九話 十の声を聞く者とその配下の者達
※東方神霊廟ネタバレ注意
布都ちゃんの口調訂正――今日眠気覚ましに神霊廟プレイしてて気づいたんだけど「~のじゃ」とかいう口調この子して無かったんだね…先入観って怖い…
聖徳太子――十の人の声を同時に聞く事が出来るというその人物の名を知らぬ者等、この日本にはいないんじゃないかと思われる程有名な人物。
冠位十二階や十七条の憲法等の決め事は、現代の教科書にも載るレベルの超重要イベントであり、当然彼の存在はこの時代においても現代程、いやもしくはそれ以上に有名だった。
さてさて、では何故今回、俺がこんなモノローグを独りでに頭の中でやっているのかというと――それはつい昨日の事だった。
「聖徳太子、一度見といて損は無いと思うのだよ」
俺はとある林の空き小屋の中で、箸を突きつつ言った。無論、それは同行人の妖怪二人に「一緒に行きませんか?」という遠まわしなお誘いだった訳だが、
「ふーん、そうなのかー」
「あっそ、行きたきゃあんた一人で行きゃいいじゃない」
「……」
俺の必死の訴えを軽く流し、二人の妖怪はせっせと夕食(※時間帯は午前三時)をかきこんだ。――まるで興味が無いらしい。
全く――どうやら今回は俺の一人旅になりそうな予感である――。
最近、とある噂が人の世の巷を騒がせていた。
何でも"聖人"と呼ぶに相応しき才覚を持った者がいると――そしてその者は"十の人の声を同時に聞き、そして理解し、的確な指示を飛ばせる"――らしい……そう、十中八九、聖徳太子だ。
自由気ままに永遠の生を生きる俺であるが、今回の様な"歴史的大イベント"となれば話は別だ。せっかくの超歴史的人物を見るべく、俺は当然、ついでに彼女等二人の妖怪を誘った――、が。
――この反応である。
どうやら妖怪である彼女等は人の世の有名人物等さして興味も無いらしい。残念。
……まぁだからと言って諦める気は無いがな。幸い都は目と鼻の先、一日歩けばたどり着ける距離である。
――が、やっぱりあまり一人で行きたくない俺は、
「分かったよ!じゃあ俺一人で一人寂しく行って来るよ!」
っと、最後の訴えを発動。まるでお菓子を前にした駄々っ子の様子で茶碗を床に叩きつける様に置いた俺だが――、
「うん。いってらっしゃい!」
「あたしらは寝てるとするよ……というかもう眠いしねぇ…」
たった二人の少女の心すら動かす事が出来ず、寂しくを身支度を始めたのだった。
「――ルーミア、ルーミア」
「……?」
二人の少女の怪しげな密談に気づく事無く――。
以上回想、――べ、別に一人が寂しかった訳じゃ――すいません、やっぱ少し寂しかった俺でした。
「――って心の中で誰に謝ってるんだ俺は……」
どうやら少しナイーブに無いっていたらしい俺。なお某シャンプーボディーソープとは全く関係無い。
「――弱酸性って言っても、結局は酸性なんだよなぁ…」
懐かしい未来の商品に思いを馳せつつ、俺は都への道のりをゆっくりと歩いていく。
そして無事目的地到着、都は流石は天皇のお膝元という事もあり、かなりの賑わいを見せていた。
行きかう人々、盛んに取引される物品、そして立ち並ぶ家屋。
「はは、やっぱ偶には賑やかなのもいいな!」
そんな光景を俺は本来の目的も忘れ胸躍らせながら見て周る。
何分行動は基本夜、しかも人を見かけてもルーミアとてゐの存在から全くここ最近人との関わりが無かったのである。 話しかけた瞬間、俺を妖怪の手先だと大多数の人間は思い逃げ出してしまうのだ。
「母さん母さん、あの人……」
「こらっ、見てはいけません!」
そんな風に賑わう町並みを見て周って半刻程した頃、小さな子供が俺を指差し、すぐにその子は母親に注意されるという事例が起こる。
「……そういや、都に入ってからやけに視線を感じるんだよな……」
そんな子供の様子を見てポツリと俺は呟いた。
視線といっても、そこに敵意等微塵も無く、どちらかというと好奇の様な眼、珍しい物でも見るかのように人々はチラチラとこちらを見てくるのだ。
「別におかしな…格好じゃないよな?」
立ち止まり自身の格好を改めて見直してみる。 確かにこの時代に来たばかりの頃は格好が学ランだった事もあり、物珍しい目で見られる事が日常茶飯事だったが、それももう過去の事だ。あの学ランも長い年月の中で完全に着れなくなり、今は時代に合わせた日本古来の着物を着用している。
「うん、別におかしな所は無い……っと」
辺りをキョロキョロと見回し確認を完了する。 うん、別段変わった所は無かった。
「――となると何が原因で――」
「おいそこの者!」
突然、後ろから若い男の声で声を掛けられた。
振り向くと、そこには周りの一般市民達より上等そうな服を着た人物が二名。
「……何か用っすか?」
「――お前、一体何のつもりだ」
やけに険しい顔をした二人についムキになり攻撃的な態度を取ってしまう――が、そんな俺の態度とは反対に、何か哀れみが篭った目でこちらを見てきた二人は言う。
「お前さん、このご時勢辛いのは分かる!皆同じだ……だがな、生きる事は諦めちゃぁいけねぇ!」
「――っへ?」
何だか分からないがどうやら慰めてくれてるらしい。 勿論、俺に慰められる理由なんて無い。
「あの、すいません、一体何の事――」
「まぁまぁ、何も言わずに俺達について来い!」
慌てて誤解を解こうとするも、大の男二人に掴まれ、引き摺られる様に連れて行かれる俺。
抵抗もしようと思えば出来るが、この二人から悪意は感じられない、いやどちらかというと人は良さそうだ。
(――ま、成行きに任せてみますかね)
そう判断した俺は、流れに身を任せてそのまま連れて行かれる事にしたのだった。
「連れて参りました太子様!」
連れられる事数十分、俺は何やらお高そうな屋敷の中へと連行され、徐に座らされると、訳も分からないまま頭を下げさせられた。 そして数分後、そう発言した俺を連行した男の言葉に俺は耳を疑った。
(……いやいやまさかまさか、都に入ってすぐに"目的の人物"に会えるなんてご都合展開……)
大体どうやって居場所調べて、忍び込もうかを考えてたのだ。 相手はかなり身分が高い存在、だから会うのは当然容易では無い訳だと――、
「ご苦労様です、君達はもう下がってよろしいですよ」
「っはは、太子様!」
――思っていた時期が、僕にもありました。
「では、まずは面を上げてください」
「……」
許しが出たので、俺は言われた通り頭を上げる。
いやはやそれにしても驚きだな、まさかこんなに早く簡単に聖徳太子に会えるなんて…現代まで生きたら知り合いに自慢しまくってやろうか、誰も信じないだろうけど……。
そして、満を持して上げた顔の先にいたのは――おかしな髪型に現代で言うヘッドフォン(――の様な髪留め?)をした若い娘だった――。
「……」
「――む、どうされましたか?」
「……っは!? いかんいかん、あまりの衝撃につい我を忘れてしまった――で、本物の太子様はどこに?」
「? 太子様、とは――それは恐らく私の事ですが――?」
「はっはっは。いやいやまさか! 世間を騒がすあの太子様が俺なんかと同程度の年齢な訳無いじゃないですかぁ~」
「い、いや。君の想像上の私がどういった者かは存じませんが事実、私はこの様な容姿でして――」
「へぇ、随分と可愛い太子様もいたもんだな」
「――っな!?」
カラカラと笑い冗談交じりに言いう俺の言葉に、顔を赤く蒸気させる目の前の少女。
正直に言うと、俺は彼女の正体が本物の聖徳太子だと気づいていた。
先程のさながら役人の様な男達の態度、この少女の立ち振る舞い、そして見事なまでに気配を絶っている扉の向こうの数名の人物の存在。
――彼女が聖徳太子だと裏付けるのに十分な理由だ。
では何故俺がこの少女を楽しげにこうもからかっているか――それこそ単純、楽しいからである――。というのも、タイムスリップして以来、一度偉人という者を弄ってみたかったのだ。
(卑弥呼の時は……それ程余裕が無かったからなぁ)
そんな彼女の初心な様子に、しみじみと昔の偉人の姿を思い浮かべていた。
――時だった。
「――もう我慢ならん! 太子様! 我にこの者の抹殺の許可を!」
その場の空気をぶち壊し、突如として入って来た人物が声高に言った。
見た目は聖徳太子様より少し下くらいの、灰色の髪(……しらが?)をポニーで纏めた高圧的な態度の、これまた可愛げのある少女だ。
――そして、廊下で息を潜めていた人物の一人でもある。
「っな――布都!?」
「お主! 多忙な太子様が態々時間をとってくれてるというのにその態度はなんなのだ!?」
あからさまに怒りを露にしながら、布都と呼ばれた人物は声を荒らげる。 どうやらよほど太子様にご執心らしい、まるで自分の事の様に俺に突っかかってくる。
――というか俺は別に頼んでいる訳では無いのだが――にしても現に会いたかったのもまた事実、流石にふざけ過ぎたかな。
「そうだね。ついふざけ過ぎたな、謝るよ。すまん」
そう言って頭を下げる。
最近はてゐの悪戯と、それに乗っかるルーミアの所為で感覚が麻痺してたけど、人ってのはどうにも怒りっぽい生き物だったな。 これからは気をつけるとしよう。
「え……いや、その――わ、分かったのなら良かろう! 寛大な太子様の懐の広さに感謝するのだ! そしてもう二度とあんな態度を取らぬの様にな!良いか!?」
「……はい」
「あれ、私を抜きにして話が……いや、まぁ良いんですけど……」
当の本人を抜きにして勝手に話しを進める突如飛び込んで来た少女、突然の俺の変わり身に少し驚いた様子だったが、すぐに自身のペースを取り戻し一方的に俺を許してきた。
(……いや、別にお前さんに許して貰う必要は無いのだけども)
そんなツッコミはあえてせず、一方の太子様も不問にしてくれる様子なのでここは一端、場を持ち直す事にする。
「えー。コホン。では改めまして――人間の守樹と言います。以後お見知りおきを」
軽く咳払いしつつ、そういえば忘れていた自己紹介。挨拶は現代の人間社会の基本だ、そしてそれは今のこの時代でも変わらない。
「守樹…ですね。私は豊聡耳神子。言わなくても分かると思いますが、一般的に聖徳太子と呼ばれています」
「我は物部布都だ、そして太子様一番の家臣であるぞ!」
俺に釣られる様に少女二人も名乗り、これでお互いに顔見知り程度の関係にはなった訳だが――、
「して守樹。君は一体どういう――」
「ちょっと待った」
「そこにいるもう一人、覗き見なんかせずに出てきたらどうだい?」
本題に入ろうとする太子様――神子の言葉を右手で遮り、俺は完全に閉め切れてない襖をジッと見つめて言った。
俺の言葉に神子と布都が驚きの表情を見せる。尤も、それは恐らく覗き見してる者の存在にでは無く、それに気づいた俺に対して、だろうが。
「――驚いた。自分に気づいた人間はあんたが初めてだよ」
そう言いながら襖を開けて現れたのは――これまた若い少女。 年は大体布都と同程度か、緑色の髪と瞳が特徴的な子だ。
(――今更だけど、彼女等は一応日本人、だよなぁ…?)
新しく出てきた少女含め、みんながみんな黒髪黒眼じゃないってどういう事だよ。 妖怪ならまだ分かるけども――。
「む、どうかしたか守樹?」
ボーッとしてると布都に尋ねられ、「慌てて何でも無い」と返す。
返し、改めて新たに出てきた少女に目線をずらす。
「蘇我屠自古だ。本来は名乗るつもりは無かったが、こうして出てきてしまったからには仕方が無い」
素っ気無い態度でそう言う彼女、どうやら普段から物陰に隠れて神子の身辺警護をしているらしい。 ――尤も、こんな少女に勤まるのかは、微妙な所だが。
「――む、今貴様、私の事馬鹿にしたか?」
「…気のせいですよ」
睨みを利かせて声色を低くした彼女に、つい目線を逸らして答えてしまった。
うん、この様子なら何の問題も無いらしい――少なくとも態度だけは極道も顔負けの"睨み"である。
「ふん、太子様の事なら我に任せて、屠自古は屋敷の奥で大人しくしていればいいものを」
「戯け、それはこちらの台詞だ役立たず」
どうやらこの二人、相当に仲が悪いらしい。二人は顔を合わせるや否や、悪態をつきながらお互いがお互いを罵倒する。犬猿の仲とは正にこの事なのだろう。
「――二人共。客人の前ですよ」
放っとけばいつまでも続けそうな二人の間に、神子が仲裁に入る。 二人の少女の喧嘩を止める彼女の姿は、さしずめ双子の妹の喧嘩を止める威厳溢れる姉の様だ。
「ぅ…すいません太子様…」
「申し訳ない…」
二人も彼女へは一切の口答えをせず、すぐに大人しくなった。
(これもまた人望の為せる技なのかねぇ―――それにしても"物部"と"蘇我"か……日本史はあまり得意じゃないから詳しくは知らないけど、両家ってお互いにいがみ合って無かったっけ?)
流石に数百年前に習った事等(しかも授業中はほぼ寝てたし)、ほとんど覚えていない――が、二人を見るに喧嘩はすれど別段憎しみあってる訳では無いようだ。 喧嘩する程仲が良い、とも言うが。
「――どうしました?」
今度は神子によって現実に引き戻される。
というか久々に昔の事を思い出したものだ、今となるとまるで遠い過去の様な……いや実際に遠い過去なのか。
「いえ気になさらず――して、先程は何か仰られそうになってましたが?」
下手な敬語でもしないよりはマシ、それが俺の持論だ。
「え?…えぇ、では守樹、君は何に思い悩んでいるのです?」
「……俺って何か思い悩んでるんです?」
「――思い悩んでいるのではないのですか?」
「え?」
「え?」
何故か会話がかみ合わず二人して首を傾げる俺と神子。 思い悩むって……最近ではてゐとルーミアの悪戯に悩まされてるけど、あまり大した事じゃないし――。
「さ、先程君を連れて来た二人が言うには君に自殺願望があるらしいとの事でしたが――」
「……別にそんなのありゃしませんよ」
慌てた様子の神子に俺はあくまでマイペースに答えた。
困った顔で『あれ?』っと小首を傾げる神子、というか普通に可愛いなこの聖徳太子…。
(聖徳太子は――実は萌えキャラだった――これは日本史学の世界に一石を投じる事が出来るな)
そんな彼女の様子を眺めながら、俺はそんな下らない事を考える。 どう見ても、会話がかみ合わない理由は探す気ゼロである。
「太子様、恐らく守樹がここに連れてこられたのはこれが原因では?」
困り果てた俺達だったが、唐突にそう言った布都が俺の背中から何かを剥がし、前へ置いた。
「これは、紙?――何か書いて――」
そこで俺は言葉を止めて、動きも止めた。ザ・ワールド状態である。
「何々……『私は人生に絶望しました。近々妖怪へこの身を差し出す所存でございます。ですがどうかその前に――私は一度聖徳太子様に会いとうございます、ので…心優しいどなたか、私をどうか太子様の所へ!』――守樹、お主ここまで追い込まれて――」
「――いる訳無いいる訳無い!!――畜生!あんの糞餓鬼共!!」
"してやったり!"というルーミアとてゐの顔が今にも頭に浮かぶ。 というかこんな状態で都を歩くとかどんな辱めだよ!どうりで都中の連中が珍しげな哀れみの混じった視線を向けてきた訳だ!
(しかもこの紙のお陰で結果的には神子達には会えた訳だから、あまり強く怒れないという…!)
悪戯がバレた後の保険まで効かせてやがるあの妖怪共!
「お、おい守樹?」
「ご乱心だな」
突然の豹変ぶりに眼を丸くして驚く布都と、含み笑いをしている屠自古。二人の性格が手に取る様に分かる図だなこれは。
「――えーと、察するに、君のそれは子供の悪戯と…受け取ればいいのでしょうか…?」
「えぇ…残念ながら」
恥ずかしさの余り顔に手を当てて答える俺。 神子は神子で苦笑いだ。
「じゃあ、元々あんたは神子様に用等無かったと?」
冷静にそう聞いてくる屠自古。確かに、今の話しの流れならば、俺は何の用も無しにただ勘違いで連れてこられた唯の一般市民という事になる。
「いや、まぁ用という用じゃ無いが、何にも無かった訳じゃないよ」
「なんだ、悪戯とは別に何かあるのか?」
「まぁな、風の噂で太子様の噂を聞いたからさ。それじゃあ旅のついでに寄ってこうかなと思ってね。丁度近場まで来てたし」
「旅…という事は、君は旅人か何かで?」
「旅人か何かというか、旅人かな。本物の」
かれこれ数百年日本中をゆったりと周る普通の旅人です。
「で、では…ここらでは聞けない珍しい話もご存知で!?」
先程からやけに興奮しながら聞いてくる神子。 一体どうしたのか、そんなにも旅人とは珍しいものなのだろうか。
「まぁ少しは――お気に召す話かは存じませんがね。で、太子様は一体どんな話が聞きたいのです?」
「――不老不死」
「…え?」
「不老不死になる方法、どんな小さな情報でも構わないので、知ってる事を教えて頂きたい」
子供の様な無邪気さで、欲望に満ちた瞳で、彼女はそう聞いてきたのだった。
口調の違和感がどうしても拭えないが、書いちまったもんはしょうがないよね!――すいませんゴメンなさい、これが私の限界でした。
そして折角旅仲間になったのにさっそくパーティから外れるてゐ…多分次話で神霊編は終わりなのでそこからが本番、だと思います。
神子様布都ちゃん屠自古ちゃん(…さん? 小説内では一応布都と同年代設定)――割りとこの三人組大好きです。