三ノ宮中学女子卓球部
私の名前は九条 未来。
三ノ宮中学校に通う中学1年生。
得意な科目は国語で、苦手な科目は数学。
所属している部活は卓球部。
夏の大会である全国中学校体育連盟が主催する大会、通称・中体連をを目指して目下特訓中である。
「いくよっ!」
台に対して平行に身構え、手のひらにピン球を乗せた状態で薫ちゃんの声が飛ぶ。
私は中腰になり、右手のラケットを握りなおす。
それを確認した幼馴染はサーブを放つ為にピン球を空中へと放り投げた。
落下しているピン球に意識を集中する。
ピン球は初めに構えられていた位置まで落ちると勢いよく振られたラケットによって打ち出された。
斬り込むような打球が正面に迫る。
私はバックハンドで闇雲に打ち返すと、返しでスマッシュが飛んでくる
「くっ!」
腕を伸ばしフォアハンドで返すが当てただけだ、とても凌いだとは言い難い。
続いてのミドルへの攻撃はバックでブロックする。
このままじゃ防戦一方…攻めなきゃ…!
台から距離を取り次の攻撃に備える。
フォア側に迫る打球をドライブでクロスに迎撃…と思いきや、ラケットは盛大に空を切った。
最後は空振りとか…うぅ~かっこ悪ぃ…。
「あぁ~、惜しかったね!今結構続いたのに」
「幾ら続いても仕方ないよ…結局攻めなきゃ薫ちゃんは抜けないんだし…」
「フッフーン、私に撃ち合いを挑む気概は買うけどさっ、3年と8ヶ月早かったね!」
このちょっと…かなり上から何か言っているのは私の幼馴染。
名前は渡嘉敷 薫。
良くも悪くも真っ直ぐな子だ、思ったことがすぐ口に出るのが玉に瑕。
私が卓球と出会ってから1年が経とうとしていた。
あの大会の翌日、ラジオ体操の帰りに卓球をやってみたいと薫ちゃんに相談したところ、すっごい満面の笑みでじゃぁ一緒に始めよっ!と言われた。
そして薫ちゃんのお兄さんにお願いして卓球を教えてもらうことになった。
お兄さんの義則さんはこの時、中学3年生でその年の中体連を最後に部活を引退し、やることもなくなるので引き受けてくれるとのことだった。
高校受験はどうするのかと聞いたら、スポーツ推薦で幾らで採ってくれる学校があるから心配しなくてもよかったんだとか。
そういうわけで、現在は他県の私立高校に通っている。
寮生活だそうだ。
でも、薫ちゃんは中学生になってから卓球を始めると言って気がするけど…良かったのだろうか?
本人に尋ねてみたところ、
「ミキと一緒に卓球が出来るなら私は今すぐにだった卓球をはじめるよっ!」
などと、くすぐったいことを言われてしまった。
まったく…可愛い奴め。
そんなこんなでお兄さんによる特訓の日々が幕を開けた…
キツかった…何度辞めてしまいたいと思ったか…でも仕方ない。
そう思った時はまだ始まってすらいなかったのだから。
最初は本当に基礎体力作り。
私たちはまだ身体が成長途中なので、今のうちから卓球をする上での土台をしっかりつくるのだそうだ。
そうすれば、中学、高校と上がった時に練習や試合でバテ難い体質にするのだとか…。
なんか嘘っぽいけど、普段は体育ぐらいでしか運動していない私は体力が無いことを否定できず、指示に従いメニューをこなすしかなかった。
もうあの階段ダッシュは嫌だ…やりたくない…。
中学入学時に、
「いや~実は今までのアレ、男子用のメニューだったんだ~」
と言われた時は愕然とした。
「本当は途中で切り換えるつもりだったけど、お前らが良くついてくるものだから最後までそのままでいったんだよね~」
…とのこと。
あぁ…1回でもサボタージュしておけばよかった。
そんなわけで晴れて卓球台からに立ったのは12月のことだった。
ちょっと早いクリスマスプレゼントとして、お父サンタにラケットを買っていただいた。
サンタなのに…。
ラケットが欲しいと父に打ち明けてすんなり受け入れてくれたのは、お兄さんが予め口利きをしてくれていたからだった。
なんて面倒見の良い人だろうか、軽く尊敬してしまう。
そして今、現在。
部活が始まる前の体育館でオールコート(自由に打ち合う練習)をしている私達。
もう何百回と聞かされた、薫ちゃんの決め台詞を聞き苦笑する。
「薫ちゃん、その台詞、年数毎回変わってない?」
「ん~?そうだっけ?」
「そうだよ~、だってこの前は7年と8ヶ月って言ってたし、最初なんて3世紀だっよ?」
「へへっ、そんな昔のことは覚えてないっ!私の言う年月が毎回減ってるってことはそれだけミキの実力が上がってるってことなんじゃないのかぃ!?」
私は変わってるとは言ったけど、減ってるとは言ってないんだけど…。
まぁ、薫ちゃんなりに私のことを認めてくれてるってことかな?
私と薫ちゃんがラケットを握り始めたのは、ほぼ同時だった。
初めて台に立った時も一緒だった…。
なのに、なのにだ、ふたりの実力には驚くぐらいに差ができてしまった。
お兄さん曰く、イメージの差らしい。
薫ちゃんはそれこそお兄さんが中学生になり、卓球を始めた頃からずっとその姿を見てきたのだ。
動きのイメージがし易いのだろう…と。
加えて、薫ちゃんはお兄さんと同じペンホルダーで表ソフトラバーを使っている。
下手をすればお兄さんの動作をそのままトレースすれば様になる。
(体格が違い過ぎるので丸々同じというわけにはいかないが…)
ペンホルダー
卓球においてラケットをペンを持つようにして握るグリップのことである。 スナップを利かせた台上での操作性に優れ、ミドルを比較的処理しやすいのが特徴である。その反面、ラケット角度等を微調整しやすいが、感覚がずれるとミスにつながりやすいといった面がある。また、構造上ラケットの両面を使うのが難しく、表面のみのラバーでフォアハンド・バックハンドを打つのが基本である。
表ソフトラバー
シートの粒の面を外向きにしてスポンジと貼り合わせたラバー。ボールとの接触面積が小さいため球離れが早くなり、相手の打ったボールの回転の影響を受けにくいとされるが、回転が掛けにくく、回転系の小技がやりにくい。基本的に前陣速攻型の選手が用いる場合が多い。
どちらも、ウィキペディアさん参照…っと。
つまり薫ちゃんは攻撃型なのである。
ふぅ…そろそろ大会も近いしその3年と数ヶ月を埋めさせてもらおうかなっと。
再び薫ちゃんがサーブの構えをとるのを確認し私も構える。
と、そこに声が割ってはいった。
「本当にいつものことだけど早いわねー、あんた達。今日は何時から来てるの?」
「あ、おはようございますっ!美空先輩っ!」
「おはようございます。えっと…6時からだったと思います」
「はい、おはよう…本当にお早いことで…」
2年生の結城 美空先輩だ。
巨乳でメガネでポニーテール。
「もうすぐ中体連だら、張り切りたくなるはわかるけど練習中にバテるんじゃないわよ?」
「大丈夫ですってば!体力には自信がありますからっ!」
「あんたのことなんか心配してないわよ、渡嘉敷。私はあんたに付き合わされてる、九条に言ってるの」
「ミクなら大丈夫ですって、美空先輩っ!ね、ミク!」
「あ、は、はい、私も大丈夫です。部活に支障が出る程無理はしてないので」
「はぁー…まぁそれならいいんだけど…とりあえずもうすぐ部活始めるから準備しなさい」
「はーいっ!」
結城先輩は若干呆れている…それはそうだ、今日の部活開始は9時からなので3時間は打っていることになる。
アップ等に使った時間があるので正確には違うが、どちらにしろ今までぶっ続けで打っていたので実は結構キツかったりする。
「おはようございます」
散らかしたピン球を片付けていると、結城先輩に挨拶をする同級生の姿が見えた。
「あ、梓ー、おっはよーっ!」
「おはよう、梓ちゃん」
「おはよう」
この子は早瀬 梓ちゃん。
ちっちゃくて可愛い。サイドテール。エビ中の早瀬選手の妹さん。
お姉ちゃんと比べられたくない、だとか親が離婚したからとかそういう理由で三中に来た訳ではないらしい。
薫ちゃんがしつこく聞くと、
「別に卓球で姉と比べられるのはいいんです。私がエビ中に行かなかったのは、単に姉のことが嫌いだからです」
なんだとか…。
理由はプライバシーがどうとかで聞きだせなかった。
もっと頑張れよ、幼馴染。
「もー梓も早朝練こればいいのにー!そうすればカット打ちの練習が出来のにさっ!」
「そんなこと知りません。私、朝弱いんです。それに私にはあなた達みたいに朝6時から夕方6時まで保つ体力なんてありませんから」
「そんな貧弱なことばっかり言ってるから、身長伸びないんだよー!」
「なっ?し、身長は関係ないでしょ?」
「はん!だったら朝練来てみたら?ぐんぐん伸びるからさ!」
「何を根拠に…ふん!あなた如きのへなちょこ速攻で、私のカットを打ち返そうなんて、まして練習ですって?笑わせるわね、あなたの為に切るぐらいなら豆腐でも切った方が練習になるわ」
「なんだとーっ!」
「なんですか!?」
ふたりの会話の通りだが、梓ちゃんはカットマンだ。
正確にはシェイクハンドカット主戦型というらしい。
シェイクハンド
手で握手する様に握るタイプのラケット。両面にラバーを貼って使用する。
現在、多くの選手がシェークハンドであり、握り方の主流であるといえる。理由として、フォア・バックの切り替えがやりやすく、ペンホルダーよりもバックハンド攻撃がしやすいためである。反面、ミドルに来たボールに対して比較的処理しにくいと言う欠点もある。戦型が多いのも特徴のひとつ。
カット
ボールに後退回転を与える打法。上級レベルになると、下回転のほかにも、斜め下回転、横回転も織り交ぜる選手もいる。一般的には、カット型の選手が使う中・後陣での大きいスイングでの打法を言う。
基本的には中 - 後陣からのカットによって相手のミスを誘って点を取り、また、チャンスボールが来ればスマッシュやドライブで点を取る戦型である。ラケットを振り下ろし、バックスピンをかける打球が下から浮き上がるような軌道を描く点や、希少な戦型である点から、野球のアンダースローの投手のような存在だといわれることがある。
はいはい、ウィキペディアさん参照…っと。
つまり防御型だ。
薫ちゃんとは真逆戦型である。
ラバーも裏ソフトラバーを使っている。
裏ソフトラバー
シートの平らな面を外向きにしてスポンジと貼り合わせたラバー。ボールとの接触面積が大きくなるため、ボールに回転をかけやすい。
これもウィキペディry …
ちなみに私もシェイクハンドで裏ソフトラバーを両面に貼っている。
戦型はいまいち曖昧だが、一応ドライブ主戦型だ。
ドライブ
ボールに強い前進回転を与える打法。ドライブは基本的には落ちる軌道を描くためスマッシュに比べて安定性が高いこと、スピードとスピンのかけかたで様々な打球をすることができるため戦術の幅が広がることなどが広く用いられる理由である。
これもウィキペry…
ふたりががるるぅぅぅぅぅーっと唸りあっている間にピン球の片付けを終え 、結城先輩と一緒に台をあと2台準備する。
私達三中女子卓球部は部員数7人のなので、これだけあれば十分だ。
嘆かわしいことだが…人数だけ見ると、うちは弱小の部類に入ると思われる。
と、いうか創部3年目の凄く若い部だし、仕方ない。
人数少ないし、さほど実績があるわけでもない。
男子は去年県大会で優勝し、東海大会では2勝している。
薫ちゃんのお兄さん達だ。
「みんな、おはよー。ごめんねー準備全部やってもらっちゃって」
「ぶちょ、おはようございます。これぐらいたいした労力は必要ありませんし、気にしないでください」
「おはようございます、部長」
「おはようございます!部長!これぐらい余裕ですっ!」
「私達は何もしてないでしょうに…おはようございます、部長」
部長の宮間 和音さんだ。
そして…
「おーぅ、みんなーご苦労、そしておはよーっと」
「和泉さん!おはよーっす!」
「「おはようございます、副部長」」
後から来たちょっと気だるそうなこの人は宮間 和泉さん。
副部長だ。
苗字からわかると思うが双子だ。
ミディアムボブでお嬢様っぽい喋り方の方が和音部長。
ロングヘアでおっさんぽい方が和泉副部長だ。
和音さんは間違いなくキャラを作ってるのはほぼ確定。
部の創設者達でもあるふたり。
その辺のエピソードもあるらしいが、それはまた別の話。
「んー…あー…あと来てないのは恩田だけかー…まったくいつも遅いよなーうちのエースは」
「和泉、あなた人のこと言えないでしょう?今日も私が起こさなかったら絶対に起きなかったわよ?」
「そんなことないね、私の予定ではあと5分で起きる予定だったし」
「嘘おっしゃい!次からはもう起こさないわよ!」
「へいへい、それで構いませんよーっと」
などと言い合っているが、この会話も聞き飽きている。
結局、和音部長に起こしてもらうい和泉副部長である。
「はい、それじゃー今日も始めるわよぉ」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
「もうすぐ大会だから、今日は試合形式の練習を午前中にします。で、午後から各自課題練習ね、細かいメニューは私が指示するからその通りにお願いします。では、柔軟からいきますよぉ」
そんなこんなで夏休み初日、7月21日土曜日AM9時。
本日の部活動が始まった。
物語を書くのって大変なんだとわかりました。絵と一緒で思った通りの作品にするってなかなか難しいです。