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グーリーアタクー侍 (3)

作者: 野原犬三朗

幕府騎馬隊の馬兵は競馬の如く抜きつ抜かれつを繰り返しながら、逃亡するドン大将の薩摩兵と坂本等の琉球空手隊に追い着き、その周りを囲んだ。行き場を絶たれたドン大将の薩摩兵と坂本等の琉球空手隊は中心に固まって戦う構えをした。騎馬隊は全員の首を取れば二万両の懸賞金が手に入ると単純に考え、さらに取り分を独り占めにすればいいと貪欲に考え、とどのつまり、味方同士斬り合いになった。一人斬られ二人斬られと気が付くと騎馬隊の中で一番強い者が生き残った。

「二万両は拙者の物だ。あははは」

円陣を組んでいた騎馬隊は馬だけを残して武士達は死体となって地面によこたわっていた。

「さて、二万両の首をとるか」

と、一人になった武士は西瓜をもぎ取る気でいた。

「あの侍は頭がおかしいのだ、江戸幕府の方がもっとおかしいのかも知れぬ、相手せず船に急ごう」

坂本が言った。

「待てい逃げる気か、逃がさんぞ貴様等の首は拙者の物だ。まてい」

独りの武士は刀を振りながら切り込んできた。

「やな、ナイチャーが」

と、ロバに跨がった琉球空手隊の男が振り向き突進して来る武士にライフル銃をむけた。最後の日本一強い武士が、琉球の男の人差し指のわずかな力に敗れた。これで追っ手から逃れた訳ではなかった。ここは江戸幕府の管轄、至る所に幕府兵が駐留している。江戸港に向かう街道はすでに幕府兵が待機し戦闘態勢で待ち受けていた。

「坂本殿この先に幕府の兵が待ち伏せてやす」

偵察の男が報告に戻ってきた。

「後方から第二陣の騎馬隊が迫ってます」

「ここしか突破口はない前進前進するぜよ」

とその時、白い翼の屋ケ名飛び人隊が空を覆った。

「おお、援軍が来たでごあす」

幕府兵が待機している真上に白い翼の群れが飛来ると爆弾の集中投下が始まった。空からの攻撃は無防備の幕府兵は空爆に耐え切れずその場を逃げ出した。

「今のうち突破するぜよ」

坂本等と連隊は敵陣の要塞を飛び越えて江戸港に向かう街道に抜けて突っ走った。江戸港の手前に五階建ての豪華な旅館があった。最上階から臨む景色は富士山が赤々と燃えていた。その旅館の最上階に狙撃兵が坂本等の連隊が真下の街道を通るのを待っていた。坂本等の目の前に帆船の柱が家屋の屋根から生えている様な錯角に陥る景色に遭遇した。

「港はもうすぐそこぜよ、ドン大将殿船に乗れば楽な姿勢でやすめるぜよ」

娘の貴子が背後からドン大将が落馬しない様に支えながら手綱を握っていた。なぜなら、牢屋で受けた訊問に耐えてたドンだった。旅館最上階の狙撃兵が引き金を引いた。実弾が筒の中をゆっくりトンネルを抜ける時の様に目的地に向けて発射された。その銃弾がドン大将の胸板を貫通した。貫通した銃弾は貴子の肩の上を飛来した。そしてゆっくり身体を横に傾けてドン大将は落馬した。

「父上、父上」

ドン大将の返り血で真っ赤になった貴子は転げ落ちる様に馬から降りた。そしてドン大将の肩を支え抱き起こした。

「父上、しっかりしてください」

「貴子、敵の狙撃兵がまだそこに、我輩を盾に隠れるのじゃ」

「なにを申すのです。わたしが父上の盾に」

と貴子はドン大将に覆い被さった。旅館最上階の狙撃兵は弾丸を装填して二発目を発砲する所だった。二発目はドン大将を体で庇う貴子が犠牲になる事は間違いなかった。

「あそこだ、旅館の最上階だあそこから狙っているさあ」

と屋ケ名兵がライフル銃を旅館の最上階に発砲した。続けて周りの屋ケ名兵も同じ所に撃ち込んだ。狙撃兵は飛び交う銃弾にひるまず引き鉄を引いた。次の瞬間、弾丸の一発が狙撃兵の額を貫通した。二発目を撃った後、貴子はドン大将に被さったまま動かなかった。

「えらい事ぜよ」

坂本が駆け寄って貴子を抱き起こそうとした。すると、その手を貴子が跳ね避けた。

「私は大丈夫です。父上を船まで運ぶのです」

「貴子殿無事であったか、よかったぜよ」

「早く船へ」

「わかったぜよ」

坂本はドン大将を背負って船まで駆け出した。全員が船に乗船し江戸港をはなれた。

「船じゃ船で追跡するのだ」

幕府の帆船が次々と江戸弯に出港した。

琉球丸はエンジンを搭載した未来の船、それに対し幕府の船は風を受けて進む帆船とでは性能の差が歴然としていた。

「なぜ、あの船は風も受けず速いのだ」

「知りません、船長殿」

太平洋に遠ざかる琉球丸をただ茫然と眺めているだけだった。戦火から逃れ穏やかな海上を安堵航行していた。琉球丸船内では、負傷したドン大将の治療をサンダー医師の弟子カンナア女医が診ていた。傷口を消毒した後、傷口を縫う指使いがしなやかで美しかった。最後に包帯を巻きつけて手術は終わった。

「貴子殿、もう大丈夫です。どうぞお父様に付き添ってやってください」

屋ケ名飛び人隊を指揮する佐藤踵は最後の計画、将軍暗殺計画の実行をマサオに託した。

「マサオ隊員成功祈るぞ、無事に戻って来るのだぞ」

「はい佐藤踵殿、では行って参ります」

マサオは慣れた手捌きで翼を立ち上げエンジンを吹かし飛んで行った。ここ多摩川の土手を離着陸に使っていた。江戸城に戻った将軍はドン大将を逃がした事に腹が煮えたぎっていた。

「たったあれだけの狼藉者を取り逃がすとは幕府のはじであるぞ、じい誰を打ち首に処す。申してみよ」

「わたくしには分かりません」

「藩主の目の前で恥をさらしたも同じ、余の幕府に盾突く潘が又増えるだけだ」

マサオは江戸城の地図と図面を膝に乗っけて東へ向かっていた。眼下に江戸城を望む距離に接近した所で、マサオは江戸城の図面を確認しながら将軍の居場所を探った。松の廊下の奥、大広間に将軍と家来らが貢物の吟味をしていた。その大広間の周りには槍を持った見張り番が巡回していた。初春の日差しか強く照りだす牛の刻となると将軍も汗を吹き出した。

「じい、暑いぞ涼しくならんか」

「これは、気が付きませんで無礼をこきました。これ誰かおらぬか」

「あーいー」

と、女中が現れじいの前に膝を着いた。

「襖を全部開けるのじゃ」

「かしこまりましたでござりまする」

女中達は大広間の四方に分かれ襖を開けた。上空から大広間の廊下に女中達が襖を開けている様子がマサオの目に止まった。いま、高度を落とせば、大広間の中央に将軍が居座っているはずと、マサオは高度を落とした。水かさの増した堀の溝が真下で池には鯉が繁殖して濁っていた。大広間と同じ高さの位置まで高度を下げそこでマサオが見た光景とは。左右に家来衆が貢物を手に取り品定めをしている様子だった。その中央に肘掛けに体を預けた将軍の影が庭を背景に写った。

「じい、あれは何だ」

真正面に白い翼のマサオがスコープ付きのライフル銃で将軍を狙っていた。

「上様危ない」

と家来の一人が叫んだ。…ヒュルルル、と聞き慣れない音が大広間の中央を通過した。

「なんじゃ今のはバッタみたいな音は」

「火薬の匂いが実弾でござる」

と、家来の一人が将軍の方をみると座った状態で前のめりでぴくりとも動かなかった。

「曲者じゃ、出会え、出会え」

裏で待機していた武士達が大広間に駆けつけてきた。

「あの物を捉えて来い」

と、堀の上で急旋回して仲間の元へ逃げるマサオを指差した。風は向かい風でマサオの翼はなかなか前には進まなかった。気が付くと真下で騎馬隊が弓矢を射って来た。

「届くわけ無いさあ」

と、マサオは思った。所が、その矢はマサオの翼に刺さり破けた穴から空気が漏れて操縦困難になった。

「アギジャビヨー、ここで落ちて捕まったら幕府の拷問にあって、大変さあ」

「やつが降りるまでゆっくり追跡するのじゃ」

百人近い騎馬隊がマサオの不安定な飛び方に右へ左へと忙しく動き回っていた。マサオは騎馬隊の追跡を振り切る為わざと、細い道で入り組んだ迷路の様な下町の上空を飛行した。

「この先は馬は進めんぞ、どうすれば良いのじゃ」

騎馬隊の先は、継ぎ接ぎの家屋の下町で、道は人が通れる広さしかなかった。

「隊長、突破するのです。町を破壊して進むしかありません」

江戸前寿司七兵衞は下町では人気寿司店だった。今日も常連客の大和屋の旦那が美味え寿司求めてやってきた。

「へい、いらっしやい」

「やあ大将美味え魚はへーったかい」

「へい、今日水揚げのピチピチのマグロありやすぜ」

「そうかい、それじゃあ、それもらおうか」

「へい、マグロ一丁」

板前の七兵衛がシャリを手にマグロを握った。

「へい、おまちどう」

と、つけ台にひこっと置いた。

「旨そうじゃねえか、こうして見てるだけでもいいもんだ」

「新鮮な内に召し上がっておくんなさい」

「そうたな、それじゃあいただきやす

口に入れようとした次の瞬間、地響きと蹄の音がした。騎馬隊が七兵衛の屋台をめちゃくちゃにして通り過ぎていった。大和屋の旦那の口に入るはずだったマグロの寿司は今の群れの一人が奪い取り旨そうに食いながら手綱を捌いていた。

「逃がすなよー、追え追え大江」

マサオの翼は強い西風に乗って東へ東へと流されて行った。

その頃江戸城大広間ではマサオの銃弾に倒れた将軍を医者が手当をしていた。

「じい」

「はい、上様」

「余が死んだ後の跡継ぎの事だが」

「はい、上様」

「余を撃った奴の首を取った者に余の跡継ぎにしたい」

「上様なにをも押すのです。若君が居られるではありませぬか」

「いや、若は普通に戻したい」

「若君は普通ではありません、上様の跡取りです」

「将軍という職業は、馬鹿がする職業だ。そんな馬鹿な仕事に余の大事だ子供に継がせたくない」

「はい、上様ごもっともで」

「遺言状を残したい、書く物をここへ持って参れ」

将軍は体を起して筆をとった。

逃げ続けるマサオの翼は矢でボロボロだが、墜落する事なく幕府の追っ手から逃れる事ができた。騎馬隊は暫くマサオの翼を探したが、追跡を諦め江戸へ引き返した。霧で霞んだ密林の空き地にマサオは着地した。使った翼とエンジンは山の中に捨て徒歩で富士山を目指して歩き出した。将軍が残した遺言状はこうだった。余の命を狙う者数あれど、鳶の如く鼠を襲う眼球と同一の者が余の胸板を射抜いた。この刺客の首を取った者に将軍の地位を与える。と、将軍は筆を手にしたまま事切れた。じいは将軍の死を公にせず、葬儀は行わず密かに遺体は増上寺に移された。将軍の死を悲しむ役人は1人も居ないに等しかった。役人の頭の中は出世のみで、地位が上がれば高い年貢を取り立て贅沢な暮らしが望みなのだ。そこへ将軍の遺言状を突きつけられた時、役人の目の色が変わった。真っ赤に充血したその目は炎のようにメラメラと燃え上った。マサオの首を取れば将軍に昇進すると、幹部役人は全家来を引き連れてマサオを見失った、成田山に向かった。役人同士連携でマサオの追跡行動する事なかった。鉢合わせになればマサオの首の奪い合いになるだろう。マサオが向う場所を推理して違う方向に向う役人とその家来もいた。これはまさに役人戦争といった方が正解かも知れない。マサオが使った翼のマントとエンジンが発見されると、発見した別の役人も嗅ぎつけ駆けつけた。まるでそこはただの布と鉄の固まりの事なのに、これがマサオの手掛かりとなると奪い合う修羅場に転じようとしていた。いや、役人達も大バカ者ではなかった。布と鉄は全く無視してマサオが残した足跡をおった。家紋の違う武士達がマサオの足跡が街道に紛れてどの足跡がマサオの物がわからなくなった。

「これであろう」

「いや、これではないぞ」

「いやこれでござる」

と、物乞いする下人の様な事をしていた。

「マサオは帰って来ない、諦めて帰るぞ全員離陸するでごあす」

多摩川河川でマサオが帰還するのを待っていた佐藤踵と琉球飛び人隊はマサオに後ろ髪を引かれる思いで離陸した。無敵の琉球飛び人隊は関東平野の上空を飛行して相模湾の海岸に着地した。海岸は穏やかだった。防風林の中に隠していた小型船を引っ張り出して沖で待機していた琉球丸に向かってオールを漕いだ。

「マサオが帰って来なかったと申すのか」

将軍暗殺をマサオに要請した坂本が吠えた。

「マサオは幕府から逃げ回っんているのだろう」

「拙者が救出に向うぜよ」

「坂本殿無茶な事を」

「いや、マサオ殿は将軍の首を取った琉球の英雄でござる。拙者にも責任がある、ここで引き下がっては土佐の武士としての面子が立たぬぜよ」

「坂本殿マサオは幕府に追われ、話ではマサオと同じ体型で囚われ尋問されてた江戸庶民も何人もおると申しておる。いずれマサオは囚われる」

「救出など不可能でござる」

と、貴子姫が坂本を引き止めたが。坂本は聞く耳を持たず、翼のマントを船の甲板に広げ、翼を立ち上げエンジンを吹かして飛び立った。そのころマサオは幕府の追っ手が至る所で嗅ぎ回って身動きでなかった。

「あれは、将軍を倒した飛び道具ではないか」

坂本が操るマントは簡単に発見された。柴犬を使った山狩りでマサオの逃げ場も狭まっていた。マサオも坂本のマントを確認したながら逃げまわった。マサオは今いる場所を坂本に知らせる方法はないか考えていた。焚き火をして煙で合図をすれば幕府の追っ手にも分かってしまう。それでも、マサオは瓦礫を集めて火を起した。煙が空高く湧き上がると次の場所へ駆け足で移動して、同じ様に瓦礫をあつめて火を起した。上空の坂本は煙が等間隔に焚かれている事に気付いた。マサオが居場所を教える為火を焚いているに違いないと坂本は思った。点々と煙の跡を追った。点々と続いている狼煙のその先に原っぱがあった。マサオはその原っぱで待機しているに違いないと坂本は迷わずそこへ向かった。幕府の追っ手もマサオが焚いた煙に気づいて原っぱに向かっていた。

「あの飛び道具は刺客を救いに来たに違いない。皆の物逃がすでないぞ」

馬にムチを入れた。いろんな方向から違う家紋の武士達がマサオ救出を阻止しようとしていた。坂本が原っぱの真上に飛来するとマサオが現れ手を降っていた。その後ろを幕府の追っ手がどど、と押し寄せていた。ここで救出に失敗すればマサオの首が飛ぶだろう。坂本は縄で救いだす作戦で超低空で飛行した。

「縄を掴めつかみ損ねると終わりぜよ」

正面のマサオに叫んだ。坂本はマサオの真上を通過した次に縄が龍の尻尾の様にフリフリ、マサオはフリフリの縄を掴んだ。

「走れ走れ」

坂本は吠えた。マサオは縄を腕にまいて引っ張られていった。地面から足が離れた時、幕府の弓矢が射られてた。が、矢はマサオに当たる事はなかった。よかったね。マサオは縄梯子にお尻を乗っけて楽しそうにしていた。

「ばか役人ども、あほ」

とマサオは役人に向かって叫んだ。

「無礼な奴、打て打て」

届か無い矢を射りつづけた。

「あの物が残した飛ぶマントをここへ持って参れ」

「はは、だだ今」

家来はマサオが山に残した飛ぶマントとエンジンを武将のまえに持ってきた。

「燃料は入れたか」

「ご命令通りこれを入れました」

野営用に持って来た油燃料を見せた。

「さようかご苦労」

と、武将はマントの帯を締めて手際良くとんとんと飛んでいった。

「坂本殿けつが痛くなったさあ」

「マサオ殿居心地悪いと思うが暫く我慢するのだ」

ふと、マサオ後方を振り向いた。

「坂本殿他に仲間を連れて来たのですか」

「いや、拙者独りじゃが、どうされた」

「後ろからもう一つのマントが向ってます」

「あっ、あれは幕府の者だ。多分マサオが使ったマントに乗っているのだ」

「そうなのだ、ここまで聞こえるぞ」

と、すぐ後ろに武将が操るマントが来ていた。そして、武将は長い刀を抜いてマントを切り裂く構えで坂本が操るマントの真上に舵を取った。坂本はそうはさせまいと右へ左へと振り切った。坂本とマサオ二人乗りの荷重超過で操縦が上手くいかなかった。そして、多摩川の上空で追っ手の武将が坂本のマントを鋭い刀で切り裂いた。空気が漏れたマントは操縦不能になり、きりもみ状態で多摩川に墜落した。坂本は体に固定した帯に繋がったマントで溺れそうになっていた。それを見たマサオは坂本の刀を抜いてマントの紐を切って坂本を助けた。二人は川の流れに任せて下流へ流されていった。多摩川浄水の手前で流れがゆるくなった所で坂本とマサオは岸辺にあがった。渡し船の船着場に江戸へ向かう人々が船がつくのを待っていた。坂本とマサオも顔を隠す様に下をうつ向いて船着場にはいった。

「おーい船が着いたぞー」

と、船頭の声で全員立ち上がり船乗り場へ歩きだした。船に乗り込んだ坂本とマサオは幕府の追っ手が乗り込んで調べたりしないか心配だったが、何事もなく船はそのまま江戸へ向かった。江戸に到着すると思った事が起きていた。役人が到着した船の上客を調べていたのだ。

「拙者にいい考えがあるぜよ」

「どんな?、何やるわけ」

「前の男、薬売りの商人をはめるから、手伝うのだ」

「なんで薬売りってわかるの?」

「薬の匂いがするではないか、マサオ殿は鼻わるいのか」

「そういえばフーチバーの匂いがするさあ」

「なんだそのフーチバーとは」

「よもぎの事さあ、琉球ではフーチバーと云うよ」

「そうか、それはどうでもいいけど、いいか初めるぞちゃんと芝居しろよ」

「解ったさあ」

と受けた坂本がいきなり騒ぎだした。

「ない、ない、拙者の財布がない」

坂本は身体中を叩いて財布を探すふりをした。

「おめえだろう、拙者の財布を盗んだのは、だせ」

「僕じゃ無い、あんたの財布をすった奴を知ってる」

「誰だ」

「あの男」

と、マサオは風呂敷を背負った薬屋の男を指差した。

「貴様か拙者の財布取ったのは」

坂本は薬屋の男の襟を掴み殴るふりをした。

「濡れ衣だよ。おれじゃねえよ」

「薬屋、通っていいぞ」

丁度役人が薬屋を調べ終わったところだった。

「まて、財布をかえせ」

「次、ここえ、そこの浪人何騒いでおるのだ」

坂本にいった。

「役人さんそいつ通したら駄目でござる」

「なにがあったのだ」

「拙者の財布を取ったのです」

「財布を取った。薬屋がか?」

「はい、役人さん薬屋を通したら駄目でござる」

「わかった。薬屋、ここへ戻って、ふところをみせろ、その風呂敷のなかもだ」

「あっしですか、盗んじゃないですよ」

役人が薬屋の身体と風呂敷の中に財布が隠されてないか検査をしてる間、坂本とマサオは役人の隙をみて逃げだした。

神社の前で人混みで騒いでいた。

「殺されたんだとよ」

「山形屋の若旦那だってよ」

「山形屋と言えば江戸で一番の反物屋じゃねえか。金目当ての殺しか?」

と、野次馬で騒がしかった。

「下がって下がって」

岡っ引きの半次が親分が到着するまで野次馬を入れない様にしていた。

「半次、待たせてすまねえ」

金持の親分が参上した。金持の親分は仰向けに倒れた死体の死因を調べていた。

「小刀で背中を数回刺した跡かあるな」

「物取り男の犯行ですかね」

「いや、下手人は女だ」

「なんで女とわかるんでやんすか」

「刺し傷の深さからして、娘が持つ護身用の小刀だ」

「あっしには遊び人が使うドスで刺されたとしかみえませんが」

「争った下駄の跡をみてみろ、被害者の下駄の跡と女物の下駄の跡がある、それが証拠だ」

「さすが親分そこまでは気がつかなかった」

「半次、死体検案に医者のサンダーの所へ運んでくれねえか」

「へい親分」

「へい、分かりやした親分、と言ってもあっし独りで担ぐのは無理でござんす」

「野次馬の中に協力してくれる奴が一人や二人居るだろう。さがしてみればいいじゃねえか」

「そうでやんすね」

半次は野次馬に向かって協力者を募ったが誰も協力してくれる者は居なかった。と、そこへ坂本が名乗り出た。

「拙者がやります」

「そこの二人、運んで貰えるのか、たすかりやす」

坂本は医者のサンダーと聞いて、屋ケ名のサンダー先生と同一人物ではないか会って確認してみたかったのだった。

「じゃあたのみます」

と、坂本とマサオは頬被りして担架で遺体を運んだ。岡っ引きの金持親分と半次の後をせっせと運搬する坂本とマサオは何やら、言い合っていた。

「坂本殿なんでこんな馬鹿な仕事受けてのですか」

「マサオはサンダー先生は知らないのか」

「屋ケ名のサンダー先生の事かな」

「そうだ、あの親分が言ってただろう、医者のサンダーの所へ運ぶと」

「サンダーって名前の人どこにでもいるさあ」

「サンダーなんて名は琉球だけにしかない。あのサンダー先生に間違いないぜよ」

「坂本殿、重たいさあ、何処まで行くのかねえ」

マサオは後側で遺体をみない様に上をむいて進んでいた。

「ここだ」

と、親分が足を止めた。

「サンダー先生いらっしゃいやすか」

と、親分が玄関の扉を開いた。

「はいさい親分、何か御用ですか」

「ちょっと調べて貰いたい遺体がありまして」

「これは殺人かなんかですか」

担架の遺体を見てサンダー言った。

「へえ、殺しがありやして、もっと詳しく凶器とか調べて貰いてえくて」

「ああどうぞ、いいですよ中に入れて下さい」

「すまねえ」

と、頬被りしたままの坂本とマサオが担架を担いで入ってきた。

「じゃあ後は宜しくお願げえいたしゃす」

と、親分は帰ろうとしていた。

「おめえ達もだ、けえるぞ」

坂本とマサオにいった。

「いや、拙者とこれはここに居ります」

「なんだ、おめえ達はサンダー先生に用があるのか」

「はい」

「なんの用があるんだ」

「いえ、拙者の女房が病気で先生に見てもらおうと思って」

「そうかい、それはお気の毒に大事になされよし。半次けえるぞ」

「親分、けえってどうするんですか殺人の下手人を捜査しねえと駄目でしょう」

「家にけえるとは言ってねえ、今から山形屋に事情聴取に行くに決まったてらあ、行くぜ半次」

「へい、親分」

と、十手につばつけて意気込んだ半次だった。

「はいさい、それで、あんた達は」

サンダー先生が二人に聴いた。すると、坂本とマサオは手拭いの頬被りを取って素顔をみせた。頬被りを取った二人をみてサンダー先生が驚いた。

「アギジャビヨオ、あんた達は屋ケ名のマサオとあんたは確か坂本だね、なんでここにいる訳ねえ。江戸で何か騒動が起きたけど、もしかしてあんた達も関係してないか」

「しっ、静かに。誰かに聞かれたら幕府に通報されるぜよ」

「大きい声では言えないが、将軍が刺客に撃たれて死んだと噂さされてるが、あれはもしかして」

「そのもしか、マサオ殿がその刺客ぜよ」

「なにい、マサオが」

「しっ、静かに全幕府の武士が押し寄せてくるぜよ」

「わかった静かに話す。で私に何が出来る事は」

「着るもんが欲しい」

「それは後で、仏様の検死が済んでからにしてくれ」

「あっ、そうであった。仏様の事をすっかり忘れていたでござる」

坂本とマサオは両の手を合わせて拝んだ。

「わし等も見てよいでごさるか」

「どうぞ、邪魔せんようにな」

サンダー先生は遺体の殺傷きずの長さ深さ形を調べた。

「これは何をしておる所でござるか」

「殺傷きずで刀の種類を割り出すのじゃ」

「なるほど」

サンダー先生は検死報告書に傷跡の詳細を書き加えていた。その時、金持親分が山形屋の旦那夫妻を連れてサンダー先生の所へ戻ってきた。

「どうぞ、こちらへ」

金持親分が二人を中に案内した。山形屋の旦那夫妻は若旦那の変わり果てた姿に泣き崩れた。

「太郎、太郎、誰に殺られたの」

いつも会話していた感覚で話しかける母親だった。仏と成った若旦那は葬儀屋の金張りの大八車で自宅に搬送された。

「おめえ達まだ居たのか、先生の迷惑になってねえか。用が済んだらけえるんだ」

坂本とマサオは奥ので茶をすすっていた。

「はい、親分」

と、一応返事をかえした。

「親分、これを」

サンダー先生が遺体の検死報告書を手渡した。

「ありかどうよ、、なるほど凶器の刀の出処がこれで分かるって事ですね」

「江戸の刀鍛冶屋を当れば下手人にたどり着けるかもしれませんね」

「そうだな、刀鍛冶屋は刀の図面や現物を見せろと頼むと、真似されるとか言って、だいたい断るから、町奉行の委任状が必要になると思うが、たすかりやす。それじゃああっしはこれで失礼いたしゃす。半次いくぜい」

「へい、親分」

話は何処へ捕物帳的な方向へむかうのでありました。山形屋の旦那は若旦那を殺害した犯人確保に10両の懸賞金を掛けた。それを知った坂本とマサオはどうしても金が居ると云う事で犯人確保に一躍買った。

「誰よりも先に犯人を捕まえて10両てにするぜよ」

「江戸から逃げる事が先じゃないの」

「金がないと逃げれんぜよマサオ殿」

「これを使うといい」

サンダーが親分に渡した検死報告書と同じ物をわたした。

「これは、死亡時刻とか凶器とか詳しく書いてあるでわないか、これを拙者に提供するのか」

「使え、そして10両手にして琉球ににげるのじゃ」

「ありがたき幸せ、頂戴いたすでごる」

と、坂本とマサオは犯人の手がかりを求めて殺人現場にむかった。

「ここだ、血痕とか足跡がそのまま残っているぜよ」

「若旦那は一度人と何が話していた。その証拠に下駄の跡が同じ場所を何回も踏み固めてある、若旦那の下駄と女物の下駄、愛のも連れかもな」

マサオの推理が冴えた。

「向こうの方から二人は歩いてきて、ここで立ち止り口論と成った。若旦那が怒りだして先に歩きだした。その後ろから犯人は小刀を抜いて若旦那の背中を刺した」

「犯人は若旦那と関係のある女、若旦那の周辺の女を当たれば犯人に着きたあるって事かなあ」

「女とは限らん、男かもな」

「女物の下駄だろうこれは」

「よく見てみろ下駄の跡が男臭くないか」

「何処が」

「荒々しく歩く跡が残っている」

「そう言えば内股じゃないな。男が女物の下駄をはいていたって事か」

「そうだな、護身用の小刀はチンピラが使うドスって事だ」

事情を聞く為二人は山形屋に顔をだした。

「若旦那が良く通った店とか遊び相手とか教えもらえないかと思って訪ねたんですが、宜しいでしょうか」

「どうぞ」

山形屋の旦那は犯人が捕まればいいと、どんな事でも話してくれた。そして、二人は若旦那がよく通ったと云う居酒屋に顔をだした。

「いらっしゃいませ」

綺麗な女将が店をきりもみしていた。

「すまないが、ちょっとだけ話し聞かせてもらえないかと思って訪ねたんですが」

「なんだい」

「殺された若旦那の事で」

「どうぞ」

と言った感じで聞き込みを開始した坂本とマサオであった。最後に小刀持ってるか聴いた。

「小刀ならありますけど」

と女将は棚に置いていた小刀を取り出して坂本に渡した。坂本はサンダー先生の小刀のデータと比較した。その小刀の長さ形全てで一致しなかった。

「若旦那が殺された時貴方は何処にいたかおぼえてますか」

「あたしかい、あたしはここで仕事してました。客が証明してくれますよ」

と言った感じで殺された若旦那の周辺を洗い出して容疑者を絞った。宿無しの二人はサンダー先生の借家に戻りこう言った。

「サンダー先生すみません、宿がなくて困ってまして、もしよかったらここに泊めてもらえないですかねえ」

「どうぞ、とうぞ私は独りだから二人がいたら楽しいさあ」

その夜サンダー先生の借家は坂本の好きな酒で始まり、どんちゃん騒ぎで周り近所の苦情を受けて「ごめんなさい」と謝って、寝静まった。その夜幕府の忍びの者が坂本とマサオの寝込みを襲った。坂本とマサオは心の臓をひとつき即死だった。三途の川を渡り二人はあの世に度立った。

「わあああああ」

と、マサオが悪夢にうなされて飛び起きた。

「心の臓から血がドバドハ」

と、マサオは心臓に手を当てた。

「うるさいなあ、ぞうしたマサオどの」

「幕府の忍びの者に殺された夢をみたさあ、怖かったさあ」

「悪夢にうなされたのか、将軍の呪いが襲ったのだなきっと」

「そうかも、将軍様のたたりが降りて地獄をみるマサオなりって事ですか」

「考えすぎだ、マサオは捕まらない琉球に帰れる、必ず帰るぜよ」

「本当に琉球が恋しい」

「その前にだ、下手人をあげて10両手にしてからだ」

「そうだ金がないと逃げれんしな。で今日は何をやるわけねえ」

「てえへんだ、てえへんだ山形屋の若旦那殺した下手人がわかりやした」

「本当けえ半次」

「若旦那を殺した犯人がわかりやした」

「だれだそいつは」

「江戸庶民の通報で犯人は」

「犯人は」

「犯人は」

「焦らすんじゃねえ、半次早く言いやがれ」

「あの居酒屋の女将でさあ」

「それは本当か」

「嘘言ってぞうするんです親分」

「こうしちゃあ居られねえ、居酒屋の女将をしょっ引いてこねえと」

「へい、親分」

「いくぜ半次」

十手につばぶっかけて小走りに走り出した。そのころ居酒屋では情報屋の伝吉が訪ねていた。

「女将はいるかい」

「はい、いらっしゃい」

女将が現れた。

「山形屋の若旦那を殺した下手人は女将だと聞いたが、本当なのかい」

「だれがそんな事を」

「分からねえがそう云う噂を小耳に挟んだ物んで、金持親分がここにむかってるそうだ」

「あたしが犯人だって、捕まったらどうなるの」

「縛り首かな、店は俺が見てやるから逃げな」

「逃げてどするのさ、あたしは若旦那を殺ってないよ」

「逃げるしかねえだろう、その綺麗な顔が拷問でぐちゃぐちゃされるぜ」

と、云う事で女将は居酒屋の裏から神社の山奥に姿をくらました。小走りの金持親分がやっと居酒屋に到着すると、居酒屋の玄関を開けた。

「女将はいるか、出て来て神妙にお縄にかかれ」

「あっ、親分どうしました。女将は居ませんけど」

「どこ行った」

「築地市場に出かけました」

「築地市場だな」

「半次築地市場にGOだ」

と親分は最近江戸で流行りのエンゴとか云う言葉で言った。半次は首をかしげて親分の後を追った。この捕物騒ぎに発展した経緯は、山形屋の若旦那が殺された当日居酒屋の女将と一緒だった所を目撃したと、庶民からの通報で明らかになった。それを半次が下手人と決めつけ金持親分に報告したのだった。江戸時代はこんな感じで罪人扱いされた庶民が証拠不十分で処刑された事もあった。居酒屋の女将は身を隠す為、常連客の一人でも有ったサンダー先生の元へ駆け込んだ。

「サンダー先生助けてください、山形屋の若旦那を殺した疑いをかけられて追われてます」

「どうした。女将、落ち着いて」

「若旦那を殺した犯人にされます。私を匿って下さい」

「経緯を話してくれんと」

「なるほど分かった。捕まれば拷問は間違いない。綺麗な女将に地獄の拷問はさせたくない。私の知り合いの所で身を隠すといい」

と、最近借家を借りた坂本とマサオの所へ女将を連れて行った。

「ここだ、坂本とマサオと云う男二人で借りてる借家だが構わんか」

「身を隠せるなら何処でも」

「そうか、分かった。おーい誰かおらぬか」

中から坂本が顔を出した。

「はい、どなたぜよ」

「坂本殿、頼みたい事が有って訪ねたんだが」

「頼み事ですか、何でござるか?」

「この方を匿って貰いたいのだ」

と、坂本は一緒の女性の顔を覗いた。

「あっ、居酒屋の女将ではないか」

サンダー先生が話し続けた。

「実は、こうなって、ああなって、つまりこうなったと云う事で女将を匿って貰いたいのだが」

「喜んで」

と、坂本。不思議な会話だが坂本は女将を匿う事に合意した。

「さてと、女将さんは奥の間を使うといいぜよ。マサオと拙者はここで寝起きするでござる」

「助かります。あのう、ひとつお願いがあるのですが」

女将が拝む様にいった。

「なんでござるかな?」

「着の身着のままで店を飛びたして来たので着替えございません、それで私の家から着替えを持って来て欲しいのですが」

「着替えでござるか、分かった、拙者が取りに行けばいいのだな」

「はい、お願い致します」

と、坂本は女将の家へ向かった。案の定女将の家の近くで金持親分と半次がみはっていた。

「半次、あの男サンダー先生の所でどんちゃん騒ぎしていた男ではないか」

「坂本でさあ、生まれは土佐だなきっと、語尾にぜよ、ぜよ、言ってるから」

「なにしにここへ」

「さあ」

「坂本とやらが女将の家に入ったぞ、半次とっ捕まえて事情を聞くんだ」

坂本は女将の家の奥の間から衣服を取り出して風呂敷に畳んだ。

「おい、おめえここで何してやがるんだ。盗人か」

「あっ親分、何してるってご覧の通り荷物を運ぶんです」

風呂敷を首に巻いた坂本が言った。

「他人の家に上がり込んで何してると聞いてるんだ」

「泥棒じゃないですよ、これ見て下さい」

坂本は借用書を親分にみせた。

「貸した金の返済日がとうに過ぎてまして、直ぐには返せないからと、家の服を質にいれて金に替えてそれで返済する事になったんで、女将の了解は得てますから」

「女将と会ったのか」

「はい、築地の富士魚屋の前で偶然あって、金の取り立てに出たらば、これ書いてくれたんで」

「富士魚屋の前だな、半次そこへいくぜい」

「へい親分」

と、金持親分は坂本に騙されていなくなった。

「あほな岡っ引きぜよ」

坂本が家に帰るとマサオが女将と話していた。

「今けえったぞ」

「坂本殿、事情は女将に全て聞いた」

「そうか、そう云う事だから今日はここで寝るぞ」

「女将を匿って長屋の誰かに気付かれ奉行所に通報されたらお仕舞いですぞ」

「大丈夫だ、女将は大人しいお方だから長屋の連中に気付かれる事は無いぜよ」

「分かった女将を匿ってその後はどうするのです」

「山形屋の若旦那を殺った犯人を捕まえて女将の濡れ衣を晴らすぜよ」

「もし犯人が」

と、マサオは小声になって隅っこに坂本をひっばった。

「もし犯人が女将だったらえらい事ですよ、坂本さん」

「犯人は女将じゃない、女将の小刀が凶器と一致しなかっし、殺しが有った晩は店にいたと証言しておった」

「坂本殿はなぜ、女将に固執するのですか、もしかして女将の事が好きなのですか」

「美人を嫌いになる男がこの世におるか」

「ここに居ますよ」

と、マサオは本心とは逆を言った。

「マサオ殿は美人と判断する感覚が無いのか」

「あります。今のは嘘ですから」

「やっぱりそうか、本当に好きなのはマサオ殿の方ではないのか」

「いや、そうじゃなくて、怖いのだ。幕府の追ってが今現れても明日現れてもおかしくない苦境に岡っ引きまがいに無駄な時間を使ってる」

「だから何回も言っておるではないか懸賞金を手に入れて船で琉球へ帰ると」

「分かりました、そんなに言うなら犯人の目星は付けているのですか」

「犯人の目星はついているぜよ」

「本当ですか」

「今からそいつの所へ行って聞き込みにいく、マサオも一緒に来るのだ」

坂本とマサオは殺人現場近くの東屋で寝泊まりしていると云う無職の男の所へ向った。その東屋にはむしろに包まったその男が寝ていた。

「おい、起きてくれないか」

坂本がゆすり起こそうとした。

「なんだ、寝てる所だ起こさんでくれ」

と、男はさらに丸くなって坂本を無視した。坂本はジャラジャラ小銭をならした。

「起きて話してくれたら銭やるぜ」

男は銭に反応してすばやく起き上がった。

「何を聞きたい」

「あの場所で殺人が起きた日の話なんだが、銭やるから聞かせてもらえないか」

「幾らくれるんだい」

「これ全部だ」

坂本の手の中には溢れんばかりの小銭が積まれていた。

「わかった。あの日の事だな。たしか今日と同じ様にむしろに包まって寝てやした。遠くの方で話し声と争う悲鳴がしたので、あっしはその方向に寝返って見てやした。すると、人が人を刺す所を目撃したんです」

「本当か、嘘偽りはないな」

「本当ですよ、あの後この辺がうるさくなって別の場所で寝泊まりしてやした」

「それでだ、その刺した人物の背格好は覚えているか」

「女でした」

「女、それで着てる物は」

「あれは昔、金がある時見た事がある歌舞伎役者の格好に似ていた」

「歌舞伎役者!」

「今興業中の芝居の役者ですよ、これでいいかな」

「他には何か手掛かりになる様な物は無かったか」

「銭をもらってからだ」

「分かった」

と、坂本は銭の半分を男の掌に落とした。

「残りは全部話してからだ」

「分かった。犯人はこの東屋の横を通っていった」

「犯人に気付かれなかったか」

「いや、試しに歩いて見れば分かる。あそこから、あそこまでだ」

と、坂本は東屋の横を通ってみた。宿無しの男が寝てる手前に雑草が茂っていて男を目視できなかった。

「なるほど、わかったつづきを聞かせてくれないか」

「銭は」

「分かった。ほれ」

坂本は全部男に渡した。

「顔をみたんでさあ」

「その役者の顔を見たのか。それで、見覚えのある人物だったのか?」

「いや、始めての人で横顔だけだったから、詳しい人相は分かりやせんでした」

「そうかありがとう。また銭持って聞きに来るかも知れないが、そのときよろしく頼む」

「いつでも話してやるぜ」

江戸時代の芝居小屋が健在の歌舞伎座に変化したと言われていた。坂本とマサオは興業中の芝居鑑賞に高い入場料を払って中央のいい席にすわった。

「坂本殿、本当は琉球に戻りたく無いのではないか」

「なぜじゃ」

「金が次から次へと懐から出て来る、懸賞金はいらないんじゃないねえ」

「懸賞金はいる、その為の資金ぜよ」

「坂本殿は、江戸が気に入って永住するきだろう」

「拙者はマサオ殿を救う為江戸に戻ってきたのだ。幕府の追ってから逃れるには頭使うのだ。全ての関所は役人を増員して厳重に警戒しておるはず。江戸から逃げる事は考えず江戸庶民になり切る事ぜよ」

「おい、静かにしねえか芝居がはじまるぜ」「すまぬ」

カチカチカチ芝居の幕が上がった。女装した役者が駆け出してきた。

「どなたか、助けておくれやし」

その後を侍の役者が追いかけて来た。

「またれい、おのれ有り余る金があると申したではないか。金を貸さぬなら、切り捨ててやるわ」

そこへ浪人が現れた。

「どうなされた」

「助けておくれやし」

女役者は浪人にぼそぼそと耳打ちした。

「なに、金をよこせと刀を抜いてきた」

「どけ、どかぬとお主も切り捨てるぞ」

「そうはいかない、切れるものなら切ってみろ」

と、ここから踊りあり歌ありで芝居は永遠に続いた。

「坂本殿つまらんさあ」

「面白いぜよ」

「最初だけさあ、面白いのは、客も少ないしここの芝居小屋潰れるね」

実際芝居小屋の経営は赤字で廃業寸前だった。芝居が終わると坂本は楽屋に訪ねて来た。

「あのーお話がしたくて来たんですが、上がっても宜しいでしょうか」

「どうぞ」

「役者さんの似顔絵を描きたいのですが、宜しいでしょうか」

「似顔絵を、何に使うんだい」

「歌舞伎を隣近所に宣伝して、沢山の方が芝居小屋に足を運んで貰えればと思って」

「それは助かるぜ、客足が遠のいて困っていた所だ、好きな様に描いてくれ」

坂本は筆を取り出して和紙に描いた。

「正面より横顔がとくいなんで、横顔を描いても宜しいでしょうか」

「いいぜ、じっとしていればいいのか」

「はい」

と云う事で坂本は全員の横顔を描いた。そしてそれを東屋の男に見せに向った。男は昼間から酒をあおっていた。

「おい、昼間っから酒を飲んでるのか」

「おお、わが親友」

「あっしはお前がくれた金でいい思いしてるぜ、ありがとよ」

と、男は膝をくの字に曲げて仰向けに寝転んでいた。

「そうかい、もっと酒を買う金やるから暫く酒飲むの辞めてもらえないか」

「おう、なんだ殺しの情報が欲しいのか。前話したので全部だもう話す事はねえぞ」

「見て貰いたい物があるんだ。ちゃんと座り直して、これを見てくれ」

「おう、起きりゃあいいのか」

男はゆっくり起き上がって胡坐をかいた。

「おまえが言った芝居小屋の訳者達の似顔絵を描いて来た。この中にここで見た犯人の横顔はあるか」

「あんた絵がうめえな~」

と、男は一枚の和紙に描かれた訳者の横顔に目が留まった。

「こいつでさあ、あの時見た顔、間違いねえぜ」

「本当か、酔ってないのか」

「あっしはまだ酔ってませんぜ、酔った振りしてるだけでさあ」

「この人物だな」

「ああ、間違いねえよ」

「よし分かった。そら銭だ受け取れ」

「ありがとよ」

「そうだ、ひとつ聞くの忘れてた。若旦那が刺された所を目撃した。その後の事聴いてなかったが、あの後どうした」

「ここからしばらく、雑草越しにみてやした」

「何を」

「倒れてピクリともしない山形屋の若旦那ですよ、濡れ衣着せられると思って生死を確認せずに逃げた」

「それでこの事だが役人に話してないんだな」

「濡れ衣着せられるから話してねえと言っただろう」

「そうか、分かった。それじゃあ又来るかも知れないが、その時はよろしく頼む」

「おっと、あんた名前なんてんだ、教えてもらえないか」

「坂本だ、坂本○○だ」

「坂本○○かいい名前だ」

「訳者じゃなくて役者だろう」

と、坂本は今頃、物語とは関係ない作者に向かって訂正を要求した。

「はいはい、修正せんでアップしてすまぬ」

でここから本番、芝居小屋経営は土地代や小道具や芸人らで金がかかる。ここの座長も金のやりくりに失敗して借金をこしらえていた。江戸時代の芝居小屋は男役も女役も男優が演じていた。野郎歌舞伎と江戸庶民には評判は良くなかった。女役を男が演じる事が江戸男児には納得がいかなかったのだ。一時期は綺麗な女役に惚れて芝居小屋に何度も足を運ぶ旦那集が居たが、野郎歌舞伎と分かると芝居小屋に閑古鳥が鳴いた。それで芝居小屋経営に行き詰まり芝居小屋を畳む事が多かった。女役を女が演じる事は禁止されていた時代、理由が風紀が乱れると奉行所からの御達しで、それを破ると重い刑に罰せられた。

「今日も客の入りが少ない、女役を男役が演じると江戸の旦那集は目もくれない、死活問題だにゃ」

藤田座の座長は悩んでいた。

「芝居小屋畳んだ方かいいかもしれませんね、座長」

役者の大和田がいった。

「芝居だけでは演ってたけでは、何かいい案はなえかな」

「芝居小屋の前で厚揚げを売ったらどうだ」「厚揚げ?なんだそれは」

「新潟藩の旨い食べ物ですよ」

座長はすすり寄った。

「何にを考えている。芝居小屋の前で食い物を売るのか」

「そうです。食い物で客を釣って大漁旗上げるんですよ」

「その厚揚げって旨いのか」

「江戸で一番旨いと思います私は、芝居小屋に行列がでいますよ」

「本当か、その厚揚げはどこで売ってる」「売ってません、江戸では」

「江戸には無いのか、ない物どうやって売るんだ」

「私の頭の中にあります」

「この頭のなかにか」

と、座長は大和田の頭の曲げを覗き込んだ。

「ここではありません、作り方を知っとると云う事です。試食にと私が作って持ってきました」

大和田は懐から笹で包んだ厚揚げを差し出した。

「これが厚揚げか、随分でかい厚揚げだな。本当に厚揚げか」

と、座長はその厚揚げを食した。

「うん、うん、なに、これは厚揚げとは違う食感」

「どうですお味は」

「旨い、旨いぞもっとくれ」

「それで全部です。どうしますこの厚揚げを売る私の案」

「よし、採用しよう」

「よし、採用しよう」

「本当ですか、やった。じゃあ早速芝居小屋前に厚揚げの売り場を作って段取りしてもいいすか、座長」

「やってくれ、全ておまえに任す」

と、芝居小屋に厚揚げ売り場が完成した。

「後は人を雇って厚揚げを売ってる貰うだけだ」

と、そこへ坂本とマサオがやって来た。

「こんにちは」

「おっ、似顔絵をかいてくれた、誰だったかな」

「坂本です」

「坂本さん。それでどうだった。あの絵は」

「長屋の連中に配りました」

「そうか、それは良かった。そうだお前達に頼みたい事がある」

「はい、なんでしょう」

「仕事してみないか」

「役者のですか」

「いや、これをここで売る仕事だ」

「急に言われても」

「嫌ならいい、他当たるから」

と、坂本とマサオは、どうするこうすると小突き小声で言い合い答えをだした。

「やります」

坂本とマサオはその日から売り場に立ち厚揚げを売り込んだ。売れた厚揚げは芝居を見ながら食べる事ができた。初日はそんなに売れないが客の口込みで徐々に客足が増えて来た。そんな忙しい坂本だったが、若旦那殺しの容疑者の事は忘れていなかった。東屋の男が殺しの現場でみたと云う女役の役者は何故か似顔絵を描いた日依頼芝居小屋に現れなくなった。

「女役の役者かい、無断欠勤だよ」

と、座長が云うだけでまだその男とは一度も会っていなかった。

「坂本さん、厚揚げの料理は誰がやっているのですか」

と、マサオ。

「大和田という役者が徹夜で仕込んで持ってくるそうだ」

「二股かけてですか」

「芝居と厚揚げをな。大変だと思うぜよ」

「それなんだけど、ちょっと」

「なんだ」

「家で匿っている女将にその厚揚げの料理させたらどうだろうか」

「女将も家に引きこもった状態だから、それはいいかもいれないな」

と、云う事で女将もその厚揚げの仕事に加担する事になった。芝居小屋は厚揚げのおかげで連日連夜大入で大繁盛した。江戸城では御用取次の爺が下町の何処にでも居そうな老人の格好をして籠屋を呼んで町へ繰り出す所だった。

「籠屋、頼んだぞ」

「へい」

と、爺は吊り縄に捕まり乗り心地の悪い籠である所へ向かっていた。籠は2回の休憩を取りながら魚屋の店先で、 えっほ、えっほほ、と止まった。

「ご到着致しました」

「ご苦労であった」

と、爺は老いた腰を叩きながら籠から。

「どっこいしょ」

と、立ち上がった。汚い格好の御用取次の爺は見慣れない江戸庶民の暮しの一部を目にしいた。

「これが江戸庶民の慾望を満たす市場でごさるか」

そこは、魚屋、八百屋、お菓子屋、呉服屋、うどん屋何でもかんでも揃った殆ど屋台や露店だった。夕方になると全て引き払い何も無い、だだの原っぱとなり、野良犬や野良猫や野良人間の縄張りになる所でもあった。そこへ頬張りの男が爺の袖を引っ張って言った。

「これ、じい」

何じゃこいつと言った顔で爺は振り向いた。

そしてその男は、頬張りを取って爺とご対面した。すると爺は喉に餅を詰まらせて苦しむ格好で地べたに座り込んだ。それは何故かと申しますと、死んだはずの上様と瓜二つの男が立っていたからだった。

「どうしたじい、腰が抜けたか」

目をむいて何も言えない爺は、吃りながらこう言った。

「おお、まえは、だだれだ、ななを、なのれ」

「じい、余の事忘れたのかほれ、この紋所が目に入らぬか」

男は上様しか手にできない家紋を差し出した。爺は言葉がでなかった。

「これを何処で手に入れた」

爺は上様とはまだ信じてはなかった。

「仕方ないでご猿な、これを見よ」

と、男は子供の時受けた傷跡をみせた。

「これは拙者が上様にお仕置きで与えた傷跡ではないか」

と、ここで爺は本物の上様と分かると土下座した。

「辞めろじい、怪しまれるではないか。立つのだじい」

と、男はいや将軍様は爺の腕を掴み立ち上がらせた。

「こう云う事だったのですね」

「そうじゃ余が爺に、汚い格好で来る様に手紙を出したのだ」

「と、すると撃たれて死んだのは影武者だったのですね」

「左様じゃ」

「よかったでござる、拙者一人で将軍代理はきつい仕事でござりましたから」

「そうか、すまなかった。暫く余の代理とし我慢してくれじい」

「はい、上様」

「所で余の家来どもはいまどうしておるのじゃ」

「上様の遺言を真に受けて、刺客を追い回しておる所です」

「余が死んでも涙など流さないばか家来ども、今に仲間同士殺しあうであだろうな」

「上様、それが目的で身を隠したのですか」

「左様、江戸幕府は役人が多過ぎるのじゃ」

「余の力で役人を減らす事ができぬから、将軍昇格を餌に役人同士喧嘩させれば自然と役人は減ると云う物、飯が旨くなるぞじい」

「上様、何と云う企み拙者には理解できぬでございます」

「じい、知らんのか全国藩主は増え過ぎた江戸幕府の役人の為の年貢と反感を買っておる」

「たしかに、我が幕府は債務で首が回らぬ事は事実、役人が裏で使い込んでると云う話しも耳にしたでございます」

「徳川幕府は中が腐ったただの大木、切り倒さなくても自然と倒れる」

「もう打つ手がないと云う事ですか」

「おしまいだが、余も最後はやるべき事はやらねば死ねぬ」

「ごもっともでございます」

「話しは変わるが、じいに頼みたい事がある、余の後についてまいれ」

「何でございますか」

「仕事だ、余も職を持っておるぞ」

と、じいと将軍は市場の人混みの中に消えて行った。市場には坂本とマサオが厚揚げの材料を求めて大豆を買いに訪れていた。

「ここに新しい大豆屋がで来たんだ。マサオ殿ここ入ってみるか」

二人は大豆屋ののれんを掻き分けた。中には大豆が入った俵がうず高く積まれていた。

「誰かおらぬか、大豆を買いに参った」

「はい、いらっしゃいませ」

品のいい老人が現れた。

「すみませんここは食品の蔵と成ってまして」

「表に客間がございます。どうぞ表へお周り下さい」

「あっそうであったか、すまぬ」

と、坂本はもう一つの暖簾を掻き分けた。

「厚揚げに使う大豆を二俵貰えないか」

「厚揚げのですか、厚揚げでしたら新潟藩のこれが宜しいかと思います」

「それだ、それを探しておった所だ」

今までは清国の安い大豆を使って厚揚げを作っていた坂本は、もっと質のいい大豆をと、探していたのだった。

「新潟藩の厚揚げは美味いと聴いておりまして、私が取寄せた物でございます」

大豆屋の旦那な顔をだした。

「これは大豆屋の旦那、もしかしてお国は新潟ですか」

「いいえ江戸です。ただ新潟藩の年貢は美味い大豆と決まってまして」

「新潟藩の年貢の事を何処で知ったのですか?」

坂本は疑念を抱いた。

「あっいや、この商売をしてますといろんな所から情報が入る物で」

「左様でござるか、しかし厚揚げは美味いぜよ」

「ぜよ、と申したな。土佐の方か」

「いや、美味しいです。でした」

「土佐の方かと聴いておるのだが」

「土佐ではない、江戸だ」

「そうさあ、江戸さあ」

「マサオ殿は喋るな」

「その訛りは江戸ではない」

「なんだ、なんだ拙者は客だぞ、その言い草はなんだ」

「なぜそう向きになるのだ」

「拙者は江戸だ、田舎物扱いされたら誰でも怒るぜよ」

「まあいいか、大豆2俵だったな。どうぞ重たいぞ大八車は持ってきたか」

「担いで持っていく」

坂本とマサオは大豆を担いで出て行った。

「有難うございました」

「上様あの二人、江戸を騒がした。琉球と薩摩の人間ではないか」

「探りを入れてみるか」

「誰を使うのです」

「ここの使用人を使えばいい」

「大豆を担ぐただの使用人に何ができると言うのですか、上様」

「ただの使用人ではないぞ、近藤太郎と宮本次郎だ」

「なに、あの剣豪の近藤太郎と宮本次郎でござるか」

「左様、だからただの使用人ではない」

と、じいは上様の前に現れた二人をまじまじと見つめた。

「今聞いた通り、あの物の正体を突き止めてまいれ」

「はは、上様」

近藤太郎と宮本次郎は小走りに坂本とマサオの後をつけた。

「上様、もしあの二人が上様を狙った刺客としたならば、どうされます」

「余の家来にする」

「家来にするですと、正気ですか上様」

「その二人は飛び道具を使いこなすと聞いておるが。そのつまり、鳥の翼をつけて空から余の影武者を射殺したと、人間技ではない」

「私はこの目で見ました。銃を構えて空から上様の影武者を狙撃する所を」

「その翼が欲しいのだ。だから余の家来に」

「将軍暗殺は死罪に値する。上様がその様な事を申しても、他の藩主が認めませんぞ」

「じい、あの二人を余を狙った刺客とは公表はしない、ただの使用人にする」

「余のそばに置いて飛び方を教わりたいのだ」

「もし、あの二人が上様の正体を知ったら又狙ってきますぞ」

「その時はその時だ。命を惜しんでいては将軍は務まらんであろう、余の生きる希望だ」

「わかりました。拙者も上様の希望に添える様に致しますでございます」

下町の賑やかな通りから少し外れた路地に入るとそこは山賊紛いの強盗がたむろしていた。

「マサオ殿この路地は近道になるはず、ここを通るぞ」

「昼間なのに随分暗い通りだね」

「ただ暗いだけでごさる、山賊など出るわけが無い」

と、二人は狭い路地に入った。

しばらく行くとそこへ柄の悪い野郎が5人現れ一人の男が刀をちらつかせて言った。

「おい、その米俵おいてけ」

「今何か言ったか」

「その米俵を置いていけと、言ってるんだ」

「なんで置かねばならぬのだ」

「言う事聞かねえと切るぞ」

5人の野郎が刀を抜いた。

「ほほう、分かったぞ。お前達は山賊紛いのゲス野郎だな」

「なにい、ゲス野郎だとう。ふざけやがって、切れ、切れ」

と、坂本に刀を向けると、坂本の前にマサオが立ち塞がり5人の相手をするつもりでいた。

しかも米俵を担いだままだった。

「素手で戦うきかい」

マサオは左足を地面にグリグリと沈め、腰を沈めバランスを取って、右足を前に出して俵を左肩に担いだまま、右手を無双権之助風に片手で拝む様に構えた。

「なにしてやがる、早く片付けるんだ」

と、煽情しても野郎全員マサオの殺気に怯えたじろいでいた。

「覚悟しやがれ」

と、負けん気の男から切りかかった。

マサオは足の指甲をぐうにしてその負けん気の男の足のすねに強烈な蹴りを入れた。

マサオに切りかかろうと行きがんだ男の顔が悲痛に変わり叫んだ。

「すねが、すねが折れた」

刀を捨て脚のすねをかばう様にのたうち回った。

と、争いはここまで5人は「覚えてやがれ、今度あったらただじゃあおかねえからな」

と子供みたいに強がり退散した。

「みたか、あれは琉球空手とか云う武道でござるな、近藤どの」

「たしか、琉球国の武道で謎とされておる」

マサオと坂本の後を着けていた近藤と宮本だった。

坂本とマサオが長屋に帰ると井戸端でペッタンペッタンと洗濯物を叩いて洗っていた女将に気付いて近づいた。

「女将、いまけえったぞ」

と、坂本は慣れない江戸弁で言った。

「おかえりなさい」

女将はすっかり、ここの長屋に馴染んでいた。

「何か、変わった事はなかったか」

「変わった事と言えば、見廻組の役人が長屋を調べに来てたわよ」

「役人の見廻組が、何かあったのか」

「長屋の長老の話しでは、長屋住民を広場に集合させて聴いたそうです」

「何を」

「怪しい二人組の男を見かけた者は居らぬかと、しつこく聴き回っていたそうです」

「それで、皆はどう答えた」

「そんな二人組は知らぬと答えたそうです。本当は坂本さんとマサオさんがその二人組に相違ないと思ったらしいのですが、長屋では厚揚げとか頂いた恩があると言う事で皆は口裏を合わせたと言ってました」

「女将はどう思う、その怪しい二人組と思うのか」

「思います」

「そうか、確かマサオと拙者は賞金が掛けられていたはず。役人に通報するか」

「いいえ、私は二人の事が好きになったのであります。殺しの濡れ衣を着せられて、御用の寸での所を助けて頂いたのだから、それにいい男だし」

「女将、照れるではないか」

「いえ、私は二人の事は好きなれどマサオさんを強く好きに成ったのでありんす」

と、顔を赤くした。

「なに、マサオの事が好きになった。だとお」

と、後ろで俵に腰掛けていたマサオが下をうつむいた。

「マサオ殿そうなのか?」

「すまん、私も女将の事が好きになった」

「拙者が知らぬ間に影でコソコソやっていたと云う事か」

「恋する事はコソコソではない。ただ恥ずかしだけさあ」

と、琉球訛り丸出しで喋ったマサオだった。

「私達は夫婦になる運命なの」

「あいや、そんなまだ速いです」

「そうだ、こうしてはいられません」

と、女将。

「貴方たちの事を密告する長屋の住民がいないとは限りません。今すぐにでもここを離れるのです」

「急にいわれてもこの大豆2俵どうするのだ」

「買ったの頃に返すのです」

「芝居小屋の仕事があるぞ」

「辞めるのです。幕府役人に捕まったら命の保証はございませんぬぞ」

すると、聞き慣れない、蹄のパカパカの音に3人は敏感に反応して身を隠し壁際に潜めた。そこえ7、8名の武士がその長屋にふみいれた。

「あれは幕府の騎馬隊だ。長屋の誰かが密告してのだきっと」

「ここえ」

と、女将が迷路の様な路地に二人を誘った。3人が今まで住んでいた借家に刀を抜いた武士が扉を蹴り壊し中へ押し入った。部屋の中はもぬけの殻だと知ると、馬にもどり全員にいった。

「中は誰もおらぬ、まだ遠くへは行っておるまい探すのじゃ」

と、武士達は下町の狭い路地を別々に別れて三人の捜索を始めた。一頭の馬が三人の居る路地に入って来た。

「マサオ殿あの馬を奪うのだ」

「どうやって」

「馬の脇をコチョコチョやると馬が笑って騎手を振り落とした空きに奪うのだ」

「できるわけないでしょう」

「よく見ておけ」

坂本はくの字に曲った角で馬が現れるのを待った。坂本は馬の影が地面に映り込むと、素早く馬の正面に飛び出して両手を馬の前足の脇をコチョコチョしたが、馬はなんの反応もなかった。

「なんだお前は、拙者の馬に何をしておる。もしかして貴様は、手配中の男か」

「あれ、おかしいな。笑わないぞ」

坂本は騎手の云う事は無視した。

「無礼なやつ、こうしてくれるわ」

と、騎手が手綱を引くと、馬が前足を上げて坂本に襲いかかろうとした。

「坂本殿危ない」

と、マサオがヌンチャクを投て騎手の首に巻きつき落馬した。そこに女将が現れて棍棒で騎手の頭を一撃した。騎手は黒目を眉間に寄せて気を失った。作者の独り言は無視して、続きを、ここから。馬を奪った三人は二十貫ある俵を馬に積んで駆け足で長屋を後にして、大豆屋の前で大豆を降ろした。

「誰か居らぬか急を要する、どなたか出られいぜよ」

「これは、これは朝四つ時のお客さんではござらぬか。どうなされました」

「これを返品に参ったのだが」

「なにか、気に入らない事でもありましたか」

「いや、急に金が必要になったので、お願いできますか」

「悪い連中に追われておるのでござるか」

「いや、急に長屋を引っ越す事になった。だから金がいる、悪い連中に追われている訳ではない」

「早く大豆の代金をくれ」

「チョット待っておくんなさいよ。大豆二俵で五両だったな。どうぞ受け取ってください」

「一俵一両で二両ではなかったのか」

「五両はいやか、五両あればいい部屋に引っ越せますよ」

「二両でよい、お主に恵んでもらう筋合いは無い」

と、坂本は三両を取次役爺に返そうとした。

「いいじゃないか、受け取っても」

と、女将が坂本の手からその三両を奪い取った。

「あっ、女将卑しいぞ、返せ」

「女将の言うとおり。素直に受け取れ。恵みではないぞ、三両は貸すのだぞ」

「しかし、知り合いでもない拙者」

「借金は戻らんかも知れませんぞ」

「かまわん」

「何故、我々に親切なのだ。何か裏があるのか」

とその時、馬の蹄の音が聞こえて来た。

「幕府の追ってだな」

爺が言った。

「やばい、逃げるぞ」

「金はいつでもいいぞ」

「かたじけない、金は必ず返す、それでは又」

坂本と女将は馬に跨り若いマサオは手綱を引いて大豆屋を後にした。

「近藤太郎、坂本次郎あの三人の後をつけるのじゃ」

「はは」

と、太郎次郎。

さて、江戸の話しはここで時間を止めて琉球へ飛んでみよう。幕府から逃れた5人の侍は坂本とマサオが船に帰還するのを待っていた。江ノ島の沖で停泊していた琉球丸は幕府の帆船に発見された。そして幕府の砲弾を浴びながら撃沈されずになんとか逃げ延びて琉球へ戻った。琉球に戻ると、5人の妻が5人の侍を待っていた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

5人の侍はそれぞれの家庭へ帰って行った。薩摩藩は幕府によって鎮圧されドン大将は薩摩に戻る事が出来なかった。仕方なく琉球国の屋ケ名病院で治療を続ける事になった。娘の貴子姫は常に父上の側から離れる事はなかった。

「おいどんの事はもう大丈夫じゃけん、いつまでもおいどんの看病しても仕方あるまい」

「外で琉球国のお方と会話して交流を深めるのじゃ」

「はい父上、でも私には彼らの言葉がわかりませぬ」

「そうだったな。琉球語はおいどんなにも分からないが、覚えるのだよ。貴子はまだ若いし記憶力もある。さあ外出るのじゃ」

「はい、父上」

と、自信なさそうに外に出た。貴子姫が屋ケ名病院から外に出ると行き交う村人が貴子姫を確認すると頭をペコペコと琉球木登りトカゲ(グーリーアタクー)の様にお辞儀をした。貴子姫も丁寧にお辞儀を返した。

「はいさい、あんたは大和のどこの方ねえ」

と、頭に頭巾をしたおばあが尋ねた。

貴子姫は、なんだ琉球語じゃないんだと安堵感で笑顔でこう答えた。

「はい、薩摩です。大和の最南端の国です」

「ああそうねえ、大変だったねえ。親が怪我してここに運ばれたそうだけど、大丈夫ねえ」

「はい、父上はもうすっかり元気になりました」

「それはよかったねえ」

「そうだ、琉球の美味しい餅があるけどあんた食べるねえ」

「餅ですか、はい頂きます」

「じゃあ、わたしに着いておいで」

おばあは少し離れた自宅に貴子姫を案内した。

「どうぞ、中入ってください」

薄暗い部屋に貴子姫は足を踏み入れた。土間に巨大な釜で蒸した柏餅の様なカーサムーチー(月桃の葉で包んだ餅)が湯気を上げていた。おばあはそれを取り出して貴子姫に与えた。

「どうぞ、食べて美味しいよう」

「ありがとう、いい香りしてますね」

「月桃の葉、琉球ではカーサムーチーって言って美味しいよう」

「美味しいです」

「沢山あるから、お腹一杯食べてね」

「はい、あのう11個ほど貰えないですか」

「いいよう持っていって」

おばあは、11個も食べれるねえとも言わずに風呂敷にカーサムーチーを包んで渡した。貴子姫はそれを持って5人の侍の家庭訪問気取りで向かった。

油元火太郎、ハイビ夫妻。佐藤踵、ウーチ夫妻。左官幸之助、ビンカ夫妻。下柳禿太、ガンジュウ夫妻。総社総一郎、バンシルウ夫妻。と、貴子姫は頭の中で整理していた。まず先に油元家の訪問に向かった。

「ごめん下さい。油元さんいらっしゃいますか」

「はい、どなたですか」

中から知念ハイビが顔をだして言った。

「あら、ドン大将の娘さんだねえ。お父さまのお具合はいかがですか」

「はい、おかけ様で元気になりました」

「それはよかった。さあ、そこではなんですから奥の間にどうぞ」

「はい」

と、貴子姫は琉球畳敷きの客間に案内された。

「どうぞ、琉球茶です」

ハイビはお茶でもてなした。

「隣のおばあちゃんから餅を頂いて来ました。これをどうぞ」

タイミング良く、貴子姫はカーサムーチーを2つ取り出して座卓に添えた。

「カーサムーチーですね、ありがとう御座います」

「あのう、旦那さんはご在宅ですか」

「いいえ、出かけております」

「長旅で疲れて家で寛いでいると思ったのですが、もう次の仕事にとっかかったのですか」

「わかりません、遊びに出掛けたのかも知れません」

「空飛んだりですか」

「そうです。あの人は私より冒険好きで相手にしてくれなくて、私はさみしいさあ」

と、ハイビは顔を赤くしていった。それを観た貴子姫は薄ら笑いをしてこう言った。

「かわいいお方ですね」

「人前で恥ずかしいさあ」

と、もっと顔を赤くしたハイビは話題を持って行く所を無くし黙り込んでしまった。貴子姫はそんな感じの油元家を後にして次の佐藤家を尋ねた。と、言っても佐藤家はすぐ隣だから貴子姫が油元家にお邪魔していた事を知っていたのかウーチ夫人が先に戸を開けて顔をだした。

「貴子さんいらっしゃい」

「あら、気が早い」

「隣ですから、炊事の途中で内にも来るのかなと、思ってました。どうぞ」

「お邪魔します」

「いい匂いがしますね、よもぎですか」

「はい、フウチバージュウシイメー作っている所です」

「なんですか、それ」

「よもぎの雑炊です。旦那が帰るまで作っておこうと思って」

ウーチは釜に焚きをいれながら言った。

「此方からお見舞いに行くべきだったのに、ごめんなさいね」

「いいえ、心遣いありがとうございます」

貴子姫はみんな父上の事心配してくれている事に感謝した。

「なんでもいいから、話ししましょう」

と、ウーチは喋るのが大好きなのかなんでもかんでもペラペラ喋りだした。貴子姫はだだ聴いているだけで理解できない部分が多った。

「話の途中ですが、これをどうぞ」

と、貴子姫はカーサムーチーで喋りの濁点を打って佐藤家を後にした。

「次は左官幸之助の家か、ごめん下さい」

中からは返事はなかった。

「留守みたいだね」

と、貴子姫は左官家を後にして、次の訪問先の下柳家の戸を叩いた。この時代の琉球庶民の一番の娯楽といえば闘牛だった。ここ屋ケ名にも闘牛場が何件かあり、毎日の様に各地から自慢の牛を引っ張って屋ケ名闘牛場にやって来る。その闘牛の鳴き声が下柳家の家の中から聞こえた。

「えっ、今の何、牛かな?」

貴子姫はもう一度、耳を澄ました。

「ウォォォ」と、牛が興奮する叫び声が戸口の向こうから響いた。

「やっぱり牛」

と、次の瞬間ダイナマイトの爆風で吹き飛ぶ勢いで戸口が破壊され黒い固まりが貴子姫の目の前に突然現れた。

「ぎゃー」

と、その黒い固まりのサーロイン部分が貴子姫を地面に押し倒した。

その後から下柳禿太が現れて、倒れている貴子姫に気づくと下柳は貴子姫を抱き起こした。

「大丈夫でござるか」

「はい、ただ転んだだけです」

「怪我はない様だ。おーい、ここへ」

と、下柳禿太は妻のガンジュウを呼んだ。暴れ牛に動揺した表情でガンジュウが奥から現れた。

「貴子姫じゃないですか。大丈夫ですか、さあ私の肩に」

と、ガンジュウは貴子姫を支えて安全な場所に移動した。

「どうどう、大人しくしなさい」

下柳は鼻息の荒い牛に近付いていった。牛は下柳禿太の正面に位置を変えて、蹄で土を蹴り上げて角の先を下柳禿太に狙いをつけた。そして、ゆっくり加速をつけて下柳禿太に向かって突進してきた。ド、ド、ドドドと、その前に下柳禿太の先祖の事を話そう。物語の前半で空手中場と云う伝説の武道家の事を話したと思うが、その空手中場の子の子が下柳禿太だった。その後、薩摩藩の役人に下柳禿太の父親は殺された。下柳禿太の父親は我が子を薩摩から守る為、抵抗して斬られたのだった。そしてまだ幼い下柳禿太は薩摩に連れて行かれ、武士の養子として育てられてた。その空手中場の血を引いた下柳禿太はやっぱり空手中場の子孫で喧嘩が強く、武道家だった。その証拠に暴れ牛は動けなく成った。

「よし、よし」

下柳禿太は赤ちゃんをあやす様に自宅前に牛を連れて来た。

「ガンジュウはどこだ」

「はい、ここにいます」

「牛小屋を先に作ってから連れて来るんだったね、失敗したさあ」

「いいさあ、やっと牛を飼うことができたから、壊れたのは玄関だけだから気にしない」

「そうだ、貴子姫はどうした」

「怪我はありません。奥でやすんでおります」

「それは、よかった」

と、下柳禿太は安心顔で牛を裏庭に連れていった。

「もう大丈夫ですか」

と、貴子姫は外の様子を伺いながら顔を出してきた。

「はい、もう大丈夫です。牛はいませんから」

「でも、びっくりです。いきなり牛が飛び出してくるから、戦でも始まったかと思いました」

「すみません、驚かしてしまって」

「いいえ、気にしてませんから。そうだこれをどうぞ」

貴子姫はカーサムーチーを差し出して下柳家の事は全て知った気になり、次の総社家へ向かった。

すぐ隣だけどにゃ。

「チヤービラサイ」

「ターヤガ」

「貴子ヤイビール」

「イーレー」

ごめん下さい、どなたですか、貴子です、どうぞ、を琉球語に吹き替えて言わせてみた。

「貴子姫、父上の具合はいかがかな」

「すっかり元気になりました」

「そうか、それは良かった」

「今から、ドン大将殿の所へ見舞いに行っても良いのかな」

「はい、父上も喜びます」

「そうか、じゃあ今支度してきますので暫く待ってください」

「はい」

総一郎は汚れた服を着替えに奥の部屋に消えた。

「あれ、奥さんがいないみたい、何処かしら」

と、貴子姫は呟いた。

「さあ、行きましょうか」

琉球絣に着替えた総一郎が現れた。

「あのう、奥さんのバンシルウはお出掛けですか」

「ちょっと買い物に具志川まで」

「そうでしたか」

喧嘩でもしてバンシルウ夫人は家出したのかと思っていた。

「さあ、行きましょう」

総一郎が先に家を出た。

「あっそうだと」

と、貴子姫はちゃぶ台にカーサムーチーを置いて総一郎の後を追った。

「総一郎さん、お土産をおいて来ましたので」

「お土産を、何かな?」

「カーサムーチーです」

「カーサムーチーですか、美味いですよねカーサムーチー、帰宅した時に頂きますか」

「はい」

カーサムーチー、これがこの後大変な事に発展して行くのであった。

「父上ただいま戻りました」

「おかえり」

「ドン殿、具合の方はいかがですか」

「総一郎殿ではないか、お見舞いの花まで」

総一郎は道端に咲いていた鉄砲百合を引き抜いて持って来ていた。

「いつも間に、外に咲いていた鉄砲百合ではないですか、駄目ですよ勝手に引きちぎっては」

「まあいいではないか、いい匂いがして気分がいいぞ。おいどんの具合はこの通り元気じゃ」

と、ドン大将は起き上がり体操をした。

「いた」

銃弾の傷口に痛みが走った。

「無理はなさるな。まだ安静時であろう」

「心配かけてすまぬ。我が輩は悔しい」

「はい?、悔しいとは」

「徳川幕府を倒せなかった事でごわす」

「もう忘れて、ここ琉球で余生を送るのです」

「いや、我が輩は薩摩にもどる。薩摩で余生を送るつもりだ」

「琉球は嫌ですか」

「我が輩は薩摩の人間だ。薩摩が百倍いいにきまっておるばい」

「拙者も薩摩の人間だから、薩摩で暮らしたい気持ちはあるが、この美しい自然の中で暮らすのもよいぞ」

「我が輩は薩摩に戻る」

「薩摩を幕府が鎮圧しておるから無理だ」

「この体では幕府とは戦えないな」

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