第02話~第1異世界人~
頭が働かないほどの疲労と眠気があっても、改札をPASMAで抜けることを無意識でやってくれる。目の前に人の足が見えたので避ける。
「待つのだ」
かれた女性の声に顔を上げる。すると、目の前に一人の老女がいた。髪は既に全て白く、短く揃えられている。背筋は年の割にはしっかりしていて、年の割には元気であって、俺は老後の姿はこんな人であって欲しいと思う。
「はぁ」
歩く動きが止まると、眠気と疲れを意識してしまう。ただ立っているのは、夜勤の帰りではきつい。
「ふぅ、はじめまして、私はサエじゃ」
「どうも……宮下義嗣です」
「義嗣か、言い名前じゃ」
「ありがとうございます」
俺は仕事での話等のストレスをサエさんとのやりとりで少し減らした。サエさんというよりも、老人達の言葉には、一種の安心感があるので、直ぐに自分のテリトリーに入れることができる。
「っ!?」
疲労の為に足を若干引きずって歩いていたが、そのせいか、足がつりそうになる。いっそのこと家に戻る前に寝た方がいいかもしれない。
「サエさん。この中にホテルはありますか?」
「あそこだよ」
サエさんの視線を追うと、右のすぐ横にカプセルホテルのプレートが天井に吊ってあった。早速行くことにする。
「ありがとうございます」
俺は、急いでホテルに向かった。まあ急いでって言っても、都会で普通に歩く速度ではあるが。
「フム。よほど疲れる仕事をしてたんじゃな。どれ、私もすこし休むかのぉ」
自販の前、PASMAで料金を払い、出てきたカードキーを見て、番号の書かれているカプセルを探す。値段はこの際どうでもいい。
「ここだな」
俺は、カプセルを見つけると直ぐに横になって、数分もしないうちに眠りに入った。
「くぅ~、体が痛い」
2時間位寝たのかと、俺は時計の時間を確認しながら体をほぐす。三十路近くなると、全身の筋肉が動かすだけで痛くなってしまう。これだけの痛みを覚えるようになったのは、今の仕事のせいでもあるが。
カードキーを都会で見るようなダストボックスの箱、返却BOXに入れて中央改札口に出る。一様、出た改札がメインの改札口であったらしい。
「よく眠れたかい?」
改札付近にはサエさんが待っていた。この人普段何をしているのだろうか。
「……ぐっすりと眠れました。さすがに、この年だと体の疲れはどうにもならないですけど」
「そんなんじゃ、老後は大変じゃのう」
「そうですね。なので、長くは生きたくないです」
そう、こんな社会ではリラックスなんて一生できるはずもない。だから、長生きなんてしたくもない。
「じゃ、説明させてもらうよ。義嗣」
「はい?」
何の説明なのか分からず、俺は疑問形で返事をした。
「ここは異世界じゃ」
「そうですか、これからどうするか面倒な」
「随分とあっさりしとるな。前にきた奴はふざけてるのかとか言って暴力をふるってきたんじゃが」
「肉体的にも精神的にも疲れたんですよ。」
「そうかい。まあ、この世界で暮らすのもそう変わらないと思うが頑張ってくれ」
「それで、もとの世界に戻れるんですか?」
「さあのぅ。手がかりをつかんだという奴もいなかったと思うぞ」
「そうですか、まあ、父親と妹を残しているのが心残りと言えば心残りですが、しかたないです」
「まずは、いまの持ち物を確認しとくんじゃ。この中では、お前さんの持っているお金を使えるようにしている神様がおるが、ここ以外は専用の通貨じゃなければ何も買えないからな」
「はい」
「そうだのぅ、携帯電話があるなら、まずナビ機能とオート充電機能を搭載しにいこうかのう」
「そんなことができるんですか」
「ああ、だが便利な分高い。カードがあるならすべてお金を下ろすんじゃ。ATMはあそこにある」
『カードを入れてください』
『暗証番号を入れた後、引き出す金額を決めてください』
『最高引き出し額は50万です』
「こんなところまでそっくりなのか」
ATMの引き出し限度額に引っかかったので数回にわたって引き出した。
「じゃ、いくかのう」
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所持金 :26万8千円
引落金額 :256万4千円
合計 :283万2千円
持ち物:
ビジネスバッグ、仕事用のノートと書類、クリアフォルダ、うがい薬入り喉飴、栄養剤、風邪薬、コムラガエリ用(足つった時)薬、洗顔シート、筆記用具、煙草、ライター、胃薬、折りたたみ傘、タイマー機能だけ使っている折りたたみ式携帯電話、スマートフォン、iP○d。
着ている服:スーツ、コート(ナイロン製薄くて安いものと、取り外し可能な2枚重ねのコードで高いやつの2着)、マフラー。
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