第21話~それは過去の想い出なの~
これは、ラシアが探索者として義嗣と出会う前の出来事。
「はぁ、うちの家系は、才能が凄いわほんと」
ばたりと仰向けに倒れている女性のそばには、皹の入った大剣があった。その皹は今できたものであるが、はたから見ると名のある剣が自然劣化して折れたと思われる………だろう。
「やっとお母様に勝ちました。」
声に出した少女は笑顔で母親であろう女性の手を掴み起こす。
「一応、ギルドランク10なんだけどなぁ。こりゃ、ちょっと自信を無くすわ」
「何言ってるんですか、本当は魔法の方が得意なのに……」
「でも、一般には剣士だからね、私」
「お母様はいいですよ、魔法使って強化して、技術は後から学べば誤魔化せるんですから」
「あっ、そうよね。ラシアちゃんは刀が得意なのに、魔法使いしなきゃいけないから……」
「……家の家系、おかしいです」
「家の家系は得意な戦術を使わず、苦手な戦術……私の場合は剣術、ラシアちゃんは魔法を使うのが習わしです。それは何故か…………………………………………………………」
「お母様?」
「ごめんね。ちょっと更年期入ったから忘れやすくって、大丈夫よ」
「更年期って、お母様まだ23歳でしょ」
「じゃ、老化?」
「――――もういいから話!」
因みに、ラシアと母親との年の差は10丁度。母親が13の時の子供がラシアである。さすがに犯罪の匂いがするが気にしないでほしい。シュエンは基本早期の結婚だ。男が冒険者になることが多い。それは、なるべく早い段階で子供を手に入れてないと夫が死んでしまうからだろう。
それにしても、16~18が女性の適齢期だと言われている。
「それで、どうしてかっていうと、家の家系は代々ある人達を救う役目を負っているからよ」
「どんな方を?」
「周りからすれば、異世界からの訪問者達を救っているわ。でも、本当は……」
「本当は?」
「信愛の騎士の称号を持つ方を救うことね」
「?騎士と言ったら騎士の神様、それとも剣か槍の神様?」
シュエンには、多種多様な神様がいて人々に恩恵を与えるが、本当に多種多様過ぎて、境界線すらも良く分かっていない。騎士の称号持ちなら騎士の神様だが、剣を持っていたら剣の神様かもしれないし、槍を持っていたら槍の神様かもしれないのだ。
「葬祭の神様を信仰しとるのじゃよ」
「サエ様」
「サエさん、珍しいですね。ダイヤギルドのクイーンは暇になったのですか?」
親子の話に割り込んできたのは、シュエンの母とも呼ばれるダイヤのクイーンのサエだ。ギルドの上級ランクである彼女は老女でありながらシュエンの上位に位置する探索者であり、老化している今でも、この親子を本来の戦い方であったとしても秒殺できる。
「いや、どうしようかと思ってのう……」
親子を見て悩むサエ。
「まさか、信愛の騎士様が?」
「お前さんの夫ではないが、アウターから来ることになっている……お前さん子持ちだが、今回来る信愛の騎士様より年下なのだ。でものう、ラシアに頼むとなるとつり合いが取れないからのう」
「あんな辛い思いをしたくないわ……正直、ラシアちゃんにもそんな思いさせたくない」
「?お母様」
「だが、エトファはラシアに救愛の騎士を任せたいと言っておる。どうも、今回の信愛の騎士様はエトファのお気に入りらしいからのう」
「信愛の騎士様が神様候補でもあるのですか?」
「…………いや、どうも好きらしい、あの臆病なエトファが積極的でうれしいがのう」
「私が勤められるでしょうか?」
不安なのかラシアは縋るように上目目線でサエに言う。
「大丈夫じゃ、信愛の騎士様が来ても、数日はわしが案内するし、クシャトリアの従者として紅暗が後任するので至れり尽くせりじゃ。ラシアはエトファ直々に鍛えてくれるみたいじゃのう」
「葬祭の神様直々にですか………」
「本当なら直ぐには決めんでいいと言いたかったのだが………」
「じぃ~、まだかな、まだかな」
「エトファさん落ち着いてください」
どうやら、ラシアは直ぐに決めないといけないらしい。葬祭の神と幻想の神が待ちわびていた。