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十三話 大・宴・会!

 ちょっとしたオリキャラ出ます。勿論、飛鳥同様あまり物語には関わってきません。



「……ねぇキャベツ、一つ聞いていいかしら?」

「なんでしょう姫様?」

「……一体どうしてこんな状況になってるの!?」


 ビシッ!っとかぐやは目の前に広がる騒乱へと人差し指を立てた。

 それは人と、妖怪と、そして月の使者――かぐやを確かに迎えに来たはずの月の兎の兵士と月人達――が肩を並べて呑み交わす光景。

「――すいません、姫様――私にもよく分かりません!」

 キャベツと呼ばれた少年はうな垂れながら、ただそう答えるしか出来なかった。












 ――それより大体一時間程前――



「――来た」


 私、かぐや姫こと蓬莱山輝夜は忌々しげに相も変わらず輝く月を見上げながら呟いた。

 直後、眩いばかりの光が一瞬視界を白に染め上げ、次に天からこの世の物とは思えない――正確にはこんな時代の代物とは思えない乗り物"車"が降りてきた。


「っく! なんと面妖な…み、皆の者!臆するな!臆するでは…な、無いぞ!」


 遠くで帝が使わした兵二千人の長が叫ぶ声が聞こえた。

 全力で私の身を守ってくれようとしてくれてるのは嬉しいが、だけど地上人程度では月の民には勝てない。それを私はよく知ってるし、彼等も薄々感じづいてる――現に兵は大半が恐怖で震え、長の者も声が裏返ってしまっている。


「かぐや、かぐやは何も心配いらんぞ」

 そう声かけてくれる翁の言葉は嬉しいが、それでも気休め程度にしかならない。




 ――それが分かっていても、僅かながら期待してしまうものだ。




「っむ、なんだ――これ、は……」

 誰かがそう発した直後、バタリバタリと次から次へと警護の者が倒れていく音が聞こえた、屋敷を取り囲む者達が、屋根の上の者達が、屋敷内の者以外の全員が地面へと顔をつっぷし昏倒してしまったのだ。

(――催眠ガスか何かかしら――っま、何にしても、これで私を守る人は一人もいないって訳ね)

 僅かに外から私を呼ぶ声が聞こえる。 翁と嫗が必死に私を止めようとしてるものの、私は二人の制止を振り切ってでも前へと進む事にする。

(ここで私が逃げたら、翁と嫗に迷惑がかかる――いやもしかしたらその命を奪われるかもしれない――!)

 それだけは何としても嫌だった。 二人は見ず知らずの私をまるで本当の子、又は孫の様に接してくれた恩人なのだ。

 だから二人には、生きていて欲しいのだ。





「――お待ちしておりました姫様」


 私が外へと出ると、車から降りていた使者の一人――恐らくはこの者がリーダーなのだろう――が頭を下げて出迎えた。

 同時に頭を下げる兵として使わされた月の兎達……というかこの兎達、月じゃ遊んでばかりだったけどまともな訓練は受けているのかしら?


「貴方が使者団のリーダーね」

「はい姫様、***と申します」

「そう、もう上げていいわよ。後ろの子達も」


 地上人には発音の出来ない言葉で発せられた名前を聞いて、私は頭を上げる様に指示する。

 それからチラリと後ろを振り向いた。 そこには今にも泣きそうな顔の老人が二人、訴えかける様な顔で私を見ている。

 その視線は耐え難いものだが、私は頭から振り払って正面を向いた。私には到底……逃げる事なんて出来ないのだ。



「では姫様、こちらに」

「…えぇ――っ!?」


 リーダーの少年(年齢的にはあの不思議な人間、守樹と同年代くらいか)に促されるまま進もうと足を動かそうとした時、車の中の人物を見て私は絶句した。

(あれは……永淋!? 一体どうして……)

 そこにいたのは八意永淋。私が月にいた頃の家庭教師で、私が地上に追放される事となった切欠――蓬莱の薬を作った張本人だ。

 そして永淋は、私が心から信頼を置ける数少ない者で永淋も私の事を一番に考えてくれる人で、その永淋が使者団と共にいるという事は必然的に私を月へと返す為に来たんじゃなくて――、


 薄暗い車の中で永淋が何らかの動作に入った。 車の中には今永淋しかいない、だから彼女の行動を止める者も、天津さえ気づく者もいなかった。

(――『逃 げ る わ よ』……っ!)

 永淋の口パクを読んで私は思わず息を呑んだ。彼女が今構えてるのは彼女が得意とする弓矢、永淋はその矢でこの目の前の少年を殺害し、私と共に逃げる事を選択したらしいのだ。

(――うん)

 私は覚悟を決めて永淋に小さく頷き返す。目の前の少年を殺す事は忍びないが、そうしなければ私はまたあの月の都で、永遠と見世物の姫を演じなければならない。

 ――もうあの退屈な日々は嫌だった。だから私は薬を飲んで地上に追放されたのだった。



 私の返事を受けて、永淋も小さく頷き狙いを定める。


「?――姫様、どうされました?」


 突然立ち止まった私に少年が心配そうな声色で尋ねて来る。どうしようも無い罪悪感が押し寄せてくるが、だがもう止められない。



 ――次の瞬間、永淋がそっと弓から手を離した。



 ヒュンっと小さく風を切る音が聞こえ、少年が矢の方を振り向く。

 私は思わず目を閉じた。 次に矢が確かに獲物に刺さる音が耳に届く。

 眼を閉じて二秒もしないうちに、そっと私は目を開く。 この瞬間から逃亡生活はスタートするのだ、何時までも眼を閉じてなんかいられない。





「……え?」


 目の前には矢が刺さった人が立っていた。 矢の先端から血が噴出し、苦しそうなうめき声が聞こえる。

 だがしかし、それは使者団のリーダーの月人では無かった。 それは――、妖怪を二人も連れた奇妙な人間、つい先程別れたばかりの守樹と名乗った人間だったのだ。



「――っな!? この矢は、***!?」

 一瞬呆けた様な顔をするもリーダーの少年はすぐに永淋の名を呼んだ。またも地上人には理解出来ない発音で、現に矢が左手に突き刺さった守樹が怪訝な顔をしている。


「……」

 永淋は困惑する月人の少年と、左手から血を流し永淋を見つめる少年を交互に見返してから、またも続けざまに矢を放った。どうやらまずは目標の排除を最優先事項にしたらしい。


「――***、これは一体どういう――」

 放たれた矢は計四本、月人のリーダーの少年と守樹に二本ずつだ。

「っく!」

 月人の少年は腰から短刀を抜いて二本の矢を払った。 この少年、相当に鍛えているらしい、私は永淋の矢が二本も連続で叩き落される所を初めて見た。


 一方の守樹は――、

「…っぐ!」

「守樹!?」

 何の動作もせずに無防備なまま二本の矢を食らったのだ。

 胸の中心に一つと頭に一つ、誰がどう見てもそれは致命傷となる位置だ。

「ちょ、あんた一体何やって…!?」

 だが守樹は倒れなかった。 二本の矢を受けてなお、二本の足でフラつきながらかろうじて立っている。


「――そいつは、輝夜の知り合いなの?」

 矢を月人のリーダーに構えたまま永淋が尋ねて来る。私はコクンと頷いた。

「そう…それは残念だったけど……輝夜、そいつは自分から私の邪魔をして来たわ。だからその状況もそいつの自業自得よ」

 諭す様に言う永淋の言葉に、私は確かにその通りだと思った。

 彼が何故こんな事をしたのか今となっては分からないが、そんな事は関係ない。たった数日、それが守樹と過ごした期間だったが、彼とは永淋程親しくなくても"友達"と呼べるくらいの関係にはなってたと私は思う。

 ――だからこんなにも、この守樹という少年が死んだ事が悲しいのだ。



「逃げるわよ輝夜! 死人に口なし、その子はきっと地上人達がきちんと埋葬してくれるわ!」

 永淋の言葉に私は頷き、立ったまま死んでいる守樹から私は離れようとした。

(――待って)

 だがそこで私はある違和感に襲われた。

(おかしいわ、どうして――どうしてルーミアとてゐがいないの?)

 守樹と共に行動していた二人の妖怪。

 彼がこんな状況なのに、あの二人の妖怪が姿を現さないのはおかしい。そう疑問に思った瞬間、


「――待てよかぐや」


 右手を掴まれてすぐに声が聞こえた。

 死んだはずの人物の声が、守樹の声が聞こえたのだ。

(――いや、でもおかしいわ……唯の人間があれだけの傷を受けて生きてるはずが――)

 その時、不意にボキリと何かが折れる音がした。

 私は恐る恐る音の方向に眼をやると、そこには頭に刺さった矢を抜き取って、二つに折った守樹の姿があったのだ。


「ふぅ、やっぱ痛いな。一度死んだ方がこれはマシだわやっぱ」

 そんな訳の分からない事を言いながら、守樹は次に胸に刺さった矢を、次に左手に刺さった矢を抜き取ってこれらも二つに折る。

「でもさ、一度死ぬより意識を持ったまま回復した方が状況の変化にも対応出来るし、何より回復の速度は早いんだよ……どう思う?」

 唐突にそう聞かれる。いや私は知らないわよ、というかどうしてこの人間は生きてるの!?


「……貴方、何者なの?」

 永淋が警戒心を露にしながら守樹にそう投げかけた。 月人のリーダーの少年も今は永淋より守樹の方に注意を払っている。

 どうやら永淋と月人の一食触発の空気は、ものの見事に守樹にぶち壊されたらしい。


「その問いかけ、もう聞き飽きたよ」

 ニヤリと笑って、私の右手を離して守樹は答える。

「ただの人間にしてかぐやの友達の守樹です。ま、よろしく!」

 私の頭にポンと右手を乗せてから、まるで友達同士の会話の様な調子で守樹は言った。 というか乗せた右手で頭を撫でるのを止めて欲しいのだけど…。


「ただの人間ね……少なくとも私の知識の中ではただの人間というのは、頭に矢が刺さっただけで死んでしまう様な人間を言うわよ」

 全くもってその通りだ。 この数日の間は気づかなかったが、どうやら守樹は、少なくとも"ただの"人間では無い様だ。

「……と言われても、現に普通のただの人間ですしねぇ…」

 それでもどうやら彼は白を切るらしい。

「おい貴様! 地上人の分際で姫様に触れるで無い!」

 月人のリーダーの方は全く別の方向で守樹に食って掛かってる。 まぁ確かに彼等からしたら一大事かも知れないが、それでも今の現象には疑問を持つべきだと思う。



「それもそうだね――っと」

 意外にも守樹はすぐに私の頭から手を引いた、多分無意識にそうしていたんだろう。ルーミアやてゐの存在から。



「さてと、俺が態々重症を負ってまでこの場に出てきたのには理由がある」

 私の前へ一歩踏み出て守樹はそう切り出した。

 素性も知らない、情報は私の知人という事だけ、という得体の知れない男の言葉だ。永淋と月人達に眼に見える程の緊張が走った。

「その前に、おいそこのウサ耳少女!」

「…へ、私ですか!?」

「そうそう私ですよ。その車っぽい物の中さ、もしかしてかぐやを持て成す為の物品が用意されてたりする?」

「……は、はい。あまり多くは無いですが、少しばかり……」

「じゃあ決まりだな!」

 そして守樹は永淋と、月人のリーダーに再び顔を向けて、



「よし!という訳で今夜は盛大な"送別会"にしよう!」

 場違いな笑顔でそう提案したのである。




「…え?」

「…は?」

「…えぇ!?」

 永淋、月人のリーダー、私と同時に我が耳を疑った。

 この緊迫した空気の中で、お互いに相手の命を狙っているという状況の中で、この少年は満面の笑顔で子供染みた事を平気で言ってのけたのだ。

 私もこの二人よりはこの少年の事を分かってるつもりだが、そんな私でも今の破天荒な発言は流石に予測は出来ない、いや出切る筈無い!


「んだよノリ悪いなぁ、別に殺し合うだけが選択肢じゃねぇよ……というか俺の前でそんな血生臭い事させねぇし」

 不機嫌そうに頬を膨らましながら守樹は言う。

 直後、ゲラゲラと二つの笑い声が私の背後から聞こえた。予想するまでも無く、十中八九ルーミアとてゐだろう。この目の前の少年の奇行を予想出来るとすれば、この二人意外に存在しない。

「あははは、やっぱ守樹は守樹だねー」

「ははは、諦めなよ姫様、それにあんた等も、こうなったらもう守樹のペースさ」

 予想通り、件の妖怪少女二人だ。




「それは素敵な提案だけど残念ね、今はそういう気分じゃないのよ」

「私も同意見だな、そんな戯言、誰が聞くものか」

 やはりと言うか、永淋も月人のリーダーの少年も守樹の言う事なんて眼中に無いらしい。

 どちらも守樹と、後ろのルーミアとてゐにも殺意と武器を向けている。


「……むぅ、こうなったら……おいかぐや」

「…へ?」

 急に守樹が声を掛けてきた。一体どうしたというのだろうか……守樹の秘密は分からないが、今のこの状況は守樹にとって絶体絶命、私を人質にでも取ろうというのだろうか。

「なぁお前からあの二人に提案してみてくれよ、別に人殺したいぜヒャッハー!的なあれでも無いだろ?」

 ……本当にこの少年の言動は場違い過ぎる。

 とは言っても、私も出来ればあまり不必要な血は流したくない、提案だけでもしてみるべきか…。

「――え、えぇと、私も出来れば平和的な方がいいかな…って思うんだけど……」

「かぐや、私は別に構わないけれど、多分向こうが納得しないわ」

「当たり前だ! そんな地上人の戯言になど付き合ってられるか。 それに私達は姫様を月に連れ帰るという任がある」

 やはり駄目だったらしい、二人共守樹の意見を聞き入れる気がゼロだ。

「……ふーん。かぐや、つまりはあの二人を納得させられれば、美味い飯と美味い酒が味わえるんだな?」

 にも関わらず、守樹は楽しそうに私にそう聞いてくる。 この少年はまだ諦めていないらしい、というかもしかして美味しい物を食べる為だけに、こんな無謀をこの少年はしているのだろうか…?

「え、えぇ…そうなる、わね」

 私の返事を聞いて、守樹は「分かった」とだけ答えて二人の間へと割って入る様に歩い行った。




(――って、あれじゃあ格好の的じゃない!? 一体何考えてるのあの守樹(ひと)!?)


 永淋と月人のリーダーの間、丁度直線上で守樹は立ち止まった。 これでは永淋からも、月人のリーダーからも、どうぞ攻撃してくださいと言っている様なものだ。


「さて、あんた等を納得させればいいんだったな。じゃあまずそこの人!」

「…永淋よ」

「そ、じゃあ永淋! 俺は別にあんた等をどうこうするつもりも無いし、かぐやが月へは帰りたくないのも知ってる。だからあんた等は"俺主催、大送別会~in 竹~"が終わったら何処へなりともかぐやと一緒に好きに逃げればいい、どうだいい条件だろ?」

「…え、えぇ…まぁそうね」

 あの永淋があんなに動揺する姿を見るのは久々の様な気がする。 というか守樹、いつの間にか送別会に名前までつけてるし…。


「次にそこの人!」

「……***だ」

「言いにくい! とりあえずお前はキャベツだ!」

「キャベツ!?」

「あぁ、何か頭がキャベツっぽい。髪の毛緑だし」

「――っ!」

 ――お、思わず噴出しそうになったわ……そう言えばあの月人のリーダーの少年の髪の毛、何かに似てると思ったら確かにキャベツっぽい…まるでキャベツをそのまま逆さにした様な感じね。


「それでキャベツ」

「キャ、キャベツと言うな!」

「だが断る! ぶっちゃけあんた等にいい話なんて無い! 姫様は連れ帰れないし、飯と酒は会で使われるから消耗される――が、まぁ諦めろ!」

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫びながら月人のリーダーの少年、キャベツ(仮名)が怒りのままに懐から一丁の銃を取り出した。それは月の都の兵器の一つで、中からはレーザー状の光線を放つ、勿論弾数は無限だ。

 そしてキャベツは怒りのままに引き金を何度も引く。乱発されるレーザー。その姿は完全に馬鹿にされて涙目の子供そのものだが、まぁあんな扱いを受けたんじゃ仕方無い事かな。



「――はふ」


 迫り来る凶弾(レーザー)に対し、守樹は小さくため息をついた。

 ――ただそれだけ、それ以外の動作は一切無く、全てのレーザーはかき消され、キャベツの手に持つ銃も破裂した。


「っな!? 何が――!?」

「理解しなくてもいいよ別に、ただ一つ言うと、キャベツ! お前は俺には勝てないという事だ!」

「だ、だからキャベツと言うなと!」

「お前はよく頑張ったよ……だけどお前には足りない物がある……」

「足りない物…だと!?」

「あぁ、お前に足りないものは、それは! 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!! 速さが足りない!」

「―――速さ、関係無いと思うが……」

「うん知ってる。言ってみたかっただけ」

「お、お前はぁ!!」



 完全に遊ばれてる、完全にキャベツは守樹に遊ばれてる!――何だか逆に可哀想になってくる光景だ。

「…かぐや」

「あ、永淋」

 気づくと永淋が近くまで来ていた。 彼女はまず私に声を掛け、怪訝な顔でルーミアとてゐの方を見る。

「あ、その二人は大丈夫よ。守樹の知り合いだから」

「守樹…あの少年の事ね」

 ちなみに件の"あの少年"は今、怒り狂いながら短刀を振り回すキャベツの攻撃を笑いながら華麗に避けてる。

「えぇ、変な人間とは思ってたけど……まさかあそこまで変な人間だったなんて……」

「そう、かぐやも詳しい事は分からないのね……それにしても本当に、変な人間ね」

 ちなみに件の"変な人間"は今、キャベツから奪い取った短刀をまるで折り紙の様にして鶴を折り、キャベツにプレゼントしていた。

 キャベツはプルプルと震えながら、鶴の尻尾の部分で守樹を刺そうとするもそれも華麗に避けられる。一体何をやっているのか…。




「ひゃはは、なぁお前、まだ諦めないの? 多分今必死こいてるのお前だけだよキャベツ?」

「キャベツ言うな! ――確かに***は貴様の提案に乗った様だが、私の兵士達はまだ――」




「へぇ、あんた等月の兎なんだねぇ。どうだい月は? 私も兎の端くれとして少しばかり月に興味があってねぇ」

「わはははは! そうだよ。守樹ってばこの前なんて自分を食べた妖怪とお茶しててさー、いやーホントだよホント!」




「……」

「いつの間にか…なんか打ち解けてるな。うちの連中と」

「っく、しかし私は一人ででも諦めは――」

「――全く、しつこいよホントに!」

「――ッ!?」





 その瞬間、私と永淋は勢い良く同時に守樹とキャベツの方を振り向いた。

 というのも、巨大な"力の塊"――巨大な霊力が突如発生したからだ。



「――実力差を見せるのには、これが一番手っ取り早いからな」


 そこにいたのは腕を組んでニヤリと笑いながら宙に浮かぶ守樹と、突然の事に何が起こったのか分からないという、冷や汗をかいたキャベツだ。

「き、貴様は一体……」

「だから何度も言ってるだろ……」

 私と永淋……いや、この場全員の力を合わせてでも到底超えそうも無い程の力を、湯水の様に放出し続ける少年は答える。

「普通の一般人、守樹だよ」



「「お前の様な一般人がいるかー!」」

 声も出ない私達の代わりとばかりに、ルーミアとてゐのツッコミが夜の闇に響いたのだった。













「……これはひどい!」

「誰のせいか!?」


 夜明け前の竹林の中で、そう呟いた俺の言葉にキャベツがツッコミを入れる……まぁ俺の所為だけどさ。

 目の前に広がる光景はまさに死屍累々! 人と妖怪と月人が顔を赤くして熟睡している光景だ。


 それというのも俺が分かりやすい様に力を見せつけると敵わないと知ったのかキャベツが降伏、その後すでに乗り気であったルーミアとてゐと、何故か乗り気だった月の兎の兵士達と共に翁の屋敷で大宴会を開始した。

 それからはひたすらドンチャン騒ぎ、二千人程の兵士達には月の科学の力で眠ってもらったまま、俺達は数時間騒ぎまくった。科学の力ってすげー!

 最初は戸惑い気味だったかぐやの爺さん婆さんも、かぐやに誘われるがまま宴会に参加し、今ではもう完全に潰れてしまっている。



 しかし楽しい時間というのは長続きしない。もう後一時間程で夜明けという時間だ。そろそろ撤収しなければ流石に兵士達人間連中に不審がられるし、彼等にも迷惑がかかる。


「――用というのはまだなのかかぐやは…」

「もう終わったわよ」

「うわっ!? い、いきなり後ろから現れるなよ!」

「別にいいじゃない…というか驚き過ぎよ、あれだけの力を隠しておきながら」

「隠してねーよ、キャベツの前で見せた時は、"無いから作った"だけだし」

「…?」

「気にするな。で、もう行くんだろ?」


 そう俺が問いかけると、かぐやは一度頷き、すぐに永淋も合流し、

「――で、てゐもついてくと」

「っま、一人で帰るよりも姫様達と一緒の方が安全だからね」

 故郷に帰るというてゐもかぐや達に合流する。 どうやらかぐや達はてゐの故郷の竹林を目指すらしい、今日はキャベツ達を諦めさせる事が出来たが、だからといってこれからも追っ手が来ないという保障は無い。


「まぁ追っ手は使わすだろうな。姫様も永淋様も、私達月の民にとってかけがえの無い存在だから」

 ムスッとした表情でキャベツが言う。 まぁ今回の宴会、彼だけは何の得も無い物だったからな。

「へぇ……まぁ頑張れキャベツ、応援はしてる」

「……だ、誰の所為だと!?」

 忌々しそうに見てくるがスルーに徹する。




 ――さてと。

「別れの挨拶は、もう終わったのかかぐや?」

「えぇ、もう私は思い残す事は何も無いわ」

 翁達の方を一瞬だけ見つめ、かぐやは答えた。 この様子だと彼女の言ってた"用事"と言うのも無事に終わったらしい。

 これで俺達はもう出る準備は出来た訳だが――、

「それで、この惨状をどう片付けるつもりなの守樹?」

 ルーミアの言葉に俺は軽く頷く。

 食い散らかされ、呑み散らかされた場。そして横たわる月の兎達。

 問題は月の兎達をどう"車"まで運ぶか――だけど、


「……はぁ、お前達! 帰還するぞ!起きろ!」

 チラリとキャベツを見ると、彼はため息を一つつきそう号令をかけた。するとあら不思議、月の兎達はお互いに起こしあいながら、支えあいながら"車"へと戻っていく。

「最低限に訓練ならしてるさ」

 あれだけ弱ってたら兎達だが帰路の方は心配無いらしい。 見損なってたけど流石はリーダー、流石は長と言った所か。

「流石だな、キャベツ」

「貴様に褒められる道理は――ってキャベツって言うな!」

 感心したので褒めてみたら怒られた、全く訳が分からないキャベツだ。




「じゃあ次は俺の番だな」

 残る仕事はこの場を元の綺麗な屋敷に戻すだけ、それだけなら簡単だ。

 俺は床に手を着き軽く念じる。

 するとすぐに散らかされた物々は綺麗さっぱり、蒸発する様に消えていった。


「い、今のは!?」

「別に大した事はないさ、キャベツ」

「キャベツって言うな!」

 そのくだりは毎回やるつもりなのだろうか、次いつ会うか、会えるか分からないが。






「じゃあなキャベツ、まぁ頑張れよ。応援はしてないがな」

「貴様さっきは応援はしてると…それにキャベツと言うな!……はぁ」

「大変そうだな」

「誰の所為だと!!」


 全く、最後までキャベツはキャベツだった。

 それだけのやり取りをして彼は"車"に乗り込んだ。乗り込む前に「近いうちにまた」とかぐや達に言って、そして彼等は眩いばかりの光を発しながら天へと上っていったのだった。



「……近いうちにまたって、キャベツは永淋に殺されかけたって事忘れてるんじゃないのか?」

「きっと忘れてるわね、あの様子じゃあ……」

「――で、次来た時は殺すのか?」

「……見つからない様にするわよ」


 その言葉の真意なんて深く考えないで、俺は旅立つ彼女等に手を降る。

「じゃあなーかぐやにてゐ! また機会があればなー」

「……私は疲れるからあまり会いたくないわね」

「正直者だなお前は……で、てゐは?」

「またねールーミア!」

「うん、てゐも元気でねー!」

「……あれ、俺は?」


 俺を無視してルーミアとてゐはお互いに挨拶を交わす。俺を、無視、して! これでも僅かばかりには感慨深い物があるというのに……一緒に旅した仲間だというのに!

「あははは、冗談だよ守樹ー」

「べ、別に! アンタの為に泣いてるんじゃ――」

「気持ち悪いよ守樹……後嘘泣きバレバレ」

「ッち、バレたか」

「そりゃあね」


 そこで一呼吸置いて、

「はぁ、それじゃなてゐ! また会えるの楽しみにしてるよ」

「私は全然、そんな事無いウサよー!」

 そう嘘を吐いてから、今度こそ彼女等は歩いていった。

 かぐやと永淋、そしててゐ……後キャベツ、なんだかんだで別れというのは寂しいものだ。

(……神子達の時は、こんな感じじゃなかったからなぁ)

 ふと昔を思い出すが、すぐに俺は頭を振って忘れた。 過去ばかり向いて生きても楽しくなんて無い、過ぎた事は過ぎた事と開き直って、生きる。俺はそう決めているのだ。




「さて、じゃあ俺達も行くとするかルーミア」

「ふぁ~……そうだねー、出来るだけ早く寝床を見つけないとねー」


 眠そうに欠伸をした、変わる事無く隣にいる少女と共に、俺もまた再び歩き出したのだった。




 原作改変…タグつけた方がいいよね、今更だけど。


 さてこれでまたルーミアとの二人旅に戻った訳だけど、次はどうしようかな……。

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