打ち上げ花火
あーもう、書きたいことは頭にあるのに文章にするのがムズイ、ムリゲーだわ。
自分より実力が上の者に対して後手に回ってはいけない。
そんな常套句をここでも持ち要らせてもらいたい。
相手は県大会でも有数のプレイヤーだ、勝てるかもしれないなんて思ってはいない。
でも、負けたくない!
それが練習試合でも、である。
台を挟んで向き合う観月さんを見つめてイメージする。
自分の得点するイメージ。
開幕サービスは私だ。
いつもなら様子見でショートクロスに下回転を放って相手のスタイルを見極める。
女子同士の試合の場合、台上での細かいツッツキ合いになるケースが多い。
ここで相手の攻撃力を測るわけだ。
攻撃的にドライブをかましてくるのか、はたまた堅実にツッツキで守りに入るのか…やはり場合によって試合の組み立て方が変わってくる。
と説明してみたものの結局ケースバイケースだ。
その時その時でコロコロ変わってしまうのである。
それでもいろいろ頭を悩ませて作戦を考えるのは、その方が楽しいからという単純な理由だからなのはお察し頂きたい。
兎にも角にも、この試合の相手は勝手知ったる観月さんだ。
初撃から奇襲でいこう。
センターへのロングサーブからの3球目攻撃!!
私がゲーム序盤ではそうそう使わない手だ。
「顔が怖いぞ?未来ちゃん、折角試合するんだから楽しくいこう」
「は、はい!お願いします!」
観月さんの急な呼びかけに思わずどもってしまう。
いや、どもるのはいつものことか。
「ん~、やっぱりなーんか固いよねー未来ちゃんは」
「…そうですか?」
自分ではあまり自覚がないんだけど…
「あーいや、なんでもない気にしないで、キミはそうだったよね」
「?」
「そんじゃ、ま、改めてよろしく」
意味深なことを言い、観月さんが構えをとる。
とにかく集中だ。
観月さんを見据え私もサーブの構えをとる。
先輩、勝負です!
「さーっ!」
掛け声のあとワンテンポ遅らせて、ピン球を空中へ放る。
コートの中央を真っ二つにする感じで…射し込む!
自コートでワンバンしたピン球は狙い通り先輩身体真正面…とはいかなかった。
…駄菓子菓子
「っく!?」
私のサーブは台の角に当たりあらぬ方向へ。
先輩も反応するがこのイレギュラーには追いつけず私に1点が入る。
「す、すみません、わざとじゃないんですっ!!」
「そんなのわかってるって、仕方ない仕方ない」
と言いつつ構え直す観月さんと、内心ではラッキーと思いつつ再びサーブの構えをとる私。
狙いは割れたかもしれないが今回も最初のプランを採用、3球目攻撃だ。
再度観月さんの懐を目がけてロングサーブを放つ。
出来るだけ深い場所を意識した。
あわよくばさっきと同じ展開を期待しだが、今回それはなかった。
自身の真正面に来たサーブを観月さんはバックハンドで迎撃。
威力はさほど乗っていない返球がクロスに返ってくる。
これを回り込んでフォアハンドでスマッシュ!
いっけぇーーーーーーーーーーっ!!
内心で絶叫しつつ打ち込む。
狙いはストレート。
コートを抜けるまでに殆ど距離が無いコースだ。
決まるっ!
と思ったがしかし、これは決まらなかった。
観月さんは即座に反応し返球。
だけどただ当てただけ…回転も勢いもないっ!
駄目押し!
もう一度、押し込むようにスマッシュを放つ。
今度こそ抜ける!
そう思って放ったバックサイドへのスマッシュ。
観月さんを置き去りにするはずの打球。
…はずの?
違和感があった。
観月さんが…遠い?
簡単なことだ、観月さんはバックステップしていた。
そして後ろに下がりながら左右の位置も調整し、着と同時に私のスマッシュをバックハンドで打ち返した。
思いもよらない反撃に私の反応は遅れブロックするので精一杯だ。
つっ…重っ…あの距離からこの威力なの!?
いや、違う…あの距離だからっ!?
距離が離れたことでラケットの振りが大きくなったのだ。
膝から腰、腰から胸、胸から肩、そして肘、手首、それらがフル稼働させて放たれたバックハンドでのパワードライブ。
距離があるとはいえ、あの態勢からのバックハンドドライブは打てるものじゃない。
それこそ距離が離れてなくては当てることすら出来ない威力のドライブだった。
でも、止められない程じゃ…って、うわひゃー!?
内心で奇声を上げる。
今度はフォアからのパワードライブ。
止めなきゃ!
観月さんの攻撃は凄まじいが、凄まじい故に返球もそれなりに威力の乗ったものとなる為、ただブロックするだけでも通常より後方に下がっている彼女の位置まで届いてしまう。
そう、届くのだ。
さして力が乗っておらず、回転もかかっていない打ち頃な球が観月さんが位置する距離まで。
後はそれに合わせて移動→パワードライブの繰り返し。
まるで打ち上げ花火だ。
どこぞやの花火大会の如く、連発でのパワードライブラッシュによって相手に攻めの姿勢さえとらせないごり押し攻撃。
私が警戒していたのは正にこれだった。
後手に回れば蹂躙されるのみ、万事休すだ。
観月さんのパワードライブを打ち返す自信なんてない、かといって私に下がって打ち合う技術もない…
観月さんの4度目のドライブが迫る。
角度を合わせて再びブロックする。
それでも
負けるのは、嫌だ
5度目のドライブを打つべく、観月さんがラケットを振る。
打球が来る位置にラケットをあわせる。
今出来るのことがブロックだけなら仕方ない。
...受け続けるだけだよね?
5度目のブロック。
観月さんの顔が笑ったように見えた。
「こっのーっ!」
6度目の攻撃はしかしガットに当たりすっぽ抜けていった。
「あちゃー、回転意識しすぎてラケット平行にしすぎちゃった、失敗失敗」
観月さんは右手をぐぱーぐぱーしながら呟いた。
「未来ちゃんってさー、あんまり喋る方じゃないよね、あ、いや、別に暗いって言ってるわけじゃないよ?」
何を言ってるかわからないが失礼なことを言われている気がする。
とりあえず首を傾げておく。
「でも、喋らないからって内気なわけじゃいんだよね...こうやって打ち合ってるとよくわかるよ」
打ち合ってるって...一方的に殴られてた感は否めないのでは...?
「今だって私が攻めてたはずなのに、ポイントは未来ちゃんが持っていった。結果だけみると私がミスをしただけなのかもしれない、っていうかそうなんだけど...」
あー自分のミスのせいだから調子に乗るなと?言いたいんですね。
わかります、実際その通りなので。
「でもこのポイントは未来ちゃんがネバったからもぎ取れたものだと思うんだ。ブロックされる度に伝わってきたよ、未来ちゃんの絶対に負けたくないって気持ちがっさ」
エスパーか?この人。
「私だって負けるつもりでやってないよ、でもあの一瞬、未来ちゃんの真剣な表情を見たら嬉しくなっちゃってさ...たかが1点かもしれないけど、その1点にマジになれる熱いヤツなんだなーって」
これは試合なんですよ?観月さん。
最初から負けるつもりでやる人なんていないじゃないですか。
「未来ちゃんのことが知れて嬉しかったよ、卓球で会話してるみたいでねっ!」
太陽みたいな笑顔を私に向ける観月さん。
きっと私も笑顔で応えていたに違いない、そうであってほしい。
「...そうですね、先輩。最後のスイング、私のブロックを弾き飛ばしてやろうって想いが伝わってきました」
「あ、わかった?回転数を変えてさ、角度をずらしてやろうとしたの!」
「はい、でも本音を言えばもうドライブは打ってほしくありません。シンドイんですよ連続でブロックするの」
「え、そうなの?あれが未来ちゃんの戦型だと思ってたのに」
「私だって攻めたいです。今だって最初は抜きにいってましたよ?」
「あー確かにそうだったかも」
「もー観月さん、私のことわかったって言ってたのは、その場の雰囲気ですね、あれ。全然わかってないじゃないですか」
「え、あ?違う違う、あれは気概的なことをってことだから、別に間違ってないんじゃない?」
しどろもどろになる観月さんを見て、宣言する。
「今日は負けませんよ」
「ふふ、受けてたつよ!未来ちゃん」
観月さんは一瞬ハッとした表情を見せ、すぐに笑顔でそう返した。
前から思っていたがやたらと人の名前を呼ぶな、この人。
二球。。。いえ、実質一球とか自分でもあり得ねーって思います。さー続き書けるか?