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1-5

 うっひょー、9連勝っす。


 オレは顔がニヤつきそうになるのを必死にこらえた。


 いやー、楽しいわ。勝つってこんなに気持ちいいんだね。前の人生で剣の試合に勝ったことなんかなかったから知らなかったわ。


 さて、次に我が剣の錆になるのは誰かな?とアホなことを考えいると、兄上の御学友の……ナントカってやつが出てきた。名前忘れた。30年ぶりだぞ、しょうがない。顔がちょっとひきつっている。


 クックック、一撃であの世に送ってやろう。


「待ちなさい」


 突然制止の声がかかった。声の方を見ると、ゲーリー・キャンベルが細剣型の木剣を持って立っていた。


 はぁ?なんで……?


 あっ、やべっ、調子に乗りすぎたか……。


 千人仕合だったわ。オレをボコらないと意味ないイベントだった。この次は審判役のスコット・ホーバーとか父上まで出てくるパターンじゃ……。


 最悪だ……。


 そう思いつつも、妙にハイな気分になっているオレはちょっとやる気になっていた。


 ゲーリーが審判役のスコットと話し出した。


 ゲーリーはジュライフィールド家細剣術指南役として家中の者にグローブ流細剣術を教えている。グローブ流は大陸における細剣術の2大流派と言われる流派の一つだ。大体、細剣遣いを10人集めれば4人くらいはグローブ流がいるといわれている。  


 グローブ流は現在まで生き残っている大陸最古の細剣術の流派とされ、前後への直線的な動きが特徴で、剣の間合いの少し外からの跳ぶような踏み込みが有名だ。そして、先手を取って相手をコントロールしていこうという「先の先」の戦い方を得意とする。どちらかというと、一撃で勝負を決めにくる傾向が強い。


 グローブ流の剣士とは妖剣が何度も戦っている。とにかく、まずは正面に立たないこと、そして、距離を詰めて近距離で戦うことだ。


 あとは、意外にカウンターを取るのがうまいんだよな。先に仕掛けながらうまく相手を誘引してくる。こっちの突きを背を反らしつつ一足ほどバックステップして躱してからの剣を戻す動きに合わせて放つカウンターがグローブ流の得意技の一つだ。


 まぁ、でも、実は妖剣もカウンターは得意だったりした。カウンターにカウンターを合わせるのもいいかもしれない。


 ちなみに、スーザン流は大陸の細剣遣い10人中1人くらいはいるかなというマイナー流派のようなそうでないような流派だ。剣術をやっていれば長剣遣いでも知っている。前のオレでも知っていた。


 そして、なぜかオレが身につけているっぽい双子派スーザン流はスーザン流の中で20人に1人くらいはいるかなって感じだと思う。王国ではもっと少ないかもしれない。確か帝国の中西部で盛んだったはずだ。


 実は、オレは双子派スーザン流とスーザン流の違いをよくわかっていなかったりする。中の人やってるときに「どっちも同じ、ちょっとステップワークが違うだけ」という話を聞いたことがある程度だ。


 スーザン流は「先先の先」を謳っているが、「先の先」と何が違うのかと聞かれると困るところはある。


 ただ、「スーザン流に退歩なし」なんて言葉があり、結構有名だ。これは一度間合いの内に入ったら自ら間合いの外に出るなという教えだ。もっとも、妖剣は流れが悪いときとか普通に間合いを外して仕切り直してたけどね。


 さらには「剣気を突け」ってのもある。中の人やってるときに聞いたことがある。これなんかは人間が行動を起こすときはまず頭でこうしようと考えて次に実際にそう体を動かすものだが、相手が頭でこちらを斬ると考えた瞬間つまり行動に移す前に突けっていう教えだ。いやいや、一歩間違えたらただの通り魔だよね……。


 スコットと話し終えたゲーリーがオレに向かい「さぁ、始めましょうか」と言って、早々に構えを取った。


 ゲーリーが剣を斜めに立て切っ先をオレの頭の上に向け、ゆっくりと体を上下動させ始める。足の幅は1歩半といったところ、結構深くまで膝を曲げている。グローブ流の中段の構えだ。動作の中に動きの起こりを隠すんだよな。


 しかも、普通に素人がこの構えを見ると、体を1番下まで下げて、上がる瞬間に踏み込みがあると予想するだろう。ところが、グローブ流の連中は体を上から下に下げている途中や1番上に上がりきった瞬間とかに飛び込むような踏み込みをしてきやがるので要注意だ。


 てゆうか、強いな。強者の雰囲気がありまくりだ。


 自慢じゃないが、相手の力量を見極める目はなかなかのものだと自負している。


 というのも、中の人っていうのは、ある意味、最前のかぶりつきの特等席で殺し合いを見ているようなものだった。


 妖剣は基本、荒事で飯を食っていた。殺し屋みたいな真似も多くやった。オレはいろんな剣士と戦ったのをこの目で見てきた。30年も見続けていれば、まぁ、目は肥えてきますわ。


 まず、ザックリとした粗目の基準となるが日常の動作でわかる。歩いたり、立ち上がったり、物を取ったりっていうなんでもない動作が、スムーズで無駄がない。


 歩いているときに、腰がどっしりと据わっていて頭が上下左右いずれにもブレない。立ち上がるのも、力感なくスッと立つ。物を取るのだって、まぁ、一発でパッと取る、目測を誤り取り損ねそうになって微調整するなんてことがない。


 これらで、たいしたことない奴らはすぐわかる。


 もっとも、ある程度遣うことはわかっても、真の強さはさすがに立ち会うまではわからない。


 まぁ、一合打ち合えば100パーセントわかる。剣がやたら重いとか手元で伸びてくるような奴は強い。


 でも、お互い剣を抜いて向き合うだけでも、ほぼほぼ確実に力量はわかる。やっぱり、強者は雰囲気がある。


 その中でも急に体がデカくなったかのように見える奴とか剣の陰に体が隠れて見えなくなるような奴とかはマジでヤバイ。名人上手と呼ばれるレベルの人たちだ。


 一度、妖剣が旅の途中で立ち寄った道場で稽古をつけてもらった爺さんがこのタイプだった。

マジで凄かった。そもそも、体が竦んで打ち込めないからね。あと、知らないうちに剣を振ってた。気づいたらもう打たれた後だった。アレは無理。



 グローブ流に関して言えば、最弱は真っ直ぐ上下動できずにちょっと軸がブレてる奴だ。これは楽勝だ。


 次に、普通の強さの奴は軸がブレずに真っ直ぐ動く。これも問題ない……今はオレだからわからないけど、妖剣は普通に勝っていた。


 で、最も厄介なのが、一見、軸がブレてふらついているようで、よく見ると、ふらついているのは上体だけで、下半身はどっしりと地面に根が張っているかのような奴だ。まさに目の前の相手がそうだった。


 ゲーリーの上背はそう大きなほうではないが、さすがにまだ子供のオレとは身長差があった。喉への突きが胸の下にあたる感じか、一応頭に入れておく。


 あとは、どのタイミングであの跳ぶような踏み込みを見せてくるのか……、まあ、初手は注意だな。


 「始め」の声と同時に、オレは躊躇なく間合いを詰めていった。まだ少し遠いかな、と思ったとき、ゲーリーが宙を飛んで来た。グローブ流の十八番の跳ぶような踏み込みからの突きだ。


 速ぇな。


 だが、これは想定内どころか誘ったところがある。オレは妖剣お得意のスーザン流のカウンター技の代表格である、まっすぐ前に踏み込むと同時にお辞儀をするように上体を傾け相手の剣を背に通しながら突きを合わせた。一人目のトーマスにやった技だ。


 ゲーリーはカウンターの突きをあっさりとよけ、オレの背後に抜け距離を取ろうとバックステップした。


 が、それは許さん。オレはゲーリーが真っ直ぐ下がるのに対し、右に左にジグザグに歩を進め追っていく。


 修練場の壁が迫る。ゲーリーが下がるのをやめた。


 オレはそれまでリズミカルかつ規則正しく右左、右左と動いていたが、左斜め前に出てから右に行く素振りでさらに左斜め前に出た。しかも、スピードを1段階上げたステップだ。


 虚を突けたのか、右半身の構えとっているゲーリーの背中を取った。オレはその背に突きを伸ばす。しかし、ゲーリーはこちらを見もせずに裏拳の要領でナックルガードの部分をオレの木剣にぶつけて弾いた。


 正直、なんかあると踏んでいたオレは瞬時に握力はそのままで手首と肘の力を抜き柔らかくしてクルッと手と腕を小さく回転させることで衝撃を逃がし、そこから再度、腹部に突きを伸ばした。


 もらった。


 そう思ったんだが、ゲーリーの体がスッとズレた。まるでオレの剣先とゲーリーの体の間に見えない空気の壁があって、剣がその壁と一緒に体を押しているような感じだ。剣がいつまで経っても当たらない。そして、伸ばし切った腕をパンっと軽く打たれ、さらに胸をトンっと優しく突かれた。


「勝負あり」


 ゲーリーとの仕合が終わると、唐突に千本仕合も終わった。


 なんで?


 ボコられると思っていたのに、最後は優しい突きだったし。謎過ぎる。


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