その少年、主人公&その少女、ヒロイン Part-D
ようやくヒロイン(?)と接触。
「話がある。昼休みに職員棟3階の最奥の教室に来るべし。か……」
5時間目の現代国語の授業中に封筒を開封。
半紙全面を使ってデカデカと書かれた文章。
字面は毛筆で達筆に書かれて果たし状に近く、文章は簡潔的に書かれて指令に近い。
残念ながらその果たし状のような指令は女子との楽しい会話によって守れなかったわけで。
ここまで来るとあの女子――僕の妄想の中のヒロインに胸以外そっくりな女子が可哀想になってきた。
僕が寝坊したことにより僕に見つかる。
封筒を入れたが席替えによって僕の席じゃない席に入れ間違える。
僕がそれを無視する。
入れ間違えた席の住人が昼休みに気付き僕に渡す。
席の住人と僕が話しこみ封筒を開けたのが5時間目。
呼び出し時間設定が昼休み。
やることなすこと、全てにおいて、ことごとく、タイミングも、間も、何もかもうまくいっていない。
半分僕のせいであったとしても可哀想なほどにうまくいっていない。
放課後じゃ遅いかもしれないけれど指定された場所に行ってみるか。
本心では関わりたくないのは今も変わらない。
しかし僕に関する全てがうまくいかないのは、僕自身おもしろくない。
あの女子がそう感じている、感じていないは関係なく。
僕が、おもしろくないから、放課後に、行動する。
それでいい。
それだけでいい。
時間は15時を少し過ぎ、場所は職員棟3階の最奥の教室。
昼休みに指定された教室の目の前である。
正確性を重視するならば、教室ではなく部室である。
指定された部室のドアには強調性の塊でしかない文字が書かれた張り紙が貼ってあった。
「十二支部……。本部は?第一支部から十一支部までどこかにあるの?ってか組織ですか!?」
意味不明。
本当に分からない。
てっきり部活勧誘だと思ったから気楽に来たのに――本音では。
『おもしろくないから行動する』って、僕はそんなにアグレッシブではない。
指定された場所が文化部の部室しか存在しない階で、勧誘なら拒否してあの女子とは今後一切関わらないようにしたかっただけ。
それだけだったのに……。
「はぁ。うまくいかないのは僕も一緒かな。本当に関わりたくねー」
テンション、ガタ落ちだ。
いつまでもウダウダしてても時間の無駄だし、さっさと済まそう。
あれ、意外とアグレッシブじゃね?僕。
十二支部と書かれた張り紙部分をノックする。
へんじがない ただのむじんのようだ。
朝も同じネタを使った気がするがスルーするとするか。
微妙に言いずらい言葉を思いながら、なんとなく、本当になんとなく、ドアノブに手を掛けて、開けてしまった。
むしろ開いてしまった。
部室内はやはり無人だった。
しかし空き部室というわけではなく使用感があった。
部室だから使用感と表現したが言葉を変えるなら生活感。
Uの字にソファが並べられており、中央には座った際に膝ぐらいの高さのテーブル、その上に菓子類(食べかけ)。
職員室に良くある上はファイル置き場、下が収納場所のアルミ製の棚が2つ。
上のファイル置き場には単行本や文庫本、漫画、小物が置かれている。
パソコンに携帯ゲーム機と、私物であろうものがちらほらと本当に生活感のある部室だった。
ここで暮せと言われれば、余裕で暮せる。
部屋内はとてもキレイに掃除されている。
が、物が出しっぱなしで片付けはされていない。
これも生活感が感じられる要因の一つ。
「僕自身の部屋を見ているようで心が痛いぞ、ここ」
僕も使ったものは元の場所に戻すのをよく忘れるタイプであり、僕自身の部屋がこうだから。。
しかしそんな僕の部屋とは違う、1点だけ許せない汚い部分がある。
元ファイル置き場だった現本棚である。
小物が置かれていることは許す。
スペースの有効活用だし、本が増えていくならいつかは排除されるものである。
でも、だ。
背の高さ無視に散りばめられいて、さらには漫画に挟まれる外国文学、あろうことか巻数の順番までも狂いに狂っているこの本棚だけは断じて許せない!
背の高さとジャンル別は許します。100歩譲って許す。
この2つは趣味趣向の嗜好と思考が存在するから許せる。
しかーし!
巻数は別だッ!!
これは趣味も思考もクソもへったくれもないッ!
ただただ書かれた巻数順に並べるだけでありそれ以外の並べ方は存在しない唯一無二の絶対的な方法であり法則ッ!
ここが自室なら42.195㎞の歩数譲って許すとしても、ここは部室という他に人がいる公共の場所であり次に読む人に迷惑っ!
「あぁー次が早く読みたいなー」なんて心わくわくさん状態で本棚に向かったら「あれ?どこ?どこ?」ってなったら嫌だろ!
作品に対する熱が0.1℃でも冷めたらどうしてくれるんだ!
この並び方を許している部活メンバーもメンバーだ!
誰1人としてこの並び方に疑問を持たないのか!?
あぁ、もう!「限界」だッ!直すねッ!
右本棚に漫画、左本棚に活字系を配置。
漫画は少女・少年・大人という順に出版社別の作者順に並べる。
活字系は文庫・新書・単行本の順に高さを揃える。
文庫・単行本は日本文学の次に外国文学を置き作者順の出版社のあいうえおで並べる。
新書は出版社別の著者のあいうえおで並べる。
この形が基本形(僕の中で)。
「ぐちゃぐちゃの本棚なんて本棚とは呼ばない。整理されてこそ本棚だ。」
「そーですね。あーはいはい、おつかれさまー」
「へっ?」
あの女子がソファでくつろぎながら本棚整理のねぎらいの言葉をくれた。
いつからいたんだ?
本棚整理に夢中になりすぎて気づかなかった。
「とりあえず座りなよ。あっ、お菓子食べてもいいから」
「えっ、あっ、どうも」
彼女に促されるままに対面する形でソファに座り、彼女が食べてるポテチを1枚食べる。
「で、昼休みにしていた約束を無視したくせにこの部室に何の御用ですか」
少し棘がある感じの敬語混じりの言葉が心に刺さる。
「約束をした覚えはない。そもそも封筒の中を見たのが5時間目で昼休みが終わってからだったんだよ」
「1時間目に封筒渡したのになんで5時間目に読んでんの?モテない男子が女子からお手紙貰ったら即開封でしょ?ラブレターかもしれないじゃん」
「僕がモテないのは知ってるからいいけど、あんな怪しい封筒は開けてもらえただけで良しとしなさい。そしてラブレターならもっと可愛いのを使うらしいぞ」
「そんなことはどうでもいいの。なんで5時間目に読んでんのか聞いてるんだけど」
僕がモテないことはそんなことなんだ。
「あー、えーとだな、そのー、なんだ……まぁ、なんやかんやあって読めなかった」
「なんやかんやが1番大事なんでしょうが。そこをはしょるな!」
説明を求められるのはなんとなく察しがついていたので演技に入る。
「うーん……じゃあ、言うけどさ」
ちょっとためらっているように1拍分の間を作る。
そしてまるで観念したような、渋々と承諾したような決意の言葉を紡ぐ。
次にここで1拍分の間を作ることも忘れず緊迫感を作り出し、嘘と真を混ぜた言葉を一気に発する。
「まず最初に僕のクラスは今日の朝に席替えをしました。君が僕の机と勘違いしてクラスの女子の机に封筒を入れました。名前と顔が一致しないクラスの女子の机を勝手に漁ることはできません。その女子に僕宛の封筒が机に入っていることを伝えてもよかったけれど僕は『モテない男子』なので女子に話しかける勇気もなく向こうから来るまで僕は待ちました。そしてその女子が封筒に気付いて僕に封筒を渡したのが昼休みが終わる直前でした。結果、僕が封筒を開けることが出来たのは5時間目になってしまいました。女子に話しかける勇気がなかった点は僕が悪いです。だが僕は謝らない。なぜなら僕に非はないからです。僕が5時間目に読むことになったのも僕がヘタレ系モテない男子と再確認させられたのも君が封筒を別の人の机に入れたのが原因だからです。説明終わり。これでいい?」
「……」
固まってる。
次はどうしようかな(棒)