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十一話 竹林の中で


「ウーサウーサウーササー♪」


 視界一面が緑に包まれる広大な竹林の中、愉快そうに唄う少女の声が木霊していた。

 声の発信源は数人の少年少女、先頭を白いウサギ耳で黒髪の少女が上機嫌で突き進み、その後ろを笑顔が眩しい、黒髪の少女よりも少しばかり背の高い金髪の少女が、そしてその後ろを至って普通の少年――というか俺が――という感じである。


「……」

「ウーサササー!♪」

「……おい、てゐ」


 とうとう堪えきれなくなって俺はてゐに話しかけた。

 それというのも、この竹林に入ってからか、この妖怪兎少女のテンションが少しずつ上がって行き、ついには今現在の"最高にハイッ"て状態にまで達している。

 この何時もとは違う少女の姿に、俺はどうしようもない違和感を感じての事だった。


「お前一体…さっきから一体どうしたんだよ」

「守樹、今"一体"って二回言ったよー? わざと?」

「――聞くなルーミア、自然(ナチュラル)だ」


 本当にどうでもいい事に関してルーミアが突っ込んでくる、俺は少し火照った頬と態度を咳で誤魔化しつつてゐの返答を待った。


「いやさぁー、この竹林…なーんか故郷の竹林に雰囲気が似てるなぁ…って思ってさぁ…」

 そう何か昔を懐かしむ様な表情でてゐは答える。

 ――なるほど昔をね――って、そういえば俺、てゐが俺と出会う前の事何も知らないんだっけ?


「……何見てんの?」

 そんな事を考えながらてゐの方をまじまじと見ていると、てゐはその小さな背中を翻して来た。

「いやさ、俺ってばてゐの事なーんも知らないなぁって思ってさ」

「ん、そいや話して無かったね……まぁ別に大した話じゃないし、聞かれなかったから話さなかったんだけど」

「そりゃあ興味が無かったからな」

「――ま、あんたは何時もそうだよね」

 両手を肩の所まで上げるてゐ。この頃はすっかり、てゐも俺の扱いに慣れたものである。少し前までは俺の素っ頓狂な態度や言動に一々ツッコンで来てたが、それも今となってはすっかり回数が減ってしまった。


(――っま)


 そこで俺は肩をすくめるてゐの背中に、ツゥーっと唐突に人差し指を上下に走らせた。


「――うひゃあぁぁ!?」


 それでもこういう不意打ちにはどうしても弱い様で、日頃の悪戯の仕返しも兼ねて時折こういった悪戯を俺もし返している。

「はっはっは! 甘い!甘いなてゐ! そうやって油断しているから、この間の握り飯の仕返しをされるのだ!」

 ちなみに"この間の握り飯"というのは普通にそのまま、この間俺が握り飯をてゐに騙し取られた時の事だ。 てゐが妖術で握り飯を二つに増やすから寄越せというので言われた通りにしてみたら――あら不思議、そこには満足そうなてゐの顔が!

 てゐ曰く『失敗しちゃったウサ☆』との事らしい――ウサじゃぇよウサじゃ――結果俺はその日の夕飯は抜きになったのである。


 むしろさっき程度の悪戯で済んで、てゐも幸せだというものだ。――これに懲りたら…頼むから詐欺紛いの悪戯だけは勘弁して欲しいものである。


「――ぃ」

「――い?」

「ぃ…いきなり何するのさーー!!」

「ッグハ!?」


 そんな俺の胸中とは裏腹に、てゐの仕返し渾身の右ストレートが綺麗に決まった。

 倒れる俺、不機嫌そうに俺を見下すてゐ。


「守樹ー、何…遊んでるの?」


 そしてルーミアまでも呆れた表情を表して来る。




 ――あぁ、夜はまだまだ長いなぁ。




「――むッ!」


 少女達の視線にホロリと涙を流していた所、近くの茂みがガサリと動いた――勿論、そこに何かがいるのである。

(今の音は、人間大の動物だな――ホンマもんの人間か、はたまた小熊辺りか?)

 まぁこんな場所に熊なんている訳無いが。


 そんなこんなで俺はジッと音のした茂みに注意を払う。 感じ的には妖怪の気はしない、何故なら俺の第六感(※要するに勘)がそう言ってるからだ。


「――てゐ、ルーミア」

「はいよ」

「うん」


 名前だけ呼んで二人の妖怪に指示を出す。

 俺の声の後すぐ、てゐは眼を瞑って耳を少しの間ピクピクとさせると、

「静かな息遣いだね…少なくとも獣のそれより人に近い感じかな」

 その後すぐにルーミアも、

「うーん、獣臭くは無いけど……あんまり美味しそうな匂いじゃないかな~」

 っと、各々の感想を漏らす。



 てゐには音で、ルーミアには匂いで判断して貰い俺はある一定のラインまで相手の人物像を絞り込む。

 この二人は姿形こそ人間の少女に近いが、その本質はやはり妖怪だ。故に俺なんかよりもその感覚は数倍鋭い。


 そして俺はこの二人からもたらされた情報を元に、頭の中で情報を整理し、一つに解へと導く。


「なるほどな――となると、真実はいつも一つだぜ!――てゐとルーミアの情報でアンタは十中八九人間だ、そしてルーミアが美味しくなさそうと言った。つまりは食べ頃を過ぎた、高齢のご老人という事だぁ!」

 そして俺は某少年名探偵よろしく、何者かの気配がする茂みを指差して声高にそう宣言するのだった。




「っていうか私達だってそんな事とっくに分かってるっての!」

「流石は守樹だね、何もせずに良いトコだけ持っていくなんて!」


 ――しかし二人の皮肉屋は手厳しいのであった。






「――で、爺さんはあの竹林を仕事場にしている爺さんだと」

「……えぇ」

 さて、茂みに隠れていたのはやはりというか予想通り、随分とお年を召されたお爺さんだった。 話を聞いた限り、この竹林の中に住んでいるとの事で、必然的にこの竹林が仕事場となっているらしい。そして仕事終わり、帰宅途中に俺達一行と出くわしたという訳らしい。

(なるほどなるほど…唯の人間か…)

 俺は爺さんの様子を観察しながら心中呟く。 見た感じ、随分とてゐとルーミアにビクついてる。まぁ彼女等は妖怪だし、てゐとか耳で一目で分かるし仕方無いのかも知れないが――幼い少女達を恐れる老人って絵図ら的にどうなのだろう?

(――って、俺が普通とはちょっと違う所為もあるか)

 尤も、そんなもの無くても俺は彼女達に恐れを抱かないと思うが――。



「――き、君?」

「…? はい?」

 そんな事を考えていると、心配そうな顔で爺さんが此方を覗き込んでいた。一体何なのだろうか。

「君は妖怪…なのかい?」

「……はい?」

「いやそんな気は全然しないのだが――如何せん、これだけ妖怪を連れてるとなると、普通の人間とは考えられんのじゃ」

 なるほど、爺さんが先程から訝しげな視線を送っていた理由はそれか。

 確かに、妖怪二人に人間一人、それも奴隷の様に扱われてるならまだしも完全に立場的には同位置である。疑問に思わない方がむしろ不自然か。


「いや、普通の人間だよ――こいつらはただの――ただの、なんだろ?」

「さぁ?」

「…私に聞かないでよ」

 答えが出ず、ルーミアとてゐに目配せしてみるが此方二人も分からない様子。

 俺達は三人一緒に「うーん…」と暫く腕を組んで――、



「腐れ縁?」

「非常食?」

「手下!」


 俺、ルーミア、てゐと三人同時に全く違う答えを出し合う俺達。


「いやちょっと待てルーミア!何だよ非常食って!? お前俺達の事そんな風に思ってたのかよ!?」

 最近ルーミアのブラックジョークが行き過ぎてる気がしてならない……尤も本人はブラックジョークなんて言葉は知らず、素で使ってるのもまた怖い所だ。

「守樹だって腐れ縁って何!? 私腐ってなんか無いよー!」

「言葉の比喩でしょルーミア、それよりその非常食ってまさか私も入ってる訳…無い…よね…?」

「――わはは」

「何今の沈黙!?」

「熟語なめんな小娘共! つーかてゐ!流しはしねーぞ何だよ手下って! しかもテメェだけ確信持って発言してやがったぞ!!」

「似た様なものでしょバ守樹」

「あ! 今お前馬鹿って言ったな馬鹿って! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだよバーカ!」

「んな!? 誰がバカだ表出ろ守樹!」

「わははははは!!」




「……っぷ」

 いつの間にか爺さんの事なんて忘れて、俺とてゐは取っ組み合いの喧嘩(※今の場合は、お互いに口の中に指入れて口を左右に伸ばしあう正に小学生の様な図だが)、そしてルーミアがその様子を見て大笑いしていると、不意に爺さんが噴出した。

「ぶははははははははは!」

「…?」

「…ふぇ?」

「…ふぉひふぁひーはん?」

「はははは――いやすまん、つい可笑しくてな…」

 口の端を延ばし合ってる為、てゐと俺は発音が正しく出来ていない、そんな事等お構いなしに爺さんは口を開いた。

「まさか人と妖怪が本気で喧嘩してる所なんて…そうそう拝める物でもないじゃろ…それもこんな馬鹿げた理由で」

 ――ここでまさかの爺さんによる馬鹿発言である。 これは流石の俺でも予想外の出来事だったので完全に虚を突かれてしまった。

「あぁ気を悪くせんでおくれよ――そうじゃな、あんたら今夜当てはあるか?」

「――ありませんが?」

 とうにてゐの口から手を離し、同様にてゐも俺の口から手を離している。――というか何故そんな事を聞くのだろうか…まさか、

「ならどうじゃ、こんな老いぼれの狭い家で良ければ泊まって行かぬか?」

 ここで俺は心の中でガッツポーズをした。――だってそうでしょ、屋根と壁のある寝床が野宿に比べてどれだけいいものか……!



「――って、こいつらもいますが?」

 すぐに俺は二人の妖怪少女の頭にポンッと両手を乗せて爺さんに問いかける。 何故なら相手は人間だ、どっかの神様達と違い、正真正銘の人間なのである。

「あぁ構わんよ、その子達二人は危害が無さそうじゃ」

「――じゃあお言葉に甘えて」

 まぁルーミアとかよく人の事美味しそうとか言ってるが……本心は不明だし問題は無い、かな?


「って事で、いいでしょルーミア、てゐ?」

「うん、私は別にいいよー」

「私も金目の物――じゃなくて、雨風凌げる所は嬉しいウサ!」


 ――い、一気に心配になって来た……ルーミアも心配だけど、てゐの悪巧みをしてそうな笑顔がある意味凄く怖い!

(――ま、まぁ別にいいか。何かしそうなら俺が止めればいいし)

 流石にお世話になる相手方には迷惑はかけられないしな。

 さてと、この爺さんの家では、果たしてどんな事が起きるのか――何故だか一波乱ありそうな気がしてならない。






「じゃあ決まりだね――あぁ言い忘れていたが、うちにはかぐやという娘がおるんじゃがその子とも仲良くしてやってな」

「はいお任せあ――かぐや?」

 爺さんの言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせた。

 ――これはどうやら、"一"波乱所では済まなさそうだ――。 



 姫様は次回になっちゃいました。


 一時間後に、次話予約掲載完了! 今日は頑張ったよ俺!

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