさ」

「ふむ……で、アンタは一体何を探してるんだ?」

「あぁちょっと宝塔をね、全くご主人は全く……ん?」

「へぇ宝塔ね宝塔……うん、知らないな」

「……何をやってるんだい君は?」


 気づくと先程別れたばかりの二人組のうちの一人の人間の方、守樹が横に立っていた。それもこの雨の中傘一つ差さずにである。



「いやね、ナズーリンの"仕事"ってのが気になってさ、"仕事"って探し物の事だったんだね」

「…あぁそうさ、というか君、そんな格好で風邪引いても私は知らないよ?」

「ん、あぁ大丈夫大丈夫」

「見た感じ全然大丈夫じゃないが……言ってくれれば傘くらい貸したのだが」

「何言ってんだナズーリン、傘なんて差してたら濡れちゃうじゃないか!」

「今の君の状態よりはマシだと思うよ?」

「まぁそれもそうだね――見た目は」

「全部だよ!――はぁ、じゃあもういいね、君は早く中に戻るといい。私は仕事の続きをやらないと」

「それもそうだな、じゃあどこから探す?」

「……」

「どこから探す?」


 この人間、どうやら着いて来る気らしい。しかも邪気の無い笑顔でそう問いかけてくる彼からは微塵も引く気配というものが無い。

 私は少し思案して、


「そうだね、じゃあ君は中を頼――」

「そんな事よりナズーリン、その棒…もしかしてダウジング的な何かか!?」

「……」


 彼には早々に退散して貰おうかと思ったが無駄だった。しかも何処までも自由な――悪く言えば自分勝手な人間だ、先程からやりたい放題である。


「何かじゃなくて、ダウジングそのものだよ」

「へぇ、じゃあちょっとやってみせてよそれ」

「はいはい、全く君も本当に物好きな人間だね」


 適当な返事を返し私はロッドに集中する。

 正直今すぐにでもこの人間を消し――どうにかしたいが、流石に境内で荒事はまずい。ここが外なら私も何も我慢せずこの人間を物理的にでも排除していただろうが――はぁ、本当今日は厄日だな。


 そうため息をついた所で、手に持つ二本のロッドがガキンと音を立てて交差する。

 ――目の前の妙な人間に反応して。


「……なぁ一つ聞いていいかい?」

「いいよ、どんと来い!」

「君は本当に宝塔の事を知らないんだな?」

「モチノロンさ。見た事も無い」

「だったらどうしてロッドが君に反応する!?」


 悪びれる様子も無く「知らないよそんな事」と答える守樹。まぁ見た感じ本当に知らない様だ、嘘をついている人間とそうじゃない人間は雰囲気で大体分かる。

 なら何故ロッドは彼に反応するのか。私は少し顎に手を当てて思案して――、


『――見た事も無い』


 彼の言ったその言葉に、私は下げていた視線を再び守樹に合わせて言う。


「……もしかして、ここに来る途中で何か拾わなかったかい?」

「拾ったよ。こんなの」

「それだよ!探し物は!」


 予想通りにして予想外の答えに少しばかり声を荒らげてしまった。ビクリと彼の肩が僅かに震えたのが分かる。


「……こんな水晶玉をハンバーガーの様にサンドした様なものが探し物ねぇ」

「残念ながら一体君が何を言っているのか私には理解しかねるよ……それはそうとそれ、返してくれるかい?」

「ん、あぁ。俺もこんなのいらないしな…ほれ」

「わわっ!? 投げるな馬鹿者!」


 全くこの人間は言う事為すこと奇天烈だ、挙句の果てには宝塔投げ渡してくるし。

 しかも妖怪(ひと)がせっかく拭く物渡したのに今は見るも無残なずぶ濡れになってるし……。

 ――でもまぁ、この人間のお陰で思ったよりも早く宝塔が戻って来たのも事実か。



「……ありがとう」

「?…おう?」


 面と向かって礼を言うのも癪なので、私は彼に背を向けて短く礼を言った。

 こういう事態に慣れてない所為か、少し顔に熱を持ってた気がするが……多分、気のせいだ。








「所で守樹」


 中に戻る途中、ふと気になって私は守樹に声を掛けた。相変わらず彼はこの土砂降りの中傘一つ差していない、一体何が彼をそうさせるのか、そんなに雨に打たれるのが好きなのだろうか。


「一体この宝塔はどこにあったんだい?」

 手の中の宝塔を見つめて私は彼にそう問いかけた。

 いくら探し始めてそう時間が経ってなかったからといって、彼がこうも簡単に見つけたのには少し違和感がある。そんなに見つかりやすい所にあったのなら、私ももっと早く宝塔を見つけれていたはずだ。

「どこにって、来る途中の中の廊下にだけど? 別に特別そうな場所には無かったぜ」

「……ふむ」

 それはまたおかしな話だ。

 それならば私じゃなくても、村沙や一輪辺りでも気づきそうなものだが。



(……一体なんだ?この違和感は……?)



「……あぁ、そういえば来る時妙な奴見たな」

「…妙な奴?」

 一輪の事だろうか、まだ紹介はしていなかったはずだし、初めて雲山を見た者ならこんな反応をしても不思議じゃない。

「あぁ、こんな土砂降りの中傘も差さずに外にいてさ」

(……それは君も同じだろう)

「それで凄く雰囲気の暗い妖怪男だった。何だかあいつの周りだけ異常に暗くて気味悪くて、声は掛けなかったんだけど」

「ちょっと待て、男だって?」

「うん」

 それはおかしい。この寺にいる者は今の所女性しかいない。


 止まない雨、見つからなかった宝塔、不審な妖怪。


(嫌な予感がする……一端村沙達を集めるか……いや、ここは直接その妖怪とやらに会うか)

「……おーい、ナズー」

「すまない守樹、その妖怪男とやらがいた場所に案内してくれ」

「……いやさぁ、その必要は無いっぽいよ」

「え?」

「だってほら、目の前にいるし」


 そう彼が指差す方向に、確かにそいつはそこにいた。

 この雨の中傘も差さず前髪からは雫が垂れている、体系で男性だと判断出来るがあの長髪だと一見女性に見間違える事だってあるかもしれない。

 用心深く眼前の妖怪を観察していると、その妖怪に変化があった。


「……ッ!」


 思わず絶句する。

 その妖怪に見つめられた瞬間、否、その"瞳の無い視線"を向けられた瞬間、同時に禍々しい妖気までも此方へと流れ込んで来たのだ。


(ヤバイ!……こいつは話しが通じるタイプの妖怪じゃない!)


 妖怪の中にだって温厚な者や、好戦的な者等様々なタイプの妖怪がいるが、この妖怪に限っては"ただ純粋な狂気、悪意を撒き散らす"タイプの、言ってしまえば手の付けられない根っからの"悪"の様な奴だろう。流れ来る妖気の質からそうだと、本能的に感じる。

 もしこんなタイプの妖怪に、並程の知能があればどうなるか、想像もしたく無いが……一体こいつはどちらなのだろうか。


(もし言葉を発する様なら危険だが、獣並の知能なら私でもどうにか……いや、まず守樹をここから逃がさなければ)

「おいお前、そんなに雨に打たれて寒くないのか?」

「って何普通に話しかけてるんだ君は!?しかも君がそれを言うか!?」

「いやだってほら、あいつも唯単に俺達みたいに雨宿りしたいだけかもしれないし」

「そんな心配はいらない!というか妖気を感じれない君には分からないだろうが、あいつはヤバイ奴だから!話が通じる妖怪じゃないから!」

「というか話し通じるのかあいつ?」

「私も今それが気になってるんだ!」


 全くこの守樹という人間は、こんな状況でよく平静を保っていられるものだ――いや、こんな状況でも平静を保っていられないと、妖怪(ルーミア)と旅だなんて出来るはずも無いのか。


「……ヒヒ」


 妖怪から声が漏れた。すかさず私は身構える。守樹には得に何の変化も無い、まぁ当たり前か。


「……一体何故人間なんぞがこの"妖怪寺"にいるのかと思えば……ヒヒッ、そんなくだらない理由だったんか」


 一語一語を発する事に、妖怪の口から瘴気が漏れる。マズイな、"知能を持った邪悪な妖怪(ヤツ)"程厄介な妖怪(モノ)はいないというのに。

(しかも聖や、ご主人がいない時に限って!……こうなったら村沙船長と、それにあのルーミアとかいう妖怪にも助力を頼んで……)

「ヒヒッ!どうしたんだい、"頼みの誰か"がいない時に限って、ワシみたいな輩が来てしまったって顔してるねぇ!」

 その妖怪がそう発言した瞬間、謎の悪寒が背筋を走った。何の根拠も無いのだけれど、頭の片隅に浮かんでしまった"最悪"がどうしても振り切れない。

「……貴様、何を言って……」

「そうそう!この寺に来る途中で僧侶と妖怪って珍妙な組み合わせを見たんだけどさぁ!」

「っな!?」

「もしかしてぇ~?こいつら君らの知り合いかぁ~い?」


 そう妖怪が発した瞬間、妖怪の身体が巨大化した。まん丸とした半透明の肉々しい体系で宙に浮き、腕や足や奴の顔が小さく見える。

 ――いや、これは巨大化では無い、今まで雨と昼間だというのに暗すぎるこの闇が、妖怪の身体を隠していたのだ。

「……ご」

 その巨大な身体の中に閉じ込められた、三人の知人等と共に。

「ご主人!聖!一輪!」

「ヒヒッ!やっぱり知り合いだったんだぁ~!どうだい?どうだい!?ワシ強いだろ?凄いだろ!?」

 妖怪の巨大な体系の中に、三人は眠る様に漂っていた。

 思わずロッドを握る手に力が篭った。下卑た笑いの妖怪(あいつ)を今すぐにでも殺したい衝動に駆られる、今すぐにでも駆け出したい気分になる。

 だがここで冷静さを失ったら奴の思う壺だろう、まずは何故あの程度の奴が、ご主人や聖までも捕らえる事が出来たのかを突き止めないと。


「随分と不思議そうにしてるねぇ~?っま、無理も無いか!この虎の妖怪や僧侶は確かにワシなんかよりずっとずっと強いもんねぇ~!だけどねぇ~、そんなもの何の意味も無いのさぁ~!!」

「……どういう意味だ」

 おちょくる様な奴の態度、吐き気すらするが、今は耐えるしか無いのだ。

「ん~?教えて欲しい?ねぇ教えて欲しい?いいよ!教えてあげるよ!まずはワシの能力!"狂わせる程度の能力"で妖気等の力の出力を狂わせたのさぁ~!」

(っぐ……なるほど、だからどうりで先程から妖気が妙に安定しないのか、それに恐らく、あの能力は個人の能力にも少なからず影響しているのだろう、だから私のロッドの調子が悪かったのだ)

「ヒヒッ!そしてまずはこの尼さんをぉ~後ろからバキューン!って!」

「……下種め!」

「ヒヒッ!悔しいでしょうねぇ!それで次に見つけたのがこの二組ぃ!」

 得意気に妖怪がご主人と聖を指差した。私は必死に妖気と正気を安定させる。

「だがこの二人は駄目だったねぇ、後ろから不意打ちしてもケロッとしててさぁ~、それでワシ、殺されると思ったぁ~ワシピーンチ!……でもぉ~、止めさす前にこの僧侶さん、何か説教始めるの笑えるねぇ!」

「っく……」

「それでねぇ~、その隙にワシ、この尼さん出して反応見てみたの、そしたら何か凄く驚いてさぁ~、その隙に…捕まえちゃった!」

「……なるほど、それで、次は私に同じ事をしようという訳かい」

「えぇ~?何で君みたいな雑魚妖怪に同じ事しなきゃいけないんだよぉ~」

「…何?」

「どうせするなら中の二人の方が妖気も高いし食べ応えありそうだしぃ~……あぁそれとね、ワシの中に取り込まれた者は妖怪人間関係無く、生気をどんどんと吸っているんだよねぇ~、一日もすれば多分動かなくなると思うよ?そしてワシはまたまた強くなぁぁぁる!」

「……」

「ねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ちぃ~?ヒヒッ!」

「…そうだな」




 私は至って冷静だ。

 妖気も安定してるし、正気だって保ってる。大事なのは、今すぐあの妖怪を倒さなければいけない、そうしなければご主人達を助けられないという事。

 そう、私は至って冷静だ。


「……殺す!今すぐ殺す!」

「ヒヒッ!飛んで火にいる夏の鼠ぃぃぃ!」


 ボンッ!とまた一段階妖怪(ヤツ)の身体が膨れ上がった。

 同時に私の身体もヤツの身体に取り込まれる、中はまるで水の中の様で、そして急激な睡魔が襲ってくる。

「ヒヒッ!バーカだねぇ~、アンタの様な雑魚妖怪一匹でも逃がすと思ってたのかぁ~い?みーんなワシの食料にしてやんよぉ~!」

 声が聞こえる……が、抵抗する力が段々と無くなっていくのが分かる。

 恐らく後ものの数秒で私の意識は途切れるだろう、願わくば、村沙船長とあのルーミアという妖怪が、こいつを殺してくれる事を祈ろう。

 ――だけどやっぱり、悔しいなぁ。




「あぁ……馬鹿だな私は…カッとなって…いつもならもっと冷静でいられたのにな…」

「いやいや、あそこは怒ってなんぼの所だったって」


 ――え?













「っな!ナズーリン!」


 ナズーリンが妖怪に取り込まれる様を、離れた所から私は確かに見た。話し声までは聞こえないまでも、激昂するナズーリンと、そしてあの妖怪の中の聖達三人を見れば大方の状況は理解出来る。

「い、今すぐ助けないと!」

「必要無いよ、村沙」

「何ですって?」

 駆け出そうとした時だ、後ろからそう言われ私は思わずその人物にあたる様に反応する。

「必要無いって言ったの。私達がいかなくても大丈夫って」

 その人物ルーミアは、何事も無いかの様に、傍観者の如くその様子をマジマジと見ている。彼女の連れもその場にいて彼も危険な状況にいるのにだ。

「必要無いって…あそこにはルーミアの連れの彼も一緒にいるのよ!?」

「だからだよ」

「……え?」

「見れば分かるよ。あれはいつも妖怪に食べられてヘラヘラ笑ってる守樹じゃないもん」

 一体彼女は何を言っているのだろうか。言葉の真意は分からないが、何故か彼女の言葉が嘘とも、ましてや冗談で言ってるとも思えない。

「久しぶりに守樹が怒ってるから、多分すぐに終わるよ。だから私達は傘でも取りに行こ!」

「え?…ちょ、ルーミア!?」

 手を引かれ、強引に私を連れて行くルーミア。その際振り向いた時に見た光景は、中に閉じ込められたナズーリンを見切れない程の速さで助け出し、宙に浮く守樹(にんげん)の姿だった。













 雨が降っていた、土砂の様な豪雨が。

 恐らくそれは目の前の妖怪の能力で、天気までもが"狂わされている"からだ。

 ――そして目の前の妖怪は、"その巨体に唐突に風穴を開けられて"、何が起きたのかの理解に時間がかかっている。


「……あれ、これは……」

 尤も、理解に時間が掛かっているのはこちらも同じらしい。

 俺の腕の中の、お姫様抱っこ状態のナズーリンも何が起きたのか理解出来ない様子だ。


「よ!大丈夫かナズーリン」

「……守…樹?」

「そ、守樹」


 俺はニッと返事をしてナズーリンをそっと起こし、手を離す。ナズーリンもヨロメキながらも何とか空中に留まる。


「君…飛んで…」

「まぁ、そんな事はどうでもいいさ。今はあの妖怪の処理が先だ」


 多分、今の俺の声色はいつもとは違う声色だったと思う。だがそれは仕方の無い事だ。

 俺だって、人並みには怒るのだ。唯他人(ひと)と沸点の位置がおかしいだけで。


「……っな、なんじゃこりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「今更かよ」


 ようやく現状を理解したらしい妖怪が叫び声を上げる……が、今更叫んだ所でもう遅い。

 もし今ここで泣き叫んだ所で、命乞いした所で、俺はもう決定を覆す事はしない。


「っテ、テメェ……一体ワシに何をしたぁぁ!?」

「穴開けただけだ」

「そぉんな事を聞いてるんじゃなぁぁぁぁぁい!唯の人間の貴様が!?塵の様な存在の貴様が!?ワシのような大妖怪に傷を付けただとぉぉぉぉ!?」

「はは、ホント言いたい放題だなお前」


 むしろ見ていて滑稽というか、ここまでの動揺っぷりは見ていて気持ちのいいものだな。


「……守樹、君は一体……」

「ナズーリンは少し下がってて、というかすぐにあの三人も中に連れ出すから拭く物の準備をしていてくれたら助かるんだけど」

「おいぃぃぃぃぃ!無視してんじゃねぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉっ!」

「お前はお前でホントうるさいな……」


 困惑するナズーリンを尻目に俺は彼女の一歩前へと出る。

 そして睨む様に目の前の妖怪を睨む。


「人間の分際でぇぇぇぇぇぇぇ!そんな目でワシを見るなぁぁぁぁぁ!」


 半狂乱の様な調子で、妖怪が突っ込んで来た。またしてもさっきのナズーリンの様に、その身体に取り込もうというのだろう。

 俺は無言で右腕を前へと突き出した。


「ヒヒッ!貴様が何をしようとしているかは知らないがねぇ~!今の私を殺したら、この中で眠ってる人質達も死ぬ事になるんだよぉぉぉぉぉ!」

「っ何!?」


 叫ぶ妖怪と、その言葉に反応するナズーリン。

 つまり一撃でこいつを仕留めなきゃ俺はこいつに取り込まれてしまう。だが仕留めてしまったら他三人の命も無くなってしまう。そしてグズグズしていると何も出来ずに取り込まれてしまう。

 つまりはそういう事、二つに一つを選んでも最悪の結果に終わってしまう。そんな理不尽な選択肢。




「……あっそ」


 だがそんな選択肢は、無意味だ。


「……ヒ」


 妖怪(ヤツ)が俺に触れる直前に、俺はパチン!と一度だけ指を鳴らした。

 瞬間、蒸発する様にヤツの身体全てが一瞬で消し飛んだ。

 同時に宙へと放り出される三名の人質を、俺は周りの雨をゼリー状のクッションに変化させて地面への激突を回避する。




「……一体、何が起こったんだ……ヤツはどこに……」

「消えた」

「消えた…?」

「存在自体、魂すら残さずにこの世から消えたんだ……まぁ俺が消したんだけど」

 俺の言葉を聞いて、ゴクリとナズーリンが息を呑んだ。

 そして、震える声で問いかけてくる。

「君は……君は人間じゃないのか?」

「人間だよ。ただの不老不死で、何でも出来るだけの唯の人間さ」

 俺は笑って、いつもの様に答えたのだった。




 その気になればこの世界だって消せますハイ。

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