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十話 生きる者と、死に行く者達

 色々やり過ぎた感はあるけど…気にしない!

 そして長い!



「…ヒマー」

「暇だねぇ…」


 都から約一日程歩いた所にある小さな空家の中で、二人の少女が億劫そうに寝転がりながら呟いた。

 それというのも、『聖徳太子に会いに行って来る!』と豪語し、少年が出て行ったのがつい一週間程前、妖怪である彼女達からしてみればそれはとても短い期間だが、だからと言って時間間隔を感じ無い訳では無い、故に、

「もう一週間だねー、守樹ってば途中で妖怪に食べられたりしたのかなー?」

「しょっちゅう食べられてるからねぇ、もしかしたら食べられてるかもねぇ…」

 彼女達はこうして、一向に帰って来ない少年を有り余るヒマを持て余す毎日を送っているのだ。

 ――ちなみに彼女達の言葉に比喩表現は無い、守樹という少年はよく妖怪に食べられる。食べられては生き返ってをよく繰り返しているのだ。 返り討ちにしようと思えば出来るらしいが、『腕一本くらい、また再生出来るんだし別にいいさ…ッイツツ…』との事らしい。

 まぁ偶に半分持って行かれる事もあるらしいが、それでも彼はよほどの事で妖怪を退治したりはしない――それ所か彼が本気で怒ってる所を彼女達は見た事が無かった。


 それは果たして懐が広いというのか、はたまた感情が欠如しているだけなのか――、


「ヒーマーだー!」

「…こうなったらまた新しい悪戯を考えて――そう言えば張り紙の悪戯はどうなったんだろ、気づかず都に入ってたら…物凄いお笑い草ウサね♪」

 尤もそんな事、彼に一番近い彼女達からすれば些細な事である。












「かーみーきー! 守樹はおらぬか!?」

「…何だよ布都、いきなり」

 ポカポカと心地よい縁側でお茶をしていると、ドタバタと慌しく髪やら瞳の色やらが灰色の少女、布都が話しかけてきた。全く、せっかくの風情が台無しである。


「何だよ…じゃないぞ守樹! 太子様からお主も連れて来る用に言われたのだ!」

「……えー」

「何だそのやる気の無い返事は!?」

 だってかったるいし――なんて居候の立場上言えるはずも無く、俺は渋々立ち上がった。

「うむ、それで良いぞ守樹」

「はいはい、で…今度は何用だ? 珍しい話は大体やり終えたぞ」

「――ふっふっふ…聞いて驚くな守樹! 何と!太子様の名高い噂を聞きつけて遠路はるばる怪しげな仙人が現れたのだ!」

「…ワースゴーイ」

「なんだその棒読みは!?」

「一々うるさいよ布都、というか驚くなって言ったのはお前だぞ、後何だよ"怪しげな仙人"って、怪しさマックスじゃねぇか」

「む、確かに我が言ったが……というかマックスとはどういう意味だ?」

「最大って意味だよ、それよかいいのか? こんな話し込んじまって」

「そうだ! 早くお主を太子様の所へ連れてかねば!」

「わわっ! ちょ、引っ張るな布都! 地味に痛い!」


 布都に引っ張られる形で連れて行かれる俺。――はぁ、全く、一体どうしてこうなったのか――。












「……不老不死の方法、ですか…残念ながら知りませんね」

 一週間前、俺は神子から不老不死の法を聞かれ、知らぬと答えた。 その返答に対してあからさまに肩を落とす神子を少々哀れに思った俺は、

「不老不死の法は知りませんが…俺が旅して来て人づてに聞いた話や、実際に体験した話で良ければお話出来ますよ?」

 少しでも彼女にとって有益な情報になればとそう提案したのだ。

「――そう、ですね。せっかくの機会ですし、君の話にもしかすると不老不死のヒントが眠っているやもしれませんし」

「そういう事ですよ。じゃあ何から話しましょうかね、邪馬台国の姉弟の話でもいいですし、知り合いの神様達の話でもいいですよ。後は――よく妖怪やらと遭遇しますし、その時の対処法、主に逃走方法ですがお教えする事も出来ます」

「……邪馬台国? か、神様?――す、すいません!出来ればもう少し詳しく、順番に!」

「は?…あ、はい!?」

 ガバッ!と身を乗り出して興奮気味に話しを聞く神子。

 そしてその日以来、すっかり俺も気に入られ、話し手としてこの一週間ここに厄介になってたのである。












(本来ならもう話す事も無いから退散しなきゃならないのだろうけど…本格的に気に入られたのかね…)

「何をしておる、もっと速く歩くのじゃ守樹!」

 それも神子だけで無く、その配下の布都。 屠自古の方は微妙だが、さして嫌われてもいない様子だし。

(ルーミアとてゐの奴は――大丈夫だろうな。流石に一週間も離れたのは初めてだが、割りと人と接する時は別行動だし)

 その辺りもきちんと弁えてる節もある。

 どこまでいっても、妖怪連れで人間の世界へは飛び込めないのだ。




「太子様!連れて参りました!」

 扉を開き、開口一番布都の元気の良い声が部屋に響いた。 室内にいたのは神子と屠自古、そして見知らぬ青髪の女性が一人――恐らくはあれが布都の言ってた仙人なのだろう。

「ありがとう布都、守樹も態々すみませんね」

「いえ、別に暇でしたし」

 言いながら俺は神子の隣に座った布都の隣に座る。配置的には布都と屠自古に挟まれる形の神子、その正面に件の仙人となった。


「では話しを始める前に――豊聡耳様…彼は?」

 そう言って訝しげに此方を見てくる仙人。まぁ確かに、いきなり俺みたいな小汚い旅人が現れればそりゃ怪しむわな。

「彼は――」

「人間の守樹です。以後お見知りおきを――それで、貴女は?」

 神子が何か言う前に適当に自己紹介を済ませる。

 対する仙人も、

「…仙人の霍青娥(かくせいが)です。――それで、貴方は豊聡耳様の何なのかしら?」

 っと名乗り、なおも追求してくる。どうやらよほど俺の事が気に入らないらしい――もしくは今から話される内容が、よほど聞かれちゃまずい代物なのか…。


「彼はただの旅人ですよ。貴重なお話しを沢山聞かせてもらってます。此度は彼にも是非今回の話を聞いてもらいたくて呼んだのですが…まずかったですか?」

「――いえ、別に問題は無いですよ」

 神子の言葉にニコリとした笑顔で答える仙人、青娥。どうやら本気で俺の素性が気になっただけだったらしい。


「では改めて――私が豊聡耳様を訪ねたそもそもの経緯を、お話ししますわ」








 青娥の話を要約すると、彼女は異国の地から道教を広めに来た仙人で、神子の噂を聞きつけ是非とも彼女にも――と、いう訳だ。

「神子様は大変才覚もあります。是非とも道教を学んでみてはどうでしょう?」

 彼女の言葉に、神子も布都も、また普段冷静な屠自古でさえも熱心に耳を傾けていた。 それは道教を学び、仙人になる事で得られる超人的な力、そして不老不死への憧れから来るモノ…だろう。

「――それはとても素晴しい話ですね――ですが、残念ながらその道教という物は――政治には向きません…」

 本当に残念そうに言う神子。それもそうだろう、青娥の話を聞く限り、道教というものは修行すればどんな者でも仙人になれるという事だ、想像して欲しい――民が全員超人だらけの世界を……世は正に世紀末だ、ケンシロウも吃驚の世界である。

(それに民が力を持ちすぎるのは、上に立つ者的には面白くないだろうしな)

 断られるとは思っていなかったのだろう、神子の言葉を聞き一瞬焦りの色が青娥の表情に表れるが、しばらく彼女は考え込む様に口元に手を当て、不意に顔を上げた。

「――でしたら、政治にはまた別の宗教を利用すれば良いのです」

「別の…宗教…?」

「はい。私が知ってる宗教の一つに、豊聡耳様向けの政治に向いてるもの――仏教がありますわ」

 そう言って彼女は、悪女の様な微笑を浮かべて言ったのだった。








「――で、結局その仏教を広める事にしたと?」

「うむ。さすれば我々は道教で超人的な力、果ては不老不死の存在となり、仏教により民と世の政治に安寧を齎す事が出来るのでな」

 あれからまたしばらく、神子と青娥が二人きりで話しあった結果、表上は仏教を信仰し、裏では道教の教えを学ぶという形で話は着いた様である。――全く、信仰心等有って無い様なものだ。

「して守樹よ。勿論守樹も我々と共に道教を学ぶであろう?」

「はは、面倒くさい」

「うむ、そうだろうな――って、え?」

「やるなら勝手にやりな。俺はただの旅人だしな、そろそろ行こうかとも思っていたし」

 俺の言葉がよほど予想外だったのか、今布都の素を見た様な気がしたが――あえてスルーしとくか。

「ちょっと待て守樹! お主あの話を聞いて、まだ旅を続けようと言うのか!?」

「当たり前じゃん。元からそのつもりだったしな」

 焦った様子で布都が言って、俺は飄々とした様子で受け答える。

 まぁ布都からすれば俺の言葉が予想外というのも頷ける。 本物の仙人に教えを学ぶ機会等そうそう無い、そして結果的には不老不死にも近づけるという――もし俺が普通の人間だったら、今の話にも乗っかってたかもしれないが、残念ながら、俺は普通の人間では無い。故に、道教(そんなもの)に頼る必要等無いのである。

「し、しかし守樹――」




「――無駄ですよ、布都」

 布都の言葉は、神子の言葉で遮られた。見ると神子と屠自古、後青娥も一緒にいる。

「私もここ数日何度も彼を引き止めていたのですが、まるで考えを変えようとしませんから」

「……まぁね。縛られるのは、好きじゃないのよ」

「そんなつもりは無いんですけどね」

 残念そうな神子に俺は呟いた。 というのも、ここ数日神子から受けていた誘いとは――、


「守樹となら、一緒にこの国を良くしていけると思ったのですがね…」

「――え、太子様それは一体どういう――」

「どうもこうも、神子様は守樹の事を婿に向かえいれようとしていた訳よ」


 っとここで屠自古が爆弾投下――俺がせっかく言葉を濁してたのにこいつは…。

「え――えぇぇぇぇぇぇぇ!? 太子様!? それは一体!?」

「どうもこうも、そういう事ですよ布都」

 顔を赤くして慌てふためる布都にいつもの調子で神子が言う。

 布都の気持ちも分かる――俺も初めて神子から言われた時は、俺の耳がおかしくなったのかと思ったものだ。


「――全く、そんな感情微塵も無い癖にそんな事言うなら、俺も断るしか無いでしょ」

「ふふ、微塵も無い――訳じゃ無かったんですけどね」

 さて今の言葉から分かる通り、神子が俺を婿に迎え入れようとしていた事は事実だが、それは別に俺を愛していた――という訳では無かった。

 俺は人生の八割を日本各地の旅に使っているであろう旅人である、故に彼女等が知りえない貴重な情報をいくつも知って、この眼で見ている訳で――そしてこの時代は一夫多妻制、ならば逆に一妻多夫という風にその制度を理解してしまえば、俺一人が彼女の傍にいるくらい、政治的にも彼女的にも何の問題も無かったのである。

「ご冗談を」

「何なら屠自古か布都でもいいですよ。私は貴方が私の傍に居てくれるなら、どんな方法でも構いませんし」

「――!?」

「た、太子様ぁ!?」

 無言で驚く屠自古と、声を張り上げて驚く布都――本当に対照的な二人である。

「それもお断りです――逆に二人をくれるというのなら、考えてみますが」

「それはこっちがお断りです。二人は私にとって必要な存在ですから」

「――じゃあ、交渉決裂ですね」

「――その様ですね」

 いつの間にか、二人して俺と神子は笑いあってた。

 一体何が可笑しいのか、それは俺にも、多分神子にも分からないと思う、がそれでも何故か、凄くこの場が面白かったのだ。



「では行くとしますかね」

「もう行かれるのですか? もう少しゆっくりして行ってもいいのですよ?」

「これ以上いると、もっと長く居たくなるんでね」

「嘘ばっかり上手ですね」

「でしょ?」


 まるで今生の別れの様な雰囲気である。神子はニコニコと笑っているが、屠自古はどこか不機嫌そうに、そして布都は今にも泣きそうな顔をしている。

 一人だけ、青娥だけは普段と変わらないが。


「じゃあな太子様、布都に屠自古、ついでに青娥!」

「…私はついでですか」

「っま、また数年後寄ると思うから、その時はよろしく頼むよ!」

 少し歩いた後、手を振り上げて、振り返り俺は叫んだ。 別にこれは今生の別れじゃない、何故なら俺はこの人達をえらく気に入ってしまったらしい、だからまた数年後、この人達が生きてるうちに会いにこようという算段だ。

 一切年を取っていない俺を見て何と言うか、今から楽しみである。


「はい、また会いましょう守樹!」

「死ぬなよー!食われるなよ守樹!」

「…またお会いしましょう」

 神子、屠自古、青娥の順にそう言って来た。――って布都は――、




「――守樹!」

 ふと布都が居なくなっていた為、辺りを探そうとした瞬間、背中に何かがぶつかり呼びかけられた。

「なんだ、着いて来る気になったのか、布都?」

「馬鹿者…! 我が太子様のお傍を離れる訳が無いであろう!――お主が行かなければ、そうすればこんな思いせずに済むのだぞ……!」

 僅かに涙で霞んだ声が聞こえた。思えばこの一週間、この屋敷にいる間、俺は布都とばかり行動を共にしてた気がする。

 政治仕事で忙しい神子に、素っ気無い態度の屠自古、布都といる時間が長くなるのは必然の様な気もするが――それを抜きにしてこの子は一々行動が面白い所為か、俺も進んでこの子と一緒にいた気が――今ならする。

(――参ったな、こんな風に泣かせる気なんて無かったんだけどな)

 これも事実だ。 俺はこれから現代まで生き続けなければならない。なのであまり人間と関わらない様にして、対照的に長生きする妖怪とばかり関わってきたのだった。

 ほんの一週間と高をくくった結果がこれだ、本当に自分が情けなくなる。


「――悪いな、布都」

 それら全てを踏まえて、俺は軽く一歩踏み出した。途端に背中にかかる重圧が軽くなる。

「馬鹿…者…」

 振り返ると、そこには下を向いた状態で布都が立っていた。顔は地面へと向かっている為その表情は見えない。

「――またすぐ、戻ってくるのだぞ! 我は待っているからな!」

 次に顔を上げた布都の顔は笑っていた。

 泣きながら、笑っていた。

「おう、任せろよ」

 俺も笑いながら、彼女の頭を軽く撫でて、そして一度も振り返る事無くその場を後にしたのだった。
















「―――そんな事も、あったなぁ…」

 神子や布都達と別れて――大体約二年か三年が経過した位だろうか――年の経過は曖昧な為自信は無いが、多分それ位だと思う。

 そんな時、俺達は再び彼女等の住まう都の近くまで来ていた。そこで俺は、あの時の約束を守る為再び一人で都へと足を踏み入れた。例の如く、ルーミアとてゐはお留守番である。


「さて、神子様達の屋敷は――っと…あれは…」

「ん? 貴方――」

 早速直で屋敷へ向かおうとした俺が出会ったのは、神子に道教を進め、結果的に仏教を日本中に広めた原因、仙人の青娥だった。




「倒れた…だって…?」

「えぇ、私もつい最近知ったのですが、道教以外にも色々と豊聡耳様は手を出していた様で――知らず知らずのうちに誤った方法を…」

 悔しそうにそう話す彼女の表情から察するに、やはり彼女も神子を慕う一人だった――らしい。昔出合った時はあまり素性も知らない為かなり注意を払っていたが、それはただの杞憂だったらしい。

「それで守樹さん、一つお尋ねしてよろしいですか?」

「?…はい、何でしょう?」

「どうして、見た目が昔と全く変わってないのです?」


 瞬間、彼女から僅かな殺気が漏れる。――なるほど、注意を払っていたのは俺だけじゃなかったらしい。

「昔貴方と会った時、僅かですが妖怪の気を感じました。凄く薄くて豊聡耳様達は気づいてなかった様ですけど……」

 屋敷の前でそう言い睨んでくる彼女、全く――今はそれ所じゃないだろうに――いや、それ所だから危険因子の俺を見定めているのか。

 …全く優秀な仙人だことで。

「――仕舞いましょうやそんな殺気(もん)……俺もちょっと色々とかじってるものでね、詳しい事は言えないですがこの見た目はそれが原因ですよ――妖怪の気というのは、常日頃から妖怪に襲われる日々ですから大目に見てやってくださいな」

 そう言ってヘラヘラと笑う俺を、まるで値踏みする様な視線でしばらく青娥は見つめてくるが――、

「いいでしょう――合点はあってますし、そういう事にしておきます」

 はぁとため息を一つ吐き、スタスタと屋敷へと歩いてく。

 ――無論、今の話は全て嘘である。いや、妖怪に襲われるという所は本当か。まぁ、バレる訳も無いので気にしないでいいでしょ。




「豊聡耳様、守樹さんがお見えになりましたよ」

 しばらく歩いて、神子が伏している寝室へと辿りつき、そう言って青娥が戸を開いた。

「――守樹、さん…? ……あはは、すいませんね。こんな姿で……」

 そこにいたのは、青白く、やせ細ったかつて見た彼女とは似ても似つかない神子の姿だった。

 無理して起き上がったのか、彼女の顔色は今も見る見る悪くなっていっている。

「あぁ豊聡耳様! 起きては駄目です!寝ていてください!」

 慌てて青娥が彼女を布団へと戻す。 なるほど、これは中々に重症だな。

(……どうするかなぁ)

 パキパキと右手の指を鳴らして、俺は心中そう呟いた。



 呟いた所で、俺はある違和感に気づく。

「神子様……布都と屠自古は……?」

 そう、彼女の身辺にはいつもいたあの二人の少女の姿が何処にも見えなかったのだ。

 ましてや神子がこんな状態なのだ、こんな状態であの二人がいないなど、これ程不自然なのもそうそうありえまい。


 そんな俺の問いかけに、神子は小さく笑って答える。

「あの二人なら、死にましたよ」

 この時、俺は本当に、本気で――わが耳を疑ったのだった。




「…尸解仙?」

「はい。一度死んで、もしくは死んだフリをしてなる、仙人となる方法の一つです」

 その後すぐに青娥から神子の言葉の真意を聞いた。 なるほど、要するに神子はもう身体がもたず長くない為、その方法で仙人となろうという事か。

 ――そして、神子が実行に移す前に、布都が最初に、そして次に屠自古という風に――悪く言えば二人を実験台としたと。

「布都は喜んで承諾してくれました。この術は不老不死となる為の術なのですから」

 微笑を浮かべてそう言う神子、一緒に笑う青娥――今この場で、笑っていなかったのは俺一人だけだ。




「神子様、一ついいですか」

「…? はい、なんで――」

「布都は本当に、心の底から喜んでいたと思いますか?」

 神子を真っ直ぐと見つめて、俺は彼女に聞いた。 それは今となっては何の意味にもならない問いかけだが、それでも俺は彼女等の心理を知りたいと…そう思ったのだ。

「――はい、喜んでいましたよ。不老不死になれるのですから」

「なら布都に一切の恐怖心が無かったと思いますか」

「……それは」

「まぁ布都なら喜んでやりますでしょうね。『自分の尊敬する太子様が頼りになさってくれている!』っと、だけどそれだけで人の恐怖というものは消えない。その程度で消えていたら妖怪なんて存在しませんよ」

「――それは」

「それに俺は、あいつと約束しましたよ。また会おうって」

 まるで責める様な形になってしまったが、俺は構わず続けた。

 別に彼女等の生き方を非難する訳じゃない、俺も自慢出切る生き方等していないのだから――だけど、神子には知って欲しかったのだ。布都の心の奥底まで、彼女が死ぬ間際何を思っていたのかを。


 ――どんな人間にも、神子と同じ位か、もしくはそれ以上の"生きたい"という欲があるという事を。


「――俺が言いたいのはそれだけですよ」

「……」

「あぁ別にそんな気を落とさなくても結構です。俺はそれでも、貴女達の事は好きですから」

 立ち上がって俺は言った。その言葉は本心で、だけど好きのベクトルは、多分彼女が願っている物とは別のものだけど。


「――守樹、貴方は尸解仙には――」

「なりません」

 キッパリと、彼女の言葉を拒絶する。 なぜなら俺にはそんなものに頼る必要等無いし、それに共に行動する妖怪(ひと)達もいるからだ。


「少なくとも俺は、"自分の為に死んで"と言ってくる人間も、"喜んで死ねる"と言える奴も信用して無いのでね」

 それだけ言って、俺は屋敷を出た。もうこの場所に留まる必要は無い、まるでそう彼女等に無言で言っているかの様に――。





「……青娥」

「――はい、豊聡耳様」

「今すぐ――"準備"を始めてください」

「…はい、しかし予定では一週間後のはずでは――」

「迷いは消えました」

 そう言って、神子は一目では病気で伏している人間とは思えない様な表情で、生気に満ち溢れた顔で言った。

「死は確かに恐ろしい物です――しかし死を超えなければ不老不死なんて到底なれはしない、それに、先に眠った布都と屠自古にも――こんなんじゃ顔も会わせられないわ」

「…分かりました。今すぐ準備致しますわ」

 凛とした神子の声を聞いて、青娥は嬉しそうな声で返事をしたのだった。








 そしてこの日、聖徳太子は死んだ。












「あれ、今日は早かったんだね」

「…おう、てゐか」

 二人の妖怪が待つ空家へと帰ってきた一番最初に出迎えたのはてゐだった。どうやらこの辺りは野生の人参が生えていた様で、それを一つ手に取り、ポリポリと齧っている。

「で、ルーミアはいるか?」

「呼んだー守樹ー?」

 空家の中へ声を掛けると、金髪の少女が顔を出した。 ルーミアもルーミアで――何をやっていたのだろうか。まぁ、気にする事でも無いか。

「あぁ、少し早いが出発するぞ。もうすぐ夕日も完全に落ちるだろうしな」

 身支度を適当にやりながら俺は言った。

 そんな俺の言葉に二人の妖怪少女は一瞬眼を合わせて、

「へぇ、珍しいね。何時もはもっとゆっくりしていくのに」

「うーん、何かあった?守樹?」

 二人の妖怪少女は無邪気にそう聞いてくる。



 別に理由なんて無かった。 ただ長居する理由を見出せ無かっただけだ。

「――別に何も無いよ――なぁ二人共……」

「「?」」

「もし俺が――"俺の為に死んでくれ"って言ったらどうする?」



 それはただの気まぐれ、俺の連れ達はどんな返答をするのだろう。という純粋な好奇心だ。

 そんな好奇心に対し、返って来た言葉は――、

「寝言は寝て言うウサ♪」

「返り討ちにしてあげる♪」

 二人して楽しそうに笑いながら答える。

 そしてそれは、俺にとって予想外にして、予想通りの答え。


「――っぷ、あはははは! まぁ嫌だろうとは思ってたけど、その言い方は酷すぎだろ!」

「当たり前じゃない。誰があんたの為に死んでやるかっての」

「てゐと同じー! 死ぬなら守樹一人で死んでよ!」


 俺達の間に神子達の様な上下関係は無い。

 そりゃあお互いに妖怪に襲われた時とかは助けあうが、それでももし自分と相手の命を天秤に掛けた時、俺達は揃って自分の命を選択するんだ。

 ――だからこそ、人生は楽しくて、こいつらといるのが楽しくて、そして退屈しないのだ。




「それじゃあ、行こうか二人共!」

「はいよ」

「うん!」


 そうして何時も通りに、俺達は三人で旅を再開する。




 さて次はかぐや姫かなぁ…

 感想とか、送ってもいいのよ?(訳:感想とか凄く欲しいです!)

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